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1話 王都






 ガイリック・ノブゴドロは王都中央議会から召集を受け、重い足取りで向かった。

 十中八九ルイスの元へ向かったことを言われるのだろうが、そんな物聞いてやる意味も義理もない。


「お呼びですかい?」


 会室の扉を開き中央を見ると、この国の宰相とパーティーリーダーだったジェイク・ラストゥードが何やら話し込んでいた。

 周りを見回したが、この国の政治の舵取りをする二十六議の面々は誰も居ない。


「ガイ、よく来たな。休暇は楽しかったか?」


 自分の姿を見ると、ジェイクは笑顔を浮かべて手を挙げた。


「楽しいも何も、半日程度じゃねえか。誰かさんのせいでよ」

「おいおい、ルイスの事は俺も残念に思ってる。勘違いするな」


「ハッ、どうだかな。お前はいまいち信用できねえんだよ」

「そう言うな、掛けたらどうだ?」


 そう言ってジェイクは近くにあった椅子を指さす。

 いつもこれだ。


 この男はルイス以外には随分と優しい。

 だからルイスへの風当たりの強さも目立つのだが。


「ルイスの様子はどうだった? 元気にしていたか?」

「お前には教えね~」


「相変わらず冷たいな、教えてくれたっていいだろう」

「やなこった、お前にはぜってぇ話してやんね」


 ガイリックが唇を尖らせると、ジェイクは笑いながら近くにあった資料を手に取った。

 どうも様子を見るに、宰相と何か話していたようだ。


「都合悪いなら俺は帰るぞ」

「別にいい、お前にも聞いてほしい話だ」


 そう言ってジェイクは手に持っていた資料を数枚、束にして手渡してきた。

 かなり分厚い、何十枚もの資料だ。


「これは?」

「読んでみろ」


 言われるがまま受け取った資料をパラパラめくると、ガイリックにとって興味深い文章が書かれていた。

 この国で起こっているテロや人攫い、そして行方不明になった兵士。

 それらについて、事細かに書かれている。


「こんな物を見せて、何を考えてるんだ?」

「俺達の新しい仕事だよ、魔王を倒して世界に平和をもたらしても俺達の仕事は終わっていない。表紙を見てみろ」


 言われるがまま受け取った資料を改めて閉じ、表紙に目を滑らせる。

 するとそこにはデカデカと文字が書かれていた。


半魔崇拝(ダブルシックス)?」

「聞いたことは?」

「まぁ噂程度ではな」


 半魔崇拝(ダブルシックス)

 半魔こそが至高の存在であると教義付ける新興宗教だ。


 半魔を信仰し、半魔を救世主と仰ぐ。

 人間の身でありながら、魔物の力を持つ彼らこそ自分達を導くに足るという教え。


 三十年ほど前から表に出てきた彼らは、王国中にいる半魔の保護や半魔への差別撤回などを呼び掛けている。


「そこだけ聞けば、聞こえはいいが――やってることはただのテロリズムだ」


 半魔崇拝の教えは国民に浸透する事はなかった。

 差別対象である半魔を仰ぐなど、この王国に住まうほとんどの者が見向きもしない。それはそうだろう、何故なら人々は自分より格下の存在を見つけて痛めつけ、そして優越感に浸るからだ。


 どれだけ自分が最下層の人間であっても、人間であるならば半魔より優秀だ。

 そういった意識が、国民の奥底に根付いている。


「テロリズムと呼ぶのはおかしいだろ、半魔崇拝はただ半魔を救う事を目的としているだけだ」

「それは十年前までの話だ。今は違う」


 ジェイクは肩を落としながら説明を始めた。

 半魔崇拝は比較的人道的であり、かつ金持ちな者達から支援を受けて活動していた。支援者の数は片手で足りる程度で、活動をするには不十分すぎる。やがて半魔崇拝の信者は減っていき、一度は解散したと思われていた。


「思われていた?」


 ガイリックが問い返すと、ジェイクは資料を取ってパラパラとページをめくる。

 そして中間ほどにあった一文を指さし、話を続けた。


「奴らは復活し、人攫い等の犯罪に手を染めて活動資金を得ている。これは極秘だがな」

「どうだかな、また盗賊の仕業を半魔のせいと押し付けてるだけじゃねえのか? 地方の衛兵ならそんな事日常茶飯事だろうが」


 もっと酷い物で言えば、兵士が犯した罪を半魔に押し付け一方的に裁くというものまである。

 表に出てきにくいだけで、この国では至る所でそんな事が行われているのだ。


「その程度なら、俺と宰相が顔を合わせて話し合うわけがないだろ」


 その程度。

 そういったジェイクにガイリックは眉をひそめたが、話を中断させるほどではなかった。


「半魔崇拝は本当に罪を犯し、今王国を最も脅かす存在になっているんだよ」


 信徒がどれだけ多くとも、ただの人であるならば兵士だけの力で捕らえられる。

 勇者である自分が、わざわざその任務を知らされる意味がわからない。


「そんな事なら俺を呼ぶ必要はないだろ、兵士でも使って捕らえればいい」

「それができるならお前を呼んでいない」


 ジェイクはもう一枚資料を取りだすと、それをガイに手渡してきた。


「報告書によれば、半魔崇拝の信徒達は異様な力を使うそうだ。魔法と似ているが、しかし全く違う、魔物の力を使ったそうだ」


 魔物の力。

 俗に言う黒魔法と呼ばれる物だ。

 破壊力、殺傷力共に高く、ルイスも得意としていた魔法だ。


「信徒に半魔がいれば、そりゃ使える奴だっているだろ。半分魔物なんだからよ」


 半魔崇拝の理念なら、半魔を保護して信徒にしているかもしれない。

 信徒になった半魔が、半魔崇拝に助力してもなんらおかしくはないのだ。


「違うぞ、ガイリック。これはそんな話ではないんだ」


 神妙な面持ちで、ジェイクは続ける。


「魔物の力を使ったのは、ただの『人間』だったそうだ。黒い肌を見間違える事なんてあるはずがない、普通の人間さ」


 肌の白い、普通の人間。

 ただの人間が、黒魔法を使った。


「人間が魔物の力を使ったって事か? アホらしい、どうせ見間違いだろ」

「それを見たのは、俺の友人だ。呪いによって先週死んだがね」


 呪い。

 黒魔法の一種だ。

 魔物の力であり、毒とも称されている。


「ただの人間が、魔物の力を使ったんだ。各地で人攫いを行う意味はまだ分からないが、それでも無視していい状況ではないと議会は判断している」


 そして、ジェイクは続ける。


「奴らは半魔を崇拝するあまり、なんらかの方法で魔物の力を手に入れ、半魔と同じような存在になったと今は考えられている」

「あっそ、それでその半魔崇拝を捕らえるのが仕事ってか?」


 興味なさげに、ガイは受け取った資料の上で目を滑らせていた。


「そういう事になるな。すぐにとは言わないが、いずれ仕事が始まるだろう。だから報せておいたのさ」

「なるほどね」


 国が危機であるのなら、それに対処するのは英雄として当然の役目だ。

 なにより、食っていくためには仕事をしなくてはならない。


「まぁ覚えておいてやるよ」


 そう答え、ガイリックは資料を持って立ち上がる。

 これ以上ここに居ても、あまり実のある話はできないだろう。


「ああ、言い忘れていた。今度嘆願書を王に提出するからな」

「嘆願書?」


「ああ、ルイスを英雄として国民に知らせろって嘆願書だ」

「またそれか……」


 ジェイクは溜息をつき、肩を落として手を額に当てた。

 これまでガイリックは何度も異議申し立てや、物言いをしている。政治家達や貴族達、果ては王様にまで直接。


 しかし、結果は何も変わらなかった。


「今回は俺を含めた勇者六人分の署名だ」


「六人? ルイスと俺を抜いて……書いていないのは誰だ? 『ジューナ』や『メリッサ』……は間違いなく書くだろうし、そうなると『ベヘリット』か『クレイギア』か?」


「『ウォルフォート』だ。あの恩知らず、ルイスが生きているならどうだって良いなんてぬかしやがった」

「ハハハ、彼らしいな。彼は単純に興味が無いだけだろう」


「ジェイク、お前も書け。じゃねえとぶん殴るぞ」

「俺がか? 勘弁してくれよ。どうせ却下されるだろ?」


 ジェイクがそう言った途端、ガイリックは拳をもう一方の手で包み、バキバキと鳴らす。

 一度殴ってやらなければ、この男は解らないだろう。


「そんな無駄な言い合いは、またにしてはどうかね?」


 唐突に、置物のように思っていた宰相が口をはさんできた。


「こんな状況下でアドレルトを英雄にできるはずがないだろう」


 呟くようにいった宰相を、ガイリックは睨みつけた。


「無駄な言い争いとは結構な物言いだな、宰相さんよォ」

「六徳の勇者よ、なぜルイス・アドレルトが英雄として扱われなかったかお前はまだ理解していないようだな」


 半魔だから。

 ガイリックはそう思っていたが、宰相の口ぶりではどうやら違うらしい。


「宰相。その辺で」


 少しだけ慌てたように、ジェイクが二人の間を割って入ってきた。

 だがガイリックはそれを押しのけて、宰相に向き合う。


「止めるなジェイク。宰相、どういう意味だ?」


 顔を宰相に近付け、睨みつけながらガイリックは問いかける。

 すると宰相は呆れたように息をつくと、ガイリックを見上げた。


「半魔崇拝達は今王都を最も脅かしている連中だ。そんな中、半魔であるルイス・アドレルトを英雄にしてみろ。奴らの士気は高まり、半魔崇拝の信徒が増えるかもしれないだろうが。少し考えれば解るだろう」


 ―——は?


 思わず、ガイリックは息を呑んだ。

「半魔が迫害を受け、市民の不満がそちらへ流れているのは都合が良いのだ。この国にとってな、だからルイス・アドレルトは英雄になれなかった。理解できたかね?」


 そんな理由で?

 ルイスが原因ですらなかったのか?


「お前、そんな理由でルイスを追放したのか?」


 まだルイスが半魔であるならば、差別意識が原因だったと理解できる。

 だがこの二人は、かもしれないという理由だけでルイスを追放したと言った。


「あーあ、だから言ったのに。言わない方が良いって」


 呆れたように肩をすかすジェイクを、ガイリックは睨みつける。


「ジェイク、お前も知っていたんだな? ルイスがそんな理由で追放されたって」

「俺はパーティーリーダーだからな、宰相から色々と知らされていた」


 怒りで足が震えそうだった。

 どこまでこの男達はクソなのだ。

 半魔ではなくルイスが、何の罪を犯したというのだ。


「ああそうかい、相変わらずクソだなお前ら」


 ガイリックはそう吐き捨て、手に持っていた資料をジェイクの顔に叩きつけて踵を返す。

 半魔崇拝が生まれた理由も、それが原因だろうに。

 そして彼らは、それを理解しているだろうに。


「半魔崇拝を捕らえれば、ルイスは英雄になれるかもしれないぞ? ですよね、宰相」


 後ろからジェイクの声が聞こえるが、ガイリックは振り返るはずもない。


「そんな甘言に俺が乗ると思うか? お前達は一度約束を破っている。魔王を倒した勇者であるルイスを英雄にするという約束を。お前達は信用できない」

「ガイ、どこへ行く?」


「帰るんだよ、嫁さんが家で待ってる」


 振り返らずにそう応え、ガイリックは足を進める。


「そうか、任務があればまた連絡する」

「いらねーよ、クソッたれ」


 最後に吐き捨て、ガイリックは部屋を後にした。


第二章開始です。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
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