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灰色は派生作品  作者: ハルハル
8/13

囁キノコについて彼が思うところ

煮ても焼いても良し?

 その日は晴れていました。

 その日は午後から、雲間から太陽がうっすら顔を覗かせるほどに晴れました。

 その日はこの町にしては珍しく、晴れの日でした。


 昨晩、そして早朝の時間、テレビジョンで放送される天気予報が予測したように。

 そして朝、目が覚めた人々がカーテンを開けた瞬間、あるいは秘められた動物的な本能で、この町に住む人々はそれぞれに晴れの気配を感じ取っていました。


 この町、魔法使いが沢山いるこの町で暮らし始めてからまだあまり日が立っていないボクが思うに、ここの人たちは、魔法使いと名乗る人もそうでない人もみんなまとめて、晴天という機構に一種の特異性を抱く傾向がある、とボクは常々思っていました。

 どうしても、そんな感じのイメージを抱いてしまうのです。


 聞くところ、と言うよりオンラインサービスから何となく拾った情報によれば、今ボクがいるこの町にはそれが晴れた日に、ありとあらゆるものを天日干しにするという良く解らない、意味不明なイベントなる者が存在しているそうです。


 その情報をスマートフォンで見たときは、近くで上司が一生懸命[何をしているのかは、未だによくわからないのですが]仕事をしているにもかかわらず、ついつい吹き出しそうになってしまいました。

 いけませんね、やっぱり勤務中のサボタージュはするもんじゃありませんね。反省反省。


 とにもかくにも、久方ぶりのさんさんとした日光が町をポカポカに温めた、そんな一日の終わり。

 

 日照時間も終了に差し掛かり夕暮れ、逢魔が時の始まり。

 ボクは上司の言いつけにより、とある人には教え難い秘密のお使いに出かけていました。


 然るべき場所へ出かけ、然るべき用件だけを伝え、然るべき用事を果たし、そうして無事に何事もなく仕事を終えたボクは、一日の疲れが催す頭痛を味わいつつ、鼻歌を歌わずにお家に帰りました。


 スキップ、

 るん、

 るん、

 るーん。


 まるで子供さん向けのお歌に出てくるような「真っ赤な夕日」。生皮を噛み千切ったかのように、艶やかに明々と照らされている町の中をボクは一人、ウキウキと歩いておりました。


 歩いて歩いて歩いて、歩いているとボクの足元から、

「こつこつこつ」

 と素敵なメロディーが奏でられます。

 それは僕の大事な、大事な、大事な、赤いエナメル質のハイヒールのトップリフトが、ボクの歩調によって地面に衝突する音でした。


 毎日毎晩磨いている靴、ボクの誇りそのものと言っても過言ではない靴。

 ボクに安らぎを与えてくれる靴、その靴をもっとよく見るために視線を足元に向ける。


 すると、ある物を見つけました。

 それは小さな、小さなキノコでした。


 ふっくらと丸みのあるカサ、滑らかな曲線がツヤツヤと赤色に夕日を浴びていました。


 人間の血液よりも鮮やかな赤、その赤はキノコの茎までも染め、地面に近づくにつれて淡いオレンジへと変化していました。


 人の中指ほどの大きさの、いかにもキノコらしい形をしているそのキノコは、誰かの家の壁の地面と交わろうとしている所に生まれた影の中、陰りかけの日光に怯えるかのように生えていました。


 ボクは思わずしゃがみこんで、人差し指でキノコをつつきました。

 なぜか、どうしてもそうしたいと思ったのです。


 すると、

「ふるふる、ふるふる、ふるふる」

 赤ん坊の吐息のようにかすかな、ささやかな音がキノコから発せられたのです。


 そうでした、嗚呼そうでした。

 ボクはそこでようやくこのキノコのことを思い出しました。

 そうなのです、ボクはこのキノコのことを子供の頃から知っていました。


 ボクはいてもたってもいられずに、キノコを指先で摘み取りました。

 その必要もないのに、出来るだけ音をたてぬよう、こっそりとそのキノコを懐に仕舞い込みます。


 早く、早く家に、仮住まいの家に帰って、この美しいキノコを思う存分眺めなくては。

 眺めて眺めて、ひたすらに愛でて。

 その後は。

 

 焼いて食べてしまいましょう。


〈囁キノコ〉

とある国、とある町の建造物。主に木製の建物の陰に自生するキノコの一種。

その毒々しい見た目から、人々にあまり良いイメージを持たれていない。

日暮れ頃になると人間の子供の声に似た音を発することから、こう呼ばれるようになった。



……噂によれば食用が出来るらしい。

しかし、その辺の道端に生えているような物体を軽々しく口に入れるという行為そのものが、あまり推奨されないのは言うまでもないだろう。

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