さようならお月様、もう二度と会うことはないでしょう
お葬式が始まる
幼子は今日それを見るためだけに、保護者に何の報告も無く勝手に家の部屋から無断で外出することに、納得と決断を下したのだった。
幼子は同じ家に住む友達の後を黙ってついていく。本来ならば大人しく音も無く睡眠していないといけない時刻に、幼子は友達と共に外出している。
これはいけないことだ、もしも保護者達にこのことがバレたら、ほとんど確実に近い高確率で僕らはきっと酷いお仕置きを受ける羽目になる。今まで経験したことのない恐怖と後悔を味わうことになる。
そうわかっていても、そう予感していても、そう確信していても幼子と友達は、子供たちは家と反対方向に足を運び続けている。
夜の冷たい空気、天空にほの白く座しているほぼ丸に近い月面、どこからか聞こえてくる昆虫のさざめき。初めての夜、それらを形成しているありとあらゆる要素の誘惑に、子供たちの未発達な恐怖心など燐寸のともしびよりも無力だった。
子供たちは家の外を、夜の世界を歩き続ける。ある一つの目的をただひたすら目指して。
友達の内の一人がやがて立ち止まる。頬を紅潮させながら他の友達と幼子に指示を出した。どうやら目的地に到着したらしい、幼子は友達の唇から吐き出される吐息が白く染まるのを見ていた。
友達の一人の呼びかけによって、子供たちがその小さな頭部を柔らかく湿っている地面に横たえる。
土にはそこかしこに植物と小石が混入し、音のない混雑を後頭部に伝えてくる。
黒に近い青色の夜空を子供たちはじっと眺める。誰も何も言わない。
沈黙の中でじっとしていると幼子は次第に、どうしてこんな所に自分がいるのか不思議に思い始めていた。
もちろん友達の誘いに乗ってきた、という明確な答えがあることは理解している。それでも疑問は治まることなく腹の内をグルグルと廻っている。
お腹が空いた、そう思って幼子が友達に話しかけようとした、その時。
それが始まった。
最初、幼子は誰かに写真を撮られたのかと錯覚した。
瞬間で強烈な光が閃いた、そのすぐ後に空で決定的な出来事が起こり始めた。
光、光、光。
それはあまりにも多く広く、現実味のない光だった。
その光が出現するより前に空には確かな傾向が存在していた。確かに揺らめく空気の流れのようなものを、子供たちも認識だけはしていた。
それでも、それらによってもたらされた光は意識が届かないほどに強烈だった。
ただ一つ存在していたはずの大きな揺らめき、生物であり自然現象でもあるエネルギー体。光はそれが破裂と消失を同時に起こしていることによって生まれていると、子供たちは幾らか遅れて気付いた。
消えて無くなり、死にゆくもの。そこから発生した欠片と残骸が、おびただしくおぞましい程の筋を描いて暗黒を引き裂いている。
流星群みたいだ、その実物を実際に見たことのない幼子は頭の中で形容した。
固まっていたエネルギーから生まれた明滅は、次々と重力に従って流れ星のように落下してくる。
発行する飛沫が宵闇と混ざり合って子供たちに降り注ぐ。
誰に知られるでもなく誕生し、成長し、そして最後の最後に終わりだけを凄まじいまでに輝かせる。手に触れることのできない一方的な営みが、瞬きの暇を許すことなく、絶え間なく上空で展開されていた。
幾つもの流れる瞬きはやがて、夜空に規則的な模様を描き始めた。
消失の衝撃によって発生したエネルギーの流れによって作られる模様。無数の個体が放つリズムが、まるで必然だと主張するように一個のメロディーを奏でる。
そこには強迫観念を抱かせるほどの、激烈な美しさがあった。
ああそうだ、これはまるで。幼子は思った、自分が生まれるより前から色を失ってしまった地面に横たわって、薄日のようにぼんやりとした思考で一つの答えを思う。
これはまるで、大きな大きな丸い球みたいだ。
結論が導き出されると、連結してどんどんと新しい思考が芽生えてくる。そうなのだ、これはただのエネルギー消失現象なんかではない。新しい、もう一つの光が生まれる瞬間と称すべき現象だ。
生まれた命はあまりにも儚く短い。だがその短い生の間に、永遠よりも遠くある時を切り取ったかのような鮮烈さが溢れていた。
幼子とその友達は、その光を地面から見ていた。
誰が誰に言うまでも無く、皆一様に呼吸をしばしの間忘れていた。
幼子はその、世界の一部の風景から目を離すことが出来なかった。
察せられる人は察することが出来ると思います。
あと、ツイッター始めました。作者名と同じアカウント名なので、よろしくお願いいたします。




