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灰色は派生作品  作者: ハルハル
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洗濯物日和 これが無いとおっぱいが痛くなっちゃう

晴れた日にはこれをしなくては

 なんやかんや色々なことがその身に起こったであろう少女は、なんやかんやで灰笛という名称の世界の片隅にある街の内の一つに身を落ち着かせていた。

 少女がいる灰笛という名を頂く町、人と建造物と機械と魔法が割と寄り集まってそれなりに繁栄している、その割にはどうにも田舎臭く「人身事故」が割合と多い町。

 そのような町である灰笛では、やたらめったらと雨が多いことでも有名なのである。

 灰笛の他多数の都市部を領地に属している鉄国は、元より雨が多い土地柄である。しかしながらそれを含めて比例してみても、灰笛の雨の多さは他に追随を許さぬ異常性があるほど多い。

 要するに一年中、日がな一日ずっと雨ばっかり降っている、と形容できてしまえるほど雨天が多いのである。多すぎて町のあちこちにキノコが生えてきてしまうほどだ。

 四六時中ジトジトの肌寒い気候。雨空か、そうでなかったら曇り空、それがこの町に設定されている初期設定、言わばデフォルトなのである。

「雨が君をさらう前に、もう一度だけキスをして」

 どっかの安っぽい恋愛ソングの歌詞に出てくるような、現実の味が全く感じられない設定。

 そんな嘘くさい虚構でも、灰笛では往々にして生臭く真実味を味付けされてしまう。

 そんな感じの町に少女と、彼女の恋人は暮らしていた。

 しかしながら、本日の町はいつもとだいぶ毛色が異なっている。普段は天空を厚化粧している曇天も掠れ、薄化粧になった雲の隙間からは太陽が顔を覗かせている。

 細切れに降り注ぐ日光がアスファルトを温める天気、つまりは晴れているのである。

 ほかの地方に住む人々にはそう大して珍しくもない自然現象、しかし灰笛では瞼がひっくり返るほどに珍奇な現象なのだ。

 いつも何時も町のそこいら中に漂っている水分の気配も、今日ばかりはなりを潜めている。

 となればやることはただ一つ、洗濯物の天日干しである。

 あらゆる家庭においても部屋干しが基本スタイル灰笛において、日光に衣類を完走できる機会はそうそうなく、それこそちょっとした一大イベント的な雰囲気さえある。

 今頃町のあちこちで様々な衣類が、或いはそれ以外の生活用品がここぞとばかりに日に晒され、紫外線で緩やかに消毒されていることだろう。

 別に洗浄目的のみならば、室内乾燥機等々で事足りている。のだがやはり皆一様に狂ったように、晴れの日はものを干す。

 少女の恋人は「特に理由なく日に当てておけばよいと思っているじゃね?」的な内容の指摘をした。

 それに少女は「心地よいものに理由はいらないと思いますよ」という持論を披露した。

 というわけで少女と恋人の住む家でも、盛大で静謐なる洗濯物パーティーが開演されていたのであった。

 恋人が洗濯物から取り出した布を少女は端から全て、簡素にこしらえた物干し台に吊るしていった。

 水と洗剤によって洗浄されずっぷりと湿った布類が、潮風と日光に晒され揺らめいている。

 大方の洗濯物を干し終わり少女が一息つき始めた頃、少女の元に恋人が近付いてきた。

「あれ、どうしましたか?」

 少女は額に浮かんだ汗を拭いながら恋人に問いかける。しかし恋人は何も答えない。

 答える代りに手に抱えていた物を少女に差し出してきた。

「ああ、これは」

 恋人が差しだしてきた者を、少女もまた言葉少なげに受け取った。

 それは生き物の革の塊、革でこしらえられた胸部の身を覆う簡素な鎧であった。

「これも洗わないといけないですよね」

 少女は再び恋人に問いかける、恋人は黙って同意を表す体の動きをした。

 そこで少女は軽く思い悩む。

「でもどうやって洗いましょうか…?」

 鎧はぱりぱりと艶やかに乾いている。革製品を布と同じ扱いで洗浄してはいけないことは、少女と恋人にもなんとなく察せられた。

「とりあえず…、革靴用の磨き薬剤でも使ってみます?」

 少女は恋人に相談してみる、恋人はまたしても同意を示した。

「そうですね、じゃあ探してきますね」

 少女は「まだ残ってたかな…」と、少々面倒臭そうに倉庫へと駆け出した。

 一人残された恋人は、洗濯物の波の中にしゃがみ込む。

 そして家に残されている靴磨き用薬剤に、それを使っていた自分以外の、少女の心に深く結びついていたであろう、もうここにはいない男について考える。

 考える、考える、考える。

 考えていると、恋人は無性に煙草が吸いたくなった。

現実逃避です。

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