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第9話:圧倒そして圧倒-Dvojtechnika-

わたし達のドヴォイツェは順調に第3試合、そして準決勝も突破してついに決勝戦にたどり着いた。

プルヴニー・ストゥペン大会決勝戦――その対戦相手は言うまでもないだろう。

「へぇ、驚いた。君達が決勝戦の相手なんだ」

「あらホント。一回戦落ちだと思って存在を忘れていたのですわ」

「それは嘘。毎回確認してたよね?」

「ヤーラ!」

「はんっ」

レカルアさんとヤロスラヴァさんの漫才を遮ったのはセイジョーさんだ。

「これからブッ倒す相手と仲良くお話する趣味はないわ」

「あら、強気ですわね。コンビネーションのコの字もないドヴォイツェでわたくし達に勝てるとお思いで?」

「当然よ。ドヴォイツェ? コンビネーション? 全部私の圧倒的な力でねじ伏せて見せるわ」

自信満々にそう言い切るセイジョーさんだが、その勢いに負けず劣らずに強気な笑みをレカルアさんは浮かべて見せた。

表情こそ変わらないけれど、ヤロスラヴァさんも全く譲る気は無さそう。

「楽しみにしているよ、セイジョー・アマユキ。君の力が、僕たちに通用するかをね」

そして試合が始まった。

プルヴニー・ストゥペン大会決勝戦。

「ついに来ました決勝戦! ドヴォイツェ・ヴィーチェスラーヴァVSセイジョー・コスズメドヴォイツェ――――試合開始!」

「ふん、勝利の栄誉(ヴィーチェスラーヴァ)なんて大層な名前ね。ぶっ潰してあげるわ」

「かかってくるのですわ! ヤーラ」

「ああ。倒すよ」

真っ先に駆けだしたセイジョーさんの装騎ツキユキハナを見据え、ヴィーチェスラーヴァの2騎がコツンと武器を打ち付ける。

それはドヴォイツェ・ヴィーチェスラーヴァの戦闘開始の合図らしい。

「任せたのですわ!」

「迎撃」

「えっ!?」

真っ先に駆けだしたのは両手に超振動(サイ)――文字のψのような形をした武器だ――ウートクとオブラナを構える若草色の装騎ヤロ。

それはヤロスラヴァさんの装騎だった。

わたしは真っ先に前に出たのがヤロスラヴァさんの装騎だったことに驚きが隠せない。

「あのレカルアさんが、先手を譲るなんて」

彼女は何事も1番ではないと気が済まない、とてもワガママな性格だった。

だから、わたしも含めて当時レカルアさんと同じ装騎部に入っていた人達は彼女の機嫌を損ねないように色々と苦労したものだ。

実際、彼女が一番実力があったということもあり、レカルアさんを優先せざるをえない状況にあった。

そんな関係があったわたしから見れば、彼女が相方に先手を譲るというのは俄かには信じられない。

「だけど……レカルアさんがドヴォイツェを組んでいる…………その時点でおかしい、ですね」

ワガママで横暴で1番じゃないと気が済まない――彼女の意識を変えた何かがそこにはある。

「セイジョーさん、き、気を付けてください!」

そう思った時、わたしは思わずそう叫んでいた。

「誰が何を気を付けろって!?」

当然だけど、セイジョーさんはわたしの危機感を知るはずない。

警戒するわたしを嘲笑うように吐き捨てると、ロゼッタハルバートを一振り。

激しい金属音を鳴り響かせて、装騎ツキユキハナのロゼッタハルバートと装騎ヤロの超振動釵がぶつかり合った。

「そこですわ!」

瞬間、間髪入れずに飛び出してきたのはレカルアさんの装騎ヴィーチェスカ。

細身で巨大な超振動太刀ヴルトゥレを風車の羽のように振り回し、装騎ツキユキハナに斬りかかる。

「セイジョーさん……っ」

わたしは装騎ツキユキハナを援護しようと引き金を引いた。

装騎スニーフの持つ徹甲ライフル・ツィステンゼンガーが火を噴き、銃弾が走る。

しかし、わたしの射撃は当たらない。

入り乱れるように戦う装騎ツキユキハナと装騎ヤロ、そしてヴィーチェスカの動きから、セイジョーさんに当てまいと遠慮しながら撃っているのもあるけれど。

それにしても、装騎ヤロも装騎ヴィーチェスカもわたしの射撃が当たらないと分かっているように、こちらを意にも介さず装騎ツキユキハナを狙った。

「……チッ」

セイジョーさんが舌打ちする。

普段なら何か強気な発言だったり、相手に対する挑発を言うタイミングでただ舌打ちをしただけ。

「まずい……かもっ」

わたしの射撃ではあの2人に対して何の牽制にもならない。

そう感じたわたしは、片手剣ヴィートルを構えると装騎ヴィーチェスカに斬りかかる。

「来たわねナンバーツー!」

「レ、レカルアさん……っ」

装騎ヴィーチェスカは攻撃対象をわたしの装騎スニーフへと変えた。

その動きはとても素早く、わたしが向かってくることを知っていたようだった。

「違う、ずっと……見てた」

一見、装騎ツキユキハナへ2騎で集中して攻撃しているようにだったけど、あの2人はちゃんとわたしの動きも見ていたんだ。

でもそれは当然と言えば当然のことでもある。

2対2で戦っているのだから、例えその内の1騎を狙っているからと言ってもう片方を意識の外に置くわけにはいかない。

「本当、アナタ達ってバラバラですわね」

「……それは、まぁ、即席ドヴォイツェですし」

「そうでしょうね。はっきり言って、敵じゃあないのですわ」

装騎ヴィーチェスカの鋭い一撃が装騎スニーフを襲う。

「でも、太刀は攻撃の隙が、大きい……だからっ」

定石通り盾で防いだ後に切り込めばいい。

「うぅっ!?」

超振動太刀ヴルトゥレの一撃をなんとかドラクシュチートで受け止める。

しかし、その重さ、衝撃は想像以上だった。

圧倒的な風圧に装騎スニーフが吹き飛ばされるような感覚。

実際、吹き飛ばされてこそいないけれどその感覚に呆気に取られている間に。

「2撃目ですわ!」

超振動太刀ヴルトゥレの刃が戻ってくる。

「しまっ……」

なんとかドラクシュチートで防ぐことはできた。

しかし、咄嗟の構えでは上手く攻撃に耐えきる事が出来ず――装騎スニーフはしりもちをついてしまう。

そこに攻撃を仕掛けたのは――

「隙あり」

ヤロスラヴァさんの装騎ヤロだった。

「えっ……」

片手剣ヴィートルと超振動釵ウートク・オブラナが交差する。

セイジョーさんは……。

「戦いの途中に標的を変えるなんて!」

装騎スニーフを狙って振り落とされた超振動太刀ヴルトゥレの一撃を防ぎながら叫んだ。

「あぁら、もしかして1対1じゃないと戦えないんですの?」

「まさか! 2対1で十分よ」

「言うね」

「でしたら、そうさせてもらいますわ!」

瞬間、ドヴォイツェ・ヴィーチェスラーヴァの2騎はその矛先を装騎ツキユキハナへと変える。

「なっ」

動けないわたしを無視して2騎ともが狙いを変えた動きに、さすがのセイジョーさんも驚いたようだった。

変幻自在に狙いを変え、互い互いが補い合い、息を合わせながら標的を仕留める。

相手の動き、味方の動き、それら全てを把握した上で1対1の状況と2対1の状況をドヴォイツェの意思で有利な方へ切り替えられる戦い方。

この2人(ドヴォイツェ)は――

「強い……」

わたしも慌てて起き上がりなんとか2騎の隙を突こうとするけれど、簡単に止められてしまう。

2人1組の完璧なコンビネーション。

「これが……ドヴォイツェ」

勝てない。

わたしはそう思ってしまった。

けれど圧倒的だった。

力を合わせた2人は、バラバラで戦うわたし達では足元にも及ばないくらい。

「なんで……なんで勝てないのよッ」

苛立ったセイジョーさんが声を上げる。

そう言いながらも、セイジョーさんなら分かっているはずだ。

あの2人の強さを。

きっとあの2人は、1人1人の力ではセイジョーさんに敵わない。

しかし、2人で戦っていると言う事実。

2人の連携の技術。

さらに変幻自在に狙いと対戦相手を変えるトリッキーさ。

誰がいつ誰を狙うのか分からないというある種の奇襲によってセイジョーさんの個人技を上回っていた。

そんな中にわたしがいても役に立てるはずもなく。

「さぁ、決めるわよヤーラ!」

「ああ」

「「ドヴォイテフニカ――」」

突然、2人のアズルが重なり燃え始めた。

それは必殺技の予兆。

それも単なる必殺技なんかじゃなくて、もっとすごい何か。

放り投げた装騎ヤロの超振動釵ウートク・オブラナが装騎ツキユキハナの足元に突き刺さり、アズルの光を放つ。

「ぐっ!?」

眩い閃光。

放たれたアズルで装騎ツキユキハナの操縦系統が一瞬麻痺したのがサブディスプレイの表示でわかった。

「セイジョーさん!」

なんとかしなくちゃ――わたしは必死で装騎ツキユキハナに駆け寄る。

「「ヴィーチェストニー・スラーヴァ!!」」

それはドヴォイツェ名に由来する名を持つ2人同時の必殺技(ドヴォイテフニカ)

超振動釵ウートク・オブラナの放つアズルで動けなくなった相手を――

「這い蹲りなさい」

装騎ヴィーチェスカが超振動太刀ヴルトゥカで薙ぎ払う。

「させないっ!」

咄嗟に装騎スニーフを2騎の間に割り込ませた。

激しい衝撃がわたしの体を襲う。

それでも、後ろになんて退けない。

「コスズメさん……っ」

「この程度なら、まだ、いけるッ!」

わたしはドラクシュチートに収まった片手剣ヴィートルの柄を握る。

けれど、剣を引き抜いて反撃するわけじゃない。

このまま盾ごと――――

「振り回す――っ」

これが片手剣ヴィートル、そして盾ドラクシュチートの合体武器。

「ドラククシードロ!!」

竜の翼(ドラククシードロ)と言う名の斧を思いっきり超振動太刀ヴルトゥカに打ち付ける。

「なんですの!? この素早さ、力強さ――これは……ッ」

「狼狽えるな。まだ僕らの技は終わってない」

そう言いながら飛び出したのは両手に超振動釵ウートクとオブラナを構えた装騎ヤロだった。

「いつのまに、武器を……」

「最初の太刀での一撃――それに巻き込んで引き抜いていたのよ……」

冷静そうに説明するセイジョーさんの声にはどこか覇気がない。

「その通り。そして、決まりだね」

瞬間、わたしの装騎スニーフはその機能を停止した。

「これでおしまい」

そして、セイジョーさんの装騎ツキユキハナも。

「試合終了です! プルヴニー・ストゥペン大会優勝はドヴォイツェ・ヴィーチェスラーヴァ!!」

巻き起こる歓声。

人々の熱狂を背に受けながらわたしたちはその場を後にした。


挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「Dvojtechnika」

ドヴォイテフニカ。

有り体に言えば合体技のこと。

2人同時の技をドヴォイテフニカと呼ぶので、細かい内容はドヴォイツェによって差異がある。

特技同士を組み合わせた技、それぞれが単発の技を連続で行う技、連携を前提とした技、なかにはフォーメーション自体を指す場合もありその範囲は広い。

近年のパフォーマンス性を重視されるヴァールチュカでは、とくにお決まりのテフニカというのは観客を沸かすためにも必須のテクとされる。

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