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第8話:その時を待ってる-Krok za Krokem-


「次の試合は、セイジョー・コスズメドヴォイツェVSドヴォイツェ・犬猫同盟!」

次の試合相手は小柄で活発そうな雰囲気の少女と、やさしげな笑みを浮かべる少女のドヴォイツェだ。

「ジャック=ラッセル・テリアだ! よろしくな!」

「コチュカ・スコです。よろしくおねがいしますね」

握手を交わし、装騎に乗り込む。

わたし達の第2回戦が幕を落とした。

「コスズメさん、作戦通りに」

「は、はい……」

それは前回の戦いの後に言われた「それぞれがそれぞれの戦い方をする」という事を指しているのだろう。

正直、作戦なんて言えたものではないけれど。

「よーっしっ、ドンといこー!」

まず真っ先に仕掛けて来たのはテリアさんのアサリア型装騎。

名前は苗字と同じジャック=ラッセル。

両手に黄金色の刃を持つ短剣エルドラドを構えている。

元気にはしゃぐ子犬のように装騎ジャック=ラッセルの攻撃を、セイジョーさんの装騎ツキユキハナが手にしたロゼッタハルバートで受け止めた。

「――行きます」

激しく刃を打ち付ける装騎ジャック=ラッセルの背後から、スコさんのラファエル型装騎――スコティッシュが姿を現す。

そして、装騎ジャック=ラッセルの動きの合間から、その手に持った超振動槍ヴィスクムを突き出した。

「テリアさんのデタラメな動きを完全に読んだような支援……」

それはコチュカ・スコとジャック=ラッセル・テリア……互い互いに対する理解と信頼のなせる技だろう。

「さすがね。いいコンビネーションじゃない」

セイジョーさんはそう言いながらも、余裕の態度で装騎ジャック=ラッセルと装騎スコティッシュの絶え間ない攻撃をしのぎ、かわす。

わたしもただ見ているだけではいられない。

セイジョーさんを助けよう――そう思うのではなく、相手の隙を……

「狙う……っ」

わたしは装騎スニーフを装騎スコティッシュに向かって走らせる。

勿論、直線ではなく弧を描くように、相手の側面を突くように。

そして徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを構えると、そっと引き金を引いた。

「スコティー! 狙われてる!」

「大丈夫……テリアは赤いのを」

「うんっ!」

頷くような動きと共に、装騎スコティッシュが超振動槍ヴィスクムの矛先をわたしの装騎スニーフへと向ける。

「こっちに来る……っ」

一先ず、徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを撃つが、相手は銃撃を掻い潜りグングンと距離を詰めてきた。

わたしは咄嗟に徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを腰部のストックに仕舞い込む。

そして、左手に持った盾ドラクシュチートを鞘代わりにして納まっていた片手剣ヴィートルを引き抜いた。

「えいっ」

「がんばれ……わたしっ」

盾ドラクシュチートで相手の超振動槍ヴィスクムを受け流しながら隙を見て片手剣ヴィートルで斬りかかる。

リーチだけなら相手の方が上でこちらの方が不利。

だけど、盾を上手く扱えば――

「きっと、なんとか……なる。それに……」

わたしは横目で装騎ツキユキハナを見る。

「ぺすぺすぺすぺーす!」

「ったく、何なのかしらこの子は!」

奇声を上げながらも巧みな剣使いを見せる装騎ジャック=ラッセルにセイジョーさんの呆れたような声が響いた。

今のところ、一方的に攻め立てる装騎ジャック=ラッセルの攻撃をセイジョーさんの装騎ツキユキハナが必死に防いでいる様相。

けれど、セイジョーさんのことだ。

きっとすぐに装騎ジャック=ラッセルの隙を見つけて倒し、すぐにわたしの元に来てくれるだろう。

「それまで持ちこたえれば……わたし達の、勝ちっ」

「……あなた、戦いに集中。してるの?」

「えっ?」

「いいえ、ごめんなさい。気のせいか、覇気がないように感じたので」

そう謝るスコさんだけど、そうだ――確かに今のわたしは戦いに集中できてなかった。

セイジョーさんを頼りにしたらダメだ。

わたしはわたしの戦い方で――スコさんを倒さないといけない。

「コスズメ・セッカ、行きます!」

考えなしに突撃するのはダメ。

だけど、突撃する勢いで壁にぶち当たらないといけないこともあるのもそう。

わたしは盾ドラクシュチートを正面に構えると、一気に右足を踏み込んだ。

装騎スニーフが加速をつけ、その作用でわたしの背中に圧がかかる。

「やりますわね……っ」

装騎スコティッシュの放った超振動槍ヴィスクムの鋭い突きを無理やり押しのけ、一気に相手の懐に飛び込んだ。

「上手くいったっ」

「喜ぶのはまだ早いです」

装騎スコティッシュは軽い身のこなしで一歩後退。

そして、超振動槍ヴィスクムを思いっ切り薙ぎ払う。

激しい衝撃がわたしの体を襲った。

「でも、刃が当たらなければ……まだ、余裕っ」

もし今の一撃――刃の部分が当たっていればひとたまりもなかっただろう。

だけど、今当たったのは柄――となれば、ダメージはそんなに、

「大きくないっ!」

何度か振りかざした片手剣ヴィートルの斬撃はかわされる。

上手く飛び込めたつもりだったけど、そう一筋縄ではいかなさそうだ。

「消極的な子かと思ったけど……意外と」

「ふぅ――――まだ、これから……ですね」

深呼吸をして焦りそうになる自分を諫める。

再び、盾ドラクシュチートと装騎スコティッシュの超振動槍ヴィスクムの攻防が始まった。


「ペースッ!」

さっきから何なのだこの子は。

ペスペスペスペスと奇妙な声を上げながら攻撃をしてくる。

けれど、その実力は本物のようだった。

両手に持った剣を巧みに操り、荒削りのようだが繊細な連撃を繰り返す。

装騎スコティッシュによる厄介な支援攻撃は今は止んだ。

コスズメ・セッカの装騎スニーフが装騎スコティッシュと戦っているからだ。

「それじゃあ、戦いに集中してさっさと倒させてもらうわ」

実力は確かに本物。

しかし、勝てないなんて一言も言っていない。

相手に多少の華は持たせた。

ここからは――

「私の番」

私はロゼッタハルバートを思いっきり薙ぎ払う。

その衝撃で装騎ツキユキハナと装騎ジャック=ラッセルの間合いが開いた。

私の武器は長柄武器ハルバート……まともに間合いを取れば両手剣エルドラドなど取るに足らない!

「わわわん!?」

「シューティングフレア」

私はロゼッタハルバートを一突き。

更に一突き、一突き、一突き一突き一突き!

流星のように流れるロゼッタハルバートの刺突攻撃が装騎ジャック=ラッセルへ放たれた。

穿ち穿つ斧槍の連続攻撃に装騎ジャック=ラッセルはその機能を停止する。

「テリア!」

「あと1騎――」

「すごい……さすがセイジョーさん。わ、わたしもっ」

装騎スニーフの片手剣ヴィートルが弾ける。

装騎スコティッシュの超振動槍ヴィスクムが閃く。

「コスズメさん、無理はする必要はないわ。私に任せなさい」

「…………はい」

装騎スニーフは後退しながら片手剣ヴィートルを盾ドラクシュチートへしまい込む。

そして素早く徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを構えると装騎スコティッシュに撃ち放った。

「今の動き……」

流れるような武器の持ち替えに私は何か、奇妙な感覚を覚える。

いや、今は戦いに集中しなくては。

「コスズメさんはライフルを撃ってなさい。決めるわよ」

「おねがいしますっ」

遠慮がちに、それも装騎スコティッシュにはどう考えても当たらないような射線で徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを撃つ装騎スニーフ。

だが、装騎スコティッシュに対する牽制としては問題ないだろう。

私の力ならば、コスズメ・セッカの援護がなくとも十二分に敵を仕留めることができるのだから。

「いきます」

装騎スニーフの射撃が当てにならないことはコチュカ・スコもすぐに察していた。

だからこそ、狙いを私だけに絞りその槍を装騎ツキユキハナに向ける。

「互い互いに長柄の武器……リーチは、わたしの方が少し上、でしょうか?」

「加えて私は大振りで素早い動きはアナタほど得意ではない。刺突勝負なら速度もリーチもアナタが有利ね」

そう言いながらも、互いに間合には入らない。

距離を開き睨み合う。

私には策がある――相手はどうだろう?

「撃ちます!」

装騎スコティッシュが動かないと知り、装騎スニーフが徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを撃った。

そしてそれが、最後の一戦の引き金になる。

装騎スコティッシュは装騎スニーフの徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを避けるように一気に踏み込み装騎ツキユキハナとの間合いを詰めた。

それを迎え撃つために私も構えを取り、そして――

「ロゼッタネビュラ!」

アズルを纏ったロゼッタハルバートを思いっきり放り投げる。

それとほぼ同時、

「クレイジー・ジャヴェリン!」

装騎スコティッシュもその手に持った超振動槍ヴィスクムを投げ放った。

「っ……!」

「ほえっ」

私とコチュカ・スコの投擲攻撃はぶつかり合い弾き飛ばされ明後日の方向へと飛んでいく。

私もそうだが、相手もまさか武器を投げるとは思っていなかったらしい。

だからと言って、いつまでも動揺している訳にはいかない。

その一瞬の隙が――

「命取りよ」

拳を固め、全身の加速補助ブースターに火をつける。

そのまま一気に装騎スコティッシュの懐に潜り込み、拳を打ち付けた。

「勝者、セイジョー・コスズメドヴォイツェ!!」


2人の試合を観戦席で見つめる女性がいた。

「どうですか? セッカちゃんとアマユキちゃんのドヴォイツェは」

「あの2人がアナタの後輩なのだわ?」

アホ毛が特徴的なミルキーブロンドの髪の女性――サエズリ・スズメ。

そのそばに座る女性が尋ねた。

長くボリュームがあり捻れた金髪の女性――その眼差しには自信と厳しさが見て取れる。

「そうです。カヲリのとこの2人にも負けないと思いますよ」

「はんっ! あんな2人がヤーラとレカルアに負けないですって?」

鼻で笑う彼女の名はヴォドニーモスト・カヲリ。

スズメの中学時代の宿敵ライバルだった。

「アマユキちゃんは色んな大会で名を馳せる凄腕ですし、セッカちゃんも判断力は的確です」

「判断できても行動に移せなくては意味がないのだわ」

「そこが課題かな」

「それだけじゃないわ。課題だらけよ。アナタのトコのドヴォイツェ」

それはスズメもよくわかっていた。

わかっているからこそ、スズメは敢えてライバルであるカヲリの評価を聞こうと思ったのだから。

「敵同士なのはワタクシ達だけではないのだわ。今回の大会、当たる可能性があるのだからウチとアナタのとこのドヴォイツェも敵同士――わざわざ敵の為にアドバイスすると思って?」

「思ってるから聞きに来ました」

「ふんっ、アナタのそういう所大ッ嫌い」

カヲリの言葉にスズメは笑顔を浮かべる。

そんな様子にカヲリはため息を吐き、そして言った。

「そもそも、今回の戦いは何?」

「一回戦よりは戦えてましたよ?」

「ドヴォイツェとして戦うことを破棄したからなのだわ。2人とも実力は高い。だから並みの相手ならばあの戦い方でも十分かもしれないのだわ」

「そうですね。アマユキちゃんの実力は突出してますし、ヘタすればアマユキちゃん単体でも問題がないくらいです」

「ですけどコレはドヴォイツェ戦。”本物のドヴォイツェ”を相手にすれば完膚なきまで叩きのめされるのだわ」

「カヲリの後輩達みたいな?」

カヲリは「当然」と言うように鼻で笑う。

それだけ、ヤロスラヴァとレカルアのドヴォイツェの力に自信があるようだった。

「アマユキちゃんは負け知らず。まぁ、私に負けたりはしてますけど、自分より格下と思っている相手に負けたことはありません。そういう判断能力は高い犬みたいな子ですしね」

「ワタクシの後輩達が格下だと?」

「アマユキちゃんはそう思ってます。負けるなんて――考えてもないでしょうね」

「…………本当、良い性格してるわねアナタ」

「カヲリほどじゃないよ」


挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「ドヴォイツェ」

Dvojice。

2人組、ペア、カップルを意味する言葉。

ステラソフィア・ドヴォイツェでは2対2の試合において組まれる2人組チームの名称として使われる。

タイトルの通り、今作はこの「2人組(ドヴォイツェ)」を中心とした物語になる。

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