第50話:再試合! VSムニェスイーツ-Malé Křídlo a Krásná Hrdost-
「セッカ、決勝戦の日取りが決まったわよ!」
アマユキさんがブローウィングの部屋へと駆け込んでくる。
「次の日曜日……決勝戦、ですか……っ」
悪魔装騎アスモダイの介入により無効試合となったドヴォイツェ・ムニェスイーツとの決勝戦。
その新たな日程が決まったんだ。
「緊張してるの?」
「うー、やっぱり改めて決勝戦だと言われたら……」
「ま、なるようになるわよ。私たちなら負けない。そうでしょ?」
アマユキさんの瞳が真っ直ぐわたしを見つめてくる。
その透き通った目を見ているとわたしもなんだか負ける気がしない――そんな気がした。
「で、どう調子は。そろそろ慣れたかしら?」
「はい。ですけど……いいんですか? わたしが使って」
「いいのよ。私にはユキハナがいるもの」
そして試合当日。
『やって来ました! メジナーロドニー大会女子ドヴォイツェ部門決勝戦!』
事件で破壊された中央公園屋内演習場から場所が変わって、ステラソフィアの屋内演習場。
例によって司会のイオナさんが声を張り上げる中、わたしは装騎に乗り込む。
まだ僅かに新品の匂いが残るコックピットの中。
「よろしくね、ユキヅキ」
その名を呼んだ。
セイジョー財閥の最新型装騎メテリツェ。
そう、本来は破壊された装騎ツキユキハナの代わりとして送られてきた機甲装騎だった。
名前は雪月。
雪と月雪華から名前を取ってユキヅキ。
「良い装騎でしょ? その子」
「はい。とっても素直で扱いやすい……」
「逆に言えば、騎使の技量が性能にダイレクトに直結する……しっかり使いこなしなさいよ」
「脅さないでくださいよ」
「セッカなら大丈夫よ」
『それでは、ドヴォイツェ・スニェフルカVSドヴォイツェ・ムニェスイーツ――試合、開始!』
フィールドは緑の草木が多い茂る森林。
ステラソフィアでは一番メジャーなバトル用フィールドだ。
「セッカ、横並びで前進。互いに警戒を」
「はい」
木を倒さないように注意しながら前進する。
下手に動けば位置を知られる。
そしてそれは相手も同じ――――
「セッカ、正面!」
「っ!!」
地響きが少しずつ近づいてくる。
木々が倒れていくのが見えた。
「まさか、あんな派手に……?」
「片方が陽動で引き付けて、もう片方が奇襲――やっぱりそれがムニェスイーツの手らしいわね」
「となると――あの派手な動きをしてるのは装騎ナエチャン?」
「そう考えるのが…………いえ、違う。ズメニャンガー!!」
接敵。
目の前にいるのは謎のズメチンXさんの装騎ズメニャンガー。
短剣ハネムーンで木々を切り倒しながら近づいてくる。
そして相手も、コチラに気付いた!
「となると奇襲担当はナエチャン?」
「けど、あの装騎はこういうフィールドには弱いはず……」
木々があちらこちらに生えたこのフィールド。
装騎ナエチャンのような直線的な超加速を得意とする装騎が満足に戦うには難しい。
「ならば――――!」
装騎ユキハナがロゼッタハルバートを構える。
それにならい、わたしも片手剣ヴィートルを構えた。
「セッカ、周囲に警戒しつつズメニャンガーを攻撃。連携するわよ!」
「諒解っ」
装騎ユキハナのロゼッタハルバートが振り払われる。
その一撃を装騎ズメニャンガーは短剣ハネムーンを巧みに扱い、重い一撃を中空へと逸らした。
できた隙をわたしが埋める。
「スターライト・ハートビート!!」
片手剣ヴィートルによる連続突き。
「P.R.I.S.M. Akt.1――疾風突破!!」
それに――装騎ズメニャンガーは間合いを詰めることで回避した。
激しい衝撃がわたしの身体を襲う。
装騎ズメニャンガーの体当たりが装騎ユキヅキに命中したんだ。
「セッカ!」
装騎ユキハナがロゼッタハルバートを放り投げ、拳にアズルを溜める。
そして身を反転――装騎ズメニャンガーの背後を狙い、その拳を突き出した。
装騎ユキハナの拳と装騎ズメニャンガーの持つ短剣ハネムーンがぶつかり合う。
「見ないで防いだッ!」
「だけど……バースト!」
わたしは盾ドラクシュチートにアズルを集中。
そして、炸裂!
「やるじゃないですかッ!」
強烈な衝撃が周囲に放たれる。
その衝撃で装騎ズメニャンガーを宙へと舞い上げ、そして、
「EZネビュラ!」
その先には宙を舞うロゼッタハルバート!
そう、装騎ユキハナはただロゼッタハルバートを放り投げたわけじゃない。
ロゼッタネビュラのような旋回能力をロゼッタハルバートに与え、放り投げた。
「目の前には装騎ユキヅキ、下にはユキハナ――背後にはロゼッタハルバート! 3方向から包囲された――ということですねッ」
「ですがまだ、わたしがいるっ!」
瞬間、ロゼッタハルバートが弾かれた。
姿を見せたのはマジカル☆ロリポップさんの装騎ナエチャン。
登場は予想できていた。
この場面で姿を見せなければ嘘だろう。
けれど、予測できなかったこともあった。
「P.R.I.S.M. Akt.1! スライド~☆ライドー!」
装騎の加速――そのベクトルを一瞬で別方向へと向けるP.R.I.S.M.能力スライドライド。
それによる自由自在な方向転換こそ可能とはいえ――
「ナエチャンの姿が――消えたっ!?」
「違うわ。木の影に隠れたのよ」
「あのスピードで、ですかっ!?」
装騎ナエチャンはあの急激な加速。
そのスピードをほぼ維持したまま、木々を一本も倒さずにその隙間を駆け抜けていったのだ。
「さすがに直線で全速力――より速度が落ちるとは思うけれど」
「それにしてもあのテクニックは、驚異ですね」
「伊達に決勝進出してないってワケね」
その隙に乗じて装騎ズメニャンガーも姿をくらます。
「つまり、この木々は私たちにとって邪魔でしかない……ということね」
「そうですね」
装騎ユキハナがロゼッタハルバートを構える。
わたしも片手剣ヴィートルをドラクシュチートに仕舞い、ドラククシードロ形態にした。
ここから何をするかは言うまでもないだろう。
「ロゼッタ……」
「ドラクっ」
「ネビュラ!!」
「ストジェット!」
ロゼッタハルバートの一撃が、ドラククシードロの一撃が周囲の木々を薙ぎ払い、切り倒す。
「これで……丸見えよ!」
「思い切りがいいですねッ」
視界が開けた。
そしてそこには、姿を隠していたドヴォイツェ・ムニェスイーツの2騎。
「セッカ!」
「アマユキさん!」
目先の目標は装騎ナエチャン。
「P.R.I.S.M. Akt.1、風花開花!」
装騎ユキハナが吹き飛ばしのアズルで加速する。
その加速を、わたしは背中で受け止めた。
「いっけぇ、セッカ!」
「バースト!!」
装騎ユキハナに射出された装騎ユキヅキ。
そこから盾ドラククシードロをバーストさせさらに加速を上乗せに。
そして、片手剣ヴィートルに手を掛け……
「シューティングスター!!」
一撃をお見舞いする!
「マジカルっ、クロース!」
片手剣ヴィートルと、二振りの短剣ハネムーンが火花を散らした。
その時、装騎ナエチャンの背後を影が通り過ぎる。
「P.R.I.S.M.、Akt.1……ロズム・ア・シュチェスチー!」
瞬間、装騎ナエチャンの背後に生えてた木々がわたし達の方へ向かって倒れてきた。
ううん違う。
わたしが、倒れる木を引き寄せた!
「なるほどっ」
ブースターの加速力を利用し、離脱しようとした装騎ナエチャンが何かを悟った。
そう、わたしが木々を引き寄せたのは逃げ道を封じるため。
そして、その木を切り落としたのは……
「来て、ロゼッタハルバート!」
装騎ユキハナが投げたロゼッタハルバートだ。
斧ドラククシードロを右手で構える。
空いた左手でロゼッタハルバートを構える。
「ドヴォイクシードラ!」
その一撃を加えようとしたその時、背後から激しい機動音が聞こえた。
「風花開花!!」
「疾風突破!!」
装騎ユキハナと装騎ズメニャンガーがP.R.I.S.M.の輝きを身に纏い、わたし達の元へ向かって駆けてくる。
激しく火花を散らし、全速力で、競い合うように。
その気を取られた一瞬が、
「チャンス☆」
相手に突破のチャンスを与えてしまった。
「P.R.I.S.M. Akt.2! スレッド・スピナー!!」
装騎ナエチャンにアズルの輝きが灯る。
それと同時に周囲に小さな渦がいくつか現れた。
そのP.R.I.S.M.に見覚えはある。
無効試合になった最初の決勝戦――わたし達の装騎を悪魔装騎アスモダイの一撃から逃がす為に使ったP.R.I.S.M.だ。
あの時は効果がよく分からなかったけれど――――
「木がっ」
装騎ナエチャンの動きを封じるため、周囲に引き寄せた木々。
それが巻き上がり――回転し、弾け飛んだ!
「触れたものを超高速回転させるP.R.I.S.M.能力! それが~☆スレッド・スピナー♪」
激しく回転した木が弾け飛び、わたしの装騎ユキヅキや装騎ユキハナに襲い掛かる。
「チッ」
装騎ユキハナは装騎ズメニャンガーと反発するように離れた。
その間を一本の木がきりもみしながら飛んでいく。
装騎ユキヅキの元にも木が何本も飛んできた。
それをドラククシードロとロゼッタハルバートで防ぎながら一先ず距離を取る。
「さすがですね、ロリポップ!」
「それほどでも~」
「まだよセッカ!」
「はい!」
わたしはロゼッタハルバートを装騎ユキハナへ投げ返すと、ドラククシードロを大きく構えた。
「ロゼッタ――」
アマユキさんが静かに呟く。
「ネビュラっ」
わたしはドラククシードロを装騎ナエチャンに向かって放り投げた。
それとほぼ同時。
装騎ユキハナもロゼッタハルバートを投げ放つ。
2つのネビュラが装騎ナエチャンを目がけて飛ぶ。
その一撃が交差する瞬間。
「P.R.I.S.M. Akt.2! 英雄達の肖像!!」
装騎ズメニャンガーがその前に立ちはだかった。
全身に纏うアズルの光。
それはアズルを使った追加装甲――それも、スズメ先輩の装騎スパローが使うヤークトイェーガーによく似たフォルムだ。
けれど違ったのは。
「フルパワー!!」
全身を包むアズルの光が両腕に集まる。
すると、両腕の光はさらに強く、大きくなった。
きっとあのP.R.I.S.M.能力の持つ防御能力を両腕に集めたんだ。
そして、わたし達の放ったロゼッタネビュラを。
「ズメッ! ニャンッ ガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
受け止めた!
2つのネビュラは弾き飛ばされ宙を舞う。
ただ力任せに受け止めただけじゃない。
わたし達の放ったロゼッタネビュラ――それぞれの力と角度を瞬時に把握。
その一撃を最小限の力で受け流せるように角度を調整し防いだんだ。
パッと見は気合、根性、熱血! と言った感じだけれど全然違う。
彼女は持てる技術を最大限に駆使してわたし達の一撃を防いでいた。
「さぁ、反撃の時間ですッ! 疾風突破!」
「いっくよー! ナエチャン! ブースト全開!!」
装騎ナエチャンはわたしの装騎ユキヅキを。
装騎ズメニャンガーは装騎ユキハナを狙い、駆ける。
「ツィステンゼンガー!!」
わたしは徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを構え装騎ナエチャンを迎え撃つ。
装騎ユキハナは拳を構え、いつも通り格闘戦をするつもりだ。
アマユキさんは問題ない。
けど、わたしは――接近されたら、キツい。
「なんとか足止めをっ」
徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを必死で撃つけど当たらない。
当てられる――そう思ったものもスライドライドによる急機動や、スレッド・スピナーを盾替わりにして回避された。
そして目の前に。
「マジカル~スニクト!」
その一撃はなんとか回避できた。
けれど今の一撃――とても鋭い。
まるでアマレロ先輩の使うハニー・スニクトのように。
それにこの間合い。
どう考えても相手の――装騎ナエチャンの得意な間合い。
「もっといくよ! マジカル~ストリーム!」
2振りの短剣ハネムーンが閃く。
同時にではなくリズムをずらした2振りの短剣で放つ斬撃。
「くっ」
できるだけ距離を取ろうと後退するけれど、そう簡単に逃してはくれない。
「一か、八か……っ!」
その2撃が交差する一点――そこを見定め、徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを投げた。
そしてダメ押しの――
「ロズム・ア・シュチェスチー!!」
徹甲ライフル・ツィステンゼンガーへ宿らせた引き寄せのP.R.I.S.M.。
その効果で装騎ナエチャンの持つ短剣ハネムーンは徹甲ライフル・ツィステンゼンガーに引き寄せられ――ツィステンゼンガーを斬り裂いた。
そして爆発。
「これはっ」
装騎ナエチャンの視界を塞ぐ。
その隙にわたしは、
「ヴィートル・スチェナ!」
風の壁を足場に装騎ナエチャンの頭上を飛び越え、後方に。
そして左手を後ろに掲げ、アズルを溜める。
周囲を一気に吸い込む真空を生み出す私のP.R.I.S.M.能力。
「P.R.I.S.M. Akt.3――ヴァクウム、コウレ!!」
そして、左腕を大きく横薙ぎに振り――装騎ナエチャンへと叩きつけた。
けれどその一撃は――
「動作が、大きいよっ!」
わたしの渾身の一撃は――装騎ナエチャンに防がれた。
装騎ナエチャンは払った装騎ユキヅキの左腕を右腕で受け止め、ヴァクウム・コウレの直撃を回避する。
「決めるときは動作が大きくなっちゃう――それは、仕方ないけどねっ」
「そう、言いますけど……わたしが後ろから攻撃すること、気づいてたんじゃないんですか……?」
「ふふっ」
そうだろう。
きっとわたしが最小限の動作で攻撃したところで防がれていたはず。
ならば――――この大振りな動作で防がれるのが正解だ!
ステラソフィアTIPS
「ドヴォイツェ・ムニェスイーツ」
コンセプトは最強の2人。
名前は月を意味するMěsícと甘いもののSweets。
両者が使う武器、短剣ハネムーンは没案のドヴォイツェ名ハニームーンが由来。
そもそも何故コスプレ?
前作主人公はコスプレして正体隠して出てこないとダメなんですよ!(真顔)
謎のズメチンXは名前的に謎のヒロインXと宇宙メダロッターXが元ネタ。
マジカル☆ロリポップは愛称のポップ(甘くてレロレロ→ロリポップ)が由来。
ついでにいうと装騎ズメニャンガーという名前はズメチンXの好きなアニメ、ニャンコ王ニャオニャンニャーに出てくるロボットの1つニャオニャンガーが由来。
ニャオニャンガーの元ネタはガオファイガー。




