第48話:闇に落ちる涙-Nový Genesis-
暗闇を抜けた先――そこは……闇に沈んだ世界だった。
そんな闇の中に装牙に跨る私の装騎ユキハナ、そしてスズメ先輩の装騎スパローTAとアマレロ先輩の装騎ルシフェルⅦ型が佇む。
「何、アレ……」
目の前に見えたソレに私は思わず言葉を漏らした。
宙に浮く巨大な物体。
巨大な屋敷のようなソレは――
「装騎殿ゼブル……? 似てるけど、少し、違う」
スズメ先輩が呟く。
『あれは装騎神殿バアル・ゼブル……天使装騎バエルの真の姿です』
そんな声と共に1騎の機甲装騎が姿を現した。
いや違う。
機甲装騎よりもどこか生物的で滑らかな装騎。
どちらかというと悪魔装騎と同じような……。
「天使装騎グレモリー……マチアちゃんですか」
天使装騎……?
それにマチアと言ったら、さっきもスズメ先輩に「影」のことを教えていた。
まさか、彼女は――
「はい。マチアちゃんは元々悪魔装騎アスモダイと同じ組織に属していた1人です」
彼女の装騎は天使装騎と呼ばれてはいるものの、その本質が悪魔装騎と全く変わりないことは実感としてわかる。
かと言って、あの悪魔装騎アスモダイのように悪意に満ちているという訳でもない。
「とりあえず信用してもいいってことね」
「そうです、けど……でもマチアちゃん、何でこんなところにまで」
『良いんですスズメさん。悪魔装騎アスモダイは我々スヴェトが撒いた種――後始末はスヴェトの使徒としてわたしがさせていただきます!』
「言い合ってる時間もない――ですしね。わかりました。ですけどマチアちゃんは後方支援に徹してください。元々グレモリーは前衛向きじゃないですから」
『はい』
「それはいいけど、アレどーすんのよアレ!」
目の前で、それも宙に浮かんでいる巨大な屋敷。
装騎神殿バアル・ゼブルと言ったか。
『アスモダイはあの屋敷の奥にいるみたいですね』
「視えるんですか?」
『よくは、視えないですけど。それでも過剰な霊力があの中枢に吸い込まれていってます。まず間違いないかと』
「ということはセッカも」
『はい』
私の言葉に天使装騎グレモリーは頷く。
やっぱりあそこにセッカが……。
「周りにビルがいくつかありますね……装牙の跳躍力ならなんとか届く、はずです」
「けど装騎殿ゼブルの時は強力なアズルフィールドがあったって聞いたような」
『それが装騎神殿バアル・ゼブルは違うみたいなんです』
「違う、ですか」
『いえ、ちゃんとアズルフィールド自体はあります。そうしないとあの巨体を維持して浮かせることは不可能ですから。でも、その性質がなんというか……拒むんじゃなくて受け入れるようになってるというか』
拒むではなく受け入れる……?
『正確には、受け入れるというか――吸い込んでいる、というか』
私の頭に過ったのはセッカのP.R.I.S.M.能力。
ヤツらは、セッカの能力を利用している……?
「けれど、相手からの迎撃もやっぱりある――よね……」
「私たちを招待したいなら降りてきてくれると思いますしね」
「だからと言って、ここでうじうじしてられないわ! あそこまで到達できる手段があるんなら私は行くわ!」
「当然ですね」
「うん。行こう。スズメさん、アマユキちゃん」
『わたしは自力でなんとかします。飛行――とまでは行かなくてもグレモリーの力を使えば浮遊くらいならできますから』
「それでは各自で装騎神殿バアル・ゼブルに侵入を。中で合流しましょう!」
「「『諒解!』」」
「ŠÁRKA、DO BOJE!」
スズメ先輩の号令一下、私たちは――装牙たちは駆ける。
目指すは装騎神殿バアル・ゼブル内への侵入。
だが、相手もそう易々と侵入を許してはくれないらしい。
暫く距離を詰めた時、私たちの姿に気づいたように装騎神殿バアル・ゼブルに動きがあった。
装騎神殿バアル・ゼブルから伸びる触手のような何か。
力強く動き、滑らかな鱗が光る。
あれは――蛇の尾だ。
巨大な蛇の尾が走る装牙ティグルを狙って振り下ろされる。
『Gorrr!!』
その一撃を装牙ティグルは素早くかわす。
まさに野生の勘、野生の動き、凄まじい勢いに振り落とされそうだ。
「頼むわよティグル」
今の私はこの装牙ティグルに命を預けるしかない。
『Go!』
その声はまるで私の言葉に応えてくれたようで奇妙な信頼を感じる。
言葉は交わせないけれど――この子はきっと、私たちの為に本気で戦ってくれている。
ならば――信じるしかない。
『Urrrg!』
装牙ティグルの牙が装騎神殿バアル・ゼブルの尾を一本斬り裂いた。
けれど――
「再生してる……!?」
引きちぎられた尾がすぐに再生を始めるのが目に見て分かる。
正直、キリがない。
ならば、とっととあの迎撃を掻い潜って装騎神殿バアル・ゼブルの内部に突入するのが吉。
「ティグル、私の合図で跳びなさい。分かったらGo!」
『Go!』
「よーし、いい子ね!」
私は相手の動きを観察する。
蛇の尾は気付けば無数に蠢いていた。
まるでヘレーニアの伝説にある多頭の毒蛇のよう。
斬り落とすほど増えていく――という訳ではないけれど、引きちぎっても引きちぎっても新たな尾が行く手を阻むという意味ではなんらかわりはなかった。
そしてこんな無駄に数だけある防御機構相手に律儀に戦う道理はない。
突破するなら真正面。
最短ルートこそ女王の道。
「今よ!」
私の合図で装牙ティグルが跳ぶ。
足元には装騎神殿バアル・ゼブルの放つ蛇の尾。
私たちが往くのは――当然、その上!
「駆けなさい! いばらの道を駆け抜けてこそ、騎使女王としての道が開けるのよ!」
『Gurrooo!!!』
私もロゼッタハルバートを掲げる。
今、私たちは敵の手の上。
一瞬の隙が命取り。
そこを全速全開全力で駆け抜ける!
「ローゼスペタル!」
ロゼッタハルバートの一撃が尾を切り落とす。
「ティグル、GO!」
『Go!』
装牙ティグルが跳躍。
その足元を尾の鋭い一撃が通り過ぎた。
狙い通り装牙ティグルはその上に着地。
再び尾の上を駆け抜ける。
装騎神殿バアル・ゼブルがどんどん近づいてくる。
そしてその分だけ、私たちを狙う尾の数も膨大に増えてくる。
「右! 次は左よ! そのまま正面――上から来るのは、私が切り落とす!」
装騎神殿バアル・ゼブルはすぐ正面。
あと少し――と思ったその瞬間、私の視界全てを埋め尽くすほどの尾、尾、尾!
「抜けれそう?」
『Go!』
「アナタ、意外と頼りになるじゃない」
奇妙な高揚感。
良いだろう。
そう言うのなら――突破していこう。
アズルが装騎ユキハナの全体を駆け巡る。
そして右手に集まり、ロゼッタハルバートに蒼い輝きを宿した。
「行くわよ」
装牙ティグルにもアズルの奔流が走る。
身体の一部が展開し、姿を変えた。
加速形態? そんな奥の手を隠してたなんてね。
「ロゼッタ、ネビュラ!!」
私の放つ必殺の一撃。
それは行く手を阻む障害物を全て引き裂き、私の為の道を造る。
その後を、今まで以上の高速で駆け抜けるのは装牙ティグル。
不意に背筋に悪寒が走る。
背後へ視線を向けると、そこには私たちを追いかける蛇の尾たち。
けれど、それがどうだっていうの?
目の前から蒼き輝きが私の手元に戻ってきた。
「二連続!!」
その勢いを更に加速させるように、右手を思いっ切り背後へ振り払う。
私の誘導を受けたロゼッタハルバートは背後の蛇の尾たちに矛先を向けた。
そして、切断。
「こんなもんね」
戻ってきたロゼッタハルバートを私はしっかりと掴み取る。
道は開けた。
加速も十分。
そして、装騎神殿バアル・ゼブルも目の前。
「行きなさい、ティグル!!!」
『Gor!』
不意に装牙ティグルがその身をかわす。
「ティグル!?」
その理由はすぐにわかった。
私たちの目の前に何かが立ちはだかったからだ。
紅く染まった奇妙な存在。
見方によっては馬のようにも見えるか……。
それは装騎神殿バアル・ゼブル方から姿を見せた。
ということはきっとあれは――
「尾とは別のバアル・ゼブルの防衛機構ってワケね」
『Gr!』
ティグルが「そうだ」と言ってるように唸る。
「チッ、最後の最後に厄介な」
『Goorrrrr!』
装牙ティグルの首が奇妙な動きを見せた。
その頭を装騎神殿バアル・ゼブルの方へと向ける。
この動作は、アッチを見ろ?
いや違う、気を付けろ――でもない。
となると、
「先に行け……?」
『Go!』
装牙ティグルはなんとかして私を――装騎ユキハナを装騎神殿バアル・ゼブルまで連れて行くつもりらしかった。
「アナタは――」
『Grrrr』
睨む先には赤馬。
「わかった。ここはアナタの判断に従うわ」
『Gur!』
私の許可をもらい、装牙ティグルは思いっきり跳躍する。
まずはあのチェルヴェニー・クーンを突破しないといけない。
倒すのではない。
私を装騎神殿バアル・ゼブルの中へ送り込むために。
正面からぶつかりあう。
装牙ティグルの牙が、爪がチェルヴェニー・クーンに食い込んだ。
対するチェルヴェニー・クーンもその脚を巧みに使い、装牙ティグルを蹴り飛ばす。
『Grrrr!』
瞬間、装牙ティグルは大きく身体を振り上げると、私を――装騎ユキハナを弾き飛ばした。
「そういうこと――ッ!」
チェルヴェニー・クーンの蹴りと装牙ティグルのバネような身体の動き。
そして弾き飛ばされた装騎ユキハナの吹っ飛ぶ先は――
「頼んだわよ。ティグル!!」
装騎神殿バアル・ゼブルの懐だ。
その中央に装騎ユキハナが近づいたその瞬間、奇妙な感覚が私の身体を襲う。
装騎ユキハナを襲う。
「これは――引っ張られてるッ!?」
装騎神殿バアル・ゼブルは周囲のものを受け入れるようなアズルを纏っていると言っていた。
この引っ張られるような感覚はおそらくアズル引力の圏内に装騎ユキハナが入ったということだろう。
「しっかり耐えなさい、セイジョー・アマユキ! 行くわよ、ユキハナ!!」
装騎ユキハナが上下左右に震え揺れ、そして錐揉みする。
視界が黒く染まる。
それも一瞬――気付けば私は、薄暗く赤黒い謎の空間に立っていた。
「ここが装騎神殿バアル・ゼブルの中……?」
この奥にセッカがいる。
「だからって、そう簡単に行かせてはくれなさそうね」
暗闇から蠢いてくる影、影、影。
私はロゼッタハルバートを静かに構えた。
外から激しい衝撃が伝わってくる。
「ついに攻め込んで来たようね」
ドロテーアさんが身体を震わせる。
まるで興奮を抑え込むように。
「けれどコチラも――準備はできたわ」
「準備……?」
「我らスヴェトが悲願。新世界の成就。その核は私の手に」
ドロテーアさんが黒く淀んだ宝石のようなものを掲げる。
宝石とは言うけれど、それはお世辞にも綺麗だなんて言えないものだ。
言うなれば、人の悪意に形を与えたようなもの。
「悪意だなんて――これは純粋な力。とても――そう、純粋過ぎる力。だから人は扱い方を間違える。"コレ"はちょっとのことで間違える」
純粋過ぎる――力。
そう言われると邪悪さの中に垣間見えるのは純粋な輝きが見える。
だけど――ソレは、あまりにも――汚れ過ぎていた。
「だから失敗した。使徒長ジェレミィも預言者ペトラも。だけどヒントをくれた。だから私たちは研究したの。独自にこの力の、最高の力を引き出す方法を」
頭の中に映像が流れ込んでくる。
「ある一派は力の使い方を間違えて自滅した。またある一派は力を諦め別の手段を模索している。そしてある一派が私にヒントをくれた」
頭に浮かんだ場所に見覚えがあった。
ステラソフィア機甲科の校舎だ。
そして、その傍にある1つのホール。
今はどういう訳か閉鎖されてる体育館。
その建物を破壊して一騎の悪魔素装騎が姿を見せた。
「違う、これこそ我らが悲願」
それは即ち――新世界。
「けれどコレは不完全だった。いえ、あえて不完全になるように作ったの。新世界を作り出すには圧倒的なリソースが必要となる。コレはその問題を解決する為のテストケース。そして、成功した」
これが?
邪悪に歪んだ姿。
御伽噺の悪魔をも思わせる存在感。
これが、成功?
「もちろん。我らが悲願としては大失敗。けれど、たったあれだけのリソースでトルンガ・ルドライエフの力を再現できた。そこが重要」
堕神トルンガと呼ばれたソレがどうやって作られたのか。
それは人々の意思だ。
人の恐怖を1点に集め「新世界」と呼ばれるものの種を育てた。
そして芽吹かせ、生まれたのがドロテーアさんたちが新世界と呼ぶモノたち。
「頭、が……っ」
同じように人々の意思を注ぎ込み、新たな新世界の芽をはぐくむ。
その目的にとっておきのイベントがあった。
それがこの、国際大会。
新世界は人々の意識をつなげ、1つの霊的存在――つまりは神の域にまで昇華させること。
そう、人の意識が繋がる。
そんな現象をわたしはこの大会の中で体験していた。
人の過去と心と繋がり、それを見てきた。
そして今この瞬間もきっと。
「その通り。貴女はすごいわ。私たちのお膳立て、その全てを変えてしまった」
「お膳立て、ですか……?」
新世界は種を人に植え付けることで成長し、神となる。
その状態で多くの人々と感応、吸収することで巨大になりそれを繰り返してやがてこの世界全てを掌握する。
それがドロテーアさん達の企む新世界計画。
「本来、新世界の力はイェニーに与えるつもりだった。けれど貴女の力はそれ以上だった」
それは試合の勝ち負けとかではない。
「何の調整も受けてない貴女が私たちの仕込んだ感応装置を使いこなした。そして貴女の持つ素質。貴女ならこの力を使いこなしてくれる」
「力を、使いこなす……」
「そう。全てを飲み込める」
ロズム・ア・シュチェスチーやヴァクウム・コウレといった吸い寄せ能力。
「それは貴女の本質。あらゆるものを飲み込む――受け入れる。私たちの欲しかったものだわ」
ドロテーアさんの指がわたしの頬をなぞる。
冷たい感触が頬をなぞる。
「ああ、近づいてくるわ。もう少しで、ここにくる。それにこの装騎……ああ、生きてたのね」
確かに聞こえる。
それに感じる。
ドロテーアさんの感覚を伝わって、わたし自身にもよくわかった。
ドロテーアさんはこの装騎神殿バアル・ゼブルと繋がっている。
だからだ。
見たことない装騎。
だけど、その手に持つロゼッタハルバートと華々しい戦い方からそれがアマユキさんのものだとわかる。
「よかった……アマユキさん」
「本当、よかったわね」
不意に冷たい感触が頬から、口の中へと伝わる。
ドロテーアさんの持ってた石が、わたしの口の中に入れれらた。
「ぐぅっ!?」
「大人しく。暴れないで」
ドロテーアさんの腕がわたしの口の中に突っ込まれる。
「がぁッ。あっ、はぁっ……!!」
身体の中が熱くなる。
奇妙な熱量が内側から溢れ出して来る。
熱い、熱い熱い熱い熱い、身体が熱い。
そして――弾け飛びそうだ。
わたしの身体が砕けてしまいそうな恐怖。
そして、いろんなものがわたしの中に流れ込んでくる感覚。
力、意思、様々な音や物。
混ざる溶ける意識が揺れる消えそうになるけど消えない違うこれは混ざり合ってる?
ああ……いいわセッカ。
もっと、もっとよ。
ドロテーアさんの声が聞こえる。
違う、これは、わたしの声?
わたし――わたしって……?
アナタに新たな名前を与えましょう。
来るべき新世界の種子。
世界装騎ゲネシスと。
「キリがないッ」
着実に前には進んでいるはず。
けれど先が見えない。
敵の数も減らない。
「ロゼッターー」
不意に目の前の敵が斬り裂かれる。
今の一撃は――!?
「ムニェシーツ・ジェザチュカ!」
「ハニー・スニクト!」
スズメ先輩とアマレロ先輩だ!
「すごい数の敵、だね」
「アマユキちゃん! やっと追い付けましたよ」
追い付いた?
てっきりスズメ先輩たちは先に進んでいるものとばかり思っていた。
「突入は私たちの方が早かったと思うんですけど、場所が悪かったんですかねぇ……」
「それかセッカちゃんが、アマユキちゃんを呼んだ……とか」
セッカが、私を……。
『あ、ああ、ああああああああああ!!!!!』
不意に声が響き渡る。
それはこの装騎神殿バアル・ゼブル全体を震わせている。
そしてその声はセッカの声に――似ていた。
「スズメさん、マズいかも……っ」
「マズい? マズいって何よ!」
「アマユキちゃんの話を聞いた結果、ヤツらはセッカちゃんを新世界の核にしようとしていると推測しました。その為にある程度の時間を要することは過去の事例からも明らかですが――もしも今、その時が満ちたとしたら……」
「セッカが、その新世界とか言うヤツにされてしまうっていうの!?」
「可能性はあります」
「すくなくとも、一刻の猶予もないよね。ここを突破しないと」
「それで考えたんですけど……」
スズメ先輩の指示で装騎ルシフェルⅦ型が後方で待機。
逆に装騎スパローTAが影達の中に突っ込んだ。
私の装騎ユキハナはその真ん中で待機だ。
「でも……私でいいの?」
「アマユキちゃんはセッカちゃんの相棒、だよ。当然です」
装騎スパローが縦横無尽に跳ね跳び影達を斬り裂く。
さすがはスズメ先輩。
跳躍戦闘の切れ味は、空間が制限されたこの場所でもいかんなく発揮されている。
いや、適度に狭く適度に広いこの場所だからこその強みか。
そしてこれだけの超高速戦闘を、この閉所で行っても的確に装騎を動かし相手を引き裂く腕。
まさにサエズリ・スズメの、装騎スパローTAの本領発揮と言ったところだ。
けれど、斬れども斬れども敵の増援は切れ目ない。
しかし着実に手薄にはなってきていた。
狙いはそこ。
「アマユキちゃん。準備をしましょう。そろそろ、行けるから」
「はい」
装騎ルシフェルⅦ型が低く構えを取る。
背中のブースターに光が灯った。
その力はどんどん強くなっていく。
「3、2、1……」
そして装騎ルシフェルⅦ型が急加速。
要領はブレード・ブリットと同じだ。
超加速した装騎ルシフェルⅦ型に装騎ユキハナを打ち出してもらう。
さらに私はP.R.I.S.M.能力で加速を付け、数を減らした敵の真っただ中を突っ切り奥へと進む。
それだけだ!
「GO」
「いくわよ、ユキハナ!!」
タイミングを見計らい跳躍、装騎ルシフェルⅦ型の両腕の上に飛び乗り、その加速を身体一杯に受けた。
装騎がけたたましい警告音を鳴り響かせるけれど、そんなのに構っている余裕はない。
目の前の敵がどんどん斬り裂かれていく。
装騎スパローTAの斬撃で道が開く。
「タイミングを合わせるよ。せーのっ!」
アマレロ先輩が声を上げた。
と、同時にアズルの輝きが装騎全体を包み込む。
「P.R.I.S.M. Akt.3――プレイング・オーヴァー!」
そして装騎ルシフェルⅦ型が加速――そんなレベルではない加速を見せた。
それは一種の空間跳躍。
目の前の空間が歪み、道を阻むあらゆるものがなくなる。
「いっけぇ!!」
「P.R.I.S.M. Akt.1! 風花開花!!」
弾け飛んだ装騎ユキハナ。
それを更にP.R.I.S.M.能力で追加速。
私は――装騎神殿バアル・ゼブルの最奥へと到達した。
「来たわね、セイジョー・アマユキ」
そこに立っていたのはドロテーア。
悪魔装騎アスモダイの姿でもない。
人間の姿のドロテーア。
それだけ。
「セッカは!?」
「セッカ? いるわよ?」
『Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!』
耳をつんざくような声。
それを放ったのはドロテーアの背後にいた。
黒く淀んだ身体、機甲装騎よりは二回りほど大きな騎体。
「これは……」
「世界装騎ゲネシス。我らが新世界の核よ」
そして、確かに見えた。
その中央に囚われたセッカの姿を。
「セッカ、今助けるわ!」
私はロゼッタハルバートを構え、そして駆ける。
「ブルームローズ!」
ロゼッタハルバートの一撃が世界装騎ゲネシスを引き裂いた。
だが――効いてない!?
いや違う。
私の放った一撃は確かに世界装騎ゲネシスの首を切り落とした。
けれど、すぐに再生したのだ。
「貴女に世界装騎ゲネシスは倒せない。コスズメ・セッカは救えない」
「だったらアンタを殺せば――」
「勘違いしないで。私がこの子を制御してるわけでも維持してるわけでもない。もうこの子は世に生まれ落ちた。まだ子どもだから力は弱いけれど――生まれ落ちたのよ」
「生まれ、落ちた……?」
「この子はあらゆるものを吸収して力に変える。そう、セッカのようにね」
確かに感じる。
周囲の空気があの世界装騎ゲネシスに吹き込んでいってる感覚。
周囲のエネルギーを吸収し、あの存在を固定している。
「今はまだ目覚めたばかり。けれど、やがてあの子は求めるでしょう」
そして傷の再生が済むと、今度はその力を自らを成長させる為に使い始める。
それが目に見えて分かった。
少しずつ、少しずつだけど着実に大きく、大きくなっていってる。
「世界を」
ドロテーアの言う通り、アレはこの場を飲み込み、装騎神殿バアル・ゼブルを飲み込み、そして街を国を世界を飲み込むようになるだろう。
けれど私は思った。
世界装騎ゲネシスの持つ吸収能力は恐らくセッカの能力によるもの……。
ならばセッカを切り離す――助け出せれば世界装騎ゲネシスの吸収能力はなくなるはず。
「確かにそうかもしれないわ。自発的なエネルギー吸収は確かにセッカの能力」
「な……私の考えを……っ」
「言ったでしょ。人の意思を繋ぎ作るのが新世界。世界装騎ゲネシスはその片鱗。ならば、私たちの意思も繋がるのは当然じゃなくて?」
「考えは丸わかりってわけね。それがわかったなら妨害を――して、こない?」
「試してみなさい。無限の力を引き寄せる世界装騎ゲネシスに僅かでも敵うと思うのなら」
「見せてやるわよ。騎使女王の力ってやつをッ!!」
そう奮い立たないと足がすくんでしまいそうだった。
それでも怖気付いたりなんかできない。
「ロゼッタ、ネビュラ!!」
私はロゼッタハルバートに光を灯した。
ステラソフィアTIPS
「新世界」
人々の意識や記憶、魂を結合した上位存在(神)のこと。
身も蓋もなく言ってしまえば人類補完計画。
その核になるのがトルンガ・ルドライエフという神の力である。
世界神ルドライエフはステラソフィアの舞台となる技術世界とは全く違った法則の異世界。
そしてそれを構築し、維持していた神の名前。
契約世界とも呼ばれるように生物と神の契約によって成立していた世界だったが、ある出来事で契約が破棄され世界全体が荒廃、神々が堕落してしまった。
そんな世界を1人の男が破壊したことでその世界は終焉を迎えたかと思っていたが、その男が異世界への世界移動を果たしたことでルドライエフの種子たちが持ち込まれることになる。
ルドライエフ世界から紛れ込んだ6つの種子――その1つが、偽神クトゥルフ、異界堕神ルドライエフ、堕神トルンガ、そして世界装騎ゲネシスと名付けられ形を与えられたものである。