表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/53

第45話:我らが新世界の為に-Za Nového Světa-

「ドラケムっ」

「ロゼッタ――」

「「ブリスク!!」」

突如、空に亀裂が走る。

禍々しさを全身に纏った1騎の機甲装騎。

その背からは巨大な腕のようなものが伸び――そして、巨大な、剣。

「装騎、ヘシュム……?」

シルエットはまさにドヴォイツェ・ノイエヴェルトのドロテーアさんが操る装騎ヘシュムに似ていた。

「セッカ、何ボサっとしてるのよ!」

「あっ!」

アマユキさんの声にハッとする。

巨大な剣――その一撃は明確にわたし――ううん、わたし達を狙っていた。

「P.R.I.S.M. Akt.2――英雄達の肖像ポルトレート・フルヂンク!」

「P.R.I.S.M. Akt.2。スレッド・スピナーっ」

装騎ズメニャンガーからアズルの奔流が、装騎ナエチャンから奇妙な渦巻く風が放たれる。

瞬間、装騎スニーフとツキユキハナが吹き飛ばされた。

そしてその直後、轟音。

「今のは――」

「装騎ヘシュムに、似てました」

「ドヴォイツェ・ノイエヴェルトの?」

アマユキさんが舌打ちする。

あの2人は何か目的があるような口ぶりだった。

この大会の中で、何かを企んでいるような。

それが何かは分からないけれど……まさかこんな直接的な方法で仕掛けてくるなんて。

「でも、そうだと決まったわけじゃ――」

『そうよ』

声が響いた。

それは舞い上がった砂ぼこりの向こう側。

謎の三本腕の装騎が降り立ったその場所。

さっきはよく見えなかったその姿がよく見える。

放たれる邪悪な気。

赤と黒で彩られ、見るからに禍々しい、まるでコミックのヴィランのような姿。

「あなたは、ドロテーアさん?」

『違うわ。私は悪魔! 悪魔装騎アスモダイ!!』

彼女はそう名乗った。

「悪魔装騎、ですって!?」

その言葉はきっとその場にいた誰もが聞いただろう。

だからか、会場全体が静寂に包まれていた。

「悪魔装騎って……」

わたしもその名前を聞いたことがあった。

去年くらいだっただろうか。

世界中に悪魔装騎を名乗る謎の機甲装騎が現れ破壊活動をするという事件があった。

その騒動は国の特殊部隊によって解決されたという話だったけれど……。

「行方をくらました司祭の1人、ですか……っ」

『まだ、動けたのねぇ』

声を上げたのは謎のズメチンXさんだった。

装騎ズメニャンガーは悪魔装騎アスモダイの奇襲でボロボロ。

辛うじて稼働できている――そんな感じだ。

「ズメチンXさん!」

「セッカちゃん、アマユキちゃんは逃げて! ここは私たちがっ」

「食い止めますっ。マジカル!」

『逃がさない!』

「「させないっ!」」

悪魔装騎アスモダイの大剣を装騎ズメニャンガーと装騎ナエチャンが受け止める。

「逃げろったって!」

背後を向いたわたし達の視界には1騎の機甲装騎。

「装騎デミウルク……」

「イェニーさん」

ドヴォイツェ・ノイエヴェルト、ドロテーアさんの相棒ミレンカイェニーさんの装騎デミウルク。

「そこをどきなさい」

アマユキさんの強気な口調に装騎デミウルクは無言で首を横に振る。

「逃げたいというのなら、逃げてもいいんだ。あなたはね」

「アンタ達の目的は……」

アマユキさんの口調は何かを確信しているようだった。

その言葉にイェニーさんが、装騎デミウルクが頷く。

「なら、逆にこちらが逃す訳にはいかないわ。アンタを、倒す!」

装騎ツキユキハナがロゼッタハルバートを構える。

「アマユキさん!」

「セッカは逃げなさい」

「それは、できませんっ。わたしも、スニェフルカ、ですからっ」

「チッ、さっさと倒すわよ! デミウルクを!」

「は、はいっ」

「来るんだね……ゼルトザーム・アウスレンダー」

装騎デミウルクの右腕が変化する。

先端が扇状に広がった剣が装騎デミウルクの腕の先から伸びている。

「悪いけど、相手をさせてもらうんだね」

そして、一歩踏み出した。

「セッカはツィステンゼンガーで援護を。私が直接、ぶっ叩く!」

「はいっ」

わたしは徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを装騎デミウルクに向け、撃つ。

けれどその銃撃が――

「効かないっ!?」

まるでそのダメージを受けていないかのように猛然と装騎ツキユキハナへと向かっていく。

それもその機動性。

「これがデミウルクの――ううん、装騎の、力!?」

一瞬で装騎ツキユキハナの目の前に迫っていた。

「くぅっ!」

装騎ツキユキハナは咄嗟にロゼッタハルバートを掲げる。

装騎デミウルクの右腕とロゼッタハルバートがぶつかり合い、アズルを散らした。

「シューティングスター!」

ただ見ているわけにはいかない。

アマユキさんが意表を突かれたその隙をカバーする。

「……ッ!!」

わたしの一撃は、素早く背後へと跳躍した装騎デミウルクには届かない。

装騎デミウルクはそのまま四つん這いになり、跳躍したその勢いを身体全身使って制止させた。

その姿はまるで獣のよう。

そして体全体を使って、獣が獲物に襲い掛かるように飛び上がった。

わたしはその姿に悪寒を感じる。

ついさっき、悪魔装騎アスモダイを見た時にも似たような感覚があった。

「あの、デミウルク……もしかして……」

「がぁッ!」

「きゃァ!!」

激しい音と振動が伝わる。

それはわたし達の背後から。

そう、謎のズメチンXさんの装騎ズメニャンガーとマジカル☆ロリポップさんの装騎ナエチャンが悪魔装騎アスモダイによって最後の一撃を叩き込まれた音だ。

「ズメチンXさん、ロリポップさん!」

さすがに奇襲攻撃でダメージを受けた上で、あのバケモノのような機甲装騎相手は難しかったんだ。

『さぁ、くたばれェ!!!』

「アンタら、ブッ飛ばしてアゲルんだから!!」

「行くのでありますよ!!」

その場に更に2騎の機甲装騎が乱入してくる。

黒を基調に巨大な加速装置付き(ブーステッド)ハンマーを構えた装騎ヴラシュトフカ。

鮮やかな青色で染められた騎体に霊子衝浪盾アズロヴァツィー・シュチートアズライトを構える細身装騎ブルースイング。

「ツバメ先輩、アオノ先輩!?」

2騎の装騎は装騎ズメニャンガーと装騎ナエチャンを守るように悪魔装騎アスモダイに立ちはだかる。

『あぁら、怖くないのかしら? 貴女達……』

「怖い? 何ソレ? アタシはサエズリ・スズメの妹なのよ?」

「とか言いつつ震えてるのはよくわかるのでありますよ!」

「ア、アンタだってそうでしょ!?」

「とりあえず、スズ――ズメチンXさんを逃がすのであります!」

謎のズメチンXさんとマジカル☆ロリポップさんは装騎から飛び降りると、どこかへ走っていくのが見えた。

2人とも無事みたいでホッとする。

『アンタら、よくここまで来たわねェ。私と楽しみたいのかしらァ!?』

「楽しませてもらおーじゃあないの!」

装騎ヴラシュトフカ、装騎ブルースイングが悪魔装騎アスモダイと戦いを始めた。

わたしはふと引っかかりを覚える。

ドロテーア……悪魔装騎アスモダイの言った"よくここまで来た"というセリフ。

もちろん、ツバメ先輩やアオノ先輩が抱く恐怖心に対しての挑発だという単純な言葉ともいえる。

でも、そうじゃない。

観客席に目を向ける。

気付けば、そこに人はいなかった。

きっとわたし達が戦っている間に避難させたんだ。

それこそ、軍や憲兵が。

「そうだ……軍の人や憲兵の人は!?」

「軍、憲兵。頑張ってるんじゃないかな? 外で、ね」

わたしの声を聴いたイェニーさんが呟くように言った。

『我々の目的、その邪魔はさせないッ! その為の手は打った!』

外から銃声や装騎の機動音が聞こえる。

何かと、戦っている?

『そして我らの目的! 今、果たさん! 満ちる、満ちる満ちる満ちる満ちるッ! 恐怖が満ちるッ』

「ナンだってのよ!!」

「この、アズルは……っ!?」

強烈な衝撃がわたし達の身体を揺らした。

それはどこか邪悪なアズルが周囲に広がるような波。

悪魔装騎アスモダイの背から伸びた3本目の腕に邪悪なアズルが集まり――それが手に持つ大剣に伝わる。

大剣の刃が鋭く研ぎ澄まされ、血が滴り、それがそのまま固まったかのような歪な形を作り出した。

そしてそんな大剣を一振り。

強烈なアズルの衝撃を纏った斬撃が、装騎ヴラシュトフカと装騎ブルースイングを斬り、吹き飛ばした。

「コイツ、クッソ……強いッ」

「で、ありますね……」

悪魔装騎アスモダイの雰囲気が明確に変わっていく。

今までも確かに恐怖を纏ったような、悪魔のような雰囲気はあった。

けれど、もっと明確に悪意が純粋になっていく。

「これはもう……悪魔、じゃなくて、神」

わたしは、何を言ってるんだろう。

あれだけ邪悪な存在――まるでファンタジーに出てくる魔王のような存在。

そんな存在相手に――なんて言った?

『さすがコスズメ・セッカ。私、好きよ。貴女のそういうところッ!』

「セッカ、危ない!!」

悪魔装騎アスモダイがその右腕を装騎スニーフに――わたしに伸ばす。

激しくぶつかり合う悪魔装騎アスモダイの大剣と装騎ツキユキハナのロゼッタハルバート。

けれど装騎ツキユキハナはいともたやすく押し負かされてしまう。

それだけ格が違うんだ。

実力だとか装騎の性能だとかそんなレベルの格じゃない。

「アマユキさん、逃げてっ!」

身体が揺れる。

全身が痛む。

ドラククシードロにできる限りのアズルを流し込んで、悪魔装騎アスモダイの一撃を受け止める。

それでも、とてつもない衝撃が身体の節々に響いた。

「あぁ……っ」

『強くなったじゃない』

「ドロテーアさん、あなたは、何が目的なんですか!?」

『目的。目的ね……それは貴女よ。コスズメ・セッカ』

「わたし……? どうして……」

『ふふ……いいわ。その動揺。ねえコスズメ・セッカ、私と一緒に来てくれる?』

その言葉は本気だった。

『私と来てくれたら、貴女の大切な人達に手は出さないわ』

その言葉も――嘘ではない気がする。

『賢い貴女なら来てくれるわよね?』

「待ちなさい……ッ」

装騎ツキユキハナが立ち上がる。

「アンタらに、セッカを、連れて行かせは、しないッ!!」

「アマユキ、さん……?」

全身からアズルを溢れ出させ恐るべき気迫を纏っていた。

『来なさい』

「ロゼッタ、ネビュラァ!!」

装騎ツキユキハナが投げ放ったロゼッタハルバートを悪魔装騎アスモダイは回避。

武器の無くなった装騎ツキユキハナへ一気に接近する。

「アマユキさん! ダメっ!!」

風花開花ブルームローズ!!」

悪魔装騎アスモダイが振り下ろした大剣の一撃を、装騎ツキユキハナはP.R.I.S.M.能力の吹き飛ばしも利用して回避した。

「ローゼスソーン!」

そしてアズルを纏った拳を突き出す。

『効かない!』

その拳を手のひらで受け止める悪魔装騎アスモダイ。

アズルを使った拳打攻撃を全く苦も無く受け止めている。

「やっぱり……普通の装騎とは、違うッ!?」

『何を今さら!』

悪魔装騎アスモダイの3本目の腕が装騎ツキユキハナの背後に回り込んだ。

回避しようと足を思いっ切り踏み込んだのが見えたけれど、動けない。

そう、さっき拳打を放った右腕を相手に捕まれているからだ。

『くたばれッ!』

装騎ツキユキハナが左手を悪魔装騎アスモダイの左腕に添えた。

装騎アスモダイの左腕――そこを起点に、装騎ツキユキハナが華麗に宙を舞う。

『!!』

「そっちがくたばりなさい」

装騎ツキユキハナを背後から狙っていた大剣の攻撃。

その攻撃をあの状況から装騎ツキユキハナがかわした。

つまりそれは、悪魔装騎アスモダイの攻撃が自分自身に命中してしまったということだ。

『貴様、貴様貴様貴様ァッ!!』

悪魔装騎アスモダイが激情を吐き出す。

元々ドロテーアさんは獰猛さを秘めたようなところがあったのはわたしも知っている。

実際、その獰猛さを身をもって知ったからだ。

けれど、この悪魔装騎アスモダイはドロテーアさんの持つ感情を、更に顕著に表に出しているようだった。

ドロテーアさんの本性を、人という仮面をかなぐり捨てる一歩手前まで剥き出しにしている。

実際、そういう本性がその禍々しい姿に現れているのだろう。

何が言いたいかと言うと――

「危ないっ!!!」

『うがぁぁああああああああああ!!!!!!』

癇癪を起したような叫び声と、激しく暴れまわる邪悪なアズルが迸る。

そのアズルの奔流一つ一つが悪魔装騎アスモダイの腕となり足となり一撃となる。

「P.R.I.S.M. Akt.2――」

悪魔装騎アスモダイの猛攻は、装騎ツキユキハナには届かない。

今まで以上の集中力。

今まで以上の動き。

アマユキさんの本気――ううん、それ以上。

装騎ツキユキハナが光を纏う。

P.R.I.S.M.の煌めき――ううん、それ以上。

限界駆動クリティカルドライブだ!

「ブロウウィンド」

そして放たれた装騎ツキユキハナの拳。

その手に吹き荒れるのはアズルを吹き飛ばす竜巻。

装騎ツキユキハナの一撃は、悪魔装騎アスモダイの胸を貫いた。

「ロゼッタハルバート」

アマユキさんの呟きに応えたように、戻ってきたロゼッタハルバートが悪魔装騎アスモダイの背を切り裂く。

これ以上ない決定的な一撃。

と、いうよりも……

「アマユキさん、さすがに……」

胸を貫きさらに背後に突き立ったロゼッタハルバート。

もし相手が普通の装騎ならまず間違いなく騎使は死んでいるだろう。

だけど……

「コイツは……普通じゃないわ!」

『死ね』

蜘蛛の足のように伸び広がった暗黒のアズル。

それが装騎ツキユキハナを取り囲むように蠢き、そしてその先端をツキユキハナに向けた。

「チッ!」

アマユキさんの舌打ちを最後に、装騎ツキユキハナは全身を貫かれ機能を停止した。

「アマユキ、さん……っ」

見るも無残な姿になった装騎ツキユキハナ。

それはもう装騎としての形を留めておらず、ただのスクラップだ。

最悪、

「死――」

悪寒が身体に走る。

『さぁ、来なさい。コスズメ・セッカ。私たちと共に』

「アマユキさんは……」

『死んだんじゃないの? 少なくとも、私は殺したつもりだけれど』

「ドラケム・ズニェイー!!!」

ドラククシードロを地面に叩きつける。

放つのはアズルの衝撃波。

けれどそれは、悪魔装騎アスモダイのアズルに阻まれた。

「まだ、ロズム・ア・シュチェスチー!」

わたしは装騎スニーフを走らせながら、同時に悪魔装騎アスモダイを引き寄せる。

「ヴェトルナー・スチェナ!」

2騎の距離が近づいたタイミングで風の壁を出して、そして、その壁に悪魔装騎アスモダイを叩きつけた。

これで動きを止めて、そして、風の壁に足を掛け、相手の頭上へ。

「ヴァクウム・コウレ!!!!」

荒ぶる風を左手に宿し、全てを圧縮し打ち砕く暴風の球を悪魔装騎アスモダイに、

「叩きつけるッ!!!!!」

悪魔装騎アスモダイの頭部を捻り、圧縮し、粉砕する。

「まだ、まだァ!!!」

アズルをヴァクウム・コウレに流し込む。

もっと、もっと強く!

「死――――ッ」

『情熱的じゃあない。だけど、駄目よ。かわいいお口が汚れてしまうわ』

同時に衝撃。

装騎スニーフが自身の損傷を警告音と画面表示で伝えてくる。

頭部、両手足の信号途絶。

つまりは破壊されたんだ。

悪魔装騎アスモダイに。

『さぁ、イェニー。箱は手に入れた。撤退するわよ』

「どうやら……遅かったみたいだね」

『……来たのね』

「ああ」

2騎の機甲装騎が高速で近づいてくる。

あれは――

「装騎、スパロー? それと、ルシフェル型……」

スズメ先輩の装騎スパローと同系統の機甲装騎。

けれど、その細かいデザインはいつも乗っているスパローとは違っていた。

「サエズリ・スズメ。スパロー・トライアゲイン、行きます!」

「カシーネ・アマレロ、ルシフェルⅦ型ゴー・アヘッド!」

『シンカ達』

悪魔装騎アスモダイがつぶやく。

その声に応えたように、どこか奇妙な雰囲気の機甲装騎が姿を現し、装騎スパローTAと装騎ルシフェルⅦ型の前に立ちはだかった。

獣のような身のこなしで、唸り声のような駆動音を放つその装騎達を、

「ムニェシーツ・ジェザチュカ!」

「ハニー・スニクト!」

2人の先輩達は一瞬で切り裂く。

「ドロテーア、無理だ」

『分かってるわ。サエズリ・スズメと直接戦っての勝ち目なんて万に一つもない』

「そう。だから足止めが必要。なんだよね」

『シンカ達がいるわ』

「無理だね」

装騎デミウルクが装騎スパローTAと装騎ルシフェルⅦ型の前に進み出た。

「ドロテーア、君は行け。我らが新世界の為にザ・ノヴェーホ・スヴェタ

『……我らが新世界の為にザ・ノヴェーホ・スヴェタ

「P.R.I.S.M. Akt.3……」


身体が痛む。

閉ざされた闇の中で私は目を覚ました。

「ツキユキハナ……?」

装騎は何も返さない。

機能が完全に停止している。

それどころか、コックピット内は酷い有様だった。

「よく、生きてたわね……」

外から激しい振動と交戦音。

まだ戦いは続いているようだ。

「緊急脱出時の手順は……」

コックピット上部にあるレバーを引くと、ポンという音とともに僅かだけど光が差し込んできた。

その光を頼りに装騎ツキユキハナのハッチを開き、外へと這い出す。

「スズメさん! アスモダイが!」

「はいっ、逃がしません! やりますよアマレロちゃん!」

「装騎スパロー……?」

SIDパッドを掲げると、スパロー・トライアゲインの文字。

スズメ先輩の装騎か。

「スパロー!」

「ルシフェルⅦ型!」

「「ブレードブリット!!」」

装騎スパローTAを装騎ルシフェルⅦ型が打ち出す。

弾丸のようになった装騎スパローTAは、目の前に立ちはだかる1騎の機甲装騎、装騎デミウルクを――いや、その頭上を飛び越えた。

狙う先には悪魔装騎アスモダイ。

そしてその手には……

「スニーフ!? セッカ!!」

頭部も手足も完全になくなり、胸部だけになっているけれど確かにそうだ。

セッカの装騎スニーフ!

「デミウルク・エルステレン」

不意に装騎デミウルクに邪悪なアズルが宿る。

それは悪魔装騎アスモダイにも似たアズル。

いや、さっき戦っていた時から気づいてた。

あの装騎デミウルクには悪魔装騎に近い何らかの力が与えられていることを。

けれどその力がもっと強くなる。

そして、その姿形も悪魔装騎アスモダイに近づいて……そうか、これが彼女のP.R.I.S.M. Akt.3。

「堕ちろ」

悪魔装騎アスモダイの姿を象った装騎デミウルクは、背後から生えた3番目の腕――その手に持った血の大剣で装騎スパローTAを叩き落とした。

「がっ!!」

強烈な一撃。

しかし装騎スパローTAは間髪入れずに立ち上がる。

追いついてきた装騎ルシフェルⅦ型も両手に構えたナイフ・クイックシルバーを閃かせた。

「P.R.I.S.M. Akt.3ッ!」

そして装騎スパローTAがアズルを纏う。

「ドヴォイフヴィェズダ!」

跳躍する装騎スパローTA。

正面から斬りかかる装騎スパローTA。

2騎の装騎スパローTAの一撃は装騎デミウルクの機能を停止させた。

その戦いは速やかで鮮やか。

けれど……

「セッカ……ッ!!」

その場には既に悪魔装騎アスモダイの姿はない。

私はセッカが連れて行かれるのを何もできずに見ていただけ。

私は……何も、できなかった。


挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「悪魔装騎」

スヴェト教団起源派と呼ばれる一派が異世界の墜ちた神ルドライエフの力を利用して生み出した72の魔導系機甲装騎の名称。

ルドライエフの悪意を偽神として降臨させその偽神を倒すことで浄化し純粋な力に変化させるという偽神降臨計画において、偽神を倒す為に天使装騎として生み出したのが元。

しかし、偽神が無関係の人間に撃破されてしまった為、72体の天使装騎を正義役と悪役の2つに分けたことが発端で一部が悪魔装騎を名乗り始める。

天使役が悪魔役を倒し、人々の信仰心を集めることで純粋な力で「新世界」を作り上げるのが目的だったがそれも失敗。

その失敗によって多くの天使、悪魔装騎の適合者が死んだが、中には見限って逃亡、潜伏した者達もいた。

その1人が悪魔装騎アスモダイ――ドロテーアだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ