表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/53

第44話:甘き月-Plná Síly Plná Vůle -

「ついに決勝戦、ですね……」

「緊張してる?」

「当たり前です……」

そう、ついにこの日がやってきた。

メジナーロドニー大会ドヴォイツェ部門決勝戦。

わたし達のドヴォイツェ・スニェフルカ――そして、謎のコスプレドヴォイツェ・ムニェスイーツ。

その試合がついに――はじまる。

そう考えたら緊張しないはずがなかった。

「ま、ムニェスイーツはあのヴィーチェスラーヴァを倒したドヴォイツェ……それと戦おうってんだから緊張だってするわよね」

「はい。……あれ?」

ふとわたしの視界に1人の女性の姿が目に入った。

車椅子から必死に身を乗り出して、足元へと手を伸ばそうとしている。

「大丈夫ですか……?」

その指を伸ばす先にあるのは1枚の――

「カード?」

「ありがとうございます」

わたしの差し出したカードをその女性は大事そうに受け取り、カードの束の中に忍ばせた。

「貴女達、ドヴォイツェ・スニェフルカですね?」

「え、あ、はい」

「わたしはマティ・マチア。よろしくおねがいます。コスズメ・セッカさん、セイジョー・アマユキさん」

マチアさんの瞳がわたしの瞳に真っ直ぐと向けられる。

その瞳に何か吸い込まれそうになる。

吸い込まれる――というか、わたしの中に、入りこんでくる――よう、な。

不意にわたしとマチアさんの視線を1つの手が遮った。

「セッカちゃん達はこれから試合なんですから。邪魔しない」

「スズメ先輩?」

「スズメさん……」

「あれ? もしかしてスズメ先輩とマチアさんは――例によって?」

「カードゲーム仲間ですよ」

「ああ、さっきの」

マチアさんが拾おうとしていた1枚のカードを思い出す。

というか、スズメ先輩ってカードゲームとか……ああうん、以前カートンで買ってきたことがあった。

「セッカちゃん、アマユキちゃん。今から試合ですよね。頑張ってください!」

「そうね。行くわよセッカ。試合、始まっちゃうわ」

「はいっ」


「視ちゃダメですよ、マチアちゃん」

スズメがマチアの乗る車椅子を押しながら言った。

「けれど……彼女、何か気になるんです」

「それで……何かありました?」

「いえ、何も……」

「でしょ?」

スズメの言葉にマチアは何やら納得のいかないように考え込む。

「ですけど、分かってますよ」

「?」

「私が護らないと。セッカちゃんもアマユキちゃんも、みんなも……」

「スズメさんは、背負い込み過ぎです」

「そうかな?」

「はい」

目の前にはエレベーター。

そのボタンを押し、しばらく待つ。

「というか、スズメさんも次、試合ですよね?」

「……忘れてた」

「試合はじまりますよ!?」

「ごめんねマチアちゃん! また後で!!」

走り去るスズメの姿を見送ったマチアは静かにため息を吐いた。

「でも、確かに彼女には何かがあるんです……。それが、何なのかは、わからないけど……」

「車椅子……手伝いましょうか? 観客席に行くんですよね」

「ありがとうございます」

「イェニー、早くしなさい」

「うん」

冷たく言い放つ女性の言葉にマチアは思わずその顔を見上げる。

瞬間、背筋に走る奇妙な悪寒。

「貴女は――!」


『ついに始まりました! メジナーロドニー大会ドヴォイツェ部門決勝戦!!』

司会のイオナさんが声を張り上げる。

今まで何度も聞いていたこの開幕の合図も、これが最後になるんだ。

『決勝まで勝ち進んだドヴォイツェはこの2組!!』

観客達の熱い視線を感じる。

そう、ついに立ってしまった。

この決勝の舞台に!

「いつも通りよセッカ。それ以上は望まないし、それ以下は許さない。わかるわね?」

「はい。わたしだって今の今まで、いっぱい特訓してきたんです!」

そう、いっぱい特訓してきたんだ。

今までの特訓が頭をよぎる。

アマユキさんと一緒にプラモデルを組み立てて完成させた。

アマレロさんに何度も何度も相手をしてもらった。

スズメ先輩が合宿をしたいが為だけに無理矢理拉致されたことだってあった。

そんな出来事を乗り越えて、今、わたし達はここにいる。

『セイジョー・アマユキ選手、コスズメ・セッカ選手のドヴォイツェ・スニェフルカ!!』

「勝つわよセッカ!」

「はい!」

『そして――』

突然、わたしの視界が黒く染まった。

いや、違う。

「これは……!?」

場内がざわつく。

これは――突然、このホールの明かりが落ちたのだ。

驚いたのも束の間――スポットライトが何かを照らした。

『おおっと、アレはなんだ!? 猫か!? お菓子か!? それとも――』

「私です!」

そこに立っているのは1つの人影。

猫を模した仮面をつけ、コミックヒーローのようなコスチュームに身を包む……

「この世にはびこる邪悪なものに、放て正義のネコパンチ! ニャンダフルヒーロー参上! その名は――ヒ・ミ・ツ! 謎のズメチンX!! そして――」

今度はまた別の場所にスポットライト。

そこにはそう――お菓子をイメージしたヒラヒラなドレスに身を包む……

「魔法のキラメキお菓子のトキメキ全部あわせて召し上がれ! マジカル☆ロリポップ!」

『謎のズメチンX選手とマジカル☆ロリポップ選手のドヴォイツェ・ムニェスイーツの登場だぁ!!』

一気に盛り上がる観客達。

「掴みはばっちりってワケね……」

アマユキさんの言葉の裏に羨ましさみたいなのが見えた気がするけど触れないことにする。

『大盛り上がりの決勝戦、ステージは――ここだぁ!』

アズルホログラムが地形を形作っていく。

聳えたつ建造物。

精巧に再現された街並みに、わたしは見覚えがあった。

『みなさん直接見たことある人も多いのではないでしょうか!? ステラソフィア中央街のステージです!』

ステラソフィア駅を中心に、駅前の超巨大日時計ダーウィーズ――そしてその周囲の建物が再現されたステージが決勝の舞台だった。

「まさかステラソフィアがステージになるなんてね」

「そうですね。もし相手がヴィーチェスラーヴァなら、喜ばしいことなんですけど」

相手の正体は分からない。

けれど、スズメ先輩はあの2人を「ステラソフィアを守る正義のヒーロー」と言っていた。

「私たちには地の利がある――とも言えないってことね。少なくともあの2人もステラソフィアの関係者。となれば最悪、私達以上にステラソフィアのことを理解しているかもね」

「やっぱり……全力で、今までやってきたこを出し切って、なんとか、戦うしかないみたいですね」

「当然よ。それは相手が誰だろうと、ステージがどこだろうと変わらない」

そうだ。

変わらない。

相手があのドヴォイツェ・ヴィーチェスラーヴァを倒したドヴォイツェだろうと、その素性が全く分からなくても、戦うステージが知ってる場所でもそうじゃなくても変わらない。

「セッカ、勝ちたい?」

「勝ちたい、です」

「負けたくない?」

「負けたくないです」

「ここまでくれば優勝。そうでしょ?」

「はい。アマユキさんと、一緒に!」

「私と、一緒に……?」

アマユキさんがなぜか驚いたような表情を浮かべる。

「えっと、当たり前、ですよね……? わたしとアマユキさんは同じドヴォイツェで、スニェフルカで、2人で一緒に優勝って、えっと、当たり前、ですよね……??」

「ぶっ」

何がおかしかったのかアマユキさんが噴き出した。

「当たり前じゃない。そうよ、2人で優勝するのよ。ドヴォイツェ・スニェフルカでね!」

「えっと、は、はいっ!」

「そうよね。2人で、勝つ。そうね」

アマユキさんがそう言葉を繰り返す。

一体アマユキさんのどういう所に触れたのか、それは分からないけれど。

今わかるのは一つ。

これから――試合がはじまるということ。

『それでは、決勝戦! ドヴォイツェ・スニェフルカVSドヴォイツェ・ムニェスイーツ――――開始フラート!!』

「コスズメ・セッカ、行きます!」

わたしの記憶のステラソフィア中央街とこのフィールドを照らし合わせる。

「どうやら私達は南側からのスタートみたいね」

「試合規定通りなら、ムニェスイーツは北からのスタート、ですか……」

ステラソフィア学園都市は円形状だ。

それに施設の設置もほぼ対称なので北でも南でも大きな差はない。

この中央駅前を除いては。

「わたし達が南側ということは……中央広場に先につけるのはわたし達、ですね……」

「そうね。この学園都市内で一番主戦場になりえるのはアソコ。先に陣取れるのはメリットだと思うわ」

例の超巨大日時計ダーウィーズ。

それが設置されている中央広場は南寄りに設置されている。

ステラソフィア駅を中心にこのバトルフィールドが再現されているのなら、その位置関係は変わらないはず。

「見えました。ダーウィーズ!」

建物の並ぶ駅前商店街を抜けると、ステラソフィアの象徴、巨大な日時計がその姿を現した。

装騎のサイズを軽々と超えるソレをわたしは見上げる。

「この広場で戦うなら……これをどう使うかが、肝ですね」

「そうね。この巨大日時計……少なくともその周囲で戦う事になるものね」

その時、わたしの耳に激しい唸り声が聞こえてきた。

「アマユキさん、この音!」

「聞こえるわ。周囲に轟くブースター音――ということは大型ブースターを背負ったあの装騎!」

「マジカル☆サーチ!!」

姿を見せたのはマジカル☆ロリポップさんの装騎ナエチャン!

サタ"ナエ"ルだからナエチャン!

「マジカル見つけました!」

ルシフェル型やサマエル型の特徴である多重推進装置ポリフォニックブースターを受け継いだ機甲装騎。

ブースターを用いた加速力は装騎の中でもトップクラスだけど、だからこそ扱うのはとても難しいピーキーな騎体だ。

アマユキさんが言うには「加速が早くてピーキーなだけでそれ以外の性能はダメダメ」らしい。

「マジカル~☆スニクト!」

装騎ナエチャンが両手に持った短剣ハネムーンを振り回す。

その動きは一見デタラメ――けれど、見事に激しく噴かされたブースターの動きに呼応して、素早い、そして鋭い一撃になった。

「ヴィートル!!」

それをわたしは片手剣ヴィートルで受け止める。

「行くわよ、ローゼスソーン!!」

その隙を狙った装騎ツキユキハナの一撃。

ロゼッタハルバートの刺棘攻撃だ。

「マジカル☆ターン!」

鋭い一撃を、装騎ナエチャンは回避する。

わたしの片手剣ヴィートルと装騎ナエチャンの短剣ハネムーンの接点を軸に、ブースターを利用して激しいスパイラル状を描く。

それは、多重ブースターを惜しみなく使った急加速によって成し遂げたものだった。

恰好はどこかふざけているようにも思えるけれど、やっぱりただものじゃない強さだ。

それからも何度か攻撃を仕掛けたけれど、たった1騎でわたし達の攻撃をしのいでいる。

「1騎で……? セッカ、後ろ!」

アマユキさんが声を上げる。

何かに気付いたんだ!

「後ろ?」

わたしは咄嗟に後ろを振り返った。

そこにあるのは日時計ダーウィーズだけ。

……本当に、それだけ?

金属が擦れるような音が響く、それは段々とわたしのもとへと近づいてくる。

その音は――

「まさか!!」

わたしは視線を上へと向けた。

そこには日時計ダーウィーズの針を滑る謎のズメチンXさんのヴラスタ型装騎ズメニャンガーの姿!

右手に短剣ハネムーンを構えわたしの元に滑り向かってくる。

「ダーウィーズを滑って!?」

「いきます! P.R.I.S.M. Akt.1 疾風突破ヴィートル・フォウカー!」

瞬間、装騎ズメニャンガーが超加速。

アマユキさんのとよく似た風を起こすことで加速させるP.R.I.S.M.能力!

それもその加速力は――

「セッカ! 風花開花ブルームウィンド!!」

「間に合いませんよ!」

アマユキさんのP.R.I.S.M.よりも圧倒的に上!

「P.R.I.S.M. Akt.2 ヴェトルナー・スチェナ!!」

わたしが風の壁を作り出した瞬間――激しい衝撃が装騎スニーフを、わたしの身体を打つ。

「セッカ!」

「大丈夫です、行動に支障は、ありませんっ」

これでも急いだつもりだったけど、わたしが風の壁を作り上げるよりも早く謎のズメチンXさんの攻撃が届いていた。

だからと言って風の壁が全く無意味だったわけでもないのは、このダメージの小ささから分かるけれど。

「どうやら彼女のP.R.I.S.M.能力は、持続力が高めの風花開花と違って瞬発力、突発力重視みたいね」

「はい。恐ろしい加速、ですっ」

そして、そんな加速に耐えられる騎使、謎のズメチンXさんも。

「加速と言えば――チッ、来たわ!」

「装騎ナエチャン!」

装騎ツキユキハナがロゼッタハルバートを掲げ、装騎ナエチャンの一撃を受け止める。

軽量騎らしい機動力を生かした攻撃。

やっぱり、強い!

装騎ナエチャンは素早く装騎ツキユキハナから距離を取り、反撃をかわした。

そして素早く次の攻撃に移る。

狙いは――わたし!

「ドラクシュチート」

正面から超加速で近づいてくる装騎ナエチャンを見据える。

「バースト!」

「P.R.I.S.M. Akt.1、スライドライド!」

タイミングはわるくなかったはず。

けれど、わたしの放った霊子潮流アズルバーストはかわされた。

装騎ナエチャンが、普通では考えられないほどの勢いで、急回避をして見せたからだ。

「前進するために使ってた推進力を、無理矢理真横に向けた? なかなか扱いづらそうなP.R.I.S.M.ね」

その動きを見ていたアマユキさんが呟く。

あの装騎ナエチャンのP.R.I.S.M. Akt.1は加速のベクトルを無理矢理別方向に変える能力……。

前進に使っていたあの超加速のエネルギーを、ありえない程スムーズに横方向に向けたんだ。

「まるで手玉にとられてるって感じね」

「そう、ですね……」

装騎ズメニャンガーと装騎ナエチャンは最小限の攻撃しかしてこない。

それは堅実に戦うためか、それとも、

「舐めてるのかしらね!」

装騎ツキユキハナがロゼッタハルバートを大きく構える。

今、アマユキさん必殺の――

「ロゼッタネビュラ!」

が放たれた。

狙いは装騎ズメニャンガー。

「うおっ」

その一撃を装騎ズメニャンガーは回避。

けれどそれは陽動。

その目の前には、拳を固めた装騎ツキユキハナの姿が。

「わたしも、いきますっ! シューティングスター!」

わたしも装騎スニーフの持つ盾ドラクシュチートをバースト。

その勢いで、装騎ナエチャンを狙い流星の一撃を放つ。

装騎ツキユキハナの拳が装騎ズメニャンガーの拳とぶつかる。

装騎ズメニャンガーの短剣ハネムーンの反撃を受けないように、それを持つ手の方を狙ったんだ。

わたしの一撃も片手剣ヴィートルが装騎ナエチャンの持つ二振りの短剣ハネムーンとぶつかる。

「セッカ!」

わたしはドラクシュチートを背部にマウント。

「P.R.I.S.M. Akt.3!」

そしてそのまま、前に出る!

「スルー!?」

それは装騎ナエチャンを攻撃するためではない。

装騎ナエチャンの横を抜けて、進む先には、

「私ですか!?」

装騎ズメニャンガー。

いや、違う。

その、真ん中!

「ヴァクウム・コウレ!」

渦巻く風。

その中心で装騎ナエチャンと装騎ズメニャンガーを吸い寄せる。

「これが2人の、狙いっ!」

謎のズメチンXさんが声を上げた。

そう、これがわたし達の狙い。

わたしとアマユキさんはムニェスイーツの2騎を一箇所に集めようとしながら戦っていた。

そして2騎の距離が近づいたときにヴァクウム・コウレの引力で足止め。

「からの、ドラククシードロ!」

「ロゼッタハルバート!」

「ドラケムっ」

「ロゼッタ――」

「ブリスク!!」

装騎スニーフのドラククシードロから、装騎ツキユキハナのロゼッタハルバートからアズルの煌めきが放たれる。

これで、決める!

瞬間――空に亀裂走った。

挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「超巨大日時計ダーウィーズ」

ステラソフィア学園都市中央――ステラソフィア駅前にある巨大な日時計。

ステラソフィアの象徴ともいえるものの一つだが、そういえばドヴォイツェで触れたことなくないすか?

そもそも、今作から見て前作に当たる「機甲女学園ステラソフィア」においても触れたこと自体は数回だった気はする。

サエズリ・スズメ曰く「装騎が滑れそうな日時計」とのこと。

有事の際にはぱっかーんして中から物資輸送用投射砲マスドライヴァーが現れる。

日時計の名前ダーウィーズも、本来はマスドライヴァーの名称。

マスドライヴァーの名称はイスラムの預言者25人の名から取られており、マルクト各地に25基ある設定。

ちなみに、ステラソフィアのマスドライヴァー・ダーウィーズは25人の内の1人、ダビデ王から取られている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ