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第28話:合宿の終わり-Výbuch Zumetily-

「まさかこの人がドクトル・ジーニアス!?」

部屋の影から現れたのは、地下の小人さん達よりもさらに小さい人形のような人影。

「ジーニゃん! 何故ジーニゃんがここに!? 自力で脱出したであるか!!??」

『馬鹿者。よく見たまえ。我が姿を!』

「縮んでるのである!!」

『触ってみたまえ。我が身体を!』

「カッチカチである!」

『あとは解るな?』

「……まさかジーニゃん、極限状態の中で身体を鍛えに鍛え、筋肉で引き締まり過ぎてこんな縮んでカッチカチになったであるか!?」

『どういう理屈だ阿呆!! この私は天才ジーニアス自ら作り上げた遠隔操作型天才ロボだ!!』

「つまり……?」

『こんなこともあろうかと、凡才ども情報交換をする為にロボを作っておいたということだ!!』

「なるほど! 盆栽ロボであるな!! 盆栽は細かく手入れをしないといけないと聞くのである!!」

『クソぅ! この馬鹿者はいつもこれだ! 後輩たる凡人どもよ、君たちは理解できたかな!?』

それはきっとわたしとアマユキさんのことを指している。

「わかってるわよ。つまり、盆栽の手入れ用ロボってことでしょ」

『チッガーウ!』

アマユキさん、分かっててわざと言ってるなコレは……。

「えっとつまり、氷獄の外にいる人と連絡を取り合う為のロボットってことですよね」

『その通りだ! その解釈を忘れるな、天才に一歩近づくぞ』

「は、はぁ……」

『もっとも、私のような真の天才には何度生まれ変わってもなれないだろうがな!』

なんだこの人――

「ムカツクんだけどコイツ」

わたしの気持ちを代弁するようにアマユキさんが言った。

「それよりアナタ、脱獄を計画したって聞いたけど本当なのかしら?」

『半分は真実だ!』

「半分……なるほどね。つまり、今も脱獄を考えている……と」

『天才か君は! その通り! 我が脱獄計画はこれからが本番なのだ!』

これからが本番……!

つまり、この自称天才(ジーニアス)さんの計画が上手くいけば……。

「ふふん、思ったよりは使えそうじゃない。氷獄に捕まったのも脱獄へのステップってわけね」

『いや、それは普通にミス――いや、天才ゆえの天災によるものだ』

「感心して損した」

『だがしかし見よ! このジーニアスロボを! 氷獄の非常に限られた資材と監視の目を掻い潜りこれだけのものを作り上げた! それは天才たる私故!』

いろいろ信用していいのかわからないところはある。

けれど、ドクトル・ジーニアスさんの言う通りこんなロボットを作り上げたというのはすごいと思った。

わたし達のいる牢獄だってかなり制限があるのに、それよりも厳しいであろう氷獄でというのも。

『何、それが天才というものさ。どんな些細な物、些細な現象も見落とさず、それらを組み合わせ、時には偶然すらも味方につけ、成功へと至る! そう、ジーニアス!!!』

どちらにせよ、この人の協力が無ければ脱獄なんて不可能。

他の手がかりもない以上……

「その天才とか言うのを信用するわけじゃないけれど――いいわ、協力しましょう。アナタの脱獄計画に」

『よかろう、ならば合流だ!』

「合流、簡単に言うけど手段があるのね?」

『ああ。それでは最初の計画プランだ』

その翌日。

「囚人番号! えーっと?」

「X19A」

「じゃあX20Aで」

「そうでしたね! X19A、X20Aレクの時間です!」

そうじゃないです。

まぁ、それはともかくとしてレクリエーションの時間。

波乱だった1日目のレクが嘘だったかのように、穏やかなレクが続いていた。

けれど、そんな中でもわたし達の脱獄計画は進んでいる。

「ですけど、その、本当に……意味があるんでしょうか?」

「知らないわよ。でも他にやることもないでしょ」

アマユキさんはレクリエーションルームにある換気扇に菓子屑を注ぎながら言う。

それは今日の朝食に出てきたひのきの林。

それを砕いて細かくしたものを換気扇に入れる。

というのがドクトル・ジーニアスさんの最初の指示だった。

「これからしばらくは大人しくしとけだってさ。次の段階になったら合図があるって」

「次の段階……ですか。ちょっと、心配、ですね」

「それはね。良いわ、今は待ちましょう。ね、セッカ?」

「は、はい」

ドクトル・ジーニアスさんの言う”合図”とは思ったよりも早く訪れた。

夜――突如として警報が鳴り響いた。

「な、何事ですか!?」

「騒がしいわね――もしかして、」

「合図?」

アマユキさんがそっと鉄格子――その扉に手をかける。

すると扉はあっけなく開いた。

「扉が開いた……なんで?」

「わからないけど――行くわよ!」

「あはは、はははは、はははははー。セッカ殿ー、アマユキ殿ー、楽しいであるなー!」

「抜刀祭さん!」

「カーニヴァルである!」

「もしかして、ロボも?」

『当然だ! 合図に気付いたようだな!』

「この警報も、牢の鍵もアナタがやったのかしら?」

『3分の1くらいはそうだな! 発案者は私、きっかけを作ったのは君達、実行者は――』

ジーニアスロボさんは廊下の端を走るネズミを一瞥する。

「ネズ、ミ……?」

『賢いな君は! そうだ! 君達が換気扇にバラ撒いた菓子屑。それを狙ってネズミがたかる。ネズミの丈夫な歯は菓子だけではなくその周囲にあるものも齧りとる』

「ネズミを利用して配線を切ったのね」

『ここのロックが電子式でよかったよ。あとは私が天才だった故だな。ただ配線を切ればいいというものではないのだから!』

そんなところまで計算ずくで……。

「あ、でも、警報は鳴らさない方がよかったんじゃ……」

『ネズミの動きを完全に把握するのは難しい。数がいればいるほど、例外的な個体も存在するということだ』

「なんでいっつも変なところで詰めが甘いのよ!」

『天才に天災はつきものだ!』

「うっさい!」

「愉快な仲間もゾクゾクくるである!」

「仲間?」

聞こえてくる大量の足音。

「警備員? ……ううん、違うわね」

それはきっと、牢から出られることに気付いた囚人さん達。

「まさかコレは、アンタらの仕業かい?」

「ウラガンさん!」

荒くれ者ウラガンさん。

「なるほどであります! 噂の知能犯でありますか!」

人喰い鮫アオさん。

「ロックっすね!」

喧噪のジャガさん。

ここにきてからよくしてくれてる囚人さん達が集まった。

『ほう、君は荒くれ者ウラガンだな。なんでも囚人たちのカリスマだとか』

「んん? そのチビは……?」

『天才だ!』

「ドクトル・ジーニアスさんの作った情報交換用のロボットです」

「ロボット! そりゃいい。そのロボットを使って脱獄を?」

『協力してくれるかな? ウラガンくん』

「ま、ある程度はね。何する?」

『君は囚人たちに声をかけて、騒ぎを大きくしてほしい』

「つまり暴れろってことかね? いいねぇ、荒くれ者の名を貰った甲斐があるよ!」

『我々は地下に行くぞ』

「氷獄ですか?」

『ああ。少しばかり鎖に繋がれてしまっていてな』

「天才ならなんとかしなさいよ」

『天才は力仕事はできないのだ』

「だから頭で何とか――――って看守よ!」

「ズーメさん?」

「いいえ、違うわ」

姿を見せた看守はズーメさんと同じような制服を着ている。

けれど、髪の色は黒い長髪。

拳を突き合わせどこか勝気な態度だ。

「まさかこんなことになるなんて。ちょっとアンタたち、しっかりしなさい!」

口調もぞんざいで明らかに看守ズーメとは別の人。

もしかしたら、こういう有事の時に対処する為の看守なのかもしれない。

「だからやめなさいって! こんなのアタシ聞いてないんだけど!!」

イマイチ状況が掴めてないようだが、この状況を止める為躊躇なく攻撃してくるだろう。

それだけはわかった。

『仕方ないな。あの看守を突破するぞ!』

「言われなくても」

牢の壁から鉄パイプをもぎ取ると、アマユキさんが構える。

「待ちな」

それを荒くれ者ウラガンさんが制した。

「ここはアタシらがやる。アンタらは他にやることがあるんさね?」

荒くれ者ウラガンさんに続いて、人喰い鮫アオさん、喧噪のジャガさんが前に出る。

「正気なの!?」

『ふっ、ノリが良すぎるというのも考え物だな看守よ』

「どんなノリよ! ったく、このアタシの手を煩わせちゃって!!」

「さぁ、行くよ野郎ども! セッカ、アマユキ、しっかり仕事を終えてくるさね!!」

「は、はいっ」

「いくわよ、セッカ!」

『ナキエモンくんも来たまえ』

「もちろんである!」

行く先は地下の氷獄ズメートス。

ジーニアスロボの案内に従って、階段を駆け下りる。

「思ったんだけど」

ふとアマユキさんが口を開いた。

「地下に行くのってドクトル・ジーニアスを助けに行く為でしょ? ……その手間、必要なくない?」

『何を言うのだ!!!???』

「これだけの騒ぎが起きたならここから出るのは簡単だし、助けるのって手間になるだけじゃない」

「そ、それはさすがにあんまりでは……ジーニアスさんのお陰で逃げられるんですから……」

『そうだぞ! 天才たる我の助力あってこそだぞ!』

「じゃあ、ナキエモンが助けに行けばいいじゃい。私たちは勝手に出るわ」

『まぁ待て! 何も私を助ける為だけに地下に来てほしいわけじゃないのだ!』

「本当?」

『そうだ! 確かに今、ここは混乱している! しかしだ、となれば出入口や周囲を固めるのは必然だろう!』

「それはそうね」

『そこを突破することは不可能ではないかもしれない――だが、より確実にその包囲を突破する方法があるとするなら?』

「信じていいのかしら?」

『私は天才だ!』

「信用ならないわね……」

確かに信用できないと言えば信用できない。

けれど、信用するしかないと言えば信用するしかない。

『安心したまえ、私のいる氷獄は目的地への通り道だ』

「目的地って……?」

『このズメチーユ監獄の中枢――――ここの全てを司る機関室だ!』

「斬るのである!」

「ふ、助かったぞ!」

氷獄のとある一室。

わたし達はドクトル・ジーニアスさんを助け出し、そして目的の中枢へと向かう。

まるで巨大なタワーのようなものが聳えているようにも見える要塞監獄ズメチーユの中枢。

「やっとゴール、ですかね」

「まさか。脱出するまでがゴールよ」

「その通り。そして、我が計算が正しければ……」

「何してるんですかー!!!!????」

突如、聞き覚えのある叫び声。

姿を見せたのは、このズメチーユの看守服に身を包んだ女性。

とてもよく見知ったその姿は――

「看守、ズーメ!」

「まさかこんな騒ぎになるなんて! っていうかアナタの仕業ですかジーニアス!」

「ふっ、ごっこ遊びの幕引きにはふさわしいパーティーだろう?」

「やり過ぎです! っていうかそもそも何でこんな」

「囚人たちにも不満があふれてきていてな。頃合いだと思ったのだ! 我が天才的頭脳が! それに、刺激は多い方がいい」

「だぁもう、仕方ありません! 力づくで――止めて見せます!」

「行くである!」

「さてと、ナキエモンが彼女を止めてる間に総仕上げだ」

「仕上げ?」

「このボタンを押してみたまえ」

そういうと、ドクトル・ジーニアスさんがボタンをわたし達に差し出した。

「このボタンは?」

「押せばいい。それですべてが終わる!」

「ほ、本当、ですか……?」

わたしは手に持ったボタンをどうすればいいのか分からない。

いや、押せばいいんだろうけど……。

「ったく、仕方ないわ。ここまで来たんだもの。最後の一押し、行くわよ!」

「は、はいっ」

アマユキさんがわたしの手に手を重ねる。

「「せーのっ」」

瞬間、要塞監獄ズメチーユが爆発した。

「し、死ぬかとおもった……」

周囲に散らばる瓦礫の山。

あちらこちらには看守や囚人たちの伸びた姿がある。

そんな中で、ドクトル・ジーニアスが一人立っていた。

「よ、よく無事でしたね……」

「爆発には慣れてる」

「ざけんじゃないわよ」

アマユキさんが叫ぶ。

どうやら無事みたいでわたしはこんな状況なのに安堵してしまった。

「それよりも――」

アマユキさんは、倒れた一つの人影にそっと近づく。

「看守ズーメ……ううん、サエズリ・スズメ!」

「えっ!?」

アマユキさんの言葉にわたしも人影へと近づいた。

爆発の所為だろう、帽子と眼帯が吹き飛び露わになった看守ズーメさんの姿。

それは紛うことなくサエズリ・スズメ先輩、その人だった。

「なんてことになってるんですかー!!!!」

「それはコッチのセリフよ! 何、何なのコレ!? もしかして全部アナタの差し金ってワケ?」

「ふっ、監獄実験って知ってるかな?」

ドクトル・ジーニアスが言った。

「とある研究で看守役と囚人役に学生を振り分け、役割を演じ(ロールプレイ)させた。その結果、看守役はより看守らしい、囚人役はより囚人らしい行動をとるようになったとか言うが――まぁ、そういうことだろうな」

「それで暴動ですかー!?」

「ステラソフィア生は血気が盛んだからな。天才たる私はクールだが」

「主犯はアナタじゃないですかー!!!」

「えっと、ちょっと待ってください。えっと、と、言うことはあの――この監獄、今までの生活、つまりはコレが……合宿、ってことですか?」

「そのつもりでした……」

「バカなの?」

スズメ先輩に対してアマユキさんの容赦ない罵倒。

それにスズメ先輩はガックリとうなだれる。

「でも、でもですよ! ほら、この合宿を通じて強くなった気がしませんか!?」

「えっと、特に自覚は……何も」

「いろんなことがありましたよね!? すっごい協力して戦ったじゃないですかー!」

「私も効果があるとは思えないんだけど……」

「ウララ先輩とか卒業生も協力してくれたんですよー!?」

「ちなみに天才たる私も卒業生だ!」

「聞いてないわよ」

まさかこの監獄での生活が合宿で、更には看守役も囚人役もステラソフィアの先輩たちだったなんて。

今思い返せば、確かにどこかで見たような姿、聞いたような声だった気はする。

人喰い鮫アオさんや喧噪のジャガさん。

邪竜チョコニールの声だってそうだ。

「さて、それでこの騒動のオチ、どうつけてもらいましょうかね。サエズリ・スズメ先輩?」

「えっと、じゃあ、その、ひのきの林でお手打ち願えませんでしょうか……?」

今までが茶番だと知り目に見えて腹を立てるアマユキさん。

その迫力にスズメ先輩の表情は強張り、目が泳ぐ。

「散々食べさせといて更にひのきの林を食べさせる気なのかしら!?」

「ひのきの林は完全栄養食ですよ!?」

「嘘つきなさい! っていうか単純に飽きるのよ!」

「ひのきの林は飽きません!」

「飽きた!」

「もう、ケンカはやめてくださいよ!」

「それじゃあセッカ、何か条件出しなさい!」

「わかりました。セッカちゃんの望みなら聞いてあげましょう! さあ!」

いつものパターンだけど、やっぱりこっちに話を振られたらビックリする。

というか、わたしにどうしろと……。

「何でもいいわよ。サエズリ・スズメに要求したいことなら何でもしなさい」

「仕方ないです、かわいい後輩の為ですからね!」

何でも、と言われても困るんだけれど……。

とりあえず、スズメ先輩に何かお願い事をすればいいということだから。

「そ、それじゃあ……」

その日から当分、スズメ先輩は禁ひのきの林となった。


挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「ズメチーユ合宿のキャスト紹介」

看守ズーメ:機甲科4年チーム・ブローウィング。サエズリ・スズメ

「ひのきの林の何が不満なんですかー!!」

人喰い鮫アオ:機甲科3年チーム・ブローウィング。オオルリ・アオノ

「結局、人喰い鮫って二つ名な理由が分からなかったであります……」

荒くれ者ウラガン:進学科卒業生。ハイアフィールド・ウララ

「いいねぇ、楽しい合宿だったよ! いっぱい暴れられたしねぇ」

小人たち:フィルルス族、ツプレス族のみなさん

「ヒノキ! ヒノキ!」「ヒイラギ! ヒイラギ!」

邪竜チョコニール:機甲科3年チーム・アマリリス。アラーニャ・イ・ルイス・アナマリア(声)

「これぞアナのアズルホログラム技術さ!!」

喧噪のジャガ:機甲科2年チーム・シーサイドランデブー。アストリフィア・メイ

「ロックな幕引きだったっすね! ロック? So,ロックンロール!」

抜刀祭ナキエモン:機甲科4年チーム・ミコマジック。チャタン・ナキリ

「抜刀(まつり)! 愉快である!!」

ドクトル・ジーニアス:機甲科卒業生。Dr.(ドクター)ジーニアス(本名不詳)

「天才たる私の協力があったんだ。完璧に成功だろう!」

黒髪の看守:機甲科2年生チーム・ブローウィング。サエズリ・ツバメ

「ったく、スズ姉の頼みだから聞いてあげたってのになんなのよ!」


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