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第27話:共同作業という醍醐味-Plán útěku ze Zumetily-

「やった。レジェンダリー、ゲットしました」

「それじゃあ、さっさとここを離れるわよ」

来た道を引き返そうとするわたし達。

けれど、荒くれ者ウラガンさんは何かを一心に見つめていている。

「ウラガンさん?」

「せっかくこんなトコまで来たんだ。頂けるお宝は頂いておいた方がいいんじゃないかねぇ?」

そう、荒くれ者ウラガンさんが見つめているのはもう1つの箱。

レジェンダリーひいらぎの村の箱だった。

「まさか、あれも持っていこうと……?」

けれどレジェンダリーひいらぎの村は、ひのきの林よりも更に邪竜チョコニールの懐近くにある。

それだけ危険を冒して奥まで踏み込まないといけない場所だ。

「ふふん、女は冒険してナンボさ! まぁ見てなって」

「ええ……大丈夫、なんですか?」

「大丈夫な気がしないわね。セッカ、さっさとここを出るわよ!」

「えっ、あっ、アマユキさん!」

危険を察知したアマユキさんがわたしの手を引っ張る。

わたしも嫌な予感がビンビンだけど、荒くれ者ウラガンさんを放ってはおけない。

「いいのよ。ああいうのは殺したって死なないタイプなんだから! それよりも我が身よ我が身」

それは確かに。

荒くれ者ウラガンさんの無事を祈りながらも背を向けたその瞬間。

わたしの背後で、

「あっ」

と間抜けな声が聞こえて来た。

『はっ、寝てたっ! だっ、誰さぁ! 我が神域に足を踏み入れるのはぁ』

洞窟内に響き渡る、震えるような声。

今まで頭を地につけ眠りについていた邪竜チョコニールがゆっくりとその頭を掲げた。

その巨体にわたし達の目が釘付けになる。

漆黒の闇に包まれたような身体。

鋭い瞳や牙の並ぶ口、そして身体の隅々から蒼白い光が漏れ出している。

それはきっとアズルの輝き。

生物でありながらアズルの生成炉を獲得した伝説の存在。

それが邪竜チョコニール!

「バカなこと言ってないで逃げるわよ!」

「あ、はい! ウラガンさんも!!」

「とーぜんさね!」

『まぁつさぁ!』

地面を激しい衝撃が揺らす。

邪竜チョコニールはその全身を洞窟中に擦り付けながらわたし達目指して這いずった。

幸いにも相手の動きは鈍い。

「この調子なら振り切れる……?」

「振り切れはするかもしれないけど……」

「もしかしたら、ヤツはこのままひいらぎの村を襲う可能性があるねぇ」

「えっ、そんな……」

でも確かに荒くれ者ウラガンさんのいう通りだ。

邪竜チョコニールはどう見ても怒っている。

わたし達の持つ2つのレジェンダリーを返さなくては――ううん、返しても怒りを鎮めない可能性だってあった。

「なら何? ここでアイツを倒すとでもいうのかしら?」

アマユキさんの声には”そんなの無理だ”というニュアンスが含まれているのはすぐにわかる。

わたし自身も、それは無理だと思った。

「けれど、諦めなければ勝機はあるってもんさ」

「勝機ってのがそう簡単につかめるなら苦労しないけどね!」

「どんだけ諦めなくたって無理な時は無理。そう言いたいんだろうけど――なぁに、この程度の脅威、対策ならとっくの昔に考えていたよ!」

「ウラガンさん……?」

「いいかいアンタら。違和感を覚えた事、そして疑問に思ったことはしっかり頭に留めておくんだよ。それが逆転の一手になるかもしれないんだからね!」

「ウラガンさん、それは、どういう……」

「それは、こういうコトさァ!!」

不意に荒くれ者ウラガンさんがわたしの手から松明を奪い取る。

そしてそれを洞窟の壁へと投げつけた。

「ウラガンさん!?」

一瞬戸惑うわたしだったけど、荒くれ者ウラガンさんの目論見はすぐにわかる。

『まつさぁ! ……う、これは!?』

邪竜チョコニールの頭に茶色い液体が滴り落ちる。

それは溶け落ちたチョコレートの滴。

「まさか……!」

「いいから走りな! 巻き込まれるよ!!」

この後どうなるかを想像するのは簡単だと。

荒くれ者ウラガンさんが松明を投げ入れた壁――その融解を契機に、耐えられなくなった洞窟が崩壊する。

『ウワァァァァアアア、キサマらーアナのー!!』

「アナ?」

奇妙な断末魔を残し、邪竜チョコニールはチョコの中に消えたのだった。

「ご苦労様でした囚人番号18番、19番。それとRX78番」

「15番なんだけど」

「16です……」

「X56Sさね」

「あれ、そうでしたっけ?」

荒くれ者ウラガンさんの番号は違う数字だったような気もするけれど看守ズーメさんは気づいていない。

それはきっと、わたし達の持ってきたレジェンダリーひのきの林に夢中だったからというのもあるかもしれないけれど。

「いやぁ、よくやりましたね。褒美をあげましょうか囚人ども」

「ご褒美が、あるんですか……」

「いかに囚人と言えど、尊重するところは尊重しなくてはいけませんからね。さて、今日のレクリエーションは終了です!」

看守ズーメさんの呼びかけに、広場に集まった囚人さん達が続々と片付けをしはじめる。

「次は昼食の時間です。あっと驚く豪華な食事をあげましょう。それが褒美ですよ」

「豪華な食事……」

「って言ってもどうせ囚人の食べ物でしょ。多少豪華になったところでどんなのが出てくるんだか……」

アマユキさんの懸念もよくわかる。

それは何より、この監獄に慣れた囚人さん達の表情を見ると察することができた。

「うぅ……また、また食事の時間でありますか……」

人喰い鮫のアオさんも名前の通り表情が真っ青。

「あ、あの、もしかしてここのご飯ってそんなに、その、不味いんですか?」

思わず聞いてしまった問いかけに、人喰い鮫アオさんは吐き気を我慢するように、口元を手で覆った。

「あ、アオさん!?」

「うっ、いや、不味くは……無いでありますよ。ねぇ?」

「うっ」

そう話を振られたもう1人の囚人さんも、口元に手を当てる。

「そ、そうっすね。美味いっすよ。甘くて……甘くて? うぅ、甘くて……」

「ロック的凶悪犯、喧騒のジャガすらロックでいられなくなるでありますよぉ……」

「甘い……?」

「まさかね……」

「囚人番号18番、19番! お前達には特別な昼食を用意しましたよ!」

そう言いながら看守ズーメさんがわたし達の持つ皿に乗せたのは――お菓子の袋だった。

その商品名は言うまでもなく、

「ひのきの林……」

周囲を見回すと、わたし達と同じようにひのきの林の袋がお皿の上に置かれている。

特別な昼食ということで看守ズーメさんの好きなひのきの林なのかと思ったけれどそうではないらしい。

「セッカ、よく見なさい。私達のひのきの林のパッケージを」

わたしの疑問を察したアマユキさんがそうわたしに耳打ちした。

わたしはもう一度、自分のお皿に乗るひのきの林のパッケージに目を向ける。

「これは……プレミアムリッチ!!」

そう。

それは通常のひのきの林よりも100ムニェほど値段の高いひのきの林プレミアムリッチだったのだ!

ほかの囚人さん達は普通のひのきの林。

これがわたし達へのご褒美!

「けれど、まさかご飯がひのきの林とはね。薄々勘付いてたとはいえ」

「はい……あの、もしかして、コレって夕食もひのきの林だったりは……」

わたしの言葉に周囲の空気が重くなったような気がした。

ううん、空気が重くなったのは事実だ。

人喰い鮫のアオさんをはじめ、荒くれ者ウラガンさんも喧騒のジャガさんもその表情を暗くしている。

「まさか……本当に?」

「その通りでありますよ! うぅ、来る日も来る日もひのきひのきひのき! 頭がおかしくなりそうでありますよ!」

「堪えろアオ。看守に聞かれたら懲罰房――それどころか氷獄送りさね」

「氷獄……?」

「噂に聞く最奥監獄ズメートスっすね。ロックっすよ。水割り? No,ロック!」

「そんなところがあるのね」

「そうであります。確かそこには天才的な頭脳を持つ凶悪な知能犯が捕まっているとか……」

「確か、脱獄を計画したんだっけかねぇ。それを察知されて看守にぶちこまれたようだけどさ」

「脱獄、ね」

その時、アマユキさんの口許が悪い笑みを浮かべたのをわたしは見逃さなかった。

もしかして、アマユキさん……。

「いい話を聞いたわね、セッカ」

うぅ、やっぱりだ。

この人、その知能犯と接触して脱獄するつもりだとすぐにわかった。

「情報を集めるわよ。氷獄のね」

それから氷獄に幽閉されているという知能犯。

そしてその脱獄に加担しようとしていた囚人さん達の情報収集がはじまった。

レクリエーションの時間や、その他のちょっとした移動の時間を使って監獄の様子を探っていく。

そんな中で他の囚人さん達と接触し、やがてわたし達はある1人の囚人さんに辿り着いた。

「天才的な剣の使い手。その名も人呼んで抜刀祭とはアナタのことね」

「カーニヴァルである!」

「カーニヴァル……? お名前ですか?」

「名前ではないのである! わたくしの名はナキ――」

「ナキ?」

「ナキ、ナキィ――ナキィエモン……ナキエモンである!」

「何よ、今のよく分からないアレ」

「気にすることは無いである!」

とりあえず、この人は抜刀祭ナキエモンという名前らしい。

「コイツが凶悪的知能犯の知り合い?」

「おお、まさかお主らは天災的天才ドクトル・ジーニアスにあいたいのであるか!?」

「ドクトル・ジーニアス!!」

それが凶悪的知能犯――氷獄ズメートスに監禁される囚人の名前!

「なんか信用ならないわね。ていうか、そんな知能犯とアンタがつるむヴィジョンが見えない」

「何を言うであるか! わたくしとジーニゃんは仲良しであるよ! ジーニゃんの実験をいつも手伝っていたのであるよ!」

「実験を……ですか?」

「である! 以前ジーニゃんが作ったゾンビウイルスなどそれまた愉快な代物であってな。まさかゾンビになれるなんてあー、おーもしろいおもしろい」

「協力っていうか実験台にされてるだけなんじゃ……」

いろんな疑念は尽きないものの、この人が天災的天才ドクトル・ジーニアスへの唯一の手がかり。

「ふむふむ、大体わかったのである! つまり主らは脱獄したいというわけであるな!」

「こんなところ、いつまでもいられないもの。それに地上に出さえすればあんな看守イチコロよ」

「あの、アマユキさん……さすがに暴力は……」

「暴力? ふんっ、私にそんなものは必要ないわ。この私の権力があれば!!」

「うわぁお……」

「面白いであるな! ならば早速、ドクトル・ジーニアスと接触するのである!」

「ちょっと、結構簡単に言ってくれるけど……」

そうだ。

聞いた話によると氷獄ズメートスはこのズメチーユ監獄の最奥。

それだけ強固な守りと厳重な警備によって守られているだろう。

『何、問題はないさ』

その時、声が聞こえた。

『何故なら私は天才だからね!!』


挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「ステラソフィア・オブ・ザ・デッド事件」

TIPSに書くネタがないのでコレで。

去年、ステラソフィア女学園機甲科で起こったゾンビ事件の通称。

とある女子学生の作り出した「天才になる薬」によって機甲科生の多くが「天才ゾンビ」となった出来事。

正確にはゾンビではないが、その性質から分かりやすいようにゾンビと名付けられる。

事態は元凶である女子学生の製造したワクチンによって収集を迎えたが、機甲科一帯が封鎖される事件となった。


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