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第26話:楽しいレクリエーション-Peklo Zumetily-

「出なさい。レクの時間です」

「レク……?」

看守ズーメさんに案内され、通されたのは開けた一室。

そこにはわたし達と同じように囚人服を身に着けた人々がたくさん集まっていた。

「うわぁ……」

囚人さん達の視線がわたしとアマユキさんに注がれる。

「もしかして新人りでありますかァ?」

背筋を堅くするわたし達に1人の囚人さんが近づいてきた。

髪を無造作に崩し、左頬の十字傷が特徴的な女性。

「わたしは人喰い鮫のアオ……。新入り共、よろしくでありますよ!」

人喰い鮫のアオさんはそう言いながら右手を差し出した。

「生憎、私は囚人なんかと握手するつもりはないわ」

「君達だってもう囚人――わたし達と同じでありますよ」

「私はここにいることに納得していない。アナタ達と一緒にされるなんてまっぴらゴメンよ」

「ハハハッ、これはまた愉快なハリキリガールが来たでありますねェ」

アマユキさんの態度に人喰い鮫のアオさんはむしろ楽しそう。

「だけど、姉御にそんな口をきくのはやめた方がいいでありますよ。どんな目に合うかわかったもんじゃあねぇであります」

「姉御……?」

その時、囚人たちの視線がわたし達――その更に背後へと向けられた。

周囲を包み込む緊張感。

「やぁやぁ諸君、集まってるじゃあないか!」

ハスキーな声と共にどこかカッコよさを感じさせる女囚が姿を現した。

鋭い目つきに勝気な笑み――そして、顔には大きな傷…………ううん、違う。

「こ、この人、顔にゴムバンドを巻いてます……」

「しっ」

奇妙な性癖(?)は置いといて、その迫力は本物。

タダ者ではないことは確かみたいだった。

「荒くれ者ウラガン。懲役2000年の大悪党でありますよ」

人喰い鮫のアオさんがわたし達に小声で教えてくれる。

「懲役2000年……一体、どんな罪を……」

「なんでも、あの看守の前で堂々とひいらぎの村の方が美味しいと豪語したとか……」

「あ、ああ……」

「とにかく、この人には逆らわない方が身の為だぜであります」

「おっ、見ない顔だねぇ。新入りかい?」

ギロリと荒くれ者ウラガンさんの瞳がわたし達に向いた。

蛇のような視線にわたしの背筋が凍る。

「コ、コスズメ・セッカです」

「アマユキ」

警戒しながらもアマユキさんも名乗る。

きっとアマユキさんも彼女から発せられる不思議な力を感じたのかもしれない。

「ふふん。素直にするのが身のためだってわかってるじゃあないか。じゃなけりゃすぐに病院送りさ。もっとも……」

不意にわたしの視界をアマユキさんの背中が遮った。

周囲に響く身体がぶつかり合ったような音。

「油断すれば、すぐに病院送りだけどねぇ」

「ふん」

拳を突き出す荒くれ者ウラガンさんと、その拳を受け止めるアマユキさん。

「なかなかやるじゃあないか。ここは一つ、お手合わせ願おうかねェ?」

「チッ、どうせ逃すつもりはないんでしょう?」

「その通りッ!」

荒くれ者ウラガンさんの右脚が空高く掲げられる。

大振りな蹴り、その隙を狙いアマユキさんは右手の平を相手に向け、その腕を突き出した。

「うららァ!」

アマユキさんの掌底打ちを荒くれ者ウラガンさんは左脚を振り上げ、搦めとるように動かす。

それを察したアマユキさんは右腕を素早く引っ込めると、相手に背を向けるように半回転。

その流れで肘を荒くれ者ウラガンさんに打ち付けた。

荒くれ者ウラガンさんも肘打ちを簡単に受けはしない。

ちゃっかりと左腕でアマユキさんの肘打ちを防いでいる。

「やるじゃあないか!」

「ふん、そっちこそ」

正面から睨み合う2人。

熱い戦いに囚人たちのボルテージも上がっていく。

「行くわ!」

「やぁってやろうじゃないかぁ!」

そして、再び互いの拳が交わろうとしたその瞬間。

「なにヤンチャしてるんですかぁー!!」

看守ズーメさんの声が響いた。

「ちょっとぉ、そういうのは困るんですけどぉ! ていうか盛り上がり過ぎ!」

「邪魔が入ったねェ」

「ふん、そうみたいね」

2人とも大人しく拳を引っ込めるけれど、どこか不完全燃焼のような感じがする。

「何カッコつけてるんですかー! もう怒りました!」

それを看守ズーメさんも感じたのか、

「そんなに力が有り余っているのなら、懲罰房でも行って発散させて来るんですね!」

そう言った。

それは要塞監獄ズメチーユの遥か地下に存在した。

「ここが……懲罰房?」

不穏な響きの反面、そこはどこか幻想的とも言えるような、奇妙でファンシーな光景が広がっていた。

草原が広がり木々が生え、茶色い川が流れている。

そんな御伽噺の世界の中で、どこかで見たことあるような小人さん達が一生懸命働いていた。

「甘い匂い……」

鼻を突くのはチョコレートの香り。

ってあれ?

いや、これってどう考えても某チョコレ――

「ちょっと、どういうことよ」

アマユキさんの怒りの声がわたしの思考を遮る。

「問題を起こしたのは私だけでしょ? なんでセッカまで……っ!」

「だって都合がい…………連帯責任(システム)でーす!」

「ふざけないでッ」

どうやらわたしも一緒に連れてこられたことに対して、看守ズーメさんに抗議をしているようだった。

声を上げるアマユキさんの腕を、荒くれ者ウラガンさんがそっと抑える。

それは無言の制止。

きっと、ここでは看守ズーメさんが絶対。

逆らうときっと、あの小人さんたちみたいに……。

「いえ、あれはウチのスタッフです」

スタッフだった……。

「完全週休二日制の5時間労働ですよ?」

割とホワイトだった……。

あれ?

だとすればわたし達が受ける"懲罰"とは?

「ふっ、従順な工場戦士たちにもできない仕事があるんです」

「小人さんたちにできないこと……?」

「そうです。このひのきの林工場――ここで作っているのはいわゆる普通のひのきの林です」

「なんで監獄にひのきの林工場があるのよ」

「ですけど、この更に奥――チョコレートの洞窟の中にはアレがあるんです!」

「あれ、ですか……?」

「それは伝説のひのきの林! 言うなればレジェンダリー・ひのきの林が!!」

「話は読めたわ。つまりはそのレジェンダリーとかいうのを待ってくればいいわけでしょう?」

「そうです。けれど、一筋縄ではいきませんよ」

看守ズーメさんは怪しげな笑みを浮かべ、なにやら雰囲気を出そうとする。

「レジェンダリー・ひのきの林を手に入れるためには、まずは敵対勢力のひいらぎの村を突破する必要があります」

ひのきの林と言ったらお約束、ひいらぎの村……。

敵対勢力というからには、なんらかの妨害があるのかもしれない。

「そして肝心のチョコレートの洞窟! そこには秘宝を守る竜チョコニールが棲んでいるんです!」

「名前雑ぅ!」

「だまらっしゃい! いいですか、囚人番号11番!」

「11番って誰よ」

「あれ、14くらいだっけ?」

「私が15番でセッカが16番でしょ!?」

「へぇ、囚人としての自覚が出てきたみたいですね!」

「……チッ、別にそういうワケじゃないわよ! 私はまだ納得なんか――」

「口答えするな! 囚人番号大体15、6番たち!」

「大体……」

「あと……あれ、ウラさん番号なんだっけ?」

「確かX42Sだっけねぇ」

「そんな運命的な数字でしたっけ? まぁ、いいです」

あまりにもテキトーな看守ズーメさん。

けれど、つっこんではいけないのだろう……。

「それではレジェンダリー・ひのきの林を手に入れて来るのです!」

割とぐだぐだな中、わたし達はチョコレートの洞窟――その奥にあるレジェンダリー・ひのきの林を手に入れる旅が始まった。

「ヒノキ! ヒノキ!」

小人さんたちが漕ぐボートに乗り、チョコの川を行く。

やがて、周囲の木々が深く、濃くなっていった。

「キケン、この先ひいらぎの村……」

そう書かれた立て看板がわたし達の背に流れて行く。

やがて見えてきた一つの岸辺。

「ヒノキ、ココマデ! アトハマカセル! グッドラック!」

「ありがとうございます」

地面を踏みしめ、わたし達は周囲を見回す。

「道は一本だねぇ。そのまま真っ直ぐ進むしかなさそうだよ」

荒くれ者ウラガンさんの言う通り、進めそうなのは真正面にある獣道のみ。

「リスキーね」

「それはどこを進んだってそうさ」

荒くれ者ウラガンさんの言うことは尤もだ。

どうせリスクがあるのなら、結局は進みやすいこの道を行くしかなかった。

「この道はひいらぎ勢力が普段使いしている道だろうしねぇ。ひいらぎの村を見つけるには、結局ここを通るしかないだろうしね」

「そうね。アナタ、なかなかに冷静じゃない」

「ふふん。荒くれ者なんて呼ばれているが、コレでもワル達のリーダーだからねェ」

「頼りに、なりますね」

「そうね」

そう頷くアマユキさんは、どことなく不機嫌のようにも感じた。

それがどうしてかは分からないけれど……。

「セッカ、危ない!」

不意にアマユキさんが声を上げる。

わたしの目の前に木の枝が振り下ろされた。

それはアマユキさんの一撃。

「これは……」

アマユキさんの一撃は、なにかを叩き落としていた。

細長く、羽が付いたコレは――

「矢、ですか……?」

「そうみたいね」

矢の先には(やじり)の代わりに餅のようなものが付けられている。

当たっても大事はないだろうけれど……いや、それよりも、どこからこの矢が?

「いるわ。気配を感じる」

アマユキさんの言葉にわたしもそっと周囲に気を張ってみた。

確かに感じる。

草木が不自然に揺れる音。

何者かがわたし達の周りを移動し、狙いをつけている。

「ひいらぎの村の住人かねぇ」

荒くれ者ウラガンさんは笑みを浮かべると両拳を握りしめた。

わたしも木の枝を一本拾うと正面に構える。

「来た!」

「ヒイラギ!」

矢と同じように餅のついた槍を構えた小人さんが草むらの中から飛び出して来た。

それを木の枝であしらう。

「下手に相手をする必要はないわ。隙を見て一気にここから離れるわよ」

「その通りさね! 一点突破で一気に抜けるよ!」

ある程度、ひいらぎ小人さんの攻撃を凌いだ所で、

「3、2、1……GO!」

荒くれ者ウラガンさんの号令でわたし達は一気にその場を走り抜ける。

正面から襲いかかってくるひいらぎ小人さんはアマユキさんと荒くれ者ウラガンさんが押さえ込む。

しばらく走ると、ひいらぎ小人さん達の気配はなくなった。

「セッカ」

「アマユキさん?」

「頼りになるでしょ?」

「……? はい!」

しばらく進むと、木造の家屋のようなものが見えてくる。

大きさはわたし達の程度。

つまり、小人さん達にとっては丁度いいくらいの大きさの家だ。

「もしかして、ここが……」

「ひいらぎの村ね」

「クセモノ! クセモノ!」

「ヒノキ! ヒノキハテキ!」

さっそくひいらぎ小人さん達からの手厚い歓迎をうける。

餅のついた槍を構えて、たくさんのひいらぎ小人さん達がわたし達を取り囲んだ。

「ちょっと待ってください! ちょっと、話を……!」

「キサマラ、ナカマ、タタカッタ! テキ! テキ!」

「それはソッチが先に突っかかって来たからでしょう! 私たちはレジェンダリー・ひのきさえ手に入れられればいいのに……っ」

「レジェンダリー!?」

アマユキさんのつぶやきを聞いていたひいらぎ小人さんが驚きの声を上げた。

「ヌシら、レジェンダリーをテにイレンとスルカ……?」

少し年老いたような声が聞こえてくる。

それはわたし達を取り囲むひいらぎ小人さん達の更に後ろから聞こえてきた。

「チョーロー!」

「クミチョー!」

「ナベブギョー!」

「ソンチョー、ジャ」

姿を見せたのはこのひいらぎの村の村長さん。

「ヌシら、レジェンダリーをテニスルとナレバ、邪竜チョコニールをタオスツモリカ!?」

「まぁ、そうなる――のかしら?」

「当然そーなるねェ」

「で、ですよね……」

邪竜とまで言われる竜チョコニール……一体どんな怪物なのか想像もしたくないけれど、やっぱり避けては倒れそうにもない。

「ナルホドウ。チョコニールを……」

村長さんは何かを考え込むように、顎に手を当てる。

「マサカ、ガクブチョーマサカ!」

「ソンチョージャ。ワカッタ! ヌシら、チョコニールタオス! ナラバ、ワレラがアンナイシヨウ」

「案内……!」

「チョコレートのドークツへ!」

村長さんに案内されてたどり着いたチョコレートの洞窟。

そこはある意味では想像通りのTHE洞窟といった感じだった。

「村長さん、ありがとうございます。わざわざ案内してもらって……」

「カマワン。ワレラもチョコニールニはコマッテイル……タイジシテクレルとナレバ、ワレラにモリアリ」

「ま、最悪私たちが倒せなくても損はないものね」

「アマユキさん、そんな言い方はダメですよ」

「はいはい」

「そんじゃあ、行くとするかねぇ!」

わたしとアマユキさん、そして荒くれ者ウラガンさん。

わたし達3人の邪竜チョコニール退治が始まった。

くらく沈んだ洞窟の中を灯をともして進む。

「この洞窟、チョコで出来てるから溶けるわね……」

「どうせなら溶けづらいチョコで作ればいいのにね」

「ふーん、そんなのあるのね」

狭く暗い洞窟の中では松明の灯りだけが頼り。

しばらく進むと、ソレはいた。

とぐろを巻いて眠る1匹の竜。

「チョコニール……」

アマユキさんがその名をつぶやく。

「寝てるなら好都合さね。こっそりお宝を頂くよ」

「でも、お宝って……」

見ると、チョコニールのすぐ後ろ。

台座のようなものに置かれた2つのお菓子の箱があった。

片方はひのきの林、そしてもう片方はひいらぎの村。

きっとそれが、看守ズーメさんの言っていた。

「レジェンダリー……」

それに間違いなかった。

わたし達はそっとチョコニールに近付き、その周りを迂回して背後に回る。

そしてレジェンダリーひのきの林に手を伸ばした。



挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「ひのき・ひいらぎの小人達」

平均身長50cm程度の小人族。

ひのきの林を愛するツプレス族と、ひいらぎの村を愛するフィルルス族と2つ民族がいる。

ていうか、なんなのこの種族。

わりと小説本文から受ける世界観にはかなり相反してる感じはある。

設定面から考えるのならば、「大戦」によって異世界より流入した種族の末裔である可能性が高い。

蛇足だが、ステラソフィア世界で魔術使の数が極小なのも、魔術自体が異世界から流入した技術であるため。

その素養を持つものはルーツに異世界人がいる可能祭が高い。


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