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第24話:戦いは小宇宙-Nová Galaxie-

「ついに……来ましたね」

緊張がわたしの身体を走る。

「ついに、なんて言う程じゃないわ。まだまだ通過点だもの」

相変わらず平静で余裕のあるアマユキさん。

その姿に安心感を覚えながらも、やっぱりどうしても緊張は抜けない。

ステラソフィア代表選抜大会ドヴォイツェ部門決勝戦。

対戦相手はドヴォイツェ・ネオギャラクシー。

「チーム・アイアンガールズのノヴァーコヴァー・チヨミ先輩と……」

「バーチャルスター4年、アンドロメダ・ナギサのドヴォイツェね」

アマユキさんが演習場の対岸へと目を向ける。

ホログラムの木々に遮られ、その先は見えない。

けれどきっと、そこにいるのだろう。

「セッカ、アンドロメダ・ナギサの相手は私がするわ。アナタはノヴァーコヴァー・チヨミを」

「はい」

この戦いはわたし達ドヴォイツェ・スニェフルカが国際メジナーロドニー大会に出場する為の重要な戦いであると同時に、ナギサ先輩にとってはアマユキさんへのリベンジマッチとなる。

それと――

「アマユキさん……その、ナギサ先輩とちゃんとお話ししてきてくださいね」

「ふん、どうだか」

どうかこの戦いで、アマユキさんとナギサ先輩の――チーム・バーチャルスターの間にある確執が終わりますようにと。

「それではステラソフィア代表選抜大会決勝戦! ドヴォイツェ・スニェフルカVSドヴォイツェ・ネオギャラクシー! 開始フラート!!」

チャタリン先輩の号令で、ついに決勝戦の幕が上がる。

「きっと最初に仕掛けてくるのは装騎ヂヴォシュカね」

お転婆娘(ヂヴォシュカ)……チヨミ先輩の装騎ですね」

「セッカ、しっかりと防御頼んだわよ」

「は、はいっ」

アマユキさんの予想通り、装騎ヂヴォシュカが正面から弾丸のように突っ込んできた。

両手足に加速用のブースターを備えたシェムハザ型装騎。

それに両手足用の加速格闘装甲ダレヴァチュカを装備し、その加速力、格闘能力は驚異的。

「それを……止めるッ!」

弾丸のような強襲をわたしの装騎スニーフは受け止めないといけない。

できるのかだろうか?

「できるわ!」

アマユキさんが檄を飛ばす。

それがわたしにちょっとの勇気をくれた。

しっかりと腰を落とし、盾ドラクシュチートを正面に構える。

瞬間、正面から衝撃。

「避けずに受け止めるなんて、なかなか気合の入った1年じゃねえか!」

「受け止めるだけじゃ、ないです。アズル、バーストっ」

わたしの言葉に応えるように、盾ドラクシュチートに光が灯ると――アズルが弾けた。

装騎ヂヴォシュカが一瞬怯む。

「そこよ」

それをアマユキさんは見逃さない。

わたしの脇を一気に駆け抜けると、ロゼッタハルバートを装騎ヂヴォシュカに振り下ろす。

その一撃は装騎ヂヴォシュカに当たらない。

それどころか、振り下ろす途中で時間を止めたように固まってしまった。

「ちがう……アズルチェーン……っ」

時間が止まったわけじゃない。

装騎ツキユキハナの持つロゼッタハルバートに絡むのはナギサ先輩の装騎アンドロメダの武器――アズルチェーンが絡まっている。

「ナイスサポートだぜナギサ!」

「それよりも攻撃を」

「応ッ!」

装騎ヂヴォシュカが装騎ツキユキハナに肘打ちをしようとする。

それを察したわたしは、装騎ツキユキハナに体当たり。

装騎ヂヴォシュカの肘打ちを盾ドラクシュチートで受け止めた。

「セッカ、最初の予定通りに。私はこのままナギサを――装騎アンドロメダを倒すわ」

「はいっ。わたしは装騎ヂヴォシュカを!」

装騎ツキユキハナは思いっきりロゼッタハルバートを振り、アズルチェーンを振りほどく。

そして装騎アンドロメダに向かって駆けた。

その姿を見送っている場合ではない。

わたしのすぐ正面には装騎ヂヴォシュカ。

「さて、楽しませてくれよ! スズメの後輩よぉ!!」

わたしは一旦距離を取ろうとするけれど、装騎ヂヴォシュカはその加速力であっという間に間合いをつめてくる。

「くぅ、片手剣ヴィートルで戦うにも徹甲ライフル(ツィステンゼンガー)で戦うにも、近すぎる……っ」

P.R.I.S.M.能力を使おうにも、わたしの能力は「吸い寄せ」。

もうすでに相手の間合いだというのに、これ以上近づいてどうなるのか。

「さぁ、反撃してこい!」

「反撃と、言っても!」

わたしはなんとか盾ドラクシュチートで相手の攻撃を防ぐので精一杯。

なにか、反撃手段があればいいけど。

そう思って、盾からのアズルバーストで装騎ヂヴォシュカを弾き飛ばそうとするけれど、ちょっと間合いを稼いだくらいではすぐに詰められる。

「バーストをした後、素早く武器を装備できれば……」

そうも思うけれど、それは賭けでもある。

もしも武装を装備するより先に相手の攻撃が来た時、片手で装騎ヂヴォシュカの重い攻撃を防げるかどうか。

出来るだけ隙を少なくして、相手に反撃する為の攻撃手段……。

「あ、ドラクシュチートで叩けばいいような」

盾ドラクシュチートから放つアズルバースト、その衝撃で吹き飛ばされながらも装騎ヂヴォシュカは懲りずに距離を詰めてきた。

わたしはそれに、

「ロズム・ア・シュチェスチー!」

P.R.I.S.M.能力で更なる加速をつける!

と同時に、盾をしっかり構えて体当たり。

激しい衝撃が盾ドラクシュチートと、装騎ヂヴォシュカを揺らした。

「ッ、いってぇ――!!」

わたしの読みは当たった。

盾ドラクシュチートによる一撃は確かに装騎ヂヴォシュカに有効打を与えられらた。

「へっ、ブローウィングらしい戦い方すんじゃねぇか! 正面からぶつかっていくなんてよ!」

「ブローウィングらしい……あ、ありがとうございますっ」

そうお礼を言いながらも、わたしは盾ドラクシュチートから片手剣ヴィートルを抜き構える。

「うおらァッ!!」

「いきます……っ」

わたしの装騎スニーフの片手剣ヴィートルと、装騎ヂヴォシュカの拳が交わった。


林を駆ける装騎アンドロメダを私は追いかけていた。

アズルチェーンが木々の隙間を縦横無尽に掻い潜りながら私の装騎ツキユキハナを狙う。

「なるほどね。こういうステージはアンドロメダの十八番ってことね」

装騎アンドロメダの持つ武装アズルチェーンはアズルを流すことで自在に操る鎖。

それは自然に身をひそめ、獲物を狩る蛇のように、草木の潜み、這いながら私を狙ってくる。

こういう障害物の多いフィールドでは、アズルチェーンの動きは厄介なことこの上ない。

「けれど、そんなコソコソした攻撃で仕留められるほどやわじゃないわよ」

なんなら周囲の木々を叩ききっても良い、茂みを切り払っても良い。

視界が悪いというのなら、拓けばいいだけ。

「相変わらず大胆で、力強いわね」

拓けた視界の先に、その装騎は立っていた。

鈍く輝くピンクゴールドの装甲を纏った装騎アンドロメダ。

「ですけど、私も後輩に負けてはいられませんので!」

装騎アンドロメダは右腕を振り上げると、アズルチェーンを装騎ツキユキハナ目がけて走らせる。

「私だってこんなところで負けられないわ」

それをロゼッタハルバートを薙いで払った。

「アズルチェーン!!」

いや、違う。

私の払ったロゼッタハルバートはアズルチェーンを弾き飛ばしてはいなかった。

ロゼッタハルバートの刃先から、獲物を締め付ける蛇のように――いや、樹木を締め上げる蔦のようにロゼッタハルバートに絡みつく。

「見せてあげます。私の新たな力……」

アズルチェーンにアズルの輝きが灯る。

「P.R.I.S.M.能力――ギャラクティックアトラクション!」

不意に装騎ツキユキハナが警告音を響かせた。

「アズル残量低下――これが、ナギサのP.R.I.S.M.能力!」

見ると、ロゼッタハルバート自体もほのかにアズルの輝きを灯している。

それはアズルチェーンが放ったアズルではない。

恐らくは私の装騎ツキユキハナの持つアズル――そう、装騎アンドロメダのP.R.I.S.M.能力は触れた相手からアズルを吸収する能力だった。

「厄介ね」

私は絡まるアズルチェーンを振り払おうとロゼッタハルバートに力を込めるがそう簡単にいかない。

「それなら、ロゼッタハルバートは捨て去るだけ!」

ここで装騎がアズル切れにされては何の意味もない。

私はロゼッタハルバートを手放した。

それと同時にアズルの供給が通常通りに行われ、減少したアズルが補充される。

「さすがアマユキさん、思い切りがいいです。防御も――攻撃も」

ここで距離をとっても意味はない。

私は拳を固めると、一気に装騎アンドロメダと距離を詰めた。

「いくわよ!」

左拳にアズルを纏うと、拳撃を装騎アンドロメダに叩きつける。

「忘れましたか? 私のアズルチェーンの力は、防御の時こそ最大限に発揮されると!」

その左拳を吸い込む竜巻のように、装騎アンドロメダが右手に持ったアズルチェーンが渦を巻いた。

そのまま拳を絡めとり、一気にアズルを吸い込むつもりなのだろう。

「P.R.I.S.M.能力なら――こっちにだってあるわ。風花開花ブルームウィンド!」

私はP.R.I.S.M.を発動させると、装騎ツキユキハナを空高く吹き飛ばした。

「上!?」

装騎アンドロメダが私を見上げる。

私はその姿を見下ろしながら、装騎アンドロメダの両肩を蹴りワンクッション付けるとその背後に着地した。

そして素早く反転し、拳を固める。

「不意を突いた程度では、アズルチェーンの防御力は突破できませんよ!」

撃ち出した拳を素早く装騎アンドロメダの背後にまわったアズルチェーンが防いだ。

「アズルチェーンは使用者のアズルによって操られる――ということは! 風花突破ブロウウィンド!」

私は装騎ツキユキハナの拳に風を纏わせる。

それは私の次なるP.R.I.S.M.能力。

アズルを吹き飛ばす一陣の突風!!

「アズルチェーンが、吹き飛ばされる!?」

その様子を視界の端で捉えたのだろう。

私の方を振り向こうとしていたナギサが驚きの声を上げた。

装騎ツキユキハナの拳は装騎アンドロメダに命中。

その騎体を思いっ切り弾き飛ばした。

拳による打撃では、一撃で決定打は打てない。

けれど、先制でダメージを与えられたというのは大事なことだ。

この流れに――乗るッ!

私はロゼッタハルバートを取り戻すと、一撃をお見舞いするために装騎ツキユキハナで駆ける。

「ノヴァーコヴァーさん!」

不意にナギサがチヨミへと声をかけた。

装騎アンドロメダのアズルチェーンが装騎ヂヴォシュカへと伸びる。

「よっしゃ、いっちょやったろうじゃねーかァ!!」

装騎スニーフと拳を交わしていた装騎ヂヴォシュカは、距離を取ると自らアズルチェーンに絡めとられた。

「オラァッ」

装騎ヂヴォシュカは思いっきり跳躍。

それをサポートするように、装騎アンドロメダもアズルチェーンを思いっ切り振り上げた。

空高く舞い上がる装騎ヂヴォシュカは、アズルチェーンに引っ張られその正面を私の装騎ツキユキハナへと向ける。

「チッ」

「行きましょう、ノヴァーコヴァーさん!」

「おらイケェ!!」

装騎アンドロメダは思いっきりアズルチェーンを引っ張り、ハンマーを振り下ろすように――装騎ヂヴォシュカを私に叩きつけるように振りかぶった。

装騎ヂヴォシュカは落下のスピードに加え、自らの加速能力でさらなる速さを得る。

これは――

「ゴルディアス、ブレイク……?」

セッカがその名を呟いた。

ワイヤーなどひも状の武装を味方に括り付けた後、ハンマーのようにして相手へ叩きつける技。

旧ブローウィングのワシミヤ・ツバサや前リーダー、ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタなどのワイヤー使い、鞭使いが好んで使う定番の合体技ドヴォイテフニカだ。

「けれど――少し、違うっ」

ゴルディアスブレイクは一度装騎を振り下ろせばそれで終わりの一撃。

けれど、ナギサとチヨミのドヴォイテフニカは少し違った。

「私たちの1撃は、1撃では終わらないわ!」

アズルを流し込むことで自在に操れるアズルチェーン。

2重に重ねることで強力過ぎるブースト能力を持つ装騎ヂヴォシュカ。

その2つが織りなすのは、まるで加速装置付きの巨大なハンマー。

それはたった1撃では終わらない。

「うわっ」

装騎アンドロメダが装騎ヂヴォシュカを振り回す。

それは私の装騎ツキユキハナを、そしてセッカの装騎スニーフを狙い暴れた。

「すごい……チヨミ先輩とナギサ先輩のドヴォイテフニカ……」

「そう、これこそ必殺の大槌! オービタル――」

「メテオフィストォ!! チェスト――ッ!!!」

「これじゃ、近づけ……ないっ」

縦横無尽に振り回される装騎ヂヴォシュカにセッカも、私も近づけない。

「なんとか動きを止めたいわね」

「動きを……そう、ですね」


わたしはアマユキさんの言葉を聞いて、そっと盾ドラクシュチートに手をかける。

あの吹き荒れる嵐――いや、振り回される隕石を止められるとしたらそれはきっとわたしの盾ドラクシュチートだけ。

「セッカ……いけるの?」

盾を構えた装騎スニーフを見て、アマユキさんがそう尋ねてきた。

その声にはわずかな心配も含まれている。

アマユキさんがわたしを心配している――それがなんだかちょっぴり嬉しくて、そしてわたしの力になった。

「……はい」

胸に湧き上がるほんのわずかな勇気を信じてわたしは頷く。

正直受け止め切る自信はない。

けれど……アマユキさんの一撃につないで見せる。

「コスズメ・セッカ……いきます」

震える身体を気合でごまかし、わたしは駆けた。

「装騎スニーフが来る……勝算があるというの?」

「1年が小細工考えてようが正面突破狙って用がアタシらには関係ねーだろ! バッチリ叩き潰す――このオービタル・メテオフィストでな!」

「そうですね。この程度の攻撃を掻い潜れないようでは世界なんて夢のまた夢ですからね」

「そーいうこった! 一丁頼むぜ! ナギサァ!」

「はいっ」

装騎アンドロメダが思いっ切りアズルチェーンに力を込めると、装騎ヂヴォシュカをわたしの装騎スニーフ目がけて振り払う。

傍目から見ても圧倒的な威力を思わせるその一撃。

それが今、わたしを正面から狙ってきているなんて考えたくもない。

「わたしに幸運スチェスチーを……!」

わたしは盾ドラクシュチートを起点にP.R.I.S.M.能力ロズム・ア・シュチェスチーを発動する。

それはより確実に盾ドラクシュチートで相手の攻撃を受け止める為。

がっちりと正面で受け止めることで、少しでもあの猛攻の動きを止める。

そうすれば、アマユキさんなら反撃できる隙ができるはずだ。

それから一瞬――盾ドラクシュチートと振り回される装騎ヂヴォシュカの拳がぶつかった。

強烈な衝撃。

吹き飛ばされそうな一撃。

わたしはそれを必死で踏ん張る。

アズルを盾に纏わせ、アズルバーストで相手の衝撃を抑えるとともに片手剣ヴィートルを地面に突き刺すことで耐えた。

盾ドラクシュチートの耐久力が目に見えて減っていく。

相手の攻撃を受け止める感触がどこか変わった。

それはきっと気のせいだと思うけれど、確かに盾ドラクシュチートは音を上げそうなダメージを受けている。

「スゲェじゃねえか。アタシの一撃を受け止めるなんてな! けれど、もう一歩足りないぜ!」

「!!」

装騎ヂヴォシュカの両拳にアズルが輝く。

「P.R.I.S.M.能力……っ」

瞬間、強烈な衝撃にわたしの装騎スニーフは思いっきり弾き飛ばされた。

装騎スニーフの騎体が細長い木々をへし折るたびに衝撃が身体を走る。

そして最後、背中から体全体に走る強烈過ぎる一撃で装騎スニーフの動きは止まった。

警告音が鳴り響く。

まだ辛うじて起動状態を保っているけれど、ぶつかった巨木によるダメージは装騎と、そしてわたし自身身体を痛めつけた。

「セッカ!」

「アマユキさんは……ナギサ先輩、をっ」

「わかってるわ!」

わたしの言葉は言う必要は確かになかった。

なぜなら装騎ツキユキハナは、もうすでに装騎アンドロメダへとロゼッタハルバートを投げつけていたのだから。

「ロゼッタネビュラね……」

装騎アンドロメダはロゼッタネビュラの一撃を回避しながら、装騎ヂヴォシュカを放り投げる。

「ノヴァーコヴァーさん、手早く装騎スニーフを落としてくださいっ」

「わぁってるぜ! いっけぇ!!」

装騎ヂヴォシュカの標的はわたし。

それもそうだ。

さっきの一撃でわたしの装騎スニーフは満身創痍。

盾ドラクシュチートも破壊され、その時の衝撃で片手剣ヴィートルもどこかへ飛んで行ってしまった。

そこを弾丸のようにかけながら、一気に距離を詰めてくる装騎ヂヴォシュカ。

もう、わたしはダメ?

「ううん、まだ――――まだ、終わりじゃ、ないっ」

意識がはっきりしない。

まるで夢の中にいるような感覚で、わたしは自然にその手を腰部のストックへ伸ばしていた。

そこには徹甲ライフル・ツィステンゼンガーがある。

装騎ヂヴォシュカはもう目の前。

きっと一瞬で装騎ヂヴォシュカの拳はわたしの装騎スニーフを穿つだろう。

でも、一瞬よりさらに先に徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを掴み、構え、撃つことができれば。

わたしは徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを掴む。

構える。

「そして撃――」

「たせるかぁ!!」

P.R.I.S.M. Akt.2

わたしの目の前にアズルが思いっ切り吸い込まれ、圧縮される。

それは一種の、風の壁。

「何ッ!?」

装騎ヂヴォシュカの動きが、風の壁に阻まれ一瞬鈍った。

その一瞬はわたしにチャンスを与えてくれた。

「撃つ!」

フルオートで発射される徹甲ライフル・ツィステンゼンガーの射撃。

それは装騎ヂヴォシュカを機能停止させた。

「はぁ……」

安堵したわたしはコックピットでもたれ込む。

視界が黒く閉ざされた。


装騎スニーフは、セッカは無事なの?

そんな気持ちは確かにあるけれど、セッカの作ったチャンスを無駄にすることはできない。

ロゼッタネビュラの初撃を回避された私は、装騎ツキユキハナの両拳を固めると、装騎アンドロメダの懐へと飛び込んだ。

「アズルチェーン!」

「ブロウウィンド!」

アズルチェーンの一撃をアズルを吹き飛ばす風で払い、相手のP.R.I.S.M.能力ギャラクティックアトラクションの効果を受けないように戦う。

アズルチェーンの主な力はコントロール能力。

そのコントロール能力さえ奪ってしまえば、ただの鎖を振り回しているだけも同然。

一先ずは、ロゼッタハルバートが私の手元に戻ってきてからが勝負だ。

「アマユキさんはP.R.I.S.M.能力を2つ使いこなせるようになったんですね」

「そう、みたいね。私にもよくわからないけれど」

「P.R.I.S.M.とはそういうものです。より勝ちたいと願った者、より楽しいと思った者、より観客を魅了した者に与えらえる力! 私は……アナタに勝ちたいです!」

「ナギサ……先輩」

装騎アンドロメダにアズルが巻き起こる。

不意にアズルチェーンが装騎アンドロメダの両腕に巻き付いた。

装騎アンドロメダが取るのはファイティングポーズ。

「私と、拳で戦うつもりなのね」

「いくわよ、アマユキさん!」

装騎アンドロメダが駆ける。

私もそれを迎え撃つ。

「ローゼスソーン!」

私のアズルが装騎ツキユキハナの拳に宿り、薔薇の棘を纏う一撃を走らせる。

「ギャラクティック――」

それを迎え撃つように、装騎アンドロメダが手のひらを向けた。

「これは、掌底!」

「フレア!!」

突き出した装騎アンドロメダの一撃。

と同時にアズルチェーンが伸び、分裂し、鋭い刃となった。

「ぐっ!?」

一撃の掌底打ちと同時に放たれる、熱く燃え盛る炎のような力を持ったアズルチェーンの一撃。

それが装騎ツキユキハナの全身を焼く。

私が思わず怯んだそのチャンスを――けれど装騎アンドロメダはその身をいったん引いた。

それがなぜかは私がよく知っている。

「ロゼッタハルバート!」

戻ってきたロゼッタネビュラの二撃目。

それを見てロゼッタハルバートを掴み取ろうとするが、

「させません!」

ロゼッタハルバートはアズルチェーンに叩き落とされ、私の手元には戻らない。

「ロゼッタハルバートがあればアナタのP.R.I.S.M. Akt.2の有効範囲が増える――それは私にとっては厄介ですから」

「ごもっとも。ですけど、ロゼッタハルバートがない程度で私が負けると思って?」

「ギャラクティック・フレア!」

再びアズルチェーンから分離したアズルの鎖が熱を帯びながら私を襲う。

「ブロウウィンド!」

幾つかはアズルを吹き飛ばす風で効果を消すことはできる。

けれど、相手の放つアズルフレアの数は多く、攻撃範囲も広い。

それを拳二つで防ぎきるのは難しい。

「まっ、両腕で足りないのなら両足を使えばいいのよ」

私は両腕だけではなく、両足にもアズルを集中させる。

そして両手足を使った連続攻撃でギャラクティックフレアを防ぎ、少しずつ装騎アンドロメダと距離を詰めた。

「両腕だけじゃなくて足にも――――けれど、頭と体にはそのアズルを纏わせることはできないみたいですね」

「それはそうね。全身に効果を発揮させられればいいけれど――そう都合よくもいかないみたいだわ」

次第に装騎アンドロメダの狙いが頭と胴体――つまりは装騎ツキユキハナの上半身に絞られていく。

今現在、装騎アンドロメダの武装では有効打を打ちやすいのは上半身しかないのだから当然だろう。

そしてそれは、私の想像通りだった。

「アズルチェーン! そして――ギャラクティックフレア!」

装騎アンドロメダは左腕のアズルチェーンを解くと、装騎ツキユキハナの背後に回らせる。

そして右腕のアズルチェーンは正面からフレアを放ち装騎ツキユキハナを焼かんと伸びた。

「そろそろ、頃合いっ! 風花開花ブルームウィンド!!」

その一撃を回避するために、私は両膝を思いっ切り曲げた。

装騎ツキユキハナが膝立ちの状態で地面に落ちる。

そして両足を斜めに傾け、加速用ブースターが装騎アンドロメダとは逆の方向を向くようにする。

そのままブースターの火力と、風花開花の吹き飛ばしによって――加速した。

「なんですって!?」

きっとナギサ先輩の瞳には、急に装騎ツキユキハナの姿が消えたように見えたに違いない。

次に、膝立ちのままで一気に駆ける装騎ツキユキハナの姿を見て更に驚いたに違いない。

「ローゼス、ソーン!!」

渾身のアズルを右手に込めて――薔薇の一撃を装騎アンドロメダへと放った。

「試合終了! 優勝者は――ドヴォイツェ・スニェフルカ!!!!」

歓声が沸き上がる。

目の前には動かなくなった装騎アンドロメダ。

そして、コックピットから出てきたナギサ先輩が笑みを浮かべていた。

「ナギサ先輩……」

そっとナギサ先輩は首を横に振ると、人差し指を口の前に当てた。

「アマユキさんは好きな食べ物、ありますか?」

ナギサ先輩が言った言葉。

決勝戦の内容に白熱する中で言われるには、あまりにも間抜けで、あまりにも馬鹿馬鹿しい質問。

「ふん――」

本当、バッカみたい。

「オムライス」


挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「旧ブローウィング」

主に4年ワシミヤ・ツバサ、3年テレシコワ・チャイカ、2年カスアリウス・マッハ、1年サエズリ・スズメの4名で構成されたブローウィングを指す。

前向きで純粋なメンバーが配属されやすいチームであり、ステラソフィアでは代々3から4番手くらいの実力を持つ。

しかし、このメンバー時のブローウィングはチーム対抗戦で当時最強と呼ばれたチーム・バーチャルスターを撃破。

それにより、一躍その名を上げた。

ステラソフィア1期生で初代チーム・ブローウィングであるカラスバ・リンがよく顔をのぞかせることでも有名だったりする。


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