第22話:転機と機転-Hledat Štěstí v Rozumu-
「ステラソフィア代表選抜大会ドヴォイツェ部門準決勝! 第1試合はドヴォイツェ・スニェフルカVSドヴォイツェ・ローニンサバイバーでーす」
チャタリン先輩が試合の始まりを告げる。
「チャタン・ナキリにローレイ・タマラ……無茶苦茶な2人が相手だからね。気を付けていくわよセッカ」
「はいっ」
アマユキさんの言う通り確かにあの2人は無茶苦茶な感じだ。
本能に忠実というか、野生的というか……あの突飛の無さは敵に回すと厄介だと思う。
「チャタン・ナキリはケンドーの有段者だと言うわ。となると武装は恐らく刀剣系」
「遭難した時、ナキリ先輩の剣捌きはすごかったですね……」
襲い掛かるサメを相手に木の棒を剣代わりに戦うナキリ先輩。
その力強さと的確さもそうだけど、無尽蔵にも思えるその体力も驚異的だった。
「それに全く底の見えないローレイ・タマラ。意外とああいうのが――セッカ!」
不意に装騎ツキユキハナがロゼッタハルバートをひるがえす。
わたしの背後で爆音。
「今のは……」
「早速来たわね!」
「タマラだよー!」
姿を見せたのはタマラ先輩の装騎テンパラス。
両肩に抱える大型の砲は対装騎弾射出機・ミョルニル。
さっきの爆発はアンティパンツァー・ミョルニルの砲弾が爆発した音だった。
「バズーカ両肩、これぞ最終決戦仕様〜!」
「まだ準決勝ですけどね!」
「たしかにー」
相槌に乗せて装騎テンパランスはまたアンティパンツァー・ミョルニルを一撃。
「私が前に出るわ。セッカは援護しなさい!」
「は、はい……っ」
装騎ツキユキハナがロゼッタハルバートを構えると、一気に装騎テンパランスと距離を詰める。
「うわきたー! にーげーろー!!」
タマラ先輩はどこか楽しげにそう言うと、アンティパンツァー・ミョルニルを数撃放ちながら距離を取った。
「ああいう大口径武器は懐に入れば取り回しが難しいはず……何とかここで、相手の内に飛び込みたいわね……」
「そう、ですね……わたしも、がんばって援護します。からっ」
「ええ。頼りになるところ見せてみなさい!!!!」
装騎ツキユキハナが風を纏う。
P.R.I.S.M.能力、風花開花を発動させ、吹き飛ぶ風の力で加速をしたのだ。
「あれきたー! だがしかーし、徹甲弾だけが取り柄じゃないんですなコレがー」
装騎テンパランスの持つアンティパンツァー・ミョルニルの弾倉が回転する。
何か、嫌な予感がした。
「そしてうてー!」
装騎テンパランスがアンティパンツァー・ミョルニルを撃つ。
その大砲から放たれたのは、徹甲弾や榴弾ではなかった。
弾が急に弾け、細かい粒を装騎ツキユキハナに叩きつける。
「コレは――散弾ッ」
アマユキさんもただの砲弾が来るとは思ってなかったんだと思う。
ロゼッタハルバートにアズルを纏わせ、疑似的な盾にしてそれを防いだのだ。
「アンティパンツァーから、散弾ですか……」
「ちょっとキズがついちゃったじゃないの……っ」
アマユキさんの言う通り、完全には防ぎきれなかった散弾が装騎ツキユキハナの手足に細かいキズを付けていた。
それでもヴァールチュカには大した影響はないと思うけれど。
「あれ……?」
ふと、わたしの目の端――覆い茂る緑の林の顔色がどこか分かったような気がした。
いや、林に顔色ってどういうことか自分でもよく分からないけど――でも、フィールドの表情が変わったような気がした。
風の音が聞こえてくる。
その流れはどこか変だ。
「これは」
わたしは思わず左腕を掲げる。
瞬間――、激しい衝撃が左腕を――ううん、左腕に装備されている盾ドラクシュチートに走った。
「見事である!」
「ナキリ――先輩!!」
その一撃はナキリ先輩の装騎ウタキが放った斬撃。
言うまでもなく装騎テンパランスは囮。
そこに装騎ウタキが奇襲をかけるというのがこの2人の作戦だったようだ。
「やっぱり奇襲狙いね。それにしても……よくやったわねセッカ」
「え、あ、はいっ」
「チャタン・ナキリは私が相手をするわ。セッカはローレイ・タマラを!」
アマユキさんはそういうと、装騎ツキユキハナを装騎ウタキに向かって反転させる。
「そうは問屋がおろさないー」
「その通りである!」
「ロゼッタネビュラ!!」
「ツィステンゼンガー!!」
装騎テンパランスは装騎ツキユキハナを、装騎ウタキはわたしの装騎スニーフを逃がさないと攻撃の構えを取った。
それより先に、装騎ツキユキハナのロゼッタネビュラが蒼い光を放ち、わたしの撃った徹甲ライフル・ツィステンゼンガーの連射が装騎テンパランスを襲う。
「そして合わせなさい! P.R.I.S.M.を!」
「は、はい! ロズム・ア・シュチェスチー!」
装騎ツキユキハナは装騎の能力とP.R.I.S.M.を使った全力加速を。
わたしは相手を引き寄せるP.R.I.S.M.能力で装騎ツキユキハナの加速を手伝う。
「マジであるか!?」
ナキリ先輩がロゼッタネビュラを和風大剣イロハニホヘ刀で受け止めながら驚きの声を上げた。
「マジもマジよ」
装騎ツキユキハナは投げ放ったロゼッタハルバートを掴み取ると、そのまま装騎ウタキと競り合う。
「と、見てる場合じゃ――ないっ」
わたしも徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを装騎テンパランスに撃った。
「いやぁ、たーのしーこうはーいが、できてうれしい!」
「なんとか接近戦に、持ち込むっ」
わたしはアマユキさんが狙っていたように、相手の懐に入れないかと考える。
「とりあえず――ツィステンゼンガーで牽制!」
「うわっはー、たーのしー!」
「そして、懐に潜り込んで――――武器を、素早く、持ち替える!」
「うおぅ!?」
今まで余裕そうだったタマラ先輩が驚いたような声を上げた。
わたしの放った斬撃は装騎テンパランスの鼻先を掠める。
「あと少し、距離を詰めれば……!」
「うわっ、ヤバいかも?」
装騎テンパランスを逃がしてはいけない。
わたしはP.R.I.S.M.を発動し、装騎テンパランスを引き寄せる。
そして、もう一撃。
「ところがわっほい!」
決めようとしたその時、アンティパンツァー・ミョルニルの砲口がわたしのほうを向いた。
「砲撃!?」
「ピカっとな!」
瞬間、強烈な光がわたしの目を焼いた。
「せ、閃光弾……っ!」
咄嗟に盾ドラクシュチートを構えて後ずさりをする。
ドラクシュチートを激しく揺らす衝撃は、装騎テンパランスの追撃だろう。
とりあえず、致命傷だけは避けようとできるだけ身体を縮こませ、盾の影に隠れた。
「セッカ!」
「うわわっ!?」
アマユキさんの声とタマラさんの慌てるような声が聞こえる。
やがて視界が戻ってきた。
わたしの目に飛び込んできたのは、飛翔するロゼッタハルバートとそれを慌てて避ける装騎テンパランス姿だ。
「アマユキ、さん……っ」
「大丈夫みたいね」
「は、はいっ。あれ、ナキリ先輩は……?」
装騎ツキユキハナが無言で指をさす。
「目がァ、目がァァァアアアアア!!!」
さっきわたしがやられた閃光弾の一撃。
それがナキリ先輩の視界も奪っていたようだった……。
それもそうか、わたしとアマユキさんは背中合わせになって戦っていたから……。
「あー、そっかー。ナキリちゃんもコッチ向いてたんだった。わすれてた。てへぺろー」
「セッカが無事なら今の内――チャタン・ナキリを、倒す!」
装騎ツキユキハナが装騎ウタキのもとへと駆ける。
「ちょっと距離取っちゃお」
「今度は、油断しません。タマラ先輩……勝負、です!」
わたしも装騎テンパランスを追いかけ、装騎スニーフを駆った。
偶然とは言えできたチャンス。
あの野生の勘と無尽蔵のスタミナを持つチャタン・ナキリ――その装騎ウタキの動きが止まった。
「今がチャンス……」
ロゼッタハルバートは装騎テンパランスに投げてしまった為、手元にはないが私にはこの拳がある。
拳による一撃を放てる間合い――そこに入ったその時、私は奇妙な――アズルが走るような悪寒を感じた。
足元からせり上がってくるような感覚。
とっさに装騎ツキユキハナを飛び退かせたその瞬間――足元から"影の刃"が突き出した。
「惜しいのである!」
視力の戻ったチャタン・ナキリが和風大剣イロハニホヘ刀を構えながら残念そうに言う。
「今のはまさか――――P.R.I.S.M.!」
「である! わたくしがぷりずむ能力……その名もカゲキリ!!」
影の中から伸ばすアズルの刃――それが装騎ウタキの持つP.R.I.S.M.能力。
「この能力は、すごいであるよ!」
装騎ウタキが右手を聳える一本の木に添える。
瞬間、装騎ウタキの影を伝い、アズルの刃が木の陰からも伸び、飛び出た。
「なるほどね。装騎の影から――そして、その影と重なった影からもアズルの刃を出す能力ってわけね」
「まだまだ、こんなこともできるであるぞ!」
そう言いながら、装騎ウタキは和風大剣イロハニホヘ刀で木を一本切り倒す。
そしてその木を掲げ、一気に振り回した。
「木を振り回す……? それに意味は……」
木を振り回す――それ自体に意味はない。
きっとチャタン・ナキリが狙っているのは木本体ではなくその"影"を利用した攻撃。
そう、装騎ウタキと影が重なった影からはアズルの刃が伸びる。
ではその影が重なった影が重なった影はどうなる?
「我ながら、ややこしいわね。けれど答えは1つ」
その影からも――刃が飛び出てくる!!
私の真横にあった木の影と、装騎ウタキの持つ木の影が重なる。
と、同時に私の足元に伸びる影からアズルの刃が飛び出してきた。
「違う……それだけじゃない!」
装騎ツキユキハナが飛び退いた先にはまた別の木の影。
装騎ウタキの影と重なった影に重なった木の影――そこに装騎ツキユキハナの影が重なる。
「チッ、真下から!」
装騎ウタキと重なった影からはアズルの刃を出せると言うことは、相手の影と重なった私の装騎の影からも刃が飛び出るということだ。
「わーはははは。どうであるどうである? わたくしのぷりずむは厄介であろう!」
確かに厄介だ。
相手の影と重なれば、足元から攻撃される。
相手の影と重ならなくても、相手の影と重なった影からはまた刃が伸びてくる。
木々が生えているこのステージはどうしても影になる部分ができてしまう。
ということはそれだけ相手に攻撃の手段が増えることになるのだ。
「けれど、アズル刀は1本しか出せないみたいなのは救いね……」
もしも複数の刃を出せるのならばもっとやりようはあるだろうけど、チャタン・ナキリが出す「カゲキリ」の刃は先ほどから一本のみ。
もちろん、そう思わせといて隙を突き攻撃するという可能性もあるだろうけれど……。
「いや、無いわねあのチャタン・ナキリは」
そういう心理的、策略的なことはしないタイプだろう。
例え動きが理知的に見えることがあろうと、基本は野生の勘や運と言った類でそれをなすタイプ。
攻撃については常に全力全開でやるタイプであって、もしも複数の刃を作れるのであれば最初からそれを見せるはずだ。
「私の見立てを裏切る演技力がある――という可能性も捨てきれないのは捨てきれないけれどね」
色々考えても仕方ない。
結局は、今見えてる情報だけで策を練るしかないのだから。
念のために最悪の状況も想定しておくとして――どう戦う?
「影を――消すことができれば……」
「斬るである!」
装騎ウタキは木を放り投げると和風大剣イロハニホヘ刀を構えなおし、斬りかかってくる。
あれだけ巨大な剣を扱いながらも、素早く鋭い一撃を放つ。
それに加え、影から伸びる刃による連携攻撃。
一見考えなしのようにも見えるが、なかなか付け入る隙を見つけづらいというある意味では私の想像するチャタン・ナキリの戦い方そのものだった。
相手の斬撃と影の位置を見ながら攻撃を避ける。
「なんとか一撃……加えたい、けれど」
こっちは徒手空拳。
大剣を使う相手とのリーチの差は大きい。
攻撃の隙を突こうとも、影から放たれる刃は厄介。
完全に相手のペースにハマっていた。
「アマユキさん!」
その時、セッカの声が聞こえた。
そして聞こえる飛翔音。
「ロゼッタハルバート!」
装騎ツキユキハナの手のひらにそれが収まる。
装騎スニーフが――セッカが投げ渡してきた私の武器。
「やるじゃない」
全身にアズルがみなぎる。
「ふむむ! 武器を取り戻したであるか! だがしかしッ」
装騎ウタキが和風大剣イロハニホヘ刀を振り下ろした。
受け止めたその瞬間、影をつたいカゲキリの刃が伸びる。
その攻撃を避けた――――かと思うと別の影につたい、また別の方向から刃が伸びた。
「やっぱり、周りの木をなんとかするしかないわね」
一旦、装騎ウタキと距離を離しすと、ロゼッタハルバートを構える。
力が高まっていくのを感じる。
装騎ツキユキハナの全身から漏れ出すように溢れたアズルが眩く輝いた。
「限界駆動であるか!?」
そう――騎使の集中力が極限まで高まり、それに装騎が応えた時に辿り着く境地。
それは一種の究極。
限界駆動!
「ロゼッタネビュラ――クリティカル!!」
強烈な眩い光を放つアズルの星雲が円を描き空を駆ける。
狙うのは装騎ウタキーーではない。
「コレは……!」
装騎ツキユキハナと装騎ウタキの周囲を一回転するロゼッタネビュラが刈り取るのは――周囲に生えるホログラムの木々。
高速のロゼッタネビュラが私の手元に戻るときには――周囲の木々は全て斬り落とされ、そして弾き飛ばされていた。
「見事である!!」
装騎ウタキが和風大剣イロハニホヘ刀を正面に構えると、爆発するように一直線、私のもとへと向かってくる。
「鋭い突き……!」
その一撃を流し、すれ違った装騎ウタキの背後にロゼッタハルバートを突き立てようと構えた。
「まだである!」
その一撃を、驚異的なグリップ力と身のこなしで反転した装騎ウタキの刃が弾く。
「カゲキリ!!」
そして繰り出された装騎ウタキの突きの一撃。
その影の先端から更なる刃が伸び出て、私の装騎ツキユキハナを貫かんとした。
「私はそれを―吹き飛ばす!」
気力が満ちる。
アズルが風となり、ロゼッタハルバートの刃を包む。
P.R.I.S.M. Akt.2
ロゼッタハルバートの突きとカゲキリによる一撃が交差する。
瞬間――私の風がカゲキリを巻き込み、そして――"吹き飛ばした"。
「なんであるか!?」
吹き飛ばされるようにアズルがその形を崩したのだ。
「アズルを吹き飛ばす風――――これなら」
そして風花開花で装騎ツキユキハナに更なる加速をつける。
この一撃で、とどめだ!
「ローゼス・ソーン」
私の一撃は、装騎ウタキの機能を停止させた。
わたしは逃げ回る装騎テンパランスを追いかける。
「武器は、ツィステンゼンガーで……」
片手剣ヴィートルを盾ドラクシュチートに仕舞い込むと徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを握り、その銃口を装騎テンパランスに向けた。
「ロズム・ア・シュチェスチー!」
「おおっと!?」
時折、P.R.I.S.M.技で相手を吸い寄せバランスを崩させようとするがなかなか上手くいかない。
わたしが慣れてない――っていうのもあるけれど、タマラ先輩の実力は実際すごかった。
「うっつよー! もっとうつよー!」
時折放ってくるアンティパンツァー・ミョルニルの一撃も、メインの徹甲弾の他、榴弾や散弾、クラスター弾と多彩だ。
「それじゃあ、そろそろ本気みせちゃおっかなー」
「ほ、本気……?」
装騎テンパランスが再びアンティパンツァー・ミョルニルの砲口を装騎スニーフへ向ける。
「タマラ、うちまーす!」
威勢のいい掛け声と同時に発射される両肩のアンティパンツァー・ミョルニル。
「これくらいなら――うぇっ!?」
その弾道はあくまで直線。
だから簡単に避けられる……はずだった。
わたしは咄嗟に盾ドラクシュチートを身体に寄せる。
瞬間、爆音と衝撃。
「弾が……曲がった」
確かに今の攻撃は回避できたはずだ。
けれど、できなかった。
そう――それは装騎テンパランスの撃った弾がわたしの装騎目がけて方向転換したからだ。
そしてその一瞬、確かにわたしは見た。
アズルの光を纏う装騎テンパランスの姿を……。
と、いうことは――
「P.R.I.S.M.能力!」
「そのとーり!」
撃った弾を誘導する……それが装騎テンパランスのP.R.I.S.M.能力だった。
「これぞ誘導雷槌! さぁ、いっけー!」
今まで逃げる装騎テンパランスを追いかけていたところから一転。
今度はわたしがアンティパンツァー・ミョルニルの誘導弾から逃げることになる。
アズルで無理矢理、弾の軌道を変えている割には正確な誘導に回避するのも一苦労。
ひたすら走り、跳び、木々を盾にし、最悪盾ドラクシュチートで受け止めながらなんとか反撃の機会を伺う。
「はぁっ……はぁっ……!」
そして衝撃。
警告音が鳴り響く。
「ドラクシュチートが……」
その警告音は盾ドラクシュチートの耐久力がもはや限界にきていることを知らせるものだった。
あと何発耐えられる?
良くて数発、悪ければ1発受け止めた時点でアウト。
その焦りを捉えられたのか、1発の徹甲弾がその矛先を装騎スニーフに向ける。
「おねがいっ」
わたしは咄嗟に盾ドラクシュチートを放り投げた。
盾ドラクシュチートに弾かれ徹甲弾は外れ地面を抉る。
なんとか一撃は防いだ。
けれど……
「とったりー!」
正面には装騎テンパランス。
アンティパンツァー・ミョルニルの砲口はしっかりとわたしの方を向いている。
どうする?
どうするコスズメ・セッカ。
この状況を突破するにはどうしたらいい?
それはきっと一瞬。
そんな中でわたしの頭の中にはいろんな考えが渦巻く。
アマユキさんはナキリ先輩の装騎ウタキと必死で戦っている。
きっと助力を乞うことはできないし、わたしの声が届いたとしてもアマユキさんでもナキリ先輩を振り切ってわたしを助けることはできないだろう。
「自分で、なんとかしなくちゃ」
その呟きは声にはならなかった。
いや、声にするような暇はない。
とりあえず、動かないと。
「うてー!」
「ロズム・ア・シュチェスチー!!」
わたしは思いっ切り右腕を突き出す。
その先からは相手を吸い寄せるアズルの風が巻き起こった。
対象は装騎テンパランスーーではない。
わたしは見つけた。
装騎テンパランスの背後、地面に突き刺さる紅い一振り。
「来て、ロゼッタハルバート!!」
「おろっ?」
ロゼッタハルバートを吸い寄せ、装騎テンパランスの背を叩きつける。
バランスを崩した装騎テンパランスはわたしを狙ったトドメの一撃を明後日の方向へと撃ち出した。
チャンスが、できた!
「ツィステンゼンガー!」
わたしは左腕を腰部のストックへと回す。
そのまま徹甲ライフル・ツィステンゼンガーの銃身を掴むと素早くグリップへ握り替える。
そして撃つ。
「おろろ~!」
わたしの銃撃が装騎テンパランスに命中し、爆発が起きた。
「やった……?」
「やってない!」
けれど装騎テンパランスは健在。
さっきの爆発は右肩に構えていたアンティパンツァー・ミョルニルが爆発したもので、装騎テンパランス本体はダメージこそあれ起動状態だった。
「うーん、三十六計!」
「逃がしません!」
駆ける装騎テンパランスを追撃――の、前に。
「アマユキさん!」
ロゼッタハルバートを装騎ツキユキハナへと投げ渡す。
アマユキさんから言葉はない。
けれど、どこか気持ちが繋がったような気がする。
「絶対に、装騎テンパランスを倒します……っ」
アズルがみなぎる。
正面から飛翔するのは装騎テンパランスの放った砲弾。
「撃ちます!」
それを徹甲ライフル・ツィステンゼンガーの弾丸が正面から迎撃、爆散させた。
「そうだ……何も吸い寄せるのは相手の装騎じゃなくても、いいんだっ」
わたしは吸い寄せる。
相手の撃った砲弾を、徹甲ライフル・ツィステンゼンガーの射線上に誘導するように。
「それだけじゃ、ないっ!」
さらにホログラムの木を一本、手元に引き寄せる要領で引っ張り――倒す!
「木をー!?」
それを繰り返して相手の進路をできるだけ塞ぎ、そして足を遅らせる。
間合いを詰めて――――そして、
「そこ、ですっ!」
ついにわたしのアズルが装騎テンパランスを捕まえた。
「あ゛ー、まけたかー」
徹甲ライフル・ツィステンゼンガーの接射を受け、装騎テンパランスは機能を停止した。
ステラソフィアTIPS
「限界駆動」
騎使の精神力が極限まで高まった時に至る境地だと言われている。
騎使の精神力が高まり霊力が最大まで向上することで装騎への霊力供給が増大し、ほぼラグ無しにアズルを生成し続けられる状態がクリティカルドライブである。
この状態に入ると消費アズルをほぼ一瞬で再供給することができるようになるため、通常であればアズルエンプティー状態に陥りかねない莫大なアズル使用も可能になる。
と言っても、アズルの最大値自体は変化しないので最大値を超えるアズルの使用はできないが。
更なる高みとしてアズルを装騎の周囲や騎使の周囲に固定することでアズルを留め続け、さらにアズルを自由に操る「無限駆動」という状態も確認されている。