第20話:タコ×タテ-Chobotnice a Štít-
「3回戦……ですね」
「今回の参加人数的に、これが準々決勝になるわね」
準々決勝……そう聞くとこんなところまで来たわたし達がすごいような、そうでもないような、なんか微妙な気分になる。
そう言うと、
「ふん。この大会を優勝するのだって通過点よ。まだまだよ」
とアマユキさんは一笑。
たしかに、この大会を優勝してからがスタートラインだと考えるならそうかもしれない。
「ま、何にせよ負けるという選択肢はないわ。それはしっかり肝に銘じなさい」
「そうですね」
そう、負けられない。
わたしは自分自身にそう言い聞かせた。
そして始まる。
わたし達ドヴォイツェ・スニェフルカとドヴォイツェ・いきものがかりのヴァールチュカが。
「それでは、ドヴォイツェ・スニェフルカVSドヴォイツェ・いきものがかり――――開始です!!」
チャタリン先輩の掛け声で、わたし達は霊子ホログラムで形作られた森林を駆ける。
「セッカ。接敵前におさらいするわよ。相手はオオルリ・アオノの装騎ブルースイングとアラーニャ・イ・ルイス・アナマリアの装騎」
「そういえば、アナマリア先輩の装騎に名前ってないんですか……?」
「聞いたことないし、登録にもなかったわね」
「そうなんですか」
と言っても、自分の装騎に名前を付けないことは別段珍しいことではない。
ステラソフィアだとかなり少数派ではあるけれど。
「装騎ブルースイングの武装は霊子衝浪盾アズライト――アズルの"流れ"を作り出して攻撃を逸らす盾」
「はい。基本的にはアナマリア先輩の援護に専念すると思います……」
「そしてアナマリア騎の武装は霊子ホログラムを利用した巨大なタコ……ふざけてるわね」
「攻撃力は低いですけど、巨体ですし厄介、でしたね」
水着大会でのことを思い出す。
あの時は手を組んでいたはずのスズメ先輩の裏切りで倒すことができたけれど、今回はそうもいかない。
「あの時みたいに攻撃力が低いと考えるのは早計よ」
「そう、なんですか?」
「そう。あの時は巨大なタコの姿にしていたから霊子密度が低くて威力は低かった。けれど、もしもあの触手だけを装騎に纏って攻撃することができたら?」
それは――つまり、わたし達が使うような、アズルを利用した攻撃と何ら変わりない。
「規模の大きさと攻撃範囲の広さ、そして、その事からくる厄介さを利用できるのがあの巨大ダコ形態。そして、威力と小回りを利用できる触手だけ状態――その2つを状況で使い分けていると考えるのが当然ね」
「つまり今回は――あのオオダコじゃなくてもっとコンパクトな戦い方をしてくる……ということね」
「ええ」
それもそうか。
あのオオダコ状態はかなりアズルの消耗も激しそうだし、目にも付く。
「それにP.R.I.S.M.もあるしね」
「P.R.I.S.M.能力……アオノ先輩とアナマリア先輩はどんな能力なんでしょう……」
考えても仕方ない。
それは戦ったら分かること――戦わないと分からないことだ。
これから始まるであろう戦いに集中しようと1呼吸した時、木々のへし折られる音が響き渡った。
「この音は……っ」
「アマユキさん……あ、あれ……」
わたし達の目に映ったのは――木々を物ともせずにコチラへ向かってくる巨大なタコ。
アナマリアオオダコの姿だった。
「…………まさか普通にタコのまま来るなんてね」
「は、はい……」
「みーつーけーたーさー!」
そのタコの目がギロリとわたし達を捉える。
と同時に2本の触手がそれぞれわたし達の装騎を狙い叩きつけられた。
「セッカ、回り込みましょう!」
「は、はいっ」
アマユキさんの指示でわたしは左回りに、そしてアマユキさんは右回りにアナマリアオオダコの周囲を走る。
「どこかにオオルリ・アオノが隠れてないとも限らないわ。単独行動時は慎重にしなさい」
「は、はいっ」
とは言うものの、アオノ先輩は別行動なのだろうか?
水着大会の時のように、アナマリア先輩の装騎にアズルを供給しながら護衛についているという可能性もある。
「そうじゃないと、あれだけの巨大なアズル……維持、できるんでしょうか……」
アオノ先輩の装騎ブルースイングにとってアナマリアオオダコの上は格好のバトルフィールドだ。
何故なら、霊子衝浪盾アズライトはアズルを消費するのではなく、流れを操って攻撃や防御をする盾。
アズルで形作られるアナマリアオオダコの上であれば、装騎ブルースイングのアズルを渡すことでオオダコ出力を安定させつつ、周囲のアズルを操ることで本体のアナマリア先輩騎を守ることができるからだ。
それはつまり、アナマリアオオダコのアズル密度を減少させることなく弱点である本体への攻撃を防ぐことができるということ。
「だったら、今はあのオオダコをなんとかすることに集中した方が……」
けれど、何とかすると言ってもどうすればいい?
相手はあの巨体――その攻撃を掻い潜れるだけの速度や、ここからあの本体へ有効打を打てるような武装、技はない。
水着大会の時は触手伝いで本体に行くことはできたけれど、あの時はみんなでアナマリアオオダコの気をそらしたからという側面もある。
「アマユキさん!」
目の前に装騎ツキユキハナの姿が見えた。
さっき分かれたアマユキさんと合流したのだ。
「セッカ無事みたいね」
「はい……アオノ先輩との接触はありませんでした。やっぱり、水着大会の時、みたいな」
「アナマリアの護衛についてるかもってコトね。そう考えるのは当然ね」
アマユキさんの言い方に何か引っかかるものがある。
「だって、オオダコも結構強い、ですし……きっとアオノ先輩がアズルを補ってるからだと思うんです」
「って言っても、その戦い方はとっくに私たちに見せている――となれば手を変えてくるもんでしょ」
手を変える――そういうならそれこそ最初にアマユキさんが言っていたように「ホログラムを触手だけにして武器にする」という方法が1番だと思う。
そうせずあの巨大なタコの姿で出てきたということは、そのやり方に自信があるからだろう。
実際、わたしが考える中でも攻守ともに最善の手だし。
「ま、どっちにせよアレをつつかないことにはどうしよもないのは確かね」
「つつく……ということは、攻撃を……?」
「当然。私にいい考えがあるわ」
「考えですか」
「うまくいけばあのオオダコを倒せるし、そうじゃなくても相手を誘い出せる手がね」
「あのオオダコ相手に、手が……」
「ただ、かなり危険な手よ。セッカ、過放出状態は知ってるわよね?」
過放出。
それは機甲装騎が使用可能なアズルを全て使い切った時に起きる現象だ。
細かい理屈は置いといて、簡単に言うのなら……
「エネルギー切れを狙う……ってことですね」
「そしてその為には相手が過放出するほど莫大な量のアズルを使用するように仕向ける必要があるわ」
けれどそれは諸刃の剣だ。
ステラソフィアの機甲装騎に使用されているリアクターはどれも同一規格のもの。
つまり、相手のアズルを過放出させるためには、自分たちも過放出ギリギリのアズルを乗せた攻撃で相手を攻撃しなくてはならないからだ。
「スニーフのシステムを私のツキユキハナとリンクさせなさい。アズルの管理は私が手動で行うわ」
「わかりました。アズルを使うならドラクシュチートがいい、ですね」
「そうね。その盾、アズル噴射機能あるものね」
装騎スニーフは盾ドラクシュチートを構える。
隣で装騎ツキユキハナがその手をドラクシュチートに添えた。
「一網打尽さー!」
1塊になったわたし達目がけて、アナマリアオオダコがその巨大な触手を一本、大きく振り上げる。
そして――――叩きつけてきた!
「アズルを込めなさいセッカ!」
「ドラクシュチート……ドライブ!!!!」
アナマリアオオダコの触手と、わたし達のアズルがぶつかり合う。
補助液晶に警告表示がされる。
アズルがみるみる減っていっているのが目に見えて分かった。
そして危険域に。
本来であれば過放出を防ぐためのリミッターが働く頃だけど、アマユキさんが制限を切っている為、そこから更に減っていく。
そしてそれは、恐らくアナマリアオオダコを操るアナマリア先輩騎やその補助をしている装騎ブルースイングも同じだろう。
「あと少し……あと少し耐えれば……」
アズルの消費量は相手の方が多いはず。
となればあと少し耐えれば相手の方が先にアズルを使い果たす。
そうなれば過放出で機能停止扱いになるか、もしくは相手のオオダコが解除されるかそのどちらかになる。
「なんて簡単にはいかなさそうよ」
「え?」
瞬間、わたし達の上空を1つの影が横切った。
流れるように空を滑る1騎の機甲装騎。
目を引く綺麗な青さを持つその機甲装騎は、紛うことなくアオノ先輩の装騎ブルースイングだった。
「やっぱり来たわね……!」
「アオノ先輩……!? まさか、アナマリア先輩は1人で!?」
アマユキさんは予想していたみたいだけど、わたしには信じられなかった。
ということは、アナマリア先輩はあの巨体を1人で制御して、そしてわたし達2人の攻撃を1人で受け止めていることになる。
「アナのP.R.I.S.M.能力を舐めるんじゃないさ!」
「P.R.I.S.M.能力……!」
「そうさ、アナのP.R.I.S.M.はアズルをタコの形にした時に限ってアズル効率が極限まで高まるさ!」
「そんな超限定的な!?」
けれどその能力は実際恐ろしいものだった。
なんたってわたし達2人分のアズルを1人で賄えるというのだから。
「そしてアズルが消耗したところにわたしが攻撃して撃破! それが算段だ!!」
装騎ブルースイングの周りがアズルで揺れている。
きっとアレがアオノ先輩のP.R.I.S.M.……。
「そう、これがわたしのP.R.I.S.M.! どこでも波に乗れる――――最高だぜ!!」
常にアズルの流れを作ることで、霊子衝浪盾アズライトをサーフボードのようにしていられるというP.R.I.S.M.能力。
まるでホバー装備の装騎みたいにスルスルと素早く周囲を滑りまわる。
「アマユキさん――ど、どうしよう……っ」
「ここでアズル出力を弱めたらタコの触手に叩き潰される――かと言って受け止めていてもブルースイングに倒される」
「その通り! ひゃっほー、これでトドメだぜ!!!」
正面からはアナマリアオオダコの触手。
背後からは波に乗った装騎ブルースイング。
「セッカ――ブルースイングを引き寄せなさい」
「ブルースイングを、引き寄せる……? P.R.I.S.M.で!」
「そう。できるかできないかは問わないわ。やりなさい」
きっとアマユキさんには何か考えがあるのだろう。
でも、わたしにできる?
P.R.I.S.M.能力――まだあまり使ったことないこの力を自在に使うことができるのだろうか……?
「S.T.E.L.L.A.はもう十分すぎるほどあるはず。あとはアナタのやる気次第よ!」
そうだ。
それにこの状況、わたしがP.R.I.S.M.を使えなければ負けるしかない。
「やるしか――ない…………コスズメ・セッカ、行きますっ」
そして、風が吹いた。
「ロズム・ア・シュチェスチー!!」
わたしの風が装騎ブルースイングを掴み、引き寄せる。
「風花開花!!」
それと同時にアマユキさんの装騎ツキユキハナもP.R.I.S.M.を発動させ風を起こした。
「これは――アナちゃん!」
「ゲッ、アオちゃん!!」
激しく地面に叩きつけられるアナマリアオオダコの触手。
その中に飛び込んだ装騎ブルースイングと、その中から飛び出したわたし達の装騎スニーフとツキユキハナ。
アマユキさんの狙いはアナマリアオオダコの攻撃に装騎ブルースイングを巻き込むことだった。
「セッカ、ボケっとしてるヒマはないわよ。私はアナマリア騎を叩くアナタはオオルリ・アオノの相手でもしてなさい!」
「えっ、でもアオノ先輩は……」
今の一撃で倒したはず――――と思ったけど、そんな甘い話はないわけで。
アマユキさんは全身で加速して、素早くアナマリアオオダコの身体を駆け上っていく。
その下に取り残されたわたしの目の前には、全身にダメージを負いながらもまだ十分戦闘可能な装騎ブルースイングが立っていた。
「あぶねえ、咄嗟にガードはできたでありますが……かなりのダメージを負っちまったでありますぜ」
きっとアナマリアオオダコの触手が当たるその直前、わざと装騎ブルースイングを転倒させ両足を――つまり霊子衝浪盾アズライトを掲げるように触手の前に出したんだろう。
「さすが、です……」
「そっちこそ! ふっ、けれど勝負はまだまだ終わってないぜ!」
装騎ブルースイングは駆ける。
わたし目がけて駆けてくる。
地面を滑り、アズルの波に乗り、巧みに跳び、流れ、わたしを翻弄する。
「けれど……負けられない!」
どこから攻撃してくるかわからない。
目で捉えられても反応できるかどうかはまた別だし。
アオノ先輩もその隙を見つけ、狙うためにわたしの周囲を回るように滑っていた。
ヘタに隙を見せてはいけない。
そうすれば負ける。
「けど、わたしが勝つ為にはどうしても動かないといけない……」
このまま時間が経てば経つほどアオノ先輩の有利になるだろう。
何故なら、この調子で牽制され続けたらどう考えても先に消耗するのはわたしの方だからだ。
「寧ろ、時間を稼いでアマユキさんが来るのを待つ……?」
アマユキさんが負けるとは思えない。
けれど、アマユキさんに頼った戦い方はダメだ――わたしはそう思うようになっていた。
となれば、わたしはどうにかしてアオノ先輩を攻撃に誘い出さないといけない。
隙ではない隙を敢えて作って相手を誘う……そんなことがわたしにできるのだろうか?
「さぁ、どうするでありますかァ!」
時折、装騎ブルースイングが攻撃するような素振りを見せる。
けれどそれは全てフェイントだ。
アオノ先輩もわたしの攻撃を誘いだそうとしている。
これはきっと、先に誘われた方が負ける――そんな感じだ。
そんな膠着状態を最初に破ったのは――わたしだった。
「来るでありますかァ!!」
「いきます!」
わたしは片手剣ヴィートルを構える。
身体の右側面を装騎ブルースイングのいる位置に合わせる。
盾を持った左手は真反対の位置に。
そして盾ドラクシュチートにアズルを回し――――バーストさせた。
盾から放たれたアズルが爆発する。
急加速した装騎スニーフは装騎ブルースイングへ一気に近づいた。
そして、右手に持った片手剣フルストを一閃!
「甘いぜェ!!」
けれどその一撃を装騎ブルースイングはスルリと避ける。
そして装騎スニーフの背後に回った。
「背中、取った!!」
「やっぱり……後ろっ」
それは予測済みだ。
と、いうか正面だとそのまま左手に持った盾での防御があるし一番安全なのがちょうど背後というのは言うまでもない。
僅かに身を逸らせば簡単に背中を取ることもできるし、相手にとってもソレがベスト。
そして――わたしにとっても!
わたしは左手の捻りを利用して盾ドラクシュチートを装騎ブルースイング目がけて投げた。
「妨害、でありますかァ!? ささやかだぜ!」
それは装騎ブルースイングの攻撃を一瞬遅らせたけれどそれだけだ。
でもその一瞬がわたしにとっては大事で、そして何より左手を空けるというのが大事だった。
盾ドラクシュートを投げた流れのまま、左手を腰のストックに。
そこにあるのは――――
「お願い、ツィステンゼンガー……っ」
徹甲ライフル・ツィステンゼンガー。
そのグリップを握り、
「ロズム・ア・シュチェスチー!」
P.R.I.S.M.で装騎ブルースイングをその銃口に引き寄せながら引き金を引いた。
「強くなったでありますね……!!」
その銃撃は装騎ブルースイングの機能を停止させた。
私は一気にアナマリアオオダコの身体を駆けあがる。
前回の水着装騎大会の時も考えるとこれで2度目だ。
「どうやら、私たちの策が効いてはいるみたいね」
装騎ツキユキハナを上ってこらせまいとアナマリアオオダコの触手たちが迎撃してくるが、どこか覇気のない動き。
さすがに1騎で私たち2人の攻撃を防ぐのは難しかったのだろう。
きっと相手はまだアズルが完全に回復していない。
となると――
「今このチャンスをものにすれば――勝てる」
セイジョーたるもの勝者たれ。
それはほんのわずかでもチャンスを見つけ、手にすることで成し遂げられる。
私に向かってくる触手たちをロゼッタハルバートで薙ぎ払い、そしてアナマリアオオダコの頭頂部へと到達した。
「うげぇ、ついにここまで来てしまったさ!?」
「そ、来てあげたわよ。そして――さっさと倒されなさい!」
全身の加速ブースターに火をつける。
さらにP.R.I.S.M.による追加速――――私はアナマリア騎にロゼッタハルバートを突き立てる為に走った。
「させないさ!!」
アナマリア騎の背後から触手が複数うねり、装騎ツキユキハナに向かって伸びる。
それはアズルの腕というよりはアズルの槍。
ロゼッタハルバートと触手がぶつかり合い、アズルを散らした。
「出力が回復してきているわね……」
それにオオダコこそ維持しているが周囲の触手は動きを見せず、アナマリア騎の背後から小さな触手だけが攻撃を行っている。
それはきっと攻撃に使うアズルを維持し、その密度を高める為だろう。
「けれど、このタコの身体全体がアナマリアの言うなれば手足……」
完全に相手のテリトリーの中。
けれどそれはとっくに分かっていること。
「さっさと本体を潰せば、何の問題もないものね」
と、また正面から言っても受け止められるのは当然。
ここは相手の気を逸らして背後を突く。
「ロゼッタネビュラ!!」
アズルを纏ったロゼッタハルバートを投げ飛ばす。
それはタコの触手を斬り裂きながら、正面からアナマリア騎を狙った。
「その程度なら、まだまだ止められるさ!!」
もちろんソレは受け止められる。
けれど問題は全くない。
なぜなら私はもうすでに、アナマリア騎の背後にいるからだ。
「ツキユキハナの加速力――――舐めないことね」
そして拳を固め、アズルを燃やす。
「これが一撃――――!!」
瞬間、嫌な予感が私を襲った。
咄嗟に一歩を踏みとどまり、と同時に拳を開いて手刀を脇から攻めてきた触手の腹に叩きつける。
「読まれてた!?」
「違うさ!」
アナマリアは言い切った。
「タコの腕の神経細胞はほとんどが腕にあるさ! つまり、1つ1つが独自に敵を察知することができるというわけさ!!」
「本物のタコじゃないじゃない!」
そうつっこみながらも少しだけわかった。
アナマリア騎が身に纏う触手はきっと、アナマリアの意思を特に強く素早く反映する。
私の装騎ツキユキハナが相手の背後を取った時、その事実にアナマリアは気付いたのだろう。
普通であれば気付いたからと言って素早く対応できるわけではない。
けれど――あの触手は違う。
そのわずかな防衛意識を瞬時に感じ取り、アナマリア本人の命令を受けるより先に私の攻撃を防ぐために動き出したのだ。
なるほどこれは想像以上に――
「手ごわいじゃない」
それでも1つ1つに自動迎撃機能がついている――とかそういうわけではなさそうだ。
そもそもアズルというのは騎使の意思によって操る力。
となればアナマリアの触手がどれだけ鋭敏であろうと、結局はアナマリアの勘が無ければ動きようがないのだ。
「ふっふぅ、つまり不意打ち狙いさ!? だけど、ここまで登ってきた以上不意打ちは無理さ!」
「誰が不意打ち狙いですって?」
今のは私のあの触手に対する考察。
まず間違いなく、完全な不意を突ければ触手で防御することは不可能だろう。
けれど、だからと言って今私が不意打ちを狙っているとは言っていない。
「セイジョーたるもの剛毅たれ。私はこのまま正面から、セイジョーの拳を叩きつけてあげるわよ! はぁ――ッ!!」
私は気合一声、右拳を一発、目の前を遮る触手に叩きつけた。
そして次は左!
そして右!
左、右、左、右、左、右、左、右――――!!
その速度は次第に加速をつけ、そして触手を打ち砕いていく。
それと同時に一歩、また一歩前に歩み出る。
「はぁぁぁあああああああああああ!!!!」
呼吸と共にアズルが拳に乗る。
全身の加速ブースターとP.R.I.S.M.の風が私の全身を更なる加速へと導く。
流星群のような両拳を使った連続拳撃。
名付けるのなら――――
「流星散華!!!」
装騎ツキユキハナの拳は、アナマリア騎の機能を停止させた。
「ちょっと強引だったけど、たまにはこういうのも良いわね」
アナマリアオオダコのアズルが解除され、装騎ツキユキハナは宙へと投げ出される。
全身のブースターとP.R.I.S.M.の風花開花による風で着地の衝撃を和らげ、地面に立ったところで試合終了の合図が聞こえた。
「試合終了? まさか」
目の前には機能を停止させた装騎ブルースイングと、手を振る装騎スニーフの姿。
「そう、勝ったのね」
「は、はいっ、勝て、ました」
きっと勝利した興奮がいまだに抑えられないのだろう。
セッカの言葉の端端から嬉しさがにじみ出ているのが分かった。
きっと彼女は自分のできる全てを使って戦って、そして勝ったんだろう。
その姿を見ると――
「よくやったわね」
「あ、ありがとうございます!」
思わずそんなバカみたいな言葉を言ってしまった。
本当、バカみたい。
あんなに喜んでいるセッカを見るのがどこか嬉しいなんてバカみたい。
ステラソフィアTIPS
「過放出」
機甲装騎は電気に魔力や霊力と言ったある種の生命力を魔石を利用し結び付けることで魔電霊子と呼ばれる莫大なエネルギーを生み出すことでその動力を賄っている。
その出力は無限に近いとも言われるが、だからと言って無限にアズルが利用できるわけではない。
作り出したアズルを一時的に保存する貯蓄庫が装騎には存在しており、そのタンクの容量が1度に扱えるアズルの総量となる。
総量を超えたアズルを1度に使用した時、不足アズルを補うために電気バッテリー内の電力を全て食らいつくしてしまい装騎が起動不能状態に陥ることがある。
それを過放出と言う。
最近の機甲装騎では過放出をしないように高性能のリミッターが装備されている場合も多いが、リミッターの起動による「霊子切れ」状態も機能停止扱いとなる為、その状態を俗に「過放出」と呼ぶこともある。
作中で狙っていた過放出状態は、どちらかと言うと霊子切れ状態に近い。
どちらも似た状態ではあるが、霊子切れは装騎を再起動すれば問題なく使用できるのに対して、過放出はバッテリーがお釈迦になる為にバッテリーを交換しないと装騎が起動できなくなるという違いがある。
ちなみにちなみに、霊子反応炉のリミッターは2種類あり、1つはアズル出力をレッドゾーン以下でキープさせるためのリミッターで、もう1つが過放出を防ぐ為の最終リミッターになる。
作中でアマユキがオフにしたのは前者のリミッターで、そうすることでリミッターによりアズルの放出量が制限される状態を回避していた。




