第17話:戦慄の妖精王-Vítr Sekky-
「ステラソフィア代表選抜大会ドヴォイツェ部門! 次の試合は――ドヴォイツェ・スニェフルカVSドヴォイツェ・マイ・フェアリーキングです!」
チャタリン先輩の声がわたし達の試合の始まりを告げる。
次の相手はわたしとセイジョーさんがよく見知った相手。
ハクツキ・ミツキちゃんとランベール・クリスティーナちゃんのドヴォイツェ・マイ・フェアリーキングだ。
「ミツキちゃんとクリスティーナちゃんが……相手」
「何? 友達が相手だからって気後れしてるワケ?」
「そういうのじゃ……ないです。けど、なんか、不思議な気分だなって」
「まっ、アナタはこういうの初めてでしょうしね。何、倒したからって死ぬワケじゃないわ。全力でいくわよ」
「わかってます……絶対に…………勝つ」
セイジョーさんのために。
そして、試合が始まった。
「セッカ、援護しなさい!」
「は、はいっ」
先行する装騎ツキユキハナの背後から、わたしは徹甲ライフル・ツィスンテンゼンガーを手に追いかける。
「きっとすぐに交戦になるわ」
「はい……」
ミツキちゃんとクリスティーナちゃんの性格を考えると、きっと正面からぶつかってくる。
ただし――それは何の策もなく……ということでもないけれど。
「不意打ち!」
セイジョーさんが声を上げる。
咄嗟に回避した装騎ツキユキハナとわたしの装騎スニーフ。
その間の地面に火を噴く何かが突き刺さった。
「これは……ロケット……?」
「プリンセス・オブ・ユニヴァースね」
セイジョーさんの言う通り、それはクリスティーナちゃんの装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースの攻撃だ。
先のアストリフィア・メイ先輩の件からも分かるように、チーム・シーサイドランデブーは高火力武器を得意とする騎使が多い。
それはクリスティーナちゃんも例外じゃない。
「けれど――奇妙ね」
「はい……ロケットが、爆発しません……」
ロケット弾はやがて推進剤が切れ火を噴くのをやめる。
それでも微動だにしないのは――何か、怪しい。
その疑念を引き裂くように、更なる飛翔音が鳴り響いた。
「来たわ、飛翔弾!! それも複数!」
そのロケット弾はわたし達2騎を纏めて狙うように襲い掛かる。
「回避!」
更に大きく身をそらした装騎スニーフと装騎ツキユキハナの間で大きな爆発が巻き起こった。
「コッチが本命……ってこと、ですね」
「ロケット弾は直進しかできない……ってことは敵は正面ね」
装騎ツキユキハナは全身のブースターに火を灯すと、一気に加速する。
「!! セイジョーさん、違う!」
わたしは見た。
装騎ツキユキハナが加速し、走り出したその瞬間――複数のロケット弾が装騎ツキユキハナに向かって飛んでいくのを。
「っ!!」
強烈な爆発。
そして閃光、爆音。
「ギリギリ――間に合った……」
「……一応、感謝はしておくわ」
装騎ツキユキハナへの攻撃を防いだのは、必死でわたしが投げた盾ドラクシュチート。
「けど……ちょっと早計だったようね」
セイジョーさんは静かにそういうと、不意にわたしに向かってロゼッタハルバートを投げつけた。
真紅のロゼッタハルバートが蒼く染まる。
「ロゼッタネビュラ……っ」
ぶつかる――――いや、違う。
ロゼッタネビュラは装騎スニーフの脇を抜け、背後に回り――ガギィン! と激しい金属音を鳴らした。
「マヂか!」
わたしは咄嗟に背後を振り向く。
そこに居たのはミツキちゃんの装騎Bムーン。
2対の月牙が特徴的な月牙杖ソーテンを扱った接近戦が得意な装騎だ。
ロケット弾で注意を引き付け、さらにわたし達を分断。
そこに不意打ちを仕掛けるという算段だったみたいだ。
ということは――セイジョーさんの所にも!
「フッ、ディ・ユニヴァースがオラクルか……」
クリスティーナちゃんの装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースが来る。
「背後から――!」
装騎ツキユキハナは反転、正面からくる装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースを睨む。
「何でプリンセス・オブ・ユニヴァースは背後から……ううん、そんなこと考えてるヒマはないわね」
わたしもセイジョーさんを気にかけてるヒマはない。
装騎Bムーンの放つ月牙杖ソーテンの連撃を必死でかわし、いなす。
月牙杖ソーテンは相手を絡めとり、切断する武器――けれど、多少は斧のような重量攻撃もできる。
問題は、それに耐えられるような武器を装騎スニーフは持ってないということだ。
「ドラクシュチートを投げた時、片手剣を抜いててよかった……けどっ」
わたしの片手剣ヴィートルはあくまで盾で防ぎながら相手の隙を探り、そこに一撃を入れる為のもの。
ことさら長柄武器と打ち合うには向かない。
リーチの差も、わたしの実力も、全然足りない。
「上手く、ツィステンゼンガーの間合いにまで引き離せれば、いいけど……」
そうすれば、盾を投げる為にストックしなおした徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを装備しなおすヒマもできる。
けれど、ミツキちゃんはわたしのことをよく知っている。
わたしの武装をよく知っている。
となれば、距離を開かせるなんてことを許すわけなかった。
「さぁ、ガン行くガン行くぅ!!」
咄嗟の襲撃で相手のペースにはまっているコスズメ・セッカ。
けれどそれは私も同じだった。
「早計とは言ったけど……本当、早計だったわ」
あの程度の不意打ち――私なら容易に防げた。
その結果装騎スニーフは装騎Bムーンに対して隙を作ってしまい――そして、私もロゼッタハルバートを失った。
と言いつつセッカを責める気にはならない。
結局、私は自分の意思で装騎スニーフを――セッカを守るために自らロゼッタネビュラを使ったのだから。
「さて……問題は素手でどうやってプリンセス・オブ・ユニヴァースと戦うかね」
装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースのメイン装備はロケット弾。
中遠距離からの攻撃が得意だ。
近距離――それも拳の届く範囲しか攻撃できない今の装騎ツキユキハナとの相性は悪い。
「相性は悪い――けれど、手がないとは言ってない」
静かに腰を落とし全身にアズルを巡らせる。
ロケット弾の軌跡はほぼ直線。
見たところ、それ以外の武装は見えない。
しいて言うなら肥大化したような左腕の装備が気になるところだけれど、アレは恐らく近接打撃用の衝撃集中爆弾だろう。
アストリフィア・メイ対策に姉サツキの戦闘記録を調べた時に似たような装備を見た。
対装騎用炸裂式アームハンマー・ハンマートゥフォールと言ったか……。
「アレにだけ気を付ければ――押し通せる!」
私は思いっきり一歩踏み込む。
瞬間、急激な加速――同時に強烈な負荷が身体を襲った。
それに構わず私は装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースを睨む。
「正面突破! フッ、さすがは我が見込んだクイーンとなりし者!」
正面から複数のロケット弾頭が私目がけて襲い掛かってくる。
私はそのロケット弾を受け流し、避け、掴み放りながらどんどん装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースへと距離を詰めていった。
「だがしかし! セイジョー・アマユキが実力は承知! 故が奇策! ディ・ユニヴァースがオラクル!」
「奇策?」
警告音が鳴り響く。
熱量が装騎ツキユキハナへ近づいてくる警告。
「右斜め下っ」
私の放った肘打ちが落とした何か――それが爆炎を上げた。
「ロケット弾!? いえ――コレは……誘導弾!! でも、どうやって誘導させてるの!?」
通常、ミサイル兵器は何かしらの方法で弾頭を誘導させないといけない。
その為の照準器だったり、誘導用の波長を放つ機器を必要とするはず――けれど、装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースからはそういうものを放ったような様子は見えない。
ミサイル本体に誘導用のセンサーを取り付けるという実験も行われているが、実用化されたという話も聞かない。
ならばどうやって……。
「そういう素振りはない……本当に?」
私の頭に過ったのは、試合開始時に打ち込まれた1本のロケット弾。
爆発せず、ただその場にあるだけのロケット弾――その存在を奇妙に思っていたけれど……。
「まさか、ロケット弾の中に誘導用の機器を仕込んで!?」
そうか――先手で装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースが放ったロケット――いや、ミサイル弾はあの不発のロケット弾に誘導されて飛んできたのだ。
それをロケット弾による牽制攻撃と思い込んだ私たちは背後を取られた……。
「今も――弾き飛ばしたロケット弾の中に誘導用のチップか何かがあって……」
「イグザクトリー! チップはすでにツキユキハナへと取り付けた! あとはメイド・イン・ヘヴン! ディ・ユニヴァースが意思のままに!」
直進するロケット弾。
それに混じり、私を襲う誘導弾。
ロゼッタハルバートがあれば容易く切り払うこともできるけれど、拳を使っている以上、ヘタに爆発させればツキユキハナにダメージが入る。
「そういうことね……ッ」
けれど――――
「それがどうしたっていうの?」
P.R.I.S.M. Akt.1
私の周囲にアズルの花びらが舞い上がった。
アズルの流れが風になり、その風がロケット弾をミサイル弾を明後日の方向へとそらしさらに爆風の熱と衝撃を防ぐ。
「これが私のP.R.I.S.M.能力――風花開花!」
「ディ・ユニヴァァァァアアアアス!」
風の乗った一撃――これを決めれば、勝てる!
幾度となく爆音が響くのを耳にしながら、わたしは装騎Bムーンの攻撃を必死に耐えていた。
片手剣ヴィートルで斬り込むには相手の攻撃が激しすぎる。
けれど、この間合いでは有効打を打つことはできない。
「ツィステンゼンガーで、撃つ……?」
そうなると、どこかで隙を見てツィステンゼンガーを装備しなおさなければならない。
いや、無理だ。
この絶妙な間合いで、空いた左手で掴むにしても、ツィステンゼンガーの銃把は右手側にあり、持ち直すのにもコツがいる。
「せめてセイジョーさんが合流してくれるまで……なんとか、凌ぐっ」
今のわたしにできるのはそれだけ。
セイジョーさんが負けるはずない。
となれば、セイジョーさんとクリスティーナちゃんの戦いが終わるまでとかこの場を凌ぎ、セイジョーさんが2対1になるという状況を回避することに力を尽くすしかない。
「たんきー!」
けれど、それを察したのか装騎Bムーンはより一層攻めに力を入れる。
装騎Bムーンの動きは軽やかで流れるようで、それはまるで舞踊でも舞っているかのようだった。
「ハクツキ流装騎舞踊……!」
そういえばセイジョーさんが言っていた。
ミツキちゃんの家、ハクツキ家は装騎舞踊と呼ばれる装騎を用いた芸能で有名な家だと。
そしてその舞踊の動きを戦いに取り入れたハクツキ流戦闘術を使用すると。
それがこの舞うような装騎Bムーンの動き。
装騎Bムーン自身の動きもそうだけど、月牙杖ソーテンの動きもまた流麗で綺麗。
静寂の中で草木を揺らす一陣の夜風のような動き。
そして、雲の隙間から光を差し込ませる月影のような月牙杖ソーテンの煌き。
「ガン行くぅー!!」
ミツキちゃんの破天荒でデタラメな言動と相反するように、綺麗で洗練された装騎Bムーンの動きがわたしを、装騎スニーフを圧倒した。
ヘタに接近、反撃を試みても弧を描いた月牙に止められ、流され、結局は相手の間合いに戻される。
このままだと――遅かれ早かれ――――
「負ける……?」
そんな予感がした。
いけない。
これは負けパターンだ。
「こうなったら……一か、八か」
わたしは腰部にストックされている徹甲ライフル・ツィステンゼンガーに意識を向ける。
手早く武器を持ち替え、そして素早く射撃する。
そんな技を――わたしができるか?
わたしはアマレロさんとの特訓を思い出していた。
1対1の単純な戦闘能力ではどう考えてもアマレロさんの方が上――わたしはそんなアマレロさんと何度も何度も戦っているじゃないか。
…………勝てたことは、まだ1度もないけれど。
「そこだと思ったら攻撃。今だと思ったら攻撃……躊躇わない、躊躇わない、躊躇わないっ」
「へいほー!!」
装騎Bムーンが繰り出した一撃。
それはほんのちょっと――ほんのちょっとだけだけれど、今までの攻撃と比べると大振りで隙のある動きだった。
「そこですっ」
わたしは片手剣ヴィートルを手首のスナップを活かして素早く左手に持ち替える。
と同時にストックに手を伸ばし、徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを持ち、構える!
「!? 激速ちゃん!?」
「そして撃つ!!」
徹甲ライフル・ツィステンゼンガーの銃撃は装騎Bムーンに命中した。
「おどろきもものき!」
けれど、咄嗟の銃撃でまだ狙いが甘かった。
多少のダメージを負いながらも装騎Bムーンは健在。
「間合いを取る隙はできましたから……まぁ……っ」
とりあえず相手の間合いからは脱する。
ここからは、わたしの番です!
――と思ったけれど。
「この光は……」
突如として装騎Bムーンを照らしたアズルの輝き。
そう簡単に勝たせてはくれないようだった。
「チョーイーネ! サイコー! P.R.I.S.M.発動だよー」
「!!」
装騎Bムーンが月牙杖ソーテンを構える。
間合いは遠い――その一撃がわたしに当たるとは思えない。
けれど、
「ミツキちゃんのP.R.I.S.M.がどんなものなのか……わたしは、知らない……っ」
ここで攻撃の構えを取る――ということは。
「月虹歌譚!!」
わたしの予想通り、振り払った月牙杖ソーテンからアズルの刃が放たれた。
月のような光の刃が空を駆け、装騎スニーフを狙う。
「しまった……」
距離を開け相手に対して優位を取れた――そう思っていた。
けれど、ミツキちゃんのP.R.I.S.M.は遠距離使用のできるアズル攻撃。
つまり遠距離から攻撃できるという装騎スニーフの利点はプラスマイナスゼロになる。
「それでも……連射性は……っ」
そう思って徹甲ライフル・ツィステンゼンガーを連射するけれど、装騎Bムーンのアズル攻撃はあくまで副産物だと言うことに気付く。
そう、装騎Bムーンは月牙杖ソーテンを振るたびにアズルの障壁を貼っていたのだ。
あの遠距離アズル攻撃は言うなればアズル障壁を攻撃に転用したものだった。
状況は結局仕切り直し。
もしも、ここからわたしが逆転する――そんなことが可能なら……。
「P.R.I.S.M.……」
けれど装騎スニーフはうんともすんとも言わない。
何が足りない?
どうして発動できない?
P.R.I.S.M.は|S.T.E.L.L.A.《ステラ》――言うなれば観客からの注目度が高まった時に発動できるようになるという。
注目度が足りない?
それとも――わたしに何か、足りないものがある……?
足りないもの――わたしに足りないものがある……。
ううん、わかっている。
わたしには足りないものだらけだ。
前に踏み出す勇気もなければ、後ろに退く勇気もない。
セイジョーさんのような一生懸命さもないし才能もない。
今できることをただひたすらやる――そんな気概すら、ない。
「今、できること……今、したいと、思うこと……」
正直、手はあった。
それはたった今に限ったことではない。
ずっと、装騎Bムーンと戦い始めた時からずっと考えていた。
尤もそれは"手"なんて呼べるものじゃなくて、一歩間違えればただの無謀、無意味な反撃――いや、反撃にすらならないことだ。
だからやらなかった。
そこに賭ける気概がなかった。
胸がざわつく。
わたしの本能が、ソレしか手はないと叫んでいる。
それをわたしの理性が阻む。
「わたしは――わたしは……っ」
その理性を――――わたしは、抑え込むっ!
「コスズメ・セッカ、行きますッ!!」
そこだ!
わたしはただそう感じたタイミングで、一歩を踏み込んだ。
装騎スニーフの突然の行動に驚いたのか、一瞬――ほんの一瞬装騎Bムーンの動きが止まる。
わたしが狙うのは――装騎Bムーンのその懐!
月虹歌譚と、そして月牙杖ソーテンの間合いよりも更に深く踏み込んだその場所。
危険は多い。
返り討ちにされる可能性も高い。
けれど、わたしは何故だろうか――その一撃に、賭けてみたくなった。
「セカチュー!」
「届いてぇ――!!」
わたしの放った一撃は――――あと一歩、届かない。
「スティック&エッグプラント!」
その間合いは最悪の間合い。
月牙杖ソーテンの一撃がきれいに入る場所だ。
せめて、せめてあと一歩、踏み込めれば……っ。
「ソーは問屋が卸さない!」
装騎Bムーンは素早く月牙杖ソーテンを構えると、その一撃を――装騎スニーフに放った。
P.R.I.S.M. Akt.1
瞬間、風が吹いた。
「うわちょ!?」
装騎Bムーンがわたしの目の前に迫ってくる。
いや違う。
どうやらそれは装騎Bムーンの意図したものではないようだった。
見るからに装騎Bムーンはミツキちゃんの動揺を態度で表している。
「Bムーンが……寄せられちゃったよ!?」
そうか――これがわたしの、P.R.I.S.M.……。
その能力は、
「相手を、わたしの近くに、引き寄せる……!?」
言うなれば、相手を吹き飛ばすセイジョーさんのP.R.I.S.M.とは真逆の能力。
そして今、間合いはわたしの――片手剣ヴィートルの間合いになった。
「風といっしょに……っ!」
装騎スニーフの一撃は
「やーらーれーたー」
装騎Bムーンを機能停止にさせた。
装騎ツキユキハナの拳が装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースを狙う。
この一撃で決める――そんな私の気持ちを乗せて。
「我は此処に居る!!」
不意に装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースの身体から燻る炎のようなアズルが沸き立つ。
不味い――私はそう直感する。
「風花開花!」
P.R.I.S.M.の風が吹き抜けるとほぼ同時――――プリンセス・オブ・ユニヴァースが全身から火を噴いた。
「キャッ!?」
強烈な衝撃と熱気が私の身体と、装騎ツキユキハナを襲う。
この強烈なアズル爆発が――ランベール・クリスティーナのP.R.I.S.M.技!
辛うじて風花開花でダメージを軽減できたとは言え、あの爆発の中に高速で突っ込んだのだ。
私の装騎ツキユキハナのダメージも小さくはない。
「なるほど、コレがP.R.I.S.M.ってワケね……」
単純な騎使の実力、装騎の武装、スペック以上の何かを引き出すP.R.I.S.M.。
油断すれば、その一瞬が命取りにもなりうる新しい装騎バトル。
「けれど、ソレが何なワケ? いつもと変わらないじゃない。そうでしょ、アマユキ」
そう、セイジョーたるもの勝者たれ。
敵が想定以上の実力や隠し玉を持っているのはいつものこと。
それが例え、P.R.I.S.M.と呼ばれる新技術由来だろうとなんの変りもない。
「十分に勝てるわ!」
「フッ、ユニヴァース!」
装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースがロケット弾を放つ。
それと同時に、全身を包み込むアズルの小爆発。
「これは……っ」
その爆発に後押しされ、ロケット弾が急激加速した。
「爆発を利用した追加速! チッ、なかなかに厄介じゃない」
最初の反撃で詰めた距離も仕切り直し。
つまりは、装騎ツキユキハナは完全に不利な間合いだ。
「距離を詰めないと攻撃はできない。けれど、ヘタに距離を詰めても――」
あのアズル爆発で反撃される。
だからと言って――
「距離を詰めないワケにはいかないでしょ!」
セイジョーたるもの勝気たれ。
いいえ、勝つ。
「リアリー!?」
風が渦巻く。
迫りくるロケット弾、ミサイル弾に集中する。
一歩間違えれば私の装騎は機能を停止するだろう。
そんなギリギリの状況こそ私の力になる。
逆風こそが――追い風だから!
「来たわよ!」
拳を固め、相手を見据える。
「ウム!!」
装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースもその左腕をそっと引き、構えた。
間合いは微妙に相手の方が長い。
けれど、基本的には五分五分だ。
五分五分ということは――私が勝つ。
「フッ……」
しかし私は装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースに奇妙な余裕を感じた。
「ナウ・アイム・ヒア!」
装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースから溢れ出すアズルの炎。
アズルの爆発が来る?
けれど、このタイミングで?
今の間合いはまだ遠い。
となれば、私も風花開花を全力で使えば爆発から回避し――なんなら相手の後ろを取れる。
私の勝利は確定と言ってもいいだろう。
けれど……そう簡単にはいかないでしょうね。
「ファイト・フロム・ディ・インサイド……ッ」
瞬間、プリンセス・オブ・ユニヴァースの左腕が――爆発した。
これは――アズル爆発を利用して左腕のアームハンマーを飛ばす――言うなればロケットパンチ!
通常、ああいう爆破攻撃系のアームハンマーは着脱式になっている。
そのパージ可能という点と、アズル爆発を利用したロケットパンチ――――それをクリスティーナは狙っていた!
「ロズム・ア・シュチェスチー!」
けれど、装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースの一撃は私の装騎ツキユキハナには当たらなかった。
「ディ・ユニヴァース!!!???」
「セッカ!!!!」
装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースはどういうワケか攻撃の矛先を装騎スニーフに向けた……いや、向けさせられたのだ。
「アマユキさん! トドメを……っ」
強烈な爆打撃を受け装騎スニーフは機能を停止する。
何、これだけやれれば十二分よ。
「ロゼッタ、ストライク!」
装騎ツキユキハナの拳は、間違いなく装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースの機能を停止させた。