第16話:楽しいクリーン活動-Netajný Výcvik-
「駅ナカいこー」
「フッ、其がユニヴァースがオラクルか……」
「ねえ……気になってたお店があるんですけど」
「待ちなさい!!」
放課後の余暇。
いつもの4人でどう過ごすか相談するいつもの時間。
纏まりかけていた話にセイジョーさんが待ったをかけた。
「どしたのー?」
「なんで私たちがアナタ達2人と一緒に仲良く遊びにいかないといけないワケ?」
「いまさらー。いつメンじゃーん」
「オー、マイ・ベスト・フレンドよ!」
ミツキちゃんとクリスティーナちゃんが嘆きの声を上げる。
それもそうだ。
ここ最近、なんだかんだ言いながらセイジョーさんはわたし達に付き合っていてくれた。
それが急に一緒に遊びにいけないだなんて……。
というか――
「あれ……? もしかして、わたしもセイジョーさん側に入ってる、んですか?」
セイジョーさんは「私たちがアナタ達2人と一緒に」と言っていた。
その私"たち"っていうのは……。
「当然じゃない」
当然みたいだった。
「な、なんでミツキちゃん達と遊びに行ったらダメ、なんですか……?」
セイジョーさんの目つきが険しくなる。
「アナタ達忘れたのかしら? ステラソフィア代表選抜大会! 次の試合は私たちスニェフルカとアナタ達マイ・フェアリーキングの試合でしょうが!」
そう、わたし達ドヴォイツェ・スニェフルカの次の試合相手はミツキちゃん、クリスティーナちゃんのドヴォイツェ・マイ・フェアリーキング。
確かに今この瞬間、わたし達はライバル――だからと言っても……。
「ブー。いーじゃん。遊び行くくらい!」
「マイ・ベスト・フレンドよ! セイジョー・マイフレンド!」
「いい? まず第1に私はアナタ達を友達だと思ったことは無い。第2にそういうケジメはしっかり付けたいの。おわかり?」
「それ違アマチャ! 試合は試合でケジメだよ! でも、日常は日常でケジメ! おかわり?」
「はぁ?」
わたしにはミツキちゃんの言いたいことが少しわかった気がする。
「つまり……試合なら試合でちゃんとライバルとして戦う。でも、それとは関係ない日常では変わらず友達として付き合う。それが本当のケジメなんじゃないか……ってことですよね」
「ダイソー!」
わたしの解説に、セイジョーさんの表情がわずかに歪む。
そこから困惑こそあれ憤りは感じない。
どちらかと言うと、わたしとミツキちゃんの言葉を受け入れようとしているような表情。
「セッカ、アナタもそう思うのかしら?」
「えっと……はい。それにもう、習慣、みたいなもの……ですし」
「はぁ。ちょっとだけよ」
「フッ……これぞディ・ユニヴァースがミラクルだな!」
「ったく……でも何でそんなに私を連れて行きたいワケなのよ」
「みんなセイジョーさんが好き、なんですよ。えっとその……わ、わたしも」
「…………」
セイジョーさんが顔をそむける。
何を考えているのかは分からない。
けれど、悪い気持ちではなさそうだ。
「ワッフルあるよー。わっふるわっふる」
「試食でデリシャス!!」
「わぁ……本当、おいしい……セイジョーさんも食べます?」
「まぁ、貰うわ」
「セカチューの行きたいトコドコ?」
「お花がモチーフの雑貨屋さんがあるって聞いて、行きたいなって思ってるんですけど」
「ちょーいーね!」
簡単なおやつを済ませ、わたしも目当てのお店にも行くことができた。
今日はこれくらいでお開きかな? と思ったその時、ミツキちゃんが言った。
「実はセカチューとアマチャを連れて行きたいトコがあるのだ」
「連れて行きたいところ、ですか……?」
わたし達はミツキちゃんに案内され、駅を出る。
そこからちょっとした裏通りに足を踏み入れ、どこかのどかな住宅街をゆっくりと進む。
「どこに、行くんですか……?」
「実はわたしら! ドヴォイツェしなーい言われて、ドヴォイツェなるためトレってたのだ!」
「日々精進、日々鍛錬。さすればクイーン・オブ・ディ・ユニヴァースへの道に続くのだ!」
「特訓……ですよね? えっと、ソレが……?」
「わたしらの師匠! セカチューとアマチャに紹介したいのです!」
「はぁ?」
今まで静かだったセイジョーさんが苛立ち混じりの声を上げた。
「どしたアマチャ?」
「さっき言ったわよね? 私たちとアナタ達は敵同士! それを師匠と会わせるとか……」
「まぁ、おちつこアマチャ。確蟹、わたしら特訓を付けてもらってる! だがそれだけナッシングー」
「どういう、ことですか……?」
「特訓ついでのボランティア! そう! 今日はそれを手伝ってェー!」
突然の協力宣言にわたしは困惑。
それはきっとセイジョーさんも一緒だろう。
それにセイジョーさんなら……
「何で私がそんなことしないといけないのかしら?」
まぁ、そう言うかなと思った。
「私たちにだってやることがあるの。一々そんなことに協力しているヒマはないわ!」
装騎戦をしたり、プラモデルを作ったり……確かにいろいろあると言えばある。
「セッカ、帰るわよ!」
そう言いながら、その場を離れようとするセイジョーさん。
不意にセイジョーさんが何かから身をかわすように身体をそらした。
「あら、ごめんなさい」
「おっほっほ……気を付けなされ」
そこに立っていたのは1人のおばあちゃん。
腰を深く曲げ杖をついたいかにもおばあちゃんと言った感じのおばあちゃんだ。
失礼なのは分かっているけど、こんなにおばあちゃんらしいおばあちゃんは初めて見た。
「おスズさんー!」
「マイ・グレート・マスターよ!」
「おお、ミツキちゃんにクリスティーナちゃんかい。ということは、このお2人がこの前話してた……」
「そ。セカチューとアマチャだよー!」
ミツキちゃんとクリスティーナちゃん、そしておスズと呼ばれた老婆の言葉から推測するに恐らくは……。
「アナタが2人の師匠ってワケね」
「ワシは2人にお手伝いしてもらっているだけじゃよ」
そう穏やかに笑うおスズさんだけど、何か、どこかしら迫力のようなものを感じる。
きっとこの人は……ただものではない。
「今日もお手伝いしてくれるのかの?」
「そのとり! 今日はなにする? どーする?」
「オラクルよ来たれり!」
「それじゃのう……今日は4人いるしのう……」
「は? 私たちも入ってるの!? 私はもう帰るわよ」
セイジョーさんの言葉に、おスズさんはどこか表情が暗くなる。
「そうかい、帰るかい……悲しいのう……」
悲しみに沈むおスズさんの表情を見て、セイジョーさんの心が揺れているのを私は感じた。
「独りぼっちのワシにとっては、家族が増えるようで楽しみだったのにのぉ……」
「あーもう、わかった。わかったわよ! 手伝えばいいんでしょ!?」
そしてついにセイジョーさんが折れた。
セイジョーさんは意外とこういう年寄りに弱いみたいだ。
「それじゃあ、お願い事をするとしようかの……」
わたし達はどういう訳か、袋を2つほど腰に付けられトングを手渡された。
わたしの付けた袋には「燃えるゴミ」「ビン」と書かれている。
「カン……それにペットボトル? 何なのよコレ」
セイジョーさんもわたしと同じように袋とトングを渡されているけれど、袋に書かれている文字が違った。
反面、ミツキちゃんはわたしと同じ文字が書かれた袋、そしてクリスティーナちゃんはセイジョーさんと同じ文字が書かれた袋を持っている。
これが意味することはつまり……。
「これからミツキちゃんとクリスティーナちゃん、セッカちゃんとアマユキちゃんの二人一組に分かれてゴミ拾いをしてもらうのじゃ」
「ドヴォイツェに分かれてゴミ拾い……ですか」
「そうじゃ。ゴミはちゃんと分別するんじゃぞ。その為の袋じゃ」
おスズさんはまるでゲームのルール説明をするかのように言った。
「ゴミを拾うのはステラソフィア駅前の円形エリアじゃ。せっかくじゃし、制限時間内にたくさんゴミを集めたドヴォイツェの勝利というルールでもつけようかの」
「これぞオウガバトル……!」
「意味わからんちん」
「ふぅーん、ゴミ集め勝負ってことね」
「その通りじゃ」
ゴミをたくさん集めた方が勝ちのドヴォイツェ戦……それは一見ただのゴミ集め勝負。
「セイジョーたるもの照射たれ。ゴミ集めでも勝負っていうなら勝たないといけないわね」
「ほっほっほ。互いの健闘を期待するぞ」
でも、それが単純なゴミ拾いではないというをわたし達が知るまでそうかからなかった。
「レシート、バーガーの包み紙、たばこの吸い殻……これは燃えるゴミ、ですよね。あ、ペットボトル……はセイジョーさん!」
「ペットボトル? の袋は……コッチね。セッカ、入れなさい。あとコレ」
「燃えるゴミ――じゃないですね……ビンはえっと…………」
さすがに人通りの多い駅周辺。
どうしても様々な種類のゴミが落ちている。
それを集め、分別する――にしても、自分が袋を持っていない分類のゴミはセイジョーさんの袋に入れる必要があった。
そして、袋は互いに2つずつ――そのどちらの袋にどちらのゴミが入っているのかを覚えるか、とっさに判断しないといけない。
「セッカ、燃えるゴミ!」
「はいっ。あ、カンカンっ」
「ソッチの袋じゃない!」
ゴミを拾い、それを自分の持つ2つ袋とセイジョーさんの持つ2つの袋――つまり、4つの袋の内どれにいれるゴミなのかを咄嗟に判断。
そして、それを適切な袋に入れる。
場合によっては相棒と声を掛け合い連携し合いながらゴミを探し、拾う。
「"特訓"とはよく言ったわね……コレは咄嗟の判断力と相方との意思疎通能力を鍛える為のゴミ拾いっ!」
「このゴミ拾い、ドヴォイツェに……ううん、装騎戦に必要な要素がある…………ってことですね」
これでも以前より2人のチームワークはよくなってきているはず……と思っていたけれど、まだまだイマイチ噛み合わない。
「ミツキちゃんとクリスティーナちゃんは……」
一方、2人は何度もこういうことをやっているんだろう。
手慣れた手つきでゴミを拾い分別している。
「あー!」
「うんっ!」
「なむー!」
「さんっ!」
「さもー!」
「さんっ!」
何を言ってるのかはよく分からないけど、的確にゴミを分けていく。
あの掛け声で、手短にゴミの分類を知らせているんだと思う。
すごい。
「でもアレはなんか違うでしょ」
「まぁ、それは……」
「と言っても、このままじゃ負けるわね……スピードアップするわよ」
「は、はいっ」
勝負に勝つなら悠長に相談している暇がないのはわかる。
けど、具体的にどうスピードアップすればいいのかわからない。
セイジョーさんはゴミを拾い、処理する速度を上げていく。
わたしもゴミを拾う速度を上げるけど、どうしても分別の時点でもたついてしまう。
「セイジョーさんの判断力はすごい的確……動きも早い……わたしは…………」
セイジョーさんがビンを拾った。
それを見たわたしはすぐに袋を差し出す。
「それでいいわ」
ゴミ袋にビンを入れた時のセイジョーさんの一言。
“それでいい”……?
わたしがペットボトルを拾うと、セイジョーさんは他のゴミを拾いながらもペットボトルの袋を開いた手で突き出して来る。
そうか、それでいいんだ。
わたしはセイジョーさんの動きを見る。
「燃えるゴミです」
「ん」
わたしがペットボトルやカンを拾うと、セイジョーさんが袋を差し出す。
セイジョーさんが燃えるゴミやビンを拾うと、わたしは袋を差し出す。
自分たちのことをやりながら、互い互いの動きを気にし合う。
最初のうちは手間取ったけれど、気付けばわたし達の作業はスムーズになっていってた。
「制限時間終了じゃ!」
おスズさんが声を上げる。
わたしとセイジョーさん、そしてミツキちゃんとクリスティーナちゃんはおスズさんの元に集まった。
おスズさんがわたし達の集めてきた袋の重さを量る。
1つ、また1つと重さを量り、見比べ、そして1つの結論を出した。
「今回のゴミ集め勝負……勝者は!」
4人の視線が1つに集まる。
沈黙は一瞬――けれど何故だろう、長く感じた。
「僅かな――非常に僅かな差じゃが――――ミツキ・クリスティーナドヴォイツェの勝利じゃ!」
負けた……。
それもそうだろう。
ミツキちゃんもクリスティーナちゃんもこの特訓を以前からやっていたという。
「だが、セッカちゃんとアマユキちゃんもよくがんばったよ。初めてなのにこの2人に僅差なのじゃからなぁ」
「ふん」
セイジョーさんはどこか面白くなさそうだ。
わたしは――謝ったほうが、いいのだろうか?
「謝ったら許さないわよ」
セイジョーさんがわたしの心を見透かしたかのように言った。
「いい? これはあくまでお遊び。本当の勝負はまだこれから」
「そう、ですね……。わたし、負けません。次こそ、絶対に」
「当然よ。勝つわよ。試合では!」
セイジョーさんの瞳の炎は本物。
この勝負は負けたけど、なんだろう。
セイジョーさんとの距離がぐっと近づいた――そんな気がした。