第14話:絆の形-Kdo potřebuje vás-
「メイ先輩の情報を集めるのはいいですけど……どう、しましょう」
「そうね……」
ステラソフィア代表選抜大会第1試合の相手「絶対最強ツバメちゃん軍団」への対策――それがわたし達ドヴォイツェ・スニェフルカの急務だった。
その中でも特に不透明なのがチーム・シーサイドランデブー2年アストリフィア・メイ。
ステラソフィア機甲科に在籍していることから装騎の腕もなかなかのものだと思うけれど、調べた限り大会などでの記録はない。
出てくるのはどれもアマチュアバンド・メイクイーンのギター兼ボーカルで、卓越した歌唱、演奏センスを持っているということばかりだ。
「調べても埒があかないわね」
「だったら……直接会ってみる…………っていうのはどうでしょう?」
我ながら変な意見だとは思ったけれど、それ以外何も思いつかなかった。
「まっ、前に会った時はサエズリ・ツバメに一方的に宣戦布告されただけだったし……改めてっていうのはいいかもしれないわね」
と、いうことでわたし達が来たのはチーム・シーサイドランデブーの寮室。
その呼び鈴を鳴らすと、中から「はーい」とメイ先輩の声が返事をした。
「タイミング良いわね」
扉が開くとメイ先輩が顔をのぞかせる。
「おっ、ドヴォイツェ・スニェフルカ! どーしたっすか?」
「何、宣戦布告に来たのよ。ドヴォイツェ・ツバメちゃん軍団のアストリフィア・メイ」
「絶対最強ツバメちゃん軍団っす」
「長いのよアナタたちのドヴォイツェ名!」
確かに長い。
それに絶対最強ってもしわたしがそのドヴォイツェに所属することになったらその――なんていうか、恥ずかしいと思う。
「用はそれだけっすかー?」
「まぁ、それだけだけど」
「なら丁度いいっす!」
「何が?」
「丁度いい……?」
メイ先輩の言葉にわたしもセイジョーさんも首を傾げた。
「ちょっと来てもらいたいっすよ!」
そんなわたし達をメイ先輩はシーサイドランデブーの寮室へと上げる。
そのままメイ先輩の部屋に通された。
雑多に物がばら撒かれてながらも、汚いとまでは言えない絶妙な生活感がある部屋。
そこには大きなスピーカーやアンプ、ギターが置かれ何やら楽譜と思しき紙が散らばっている。
「で、用って?」
「実は今、ツバメさんの為の曲を作ろうと思ってるっす!」
「は?」
セイジョーさんが理解できないというようにただ1音だけ発した。
「だからツバメさんの印象というか、いいところを教えてほしいっすよ! セッカちゃんはツバメさんの後輩っすよね?」
「そ、そう、ですけど……」
いいところ?
ツバメ先輩のいいところ……。
「そんなのあるわけないじゃない」
「そんなことないっすよ!」
身も蓋もないセイジョーさん。
さすがにそう言い切れるほどいいところがないわけではないけど……特にセイジョーさんとツバメ先輩は見ていて相性最悪。
セイジョーさんがそう言ってしまうのも無理はなかった。
「ほら、何かないっすか!? 先輩としてカッコイイところとか!」
「えっと……面倒見は、いいですよ? いつもわたしのこと、気にかけてくれますし。不器用ですけど」
「そうそうそういうところっす!」
セイジョーさんが「本当に?」と言いたそうな表情だけど、一応本当、だ。
「この前もとっても美味しいフルーツトマト、たくさんくれましたし……」
「あー、ツバメさんトマト嫌いっすからねぇ」
「え、えっと……朝食も半分くれますし……」
「ツバメさん朝はあまり食べられないっすからねぇ」
「ええ…………」
「ないじゃない」
「えっと、あるんですよ! その、上手く言葉にできないですけど……」
「ツバメさんは難しいっすからねぇ」
確かに難しい。
わたしがお菓子食べ過ぎて体重を気にしてた時にやたらと買い出しに行かせたり、スズメ先輩の偉大さに比べれば人はみんなちっぽけだから自信を持てと言ってきたり、きっとツバメ先輩なりのやさしさだったのかもしれない。
うーん、多分。
「随分とサエズリ・ツバメを慕っているみたいだけれど、そんなに慕う要素あるのかしら? 私には全く理解できない」
ツバメ先輩は言動も態度も確かにすこぶる悪い。
人の上に立とうとするセイジョーさんにとってはなおさら相性が悪いと思う。
ある意味では似た者同士ともいえるかもしれないけど、それは絶対に口にしてはいけないことだな。
「ツバメさんはすごいっすよ。あれだけ立派な姉を持ちながら、僻む訳じゃなくて誇りに思ってるところとか。そんなお姉さんに憧れながらも、自分らしいスタイルを見つけようとしているところとか。わたしとは大違いっす」
「メイ先輩、とは……?」
「わたしにもお姉ちゃんがいたっすよ。とっても強くて、とっても尊敬できるお姉ちゃんが……」
ステラソフィアの猛犬アストリフィア・サツキ――それはその人のことだろう。
「お姉ちゃんみたいになりたい。お姉ちゃんを超えたい。そう思って装騎を練習してたっす。ステラソフィアの機甲科に入ったのもお姉ちゃんが機甲科だったからっすしね」
「お姉ちゃんを超える、ね……」
セイジョーさんがポツリと呟いた。
もしかしたら、「憧れの人を超えたい」という思いがあったセイジョーさんには何か共鳴する部分もあったのかもしれない。
「その目標は――もう、果たせないっすが」
それもセイジョーさんと一緒だった。
わたしはセイジョーさんからその話を聞いた。
セイジョーさんの目標とするディアマン・ソレイユさんとロズさんの話。
そして2人はもう――――そしてそれはメイ先輩のお姉さんも同じ。
「まぁ、ツバメさんはすごいんすよ! わたしはお姉ちゃんの真似をしてばっかだったっすが、ツバメさんは全く戦い方も違うし。ツバメさんに聞いたら“スズ姉のようになりたいんじゃなくて、スズ姉の隣で戦えるようになりたい”って言ってたっす。本当……すごいっすよ」
メイ先輩の言葉や表情から心の底からツバメ先輩を尊敬していることが垣間見える。
そして、ツバメ先輩もきっとメイ先輩を心から信頼している。
傍からどう見えようと、2人はこれ以上なく最高のドヴォイツェだった。
「ふぅん……」
セイジョーさんのテキトーな相槌。
表情もどこか詰まらなさそうだったけれどわたしは見逃さなかった。
セイジョーさんの瞳に燃える不敵な炎を。
「いやぁ、時間を取らせたっすね! 曲作りもはかどりそうっすよ!」
「そ、コチラこそ貴重な話を聞けたわ。ありがとう」
「? それならよかったっす」
シーサイドランデブーの寮室を後にしたわたし達。
セイジョーさんの様子を見るに、何かを掴んだようだった。
「あら、あんなどうでもいい話から何か分かると思うのかしら?」
「えっと、でも……お礼も言ってましたし……何か、分かったんですよね?」
「たまにはやるじゃない」
よく分からないけどセイジョーさんに褒められた。
「と言ってもヒント程度だけれどね。作戦会議するわよ。部屋に行きましょう」
セイジョーさんに通されたチーム・バーチャルスター寮室内セイジョーさんの部屋。
熱々の紅茶と茶菓子を目の前に作戦会議が始まった。
「何か分かった……みたいですけど、何が分かったんですか……?」
「その前にコスズメさん、アストリファ・メイと話てどう思った?」
「どうって……」
「彼女の性格、サエズリ・ツバメとの関係性――アナタの感じたことを聞きたいの」
「そう、ですね……メイ先輩からツバメ先輩への強い信頼は感じました。きっとツバメ先輩もメイ先輩のことをとても信頼してると」
「きっとそうね。それから?」
「え、えっと、それくらい、ですけど……」
「ま、そうでしょうね」
セイジョーさんは紅茶を一口流し込むと、推理をする探偵のような眼差しでわたしを見つめる。
真っ直ぐな視線にお思わず心臓がはねた。
そうとも知らずセイジョーさんは推理を始める。
「2人の結びつきはかなり強いと思うわ。特にアストリフィア・メイの入れ込みようはよっぽどよ。きっと彼女はサエズリ・ツバメのために戦うわね」
「わたしも、そう思います。けど……」
「あの入れ込みようは場合によっては弱点になりうるわよ。十二分にね」
セイジョーさんの言ってることはよく分からない。
だけど、セイジョーさんのいう事……きっとそれは間違いではないんだと思う。
「それに、アストリフィア・メイの戦い方のヒントももらえたわ」
「戦い方の……?」
「彼女は"姉の真似をしてばっかりだった"と言っていたわ。と、いうことは――」
「メイ先輩の戦い方は、アストリフィア・サツキさんの戦い方と――似てる?」
「全く一緒とまではいかなくても、根っこの部分は一緒でしょうね」
それはほんのちょっと。
本当にほんのちょっとのヒントかもしれない。
けれど――
「アストリフィア・サツキの試合記録を調べるわよ。少なくとも、ステラソフィア内の試合記録くらいあるでしょ」
「そういえば、スズメ先輩はサツキさんと戦ったことがあったような……」
「その試合、確かに見た覚えがあるわ。データを探しましょう」
特訓もしている、情報を集めた、人事は尽くした。
「あとは、天命を待つだけ……」
そして、試合の日がやってきた。