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謹慎中は乙女の時間



【ルミア・グリフィスを一週間の謹慎処分とする。】


…アヴァロン学園編入早々…


まさかこんな早くに問題を起こしてしまうなんて、ルミリア・ランフォート一生の不覚‼︎

いかな理由があるにせよ、学校施設半壊など…ランフォート家にもグリフィス家にも顔向けが出来ない…


(でもギルベルトには今後も用心しなくてわ。男であるルミアを抱き締めるなんて、可愛いなんて、まさか男色⁉︎いえ、女性にだらしない彼の事、バイセクシャルの可能性も捨て切れない…)


あらゆるジャンルを網羅したオタク前世の記憶を持つ私としては、BLに理解もあれば興味もある。


けど自分が狙われる当事者となれば話しは別。

特にルミリアの警戒はかなりのものだ。


しかし、男体化といっても、実際身体は女子のまま。

生体操作で髪の長さを変えたり、声帯を変えたりは出来るが、他は強力な幻術で 男だと認識させているだけのこと。


だからギルベルトがルミアに興味を持ったとしても、ルミアはルミリアの生み出した架空の存在でしかない。


うっかりギルベルトがルミアに惚れたりしたら、大惨事になってしまう。


(性別を偽った上に、ギルベルトの心を乱すような事になれば、人として最低だわ…)


「ルミリア様?どうなさいました?」


「ぁ…」


目の前で心配そうにこちらを見つめるフィオナを見て、自分が思い違いをしていた事に…ストンと気付いた。

同時に何とも言えない気持ちになる。


まつ毛の長い大きな瞳。

柔らかそうなピンク色の小さな唇。

白磁の様に白くて滑らかな肌。

華奢な身体に小さな手。


(ヒロインは私じゃない…)


数え切れないほどゲーム(フェア恋)をプレイしてきたせいか、

アヴァロン学園編入に浮かれていたせいか、

攻略対象者達と距離が縮まったせいか、


何とも盛大な勘違いをしていたようだ。


(警戒なんてしなくたって、ギルベルトが私に心を乱す訳ないじゃない‼︎なんて恥ずかしい思い上がりなの⁉︎)


今、ルミリアの姿で並んでも、フィオナちゃんの愛らしさには敵わないと痛感する。


170cmを超えるルミリアの身体は、男としては華奢で低身長だが、女としては大きい方で、ティターニア様のような清楚で可憐を愛する国民性からしても、フィオナちゃんは理想のヤマトナデシコ的な存在で私とは正反対だ。


そもそもアヴァロン学園の女生徒は、ほとんどが良家の子女で、容姿はもちろん、マナーや教養や立ち居振る舞いも美しい方々ばかり。


私とて最上流貴族に恥ずかしくないそれらを身に付けてきたつもりだが、根本的に…客観、主観的に見ても、彼女らを差し置いて恋愛対象には見えないだろう。



もっと簡単に言えば、この世界では守ってあげたくなる女の子がモテる。


騎士道精神に溢れた攻略対象者達は尚更で、ゲーム内で清楚で可憐なヒロインを守り抜く姿は本当に素敵だった。


(あんな風に守られたいって…夢見てたなぁ〜…)


それが今やグリフィス領最強騎士だ。


(こんな可愛げのない私に言い寄るのは、ランフォートの名を欲しがる野心家ぐらいなものね。)


「ルミリア様?何か考え事のようですが…もし私で良かったら、話して下さいね?」


「ふふ、ありがとう。でも違うのよ。フィオナち、さん、が可愛いなぁと思っていただけなの。」


「か、可愛いなんて‼︎とんでもないです‼︎」


「あら、真っ赤なお顔も本当に可愛いわ。」


本当に可愛い。

しかも努力家。


私のゲーム攻略のセオリーでは、まず一年生時にとにかく自分磨きを徹底していた。

その方が、二年時以降の攻略がスムーズなのと、多くのスチル回収が出来るからだ。


調べた結果、フィオナちゃんはかなりの好成績で魔法特待クラスに進学していた。


つまり相当な努力を積んできたのは間違いない。


男爵家という下位貴族の令嬢が自分達より優秀だと認められない上流貴族の令嬢達が、フィオナちゃんに陰湿な嫌がらせ行為を繰り返したのもゲームと同じだろう。


プレイ中にも思っていたが、あんな環境でよくこんなにも真っ直ぐに、純粋に、優しいままでいられるものだ。

これがゲームならヒロイン力というやつだろうが、目の前のフィオナちゃんは現実の人間。

努力して、痛みに耐えてなお、優しくあれる…幸せを掴み取るべき素敵な女の子。


正直…羨ましいという気持ちもある。

けれど私はフィオナちゃんのようにはなれない。

痛みを受ければ報復するし、人を疑ってかかるのは公爵家令嬢としては必須スキルだ。

どんなに羨んでも、私は…ヒロインにはなれない。

だからこそ、強く思う。


(守って…あげたいなぁ…。)


大好きな【フェア恋】のヒロイン。

どれだけヒロインになりきってプレイしただろう。

病床の上で夢を見られたのは、ヒロインの人柄が好きで、感情移入しやすかったからだ。

…あまりに鈍感で、ドジっ子で、お人好しで、ツッコミ所は満載だったけど。


(ある意味では「前世の私」の恩人と言えるし。)


ヒロインになりきった事で、私は素敵な擬似恋愛を楽しめた。

ドキドキして、ワクワクして、キュンとして…

甘い言葉を囁かれ、身を呈して守られ、デートしたり、愛される幸せに涙したりした。

トゥルーエンドでは憧れの結婚式まで挙げられた。

真っ白なウェディングドレスと可愛いブーケ。

誓いの言葉に愛情のこもった優しい笑顔。


短過ぎた生涯ではあったけど、【フェア恋】のおかげで幸せな気持ちになれた。


「…ねぇ、フィオナさん。」


「はい!」


「ありがとう。本当に…ありがとう。」


「えっ⁉︎わ、私何かしましたか?お礼を言って頂くような事は何も…」


「ふふっ、編入したばかりの私と仲良くしてくれてありがとう。どうかこれから良いお友達として、一緒に過ごして下さると嬉しいわ。」


「あ、はい‼︎勿論です‼︎私の方こそ、ルミリア様のお側で学べるなんて嬉しいです!お友達なんて恐れ多いですが…ルミリア様が許して下さるのなら、こちらこそよろしくお願いします‼︎」


頬を染めて微笑んでくれる姿に、胸が暖かくなるのを感じる。

前世では勿論、今生でも女の子の友達は初めてだ。


(普通の女の子としての幸せ…。私には無縁だと思っていたけど、全部フィオナちゃんのおかげだ。)


だから、私が守ろうと決めた。

どんな嫌がらせも、彼女の心身を傷つける事は許さない。


でも…


一つ、心配な事がある。


(ルミリア・ランフォート…こんな名前のキャラは【フェア恋】にはいなかった。)


二年時の編入生なんて、モブのセリフすらコンプした私が忘れるはずが無い。

ヒロインの友人ポジションは、サポート役の同じ男爵家令嬢の情報通なミーハー娘 ミシル・プロヴァイドただ一人。

けれど特待クラスではない為、常に一緒に過ごしているわけではなく、彼女を昼食に誘うと、食事中の会話として攻略対象者のプロフィールが聞けたり、好感度が聞けたりするシステムだった。


(私の存在自体がイレギュラー…。いえ、そもそもここは現実の世界。すべてがゲーム通りに動く筈が…)


ない。と、否定したい。

けれど、現実は違う。


フィオナも、ミスティも、イグニスも、ライラックも、ギルベルトも、学園長でさえも、全員【フェア恋】のキャラクター達なのだ。


(でも演習場半壊も、公爵家令嬢の編入も、辺境候子息の編入も、ゲームにはなかった展開。すべては(ルミリア)の存在が変えてしまった事象。)


胸を過ぎる不安は増すばかり。


だけど、隣で微笑んでくれるフィオナちゃんを見ると、不安を胸中へ押しやった。


(大丈夫。いくらイレギュラーでも、私はフィオナちゃんの味方だもの。変な結果にはならない筈。)


イベント発生のタイミングや場所なども把握している。

仲良くなれば、フィオナちゃんが誰のルートへ進むかも聞けるだろう。

私には、ヒロインをトゥルーエンドに導く知識がある。

きっと彼女を幸せにしてあげられる。


それが今の私の一番ののぞみなのだから。






4/1




















春休み期間多忙の為に遅くなりましたが、またお付き合いいただけたら嬉しいです。

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