インテリの戦い方
「今日の演習訓練では、君達の現在の実力を測りたいと思う。まずはリストにある二人一組になり、試合してもらう。」
(カメラ‼︎カメラはないの⁉︎)
騎士特待クラスの演習訓練が行われる演習場。
そこはお宝の宝庫だった。
特待クラスになれば、各々で装備や武器も揃えているらしい。
様々な騎士のいでたちに、脳内シャッター切りまくりだ。
(カメラがないなら…魔法で念写⁉︎あ、それならいける気がする‼︎早速今夜試してみよう!)
魔法の応用は得意分野だし、なによりスチル収集にかける情熱は誰にも負けない。
(でもグリフィス領の部屋には置けないわ。カーライルが勝手に入るもの。でもランフォート家だとお母様に見つかる可能性が…)
「ルミア・グリフィス様。」
(そうだ!スチル集自体に魔法をかけてしまえばいいわ!私以外に開けないようにすればいいのよ!)
「…ルミア・グリフィス様。」
(そうと決まれば映像を集めなくっちゃ!私だけのスチル集を完成させてみせるわ!)
「ルミア・グリフィス‼︎」
「⁉︎」
急に肩を掴まれて、慌てて振り返った先に言葉を失う。
「話しを聞いていなかったのか。君の初戦の相手は私だ。さっさと準備したまえ。」
肩まで流れる深緑の艶やかな髪。
此方を睨む輝くエメラルドグリーンの瞳は切れ長で、思わずドキリと胸が跳ねた。
【ライラック・シルフィード】
攻略対象者の一人、シルフィード伯爵家次男。
知的な策略家で、考えが読めない男設定だが…実はツンデレ属性キャラ。
(ど…どアップスチル…ごちそうさまです‼︎)
「じゃなかった‼︎す、すまない。今準備を…」
「では始めっ‼︎」
準備を待たずに開始された試合は一斉に始まり、演習場の至る所から、金属のぶつかり合う音がする。
だが、ライラックが攻めて来る気配はなく、手に肉体強化を施して構える余裕まであった。
「その装備…やはりスピードに重点を置いた…しかし、あの刀身の長さは…なるほど。」
魔獣討伐には慣れていても、こうした騎士としての手合わせの経験はそれ程多くはない。
だからこうして分析されるのは、どうにも不思議と落ち着かない。
(そもそもこんなイケメンに見つめられれば、誰だって落ち着かないわよ!っ⁉︎)
一瞬、
一瞬の気の緩みを見抜かれた。
(上手い!)
ライラックの剣は、私の長剣の軌道を防ぎつつも、確実に腕を狙いに来た。
この間合いだと私の剣は役に立たない。
彼は僅かな時間で私の装備から攻撃のパターンを予測し、攻撃と防御の両方を封じて攻めて来たのだ。
(さすが知略家。けど、実戦には不慣れ‼︎)
剣は使えない。
その一瞬の判断で、手への肉体強化を右脚へ移行。
懐に入ってきたライラックの剣を蹴り上げる。
「なにっ⁉︎」
「危なかった。」
ヒュンヒュンと回転して落ちて来るライラックの剣をキャッチし、彼へと返す。
「…さすがはグリフィス様の後継か。」
「さぁ、続きを始めよう。」
「いや、ここまでだ。私は今の一撃で仕留めたと思った。が、見誤っていた。咄嗟の判断の早さ。肉体強化の移動速度。体術の正確性。どれをとっても今は君に勝てる要素が無い。」
あ〜…、このパターン知ってる。
インテリキャラらしいって言うか、ライラックは諦めが早いんだよね。
計算して勝機がないなら諦める。
ヒロインにそれを指摘されて、ライラックは自分を見つめ直して成長していくんだよね。
「引く事と諦める事をはき違えるな…」
だったっけ?
今思うとこんなセリフを言うフィオナちゃんって何者⁉︎って気もするけど、ゲームの時は違和感なかったんだよね。
「誰がはき違えていると?」
「…え?」
「勘違いするな。私は現状君に確実に勝利する為の情報が足りないと判断したまでの事。勝利を諦めたわけではない。」
そうそう、初頭のライラックは盤上の騎士でしかない。
実戦ってヤツを分かってないんだ。
…だからこんな甘い事言ってられる。
「情報が足りないなんて言い訳が、魔獣相手に通用すると思うのか?」
「なに⁉︎」
「他国のアサシンがどんな技を使うかなんて、誰も教えてはくれないよ?」
「それは…」
「ライラック、君の観察眼は鋭いよ。けど、君のそれはまだ盤上遊戯だ。」
「き、貴様っ…」
「実戦では、攻防を繰り広げながら相手を分析しなきゃならない。その時間を稼ぐのは、繰り返しの訓練で身に付ける反射速度だ。どんな太刀筋でも反応出来るよう、身体に様々なパターンを教え込む必要がある。」
ライラックへと切り込むと、弱々しくもそれを防いで構えを見せる。
「君の知略、策略、観察眼は大きな武器だ。だが、それを使いこなす土台がまだない。君は引いているつもりで、学ぶチャンスを捨てているんだ。」
ガキンッ
重い音を立てて剣がぶつかり合い、ライラックの瞳に気迫が籠る。
「想定外の相手でも、意思の読めない魔獣でも、勝たなきゃならない。どんな手を使っても。」
鍔迫り合いの一瞬に相手の脚を払い、倒れたライラックの頭の横に剣を突き立てた。
「本当に大切なものを守る為に。」
見開かれたエメラルドグリーンの瞳が、本当に美しいと思う。
暫くその美しさに見惚れていると、制限時間が
来たのか、教官から終了の声が上がった。
「………それが君の強さの秘密…か。」
差し出した手を握り返されたので、勢いよく引っ張り起こすとライラックの身体がポスッともたれかかってきた。
まるで抱き合うような距離に固まっていると、耳元でクスリと笑う気配がした。
「本当に華奢な身体だ。これは負けっぱなしには出来ないな。」
ゼロ距離の不意打ちイケボにクラクラしながらも、平静を装い距離をとる。
「…いいか、次も必ず勝て。私が勝つまで、負ける事は許さない。」
「えっ?あ、うん。が、頑張るよ。」
今のは応援…なのかな?
「第二試合、組み合わせはいいか?」
「ルミアくん、よろしくね!」
「あ、こちらこ………そっ⁉︎」
パチンとウィンクを飛ばされて、軽く意識が遠くなる。
今夜は念写のし過ぎて脳が焼き切れるかもしれない…
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