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ハリスンの戦闘指南

 眠りは思いのほか深かった。

 一瞬で朝を迎える仕様でない事は確かだった。

 夢の中で、逸は意外な人物と出会っていた。

「ふー、やっと休めた 」

「休むにはまだ、早いと思うぞ」

 誰もいないと思っていた空間から声がした。

「な、アナタはまさか!? 」

 逸の目の前には、この世界の正統な主人公であるハリスンが仁王立ちしていた。

「そうだ。俺がハリスンだ 」

 これまで、どんな異常事態が起こっても冷静だった逸も、この状況は予測していなかった。

「アナタが、ここにいるって事は俺自身が冒険する必要はもう無いって事ですよね」

「残念ながら、そういう訳にはいかない」

 全ての事情を知っているらしい口調でハリスンが言った。

「嘘だろ、こんなハードな旅をずっと続けなければならないんですか? 」

「そもそも、この冒険はお前が始めたものだからな、終わらせられるのもお前しかいない。幸い、クリアすれば現実に戻れるらしいがな 」

 衝撃の真実が発表された。

「クリアできなければ、一生ゲームの中で生きる事になるって事? 」

「どうだろう。今のこの状態が生きているという事になるのかは不明だが 」

「そっか、俺は車に牽かれて死んだんだった」

「それは解らない。ただ、この状態はあくまでも保留されている状態という事だ 」

 逸はその説明を聞いても要領を得なかった。

「クリアできたら現実に戻れる。それだけは解った 」

 ハリスンの登場で、混乱していた頭の中は少しだけ整理できた。

「で、夢のような世界の夢の中で、ハリスンさんが出てきた理由は、この話をする為なんですか? 」

「それもある。だがメインはそっちじゃない 」

「はぁ 」

「戦いに不慣れなお前に、戦闘を指南する為に俺が遣わされたんだ 」

「やっぱり、戦わないと駄目なのかな 」

「今は聖なる水のおかげで、格下のモンスターと遭遇せずに来られたが、これからはそういう訳にはいかないだろ」

 逸のプランでは、仲間に戦ってもらって自分は後衛に回る予定だった。

「確かに、戦闘は避けられないですよね。でも、俺みたいなただの小学生にモンスター退治なんて無茶ですよ 」

「そんな事はない。ここはゲームの中なんだから、戦い方もゲームのルールに従ったものになる。だからこそ、お前のような少年でも戦う方法さえ解っていればモンスターと渡り合う事は可能だ 」

 そう言いながらハリスンは短剣を構えた。

「ルールその①、ダメージは蓄積される。つまり、一撃でHPを削られない限り斬られようが燃やされようが死なない 」

「まぁ、それはなんとなく解ります」

「血が噴き出ようが、腕がもがれようが演出に過ぎないのだから、自分の番になれば攻撃できる」

「それは結構、怖いですね 」

「ルールその②、戦闘の技術は要らない 」

「要らないは言い過ぎでしょう。相手に刃が届かなければダメージは与えられないし、攻撃を防ぐ事もできないのでは? 」

「大丈夫だ、試しに俺を斬ってみろ 」

 ハリスンはそう言って逸に剣を渡した。

「わ、とっと。アレ? あんまり重くないな 」

「それはお前専用の剣だ。もちろん俺の短剣に比べればパワーは足りないが、扱いやすいはずだ 」

「なるほど、これならなんとか振り回せるかも 」

「剣道の技術も暗殺の手順も必要ない。相手が防御していない時なら攻撃は通る 」

 逸は試しに軽く一振りしてみた。

 が、ハリスンには届かない。

「さすがに遠い。攻撃されても死なないのだから、もっと深く踏み込むんだ 」

「こうですか? 」

 今度は確実にハリスンの身体に向かって剣を振り下ろした。

 ハリスンはノーリアクションで頷いた。

「今の攻撃でも、俺はダメージを受けた 」

「本当ですか? そうは見えないけど 」

「これを見てみろ 」

 ハリスンが腕を見せる。

 少しだが、切り傷ができていた。

「肩をばっさりいったのに、腕が斬れるんですね 」

「そういうものだ。だから、急に剣で受けられたり、全く攻撃が当たらないという事がない。つまり、ジャンケンみたいなものだ 」

「ジャンケン? 相手が攻撃の体勢なら防御してダメージを軽減する。相手が無防備な時には、攻撃する。相手が防御している時には攻撃しない 」

「なんとなく解りました 」

「ルールその③、攻撃には相性がある 」

「それは解ります。打撃に弱いとか、斬撃に弱いとか」

「そうだ。そして、火は水に弱くて木に強いとかな 」

 ゲームの知識があれば、それは理解できる話だった。

「ルールその④、このゲームはターン制を採用している。お前ならこの意味は解るな? 」

「!? ゲームの主人公が言っていい言葉じゃないですけどね。解ります。つまり、自分が攻撃するターンなら、相手は攻撃してこないって事ですね 」

「そうだ。だから相手の攻撃を遮って攻撃する事はできない。ただし、防御の構えを行った時点でそれも1ターンの行動とみなされる 」

「あ、そういう理屈か……だからジャンケンなのか。 」

「以上だ 」

「ちょっと待って下さい。じゃあ、アイコの時はどうなるんですか? 」

「攻撃された後、攻撃する。お互いに防御している。お互いに突っ立ってるの3パターンしかないだろう 」

「突っ立ってるってどういう状況ですか? 」

「何も行動しない事を選択した時だな 」

「はぁ、そんな状況あるんですか? 」

「普通はないだろうな。ただし、相手は結構何もしない事を選択してくる 」

 ハリスンの説明を聞きながら逸は、剣を振り回してみた。

 見た目は、しっかりとした剣だが棒きれを振り回している感覚だった。

「じゃあ、攻撃し続けるのが正確なのかな 」

「いや、相手が強そうな攻撃をしてくるときは防御。防御してきそうなら回復が正確だ 」

「そうか、弱攻撃を受ける勇気がこのゲームには必要なんですね 」

「防御し続けていれば、ジリ貧だろう。それさえ解っていればこの世界で十分戦える 」

「ありがとうございます。なんとかなる気がしてきました 」

「後は己の力量と相手のレベルを見極めて、逃げる時は逃げる事が必要だな」

「解りました 」

「他に質問がなければ、これで戦闘指南は終了だ。後は朝まで寝ればいい 」

「また、眠ればハリスンさんに会えるんですか? 」

「また、いつでも来てくれ。アドバイスぐらいしかできないが」

「ありがとうございます。そして、おやすみなさい」

 逸は、やっと就寝する事にした。

 

 

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