冒険リスタート
目が覚めると、そこは見覚えのあるベッドだった。
なにか失敗して、ゲームオーバーになるとこのベッドから復活するのがお決まりのパターンだ。
しかし、逸は何かがおかしいと感じていた。
セーブしたから、ダンジョンの途中から復活するはずだとか、そんな話ではない。
ゲームをしているはずの逸が、このベッドで目覚めた事が不可解なのだ。す
「夢だよな、多分 」
ゲームの主人公は勇者一族の末裔であるハリスン。
20代前半の精悍な好青年タイプだった。
ゲーム大好きのもやしっこの逸とは、似ても似つかないポテンシャルである。
「まさか、俺がハリスンになったのか 」
しかし、六頭身の体にしては足が短い。
腕も脚も貧相なまんまである。
「身体はそのままなのか。夢にしては中途半端だな 」
起き上がってみるが、姿は普通の少年だった。
服装だけは、ハリスンの衣装をサイズダウンしたような造りになっていた。
「へぇ、これが布の服かぁ。思ったよりしっかりしてるなぁ 」
妙な所で感心していた逸は、早くもこの状況を夢として楽しむ方向で頭を働かせていた。
「あれ? 所持金が500Rしかないぞ? 」
逸は、ゲームオーバーになった訳じゃないのにお金が半分しかない事に気付いた。
「車に牽かれたのは現実の俺なのに、ゲームオーバー扱いかよ 」
直前の記憶はまだ、鮮明に残っていた。
間違いなく、車に牽かれたのだ。
「まぁ、いいや。確かこの辺りに……あった」
逸は、ベッドの布団の下を弄った。
なんと、へそくりの1500Rが手に入った。
「あんまり知られてないけど、ゲームオーバーの保険で所持金を隠しておく裏技があるんだよな 」
1500Rは以前に、ベッドに隠しておいたお金だった。
「ということは、やっぱり此処は俺がプレイしていた黄金の迷宮の世界って事だな 」
ハリスンの部屋は、ベッドと本棚があるだけの質素な部屋だった。
ゲーム序盤なら、村長の家を訪ねるイベントが発生するが、へそくりが隠してあったので実際はさらにゲームは進行しているはずだ。
「だとすると、この村から中盤のウルグガルドまでもう一度進まないといけないのか。面倒だ 」
このゲーム『黄金の迷宮』において序盤はチュートリアルの役割を果たしており、ウルグガルドで、新たな仲間が参加するまでは一人きりで旅をする事になっていた。
「うーん。一人旅は辛いな」
逸少年は、頭を切り替えた。
夢であろうが無かろうが、このままゲームを楽しんでやろうと。
ハリスンの武器は短剣である。
サバイバルナイフ程度の矛先を持つ剣を、持ち前のスピードと身のこなしで操りモンスターを倒す。
リーチが短いので相手の懐に飛び込む勇気が必要になる。
素早いだけでなく、斬りつける際には相当な腕の力がいる。
逸にとっては、短剣といえども両手で握らなければ扱えないようだった。
「重い。こんなんじゃ戦えないよ 」
逸は短剣を持つことを諦めた。
「もっと自分にあった武器を探さないとね」
逸は早速、村に唯一の道具屋に
向かった。
「いらっしゃいませ。旅のお供に薬草饅頭はいかがですか? 」
まずは、不要な装備品を売却する。
重くて持てない短剣や、かさばる荷物を売った。
そして、聖なる水を20個、薬草饅頭を5個買った。
「武器になりそうなものはないなぁ」
「武器でしたら、アイアンダガー、スチールナイフ、竜の牙がおすすめですよ」
どれもこれもハリスン用の装備だ。
黄金の迷宮は、ハリスンの先祖が魔王を倒すために使った最終兵器『ワールドエクスキューズ』を探す物語である。
勇者によって倒されたはずの魔王が復活し、世界にモンスターが放たれた。
ハリスンは、再び魔王を討つべく最終兵器の眠る黄金迷宮を目指す。
しかし、魔王軍もその兵器を狙って黄金迷宮に刺客を送り込んでくるというのが大まかなストーリーだ。
逸は、初見ながらこのゲームを中盤まで進めており、その過程で偶然33個の裏技を発見した。
本来、使用できないはずの裏技を駆使する逸のプレイを見た友人達は彼の事を裏技使いと呼び畏敬の念を抱いていた。