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5.その姓、なにモノ?:姓の由来その2(地名・職業・特徴由来)



 それでは、「○○の息子/娘」といった一定の法則がない姓は、どのような由来でしょうか。


 もっとも多いものは「出身地名」に由来する姓です。


 「ハプスブルグ家」なら“鷹の城”に由来する地名、「ブルボン家」ならケルト語の“泥”に由来する地名です。

 もともと上流階級を始めとして「△△出身の○○さん」や「△△を領地とする○○さん」という意味での呼称が、そのまま「姓」となったケースが多いためです。

 先述の敬称付きの姓や封建貴族(領地をもつ貴族)の姓、「ラ・△△」「ル・△△」や「フォン・△△」「ツー・△△」も、元々は領地などに由来する地名がほとんどでした。

 英語でも、封建貴族の場合は「○○・△△・ロード・□□・オブ・■■」のように、爵位号とは別に「名・姓」の後に「オブ(of)・領地名」が付くことがあります。

 第一次世界大戦時の政治家として活躍した「ジョージ・カーゾン」は、元々は男爵でしたが最終的には侯爵となり[George Nathaniel Curzon, Marquess Curzon of Kedleston]と名乗りました。「ジョージ・ナサニエル・カーゾン」が姓名、「マーキス・カーゾン・オブ・ケドルストン」が爵位号で『ケドルストンを領地とするカーゾン侯爵』の意味です。なお、この侯爵家は廃絶しています。


 一般の姓でも、地名に由来するものが多くなります。

 『△△に住んでいる/住んでいた、○○さん』です。

 当たり前のように姓を付ける場合の話をしてきましたが、西洋文化圏でも庶民は姓がなかったのも事実。

 後の世に姓を名乗る必要が出たとき、出身地名や領主の名を代わりに用いたケースが多かったのです。


 有名どころでは「レオナルド・ダ・ヴィンチ」(Leonardo da Vinci)は「ヴィンチ出身のレオナルドさん」という意味です。

 ルネサンス期の有名人の一人、マントヴァ公妃「イザベッラ・デステ」(Isabella d'Este)の出身家は「エステ家」(Este)で、元は領地名です。エステ辺境伯となって、エステ家を名乗りました。


 英語の場合、姓の末尾が「~トン」(~ton)や「~リィ」(~ley)、「~フォード(~ford)」は地名由来の姓です。

 それぞれ

 「~トン」は“領地・囲い地”、

 「~リィ」は“森の側”、

 「~フォード」は“浅瀬の近く”、

 「~ブリッジ」は“橋の近く”、

 「~バラ」(~borough)は“城砦のある所”

 です。


 「サウザンプトン」(Southampton)は“南(south)の集落(hamtun)”、

 「ダトリー」(Dudley)は“Duddaさん所有の森”、

 「オックスフォード」(Oxford)はそのまま“牛を渡すための浅瀬”、

 「ケンブリッジ」(Cambridge)は“カム川(Cam)にかかる橋”、

 「マールバラ(マルボロ)」(Marlborough)は“マーリンの城”、


を、それぞれ意味します。



* * *



 姓の由来となるものには、他に「職業」があります。

 つまり『△△を生業(なりわい)にしている/していた○○さん』ですね。


 職業などに由来するものとしては、イギリス王室(スコットランド王家)の「スチュアート家」(Stuart)は、もともと「宮宰(きゅうさい)」(宰相に相当)を意味する“Steward”から来ています。

 古英語で“職人”のことを「smith」と言いましたので、一般的に「スミス」姓は職人階級です。


 一般的な職業性には、他に以下のようなものがあります。


 英語の場合。

 「フィッシャー」姓は“漁師”、

 「ミラー」姓は“粉挽き屋”、

 「メーソン」は“石工”、

 「カーライト」は“馬車大工”

 です。


 少し階級が上の職業だと

 「ウォード」は“守衛”、

 「リーヴ」は“地方監督官”、

 「スペンサー」は“食品倉庫の管理人”

 です。


 イギリスのダイアナ元妃は「スペンサー伯爵家」の生まれですが、このスペンサー家は元々羊飼いだったといわれています。その後、荘園領主となり平民階級の名家として数多くのナイトを排出してきました。その後、貴族に叙せられ、現在では英国でも有数の貴族家の一つです。

 第二次大戦時のイギリス首相「チャーチル首相」の正しい姓は「スペンサー=チャーチル」の複合姓です。この家系は、現代まで続く名門スペンサー家一門の本家筋にあたる公爵家(マールバラ公爵)で、祖先をたどればダイアナ元妃と同じ一族です。


 ドイツ系の場合。

 「シュミット」姓は“鍛冶職人”、

 「シュナイダー」姓は“仕立て屋”、

 「ワーグナー」姓は“馬車大工”、

 「シューベルト」姓は“靴屋”、

 「ウェーバー」姓は“織り工”、

 「カウフマン」姓は“食料品の雑貨商人”

 です。


 「バッハ」は“小川”を意味するドイツ語ですが、音楽家一族の「バッハ家」の場合、もとは“粉挽き屋”だったと言われています。粉挽きに欠かせない水車小屋のある小川に由来するのかも知れません。


 面白い職業姓としては、フランス語系の「トリュフォー」姓は“詐欺師(さぎし)”の意味、スペイン語系の「ラドローン」姓は、“どろぼう”の意味。…………ん、職業?



* * *



 他に良くあるケースとしては、創始者(先祖)の身体的特徴や渾名(あだな)を姓にするものです。

 『△△な感じの○○さん』ですね。


 フランス王家でも「カペー家」だと、創始者の渾名であった“外套”を意味する「capet」が家名の由来になっています。イギリスの「プランタジネット家」は、その紋章として使った“エニシダ”のラテン語表記「planta genesta」が由来です。ロスチャイルド家も、ドイツ語読みのロートシルトは“赤い楯”の意味で、かつての居住地に掲げられていた看板に由来するとか。


 ご先祖様の身体的特徴に由来する姓も数多くあります。

 全てがその意味に由来する姓、という訳ではありませんが、一例をご紹介。


 英語の場合。

 “赤毛の○○”が「ラッセル」姓や「リード」姓、

 “色白の○○”が「ホワイト」姓や「ベインズ」姓、

 “のっぽの○○”が「ラング」姓、

 などです。


 ドイツ語系の場合。

 “心配性な○○”が「ゾルゲ」姓、

 “勇敢な若者の○○”が「フンボルト」姓、

 “髭もじゃの○○”が「ポルシェ」姓、

 などがあります。


 フランス語系の場合。

 “痩せっぽちの○○”が「ディドロ」姓、

 “お喋り好きの○○”が「コルネイユ」姓、

 “熊の子孫の○○”が「ダルタニアン」姓、

 “ホウレンソウが大好きな○○”が「ピノチェト」姓、

 などがあります。


 なんじゃそりゃ。


 上記でも大概ですが、元が“渾名”なので、由来が酷いものも幾つかあります。

 英語圏における「キャメロン」姓は“ねじれ鼻”、「ケネディ」姓は“醜い頭”、「キャンベル」姓は“ねじれた口”です。

 ドイツ語圏でも「ベッテル」姓は“お婆ちゃんみたいな人”、「クレペリン」姓は“しわがれ声の人”、「モーツァルト」姓は“雑に泥をかき混ぜる仕事をするヤツ”という意味なのだとか。

 フランス語圏でも「カミュ」姓は“丸っこい、ぺちゃんこ鼻”、「ブラック」姓は“猟犬のように短足”、「マラルメ」姓は“貧相な武装の兵士”だそうです。



 ……知らなかったことにしましょう、そうしましょう。



* * * 



 以上、現代社会に通じる「姓」について紹介してきましたが、「姓」を使わない文化は各地にあります。

 先述したとおり、アイスランドは「父親の名前を変化させて姓として使う」文化ですし、アラビア系やイスラム教徒もほとんどが姓は使いません。

 他には、植民地化される以前のメラネシア文化圏、モンゴル、インドネシアやマレーシアなどのマレー系、ミャンマー(ビルマ)を始めとする東南アジア圏などがそうです。


 モンゴルは五部七旗などに代表される部族制のため、家名としての姓は使いません。

 元横綱朝青龍は「ドルゴルスレンギーン・ダグワドルジ」と表記されますが、最初の「ドルゴルスレン」はお父さんの名前で、それに所有格(○○の息子の意味)をつけて「ドルゴルスレンギーン」がいわば姓、「ダグワドルジ」が個人名です。しかし正式には「姓」がなく「父称」を用います。


 同様にビルマ系も姓がありません。“複数の語からなる、一つの固有名”を持ちます。

 日本人に最もよく知られているビルマ人に、「アウンサンスーチー」女史がいます。

 よく「スー・チー」女史や、「アウン・サン・スー・チー」女史と、略したり中点で区切ったりしますが、本来は「アウン サン スー チー」で固有名です。本来は中点は入れません。繋げて「アウンサンスーチー」とするのが正しいでしょう。彼女の場合、父の名(アウン サン)が第一名(戸籍登録名)に含まれているため、「アウンサン」が“姓”扱いされてしまうのですね。

 彼女をきちんと呼ぶ場合は、「ドー・アウンサンスーチー」となります。

 ドーは敬称ですが、自分で名乗る時にも使います。日本語で言うなら自分の名前に様付けするようなものですが、これがあちらの文化です。





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