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十四 王妃への道


「王妃!?」


 夕食を共に取り、片付けを終わらせたパルを退室させてから、ライベルは昼間の話を切り出した。

 静子は「王妃」などと考えたこともなく、目を開いて固まってしまう。


「……嫌なのか?」

「嫌とかじゃなくて、私には無理!だって、王妃だよ!無理!無理!」

「嫌なのか?」

「だから嫌じゃない。ただ私には無理ってことで」

「無理だろうけど、やってもらう。俺はお前以外を妻にするつもりはない」

「えっと、」


 緑色の瞳は蝋燭の明かりを受け、煌々と輝いていた。


「お前は俺が他の女を側に置くのは平気か?」

「他の女。パルとヘレナは大丈夫」

「そうではない。俺が他の女を抱いて子供を作っても平気かと聞いてる」

「抱く?こども?」

「……そうか、お前は知らなかったか」


 ライベルは自分で言って少し恥ずかしくなったらしい。少し赤面して横を向く。


「子供を作る方法?それって抱くこと?パルが言っていた特別な行為って「抱く」ことだったんだ」

「なんだ。それは。パルがそんなことを言ったのか?」


 これでパルに言われたことが理解できたと静子は頷く。実際は違うことであり、ライベルは額に手をやる。


「ライベル?頭が痛いの?大丈夫?」

「いや、大丈夫。お前、「抱く」意味がわかってないよな」

「分ってるよ。こうして抱きしめることでしょ?」


 静子は無邪気に笑い、ライベルの背中に手を回してその胸に顔を埋めた。


「あってるけど、間違ってるな」

「どういう意味?」

「お前が王妃になったら教えてやる。特別な行為もな」

 

 ライベルは一瞬強く彼女を抱きしめたが、首を横に振り、彼女から離れた。


「王妃、王妃」


 静子は腕を組み、うろうろと部屋を歩き始めた。

 顔はしかめっ面で、王妃という大役について考える。


「大丈夫だ。クリスナの妻がお前が王妃になるまで、指導する」

「クリスナ?確か、」

「俺の叔父の一人だ」


 ライベルがそう答え、静子はふいにパルの言葉を思い出す。

 確かライベルはクリスナとその息子ニールのことを疑っていたのではないかと、首を捻る。


「心配するな。お前を危険な目に合わせるつもりはない。クリスナの妻は母の友人だった。そんな愚かなことはしないだろう」


 新たにもたらされた情報に、静子は少し混乱していた。

 

「大丈夫。お前はただ王妃になるために、力を尽くしてくれ。俺のために。頼めるか?」


 ライベルはそう言い、彼女の頭を撫でる。その緑色の瞳は愛しみの色の溢れており、静子は彼の想いを深く感じる。


「わかった。がんばる」


 王妃という地位は重すぎて、静子は本当ならば投げ出したかった。

 だが、ライベルのために努力してみようと心に決める。


「ありがとう」


 黒い瞳に固い意志を見て、ライベルは安堵する。そして彼女を抱きしめた。


「ライベル!子供できちゃうんじゃないの!」

「大丈夫だ。お前が王妃になるまではそんなことは起きない」

「そうなんだ」

「ああ。約束する」


 いまいち子供ができる方法を理解できていない静子だが、それなら大丈夫かと体に入れた力を弱める。するとライベルが優しく笑い、その額に口付けた。



「なんですと?」


 政堂の会議室に三大臣が集まっている。

 アヤーテ王国は王を長にしてその下に、財務大臣、国防大臣、外務大臣が名を連ねている。財政、国務、外交以外の分野に関しては、三大臣の下に分割され、財務大臣は文部、国防大臣は薬部、外務大臣は民衆の生活に直轄している水と建築に関して、その責任を担っていた。

 エセルは、クリスナの補佐役任命の議について根回しの意味を込めて、他の二人の大臣に伝えていた。


 まず不満な声をあげたのが、財務大臣のパース・レンデンである。彼は年若い王が戴冠して以来、自由に財政を管理していた。クリスナが補佐役になれば面倒なことになるとそのたっぷりとした顎を揺らし、抗議していた。


「それはいいことですな」


 反対に国防大臣シーズ・ブレイブは腕を組んで頷く。

 彼とクリスナに直接的係わり合いはない。クリスナは王子の時代も兄の影に徹しており、結婚を機に王宮を離れ、その後も極力目立つことを避けてきた。そのため、王宮内で彼の存在は知られているが、彼と直接関わったものは少なかった。

 しかし、シーズはその息子ニールのことは彼が訓練兵の時から知っており、クリスナの厳格さなどを聞かされていたため、好印象を持っていた。


「レンデン閣下。私もこの一年外務大臣の傍ら補佐の役目を担っておりましたが、さすがに限界がきております。どうかご理解いただけると幸いです。クリスナ様は陛下の補佐役であって、政治に口を出すことはないと思います。その点は今まで通りですのでご安心ください」


 微笑を浮かべエセルがそう言い、パースは吹き出した汗をハンカチで拭う。


「そうか。それであれば安心だ」

 

 その後、パースは満足そうに笑い、シーズは苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。

 根っからの軍人で、清廉潔白な彼にとって、パースのような人間は好ましくない、はっきり言えば嫌いであった。彼のよからぬ噂は耳に届いており、優秀なエセルがそれを黙認しているのは明らかだった。

 王の伯父であり、全信頼を置かれているエセルの権力は絶大だ。

 先王の弟で、第一継承権を持つクリスナが王宮にしかも、王の補佐役をするなど彼にとっては邪魔なことではないかと、シーズはこの話に疑問を持つ。


「もうひとつ話があります。クリスナ様が、愛妾であるシズコ様の後見をなさいます」


 その上、エセルからもう一つとんでもない話を聞かされシーズは、ますます彼の考えが読めなくなった。

 隣に座るパースは、泡を吹きそうなくらいに驚いている。


「それは王妃になるということですかな?」

「そうです」


 シーズの問いにエセルは微笑み返し、パースは口から唾を飛ばして叫ぶ。


「ありえない!ありえないぞ。アヤーテ人以外のしかもカラスのような異国の女が!」


 王の愛妾だというのに、不敬罪もいいところであった。この場にライベルがいたら、彼の命はなかったかもしれない。


「レンデン閣下。シズコ様は、アヤーテ王国に富を運ぶために、異世界から現れた特別な方なのです。あなたは、シズコ様のあの夜を支配するような漆黒の髪、すべてを見通すような黒い瞳を御覧になったことがありますか?彼女は満月の夜に王宮の池に現れた女神の化身で、王と対なる存在なのですよ」


 三百年以上歴史のあるアヤーテにおいて、王は神と同等の意味をお持ち、国民にとって王が信仰対象となっていた。

 それはパースも同じで、王と対なす存在と静子のことを説明され、勢いを失う。


「クリスナ様が後見をされるということは、それを裏づけしているとは思いませんか?」


 駄目押しともいえる言葉を言われ、パースは納得するしかなかった。

 


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