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★プリンセス・セブン★ パイロット版――リーファ編

プリンセス・セブン二本目の脚本、リーファ編です。悲運に抗う姿、初々しい初恋に悲恋、自分なりの強さを見つけ出すまでの過程をリーファちゃんと一緒に体験していただけたら幸いです。

★プリンセス・セブン★ パイロット版――リーファ編



登場人物


・リーファ:十七歳。ある村の酒場の看板娘。髪は金髪で先が翡翠色。サファイアブルー

     の瞳。一人称は「わたし」。ドジっ子だが優しく、悩みを人に相談できない性格。

     幼い頃に父は病死。母と二人で慎ましく暮らしている。

・リーファの母:初登場時三十一歳。リーファをかばって車椅子生活になる。

・マルス:リーファ家の愛犬。



・スイ:十六歳。アクマのスパイとして活動していたが、国家防衛軍十三部隊に見つかり

   負傷したところをリーファに助けられる。そのお礼に時折酒場でピアノを演奏する

   ようになる。一人称は「オレ」。

・ナデシコ:十八歳。スイの追っかけお嬢様。

・リツカ:二十五歳。国家防衛軍第一部隊隊長。関西弁。マイペースで面倒ごとが嫌いだ

    が、ライフルをぶちかます度胸の持ち主であり、特攻隊長。一人称は「うち」。

・キサラ:二十七歳。国家防衛軍第七部隊隊長。上品で冷静。自由奔放なリツカのストッ

    パーであり、軍の副官。一人称は「わたくし」。



・マスター:男。四十五歳。リーファの働く酒場のマスター。

・客:男。数人。

・ライル:二十歳。通称〝通り魔事件〟によりリーファの村に派遣された軍の護衛隊副隊

    長。一人称は「オレ」。酒場で情報収集しているうちにリーファに恋心を抱くよう

    になり、すったもんだの末恋人となる。が、原因究明中に意識不明者となってし

    まう。

。兵士:男。数人。


・グーラ:通称〝アクマ〟。人間に近い外見をしているが、人間の七つの罪を表す最上級

    アクマの一人。『暴食』を表す。人間の精神を糧とし、出会った人間の心を喰らっ

    ていく。一人称は「わらわ」。ライルを意識不明者にする。


・ナレーション:全シリーズを通した要所要所の説明役。



○無音。

ナレーション「小さな惑星国家イシス。豊穣の女神に守られたこの国は、しかし平和では

      なかった。人間に似た外見を持ち、人間を襲う存在――通称〝アクマ〟。こ

      のアクマに対抗するため、民は国家防衛軍を創設した。この物語は、ある小

      さな村に生まれた平凡な少女リーファの、非凡な悲劇の物語である」





○嵐の音。雷、地響き。人々の逃げ惑う叫び声。

   リーファ(6)、母(31)、必死に逃げている。

リーファ「はあ、はぁ……っ」

母「早くリーファ! こっちへ!」


○岩が崩れて落ちてくる音。

   リーファ、目を瞑る。

リーファ「……っ!」


○ドンっと突き飛ばす音。

   母、リーファをかばう。

母「リーファ!」


○落石と壁が崩壊する音。

   母、下半身が瓦礫の下敷きになる。

リーファ「お……かあさん……?」

母「怪我は……ない……?」

リーファ「っおかあさん!」


○走り寄る小さな足音。腕を引っ張る音。

   リーファ、涙目で母を救おうとする。

リーファ「(涙声で)おかあさん! まってて、この柱さえどければ……!」

母「私のことはいいから……早く、逃げて……! お願い、リーファ……!」

リーファ「いやです! おかあさんをこのままおいていくなんて、ぜったいに、いや……!」

母「お願い、リーファ……お父さんだけじゃなくて、あなたまで喪うことになったら……

 私は耐えられない……!」


○瓦礫がどけられる音。兵士の声。

   助けが来る。

兵士「大丈夫か!?」

母「この、柱さえ壊していただけたら……!」

兵士「待ってろ! お嬢ちゃんも危ないから下がって!」

リーファ「は、はい……っ」

兵士「こっちにまだ生存者がいる! 誰か手伝ってくれ!」

兵士「了解! 手が空いている者は来てくれ!」

母「お手数を……おかけします……っ」


リーファM(お母さん……わたしの、せいで…………)


○全音FO。







○酒場のガヤ。食器の音、活気の溢れる声。

   リーファ(10)、酒場で働いている。

男性客「リーファちゃん、こっちも注文いいかー?」

リーファ「はい! 今うかがいますっ」

男性客「リーファちゃーん。それが終わったら、こっちでお酌してー」

リーファ「はいっ、少々お待ちください!」

男性客「リーファちゃん、お水おかわりー」

リーファ「は、はいぃただいまっ!」


○酒を飲み干す音。

   カウンターで客(男)とマスター(45)、静かに話す。

男性客「リーファちゃん、今日もてんてこまいだね。みんなもリーファちゃんがかわいく

   て仕方ないのはわかるけど、おかげで彼女、走り通しだね。あ、こけた」

マスター「はは。うちの看板娘ですからね」

男性客「四年前のアクマ侵攻で……確かお母さんが足を悪くしたとか?」

マスター「ええ……。車椅子なしでは移動できないそうです」

男性客「そうか……。友達とも遊ばずに、ここで働いてるんだろう?」

マスター「ええ。……それでもリーファに訊くと、笑って言うんですよ。『お母さんが生き

    ていてくれただけでうれしい』って」

男性客「(少し涙ぐんで)健気だなぁ……。マスターが雇ってくれなければ、彼女も他の従

   業員もどうなっていたことか……」

マスター「いえいえ。私はただ、あの侵攻で働く場所を失った方々にこの場所を提供した

    だけのこと。たいしたことはしていませんよ」

男性客「ここはイシス最高の酒場だよ」



○食器を洗う音。家の中のBGM。

   リーファ、食器を洗いながら母と話す。

母「今日もお疲れさま、リーファ。私の足がこんなになってしまったばっかりに……あな

 たにまで迷惑をかけて、ごめんなさいね」

リーファ「お母さんのせいじゃないでしょう? それにわたし、酒場で働くのがとっても

    楽しいんです! お客様もマスターもみなさん優しくて、毎日がきらきらしてま

    すよっ」

母「そう? でもマスターは本当に出来た方ね。職を失った皆を雇ってくださるなんて…

 …。本当に、感謝してもしきれないわ」

リーファ「わたしみたいに小さな子でも、出来ることはあるからって……。(苦笑して)マ

    スターがいなかったら、きっとうちの家計は今以上に火の車ですね」

母「あら、私だって内職で頑張ってるのよー?」

リーファ「知ってますよー!」


○犬の泣き声。

   マルス、リーファにじゃれつく。

リーファ「きゃ……っ、もう、マルス! びっくりさせないでくださいよー」

マルス「わんっ」

リーファ「あははっ、こら、もう……」

母「マルスは相変わらず、リーファが大好きね。お父さんにも懐いていたけど、やっぱり

 一番にリーファに甘えにいくものね」

リーファ「マルスはペット、っていう感覚じゃないんです。大切な家族、なんです」

母「ふふ。ずいぶんと頼もしい弟ができたものね」

マルス「わんわんっ」

リーファ「はい、よしよし。じゃあお母さん、マルスを散歩に連れて行きます!」

母「行ってらっしゃーい」


○静かな外のBGM。砂利道を歩く足音と、犬の足音。

   リーファ、マルスの散歩中。

リーファ「ねえマルス……わたしは頑張れていますか……?」

マルス「くぅん?」

リーファ「わたしのせいでお母さんは歩けなくなりました。わたしがドジなせいで、マス

    ターにもお客様にも迷惑をかけてしまっています。……わたしは精一杯頑張って

    いるつもりですが…………間違って、いないでしょうか……」

マルス「くぅん……」

リーファ「わたしは……どうしたら、もっとみなさんのお役に立てるんでしょうか……」

マルス「……わんっ」

リーファ「……そう、ですよね。くよくよしても、始まりませんよね」

マルス「わんわんっ」

リーファ「ふふ、ありがとうございます、マルス」


リーファM(今できることを精一杯頑張ります。それがきっと、正しい道なのでしょうか

     ら)


○夜の外。酒場からの帰り道を走る足音一つ。

   リーファ、急いで帰っている。


リーファM(今日は遅くなっちゃいました。早く帰らないとお母さんに心配をかけてしま

     います……!)


○草むらからガサッという音。

   傷を負ったスイ(9)、倒れている。

リーファ「ど、、どうしたんですか!?」

スイ「く、そ……!」

リーファ「だ、大丈夫、ですか……?」

スイ「(息切れしながら)大丈夫に、見えんのかよ……? つーか、オレのことは、ほっと

  け……!」


○遠くから兵士の声。

兵士「どこへ行った!?」

兵士「あの傷だ、そう遠くへは行っていない!」

兵士「黒いフードを被った子供だ! 顔はわからなくても、怪しい奴は全員調べろ!」


○ガサガサ、草むらにリーファも紛れる。

   スイ、目を見張る。

スイ「っ! お前、何して……!」

リーファ「わわわわかりませんっ! で、でも、あなたはあの兵士さんに見つかったら困

    るんですよね?」

スイ「そりゃ、そうだけどよ……」

リーファ「ででででしたら、すぐ近くにわたしの家があるのです! なのでそこで治療を

    ……あぁあその、ご迷惑でなければですがっ!」

スイ「……そんなことして、お前に何の得がある?」

リーファ「人を助ける理由に、損も得もありません! ああああああ血、血が……! 早

    く、わたしについてきてください!」


スイM(なんだこいつ……オレのケガ見て真っ青になってるくせして、オレを……助け

   る?)


スイ「何たくらんでんのか知らねーけど、」

リーファ「たくらむとかどうでもいいんです! ほら、見つからないように静かにこっち

    に来てください!」

スイ「おっ、おい!」


○ズリズリ、無理矢理引っ張る音。家の木製のドアを開ける音。

   リーファ、傷だらけのスイを家に押し込む。

母「おかえりなさい、リーファ。今日は遅かった………………えっと、何があったの?」

スイ「人がケガして無抵抗なのをいいことに、善人面して家にあげてんじゃねー!」

リーファ「知りませんよ! ケガする方が悪いんです!」

マルス「わんっ」

スイ「おい、犬! 近づくんじゃね……っつ!」

リーファ「ほら、おとなしくしてください。今から傷薬です!」

スイ「おい! やめ……っ痛ぇーーーーーーー!」

リーファ「痛いのは当たり前です! お母さん、この子の足を押さえてください! わた

    しは両手です!」

母「えーと……え、ええ。わかったわ。とりあえずリーファの言う通りにしましょう」

スイ「オイコラ何納得してんだよ母親! 放せっ……」


○ガタガタの騒動。

   スイ、気絶。

母「……で、リーファは帰り道に偶然この子を見つけて、連れ帰ってきたってことね?」

リーファ「はい……。だって、悪い人には見えなかったし……」

母「軍に追われていたのに?」

リーファ「……はい。それでもわたしは、この子を助けるべきだと思ったんです」

母「(ため息をついて)……そう。あなたがそう判断したなら、今日はこの子をかくまって

 あげましょう。幸い軍が訪ねてくる気配もない。もしリーファが助けてあげなかったら、

 失血死していたかもしれない程に深い傷だったわ。……こんな、幼い子が」


リーファM(わたしと同じくらいの歳なのに……こんなに傷だらけになって、この子はど

     うして追われていたんでしょう……)


リーファのナレーション

『明日になったら話を聞こうと思っていましたが、お母さんとわたしが眠りについて朝起

 きると、すでにその子はいなくなっていました。結局誰なのかわからずじまいかと思わ

 れましたが、それからしばらくして、酒場にその子が現れました。名前はスイくんちゃ

 ん。かっこいい女の子です。わたしに借りがあるので、返したいとのことでした。

 あれからスイくんちゃんは、時折酒場に来ては、とてもきれいなピアノを披露していっ

 てくれます。男性客が多かった酒場ですが、スイくんちゃん目当ての女性客も増え、全

 体的な集客が増えててマスターはうれしそうです。

 スイくんちゃんはわたしに、もうあの仕事はやめた、とだけ言ってくれました。その仕

 事が何なのか、わたしにはわかりません。でも、彼女が言いたくないなら聞くべきでは

 ないと思います。

 平和で穏やかな日々が続くと思っていた、そんなある日のことでした』



○嵐の音。雷、地響き。人々の逃げ惑う叫び声。

   リーファ、母と共に逃げている。

リーファ「お母さん! 大丈夫ですか!?」

母「私は大丈夫よ! あなたこそ……っリーファ、危ない!!」


○壁の崩れる音。

   リーファ、体が動かない。


○ドンっとぶつかる音。「わんっ」という最期の一声。

   マルス、リーファをかばって死ぬ。

リーファ「マルス!!」

母「……っ早く! リーファ……っ逃げるのよ!!」

リーファ「だって、マルスが……っ」

母「そのマルスが命がけで守ったあなたを、あなた自身が捨ててどうするの! 今はとに

 かく、生き延びるのよ……!」

リーファ「だって、まだ生きているかもしれないのに……!」

母「ここにいたら、私たちも死んでしまう! 今は逃げることだけを考えなさい!」


○全音FO。


リーファM(……胸が、痛いです。息が、できないです。どうして……どうしてわたしを

     かばって、みんな死んでいってしまうのですか……? わたしは、何も望んで

     いないのに。ただ、穏やかに家族みんなで暮らしたいだけなのに…………)


○無音。

ナレーション「運命は残酷だった。リーファにとって二度目のアクマ侵攻。彼女はここで

      も、大切な親友であり、家族だった愛犬を喪った。……自分をかばった母は

      自由を失った。自分をかばったマルスは、命を失った。それらは偶然起きた

      事象に過ぎなかったが、彼女にとってそれは決して他人事ではなかった。自

      分のせいで皆が不幸になる……リーファがそう考えるようになるまでに、そ

      う時間はかからなかった」





○風の音。波の音。崖の上。

   リーファ、一人崖に立っている。

リーファ「きれい…………」


リーファM(わたしをかばって、みんな不幸になります。わたしが生きているせいで、こ

     れ以上誰かが苦しむくらいなら…………)


○波が寄せては返す音。

   リーファ、目を閉じる。


リーファM(自ら命を絶つなんて……とても、いけないことをしているとわかっています。

     でもわたしは、これ以上大切なものを失うことに、耐えきれません……。弱く

     て、ごめんなさい。頑張れなくて、ごめんなさい。でもきっと、これでもう不

     幸は生まれません。お母さん……産んでくださって、育ててくださって、本当

     にありがとうございました。大好きです。わたしは疫病神かもしれないけれど

     ……お母さんの娘に産まれてこられた幸せが、唯一の奇跡です。先立つことを

     ……どうか許してください……)


リーファ「お父さん……マルス……今、会いに行きますね……」


○車椅子の音、走ってくる足音一つ。

   母を連れたスイ、駆け寄ってくる。

母「リーファ!」

リーファ「! お……かあ、さん……? どうして……」

スイ「オレが教えたんだよ」

リーファ「どう、やって……? 誰にも、わかるはず、ありません……!」

スイ「お前の様子がおかしいって気づいたの、オレだけみたいだったからな。後はシャロ

  ン……姉貴の占いで、この日と時間さえわかればよかった」

リーファ「……っ」


リーファM(わたしはずっと、〝いつも通りの〟笑顔で仕事をしてきました。常連さんに

     もマスターにも、絶対に気づかれていません! お母さんにだって、気づかれ

     ていなかったから、ここまで邪魔をされなかったんです……! それを……酒

     場に時折来るだけのスイくんちゃんに、気づかれていた……!?)


母「リーファ……お願い! そんな危ないところから、早く下りてきて……!」

リーファ「お母さ、ん……」


リーファM(一番見つかりたくなかったのに……誰にも気づかれずに、一人で逝くつもり

     だったのに……!)


スイ「お前……笑顔が、違ったんだよ。最近の笑顔は、最初に会ったお前の笑顔じゃなか

  った。作ってる笑顔だった」

リーファ「なんでそんなこと……わかるんですか……?」

スイ「笑顔が下手な姉貴がいるからだよ」

母「リーファ……嘘よね……? あなたが……自殺、なんて……冗談、よね……?」

リーファ「……っもう……放っておいてください!!」


○波の音BGMのまま、間。


リーファ「わたしがいなければ……お母さんは足を怪我せずに済んだ……。わたしがいな

    ければ、マルスは死なずに済んだんです! わたしが! アクマ侵攻のたびに誰

    かに助けられて、代わりに誰かを失っていく……! そんなのもう……っもう、

    イヤなんです!!」

母「それは違うわリーファ! あなたが大切だから、私は歩けなくなったことなんて不幸

 だと思ってない! マルスだってそうよ! あなたが大好きだから、その命を賭してあ

 なたを守ったんでしょう!?」

リーファ「わたしのせいで誰かがいなくなるのは……! もう、イヤなんです……!」


○波の音BGMのまま、間。


スイ「……お前は、何の責任もとらずに逃げるつもりか?」

リーファ「、責任……?」

スイ「そうだよ。オレは母ちゃんの足も犬も、お前のせいだとは思わねーけど……お前自

  身が〝自分のせい〟だと思うなら。……母ちゃんの足を奪った責任と、犬の命を奪っ

  た責任……それを投げだしたいから、逃げようとしてるだけじゃねーのか?」

リーファ「…………それ、は……。だって……わたしに、何ができるって言うんですか…

    …?」

スイ「簡単なことだろ? ……お前のせいで誰か歩けなくなったなら、お前がそいつの分

  まで歩け。走れ。お前のせいで誰かが死んだなら、お前はそいつに誇れるよう生きな

  きゃいけない。それがお前にできる、唯一の責任の取り方だろーが」

リーファ「……!」


○車椅子から落ちるドサッという音。地面を引きずる音。

   母、車椅子から落ちるようにして這って進む。

リーファ「お母さん! 危ない……!」

母「私も、あなたの笑顔が陰っていくのに気付いていた……気付いていたのに、あなたが

 ここまで思い詰めているとわかってあげられなかった……! 母親、失格よ……!」

リーファ「そんな! お母さんは何も悪くないです!」

母「いいえ! 娘に死を選ばせるなんて……母親失格よ……!」

リーファ「お母さん……」

母「それでも……それでも! もう一度私に、チャンスを……くれないかしら……?」

リーファ「チャンス……?」

母「(涙をこらえながら)優しいリーファ……愛しいリーファ。お願い。私の一生のお願い

 よ。私の命でも何でもあげるから、あなただけは……あなただけはどうか、生きて!」

リーファ「!」


○抱きしめる音。

   母、リーファを抱きしめる。

母「お願いよ……! あなたが……あなたが、私の生きる希望なの! あなたがいてくれ

 るなら、他に何もいらない……! だからどうか、どうか……私を一人に、しないで…

 …!」

リーファ「(泣きだしながら)お……かあ、さん……っ」

母「(泣きながら)お願い、お願いよ……!」

リーファ「ご……っごめんなさいーーーーー!」

母「ごめんね、心配かけてごめんねリーファ……っ」

リーファ「ぅわああああああああああああああんっ」



リーファのナレーション

『わたしがお母さんの前で大声で泣いたのは、これが初めてでした。いつも心配をかけた

 くなくて、無理をしていたんだと思います。とにもかくにも、スイくんちゃんとお母さ

 んの説得で落ち着いたわたしは、それから家に戻ってたっぷりお説教を受けました。で

 も、何故でしょう……そんな風に怒られることも思えば初めてで、少しうれしかったの

 を今でも覚えています。

 しかし平和は長くは続きませんでした。数年後、今度は村をある事件が襲ったんです。

 通称〝通り魔事件〟。人が次々と意識不明になって見つかるという、恐ろしい事件でし

 た』



○男女のガヤ。軍の講堂。

   リツカ(25)、キサラ(27)、全隊員の前で説明中。

リツカ「えー、そんなわけで、各地で意識不明者が多発しとります。うちらが把握してる

   だけでも百人はくだらんさかい、みんなも気ーつけや。被害者は民間人から軍人ま

   で無差別に、それこそ通り魔に襲われたよーに一瞬で意識を失って倒れる。しかも

   目覚めんときた。そこで…………えー、なんやったっけ? キサラ」

キサラ「……隊長。貴女はご自身がこの国家防衛軍第一部隊の隊長であるという自覚を、

   もう一度しかと、くっきりと、はっきりと、明確に! 頭に刻んだ方がよろしいか

   と」

リツカ「いや、そう言われても……うちかてなんでうちが隊長なんかようわからんさかい、

   そこは我らが副官、キサラ第七部隊長に任せようやないの!」

キサラ「馬鹿なことを言わないでください。……ごほんごほん、皆さん、お待たせし……

   いえ、失礼いたしました。わたくしの方から、今後の展開を説明させていただきま

   す」

リツカ「よろしくなー」

キサラ「……まず、被害者に共通点がないことは先述の通りです。そのため、各村に〝護

   衛隊〟を作り、派遣します。どの村にどのメンバーで派遣されるかは各自配られた

   名簿を確認してくださいませ。よってしばしこの首都は、国家防衛軍第一から第十

   六部隊の幹部のみで管理することとします。以上!」


○同BGM。紙をめくる音。

   ライル(20)、名簿を見る。

ライル「ふーん……オレは副隊長か」

兵士「童顔ライルくんも、出世したなー」

ライル「誰が童顔だ!」

兵士「まあお互い、被害者にならねーよう頑張ろうな!」

ライル「ふん。オレがなるわけねぇだろ」

兵士「ははっ、それもそーだな! じゃ、またな!」




○男女のガヤ。食器の音。雑音。酒場。

   リーファ、働いている。

男性客「リーファちゃん、こっちで追加ー」

リーファ「はいっ」

男性客「リーファちゃん、あのおまじないやってよー」

リーファ「え、ええっ? でもあれは、常連のお客様方が遊びで作ったものですし……」

男性客「いいじゃんいいじゃん、おれも聞きたい」

男性客「オレもー」

マスター「リーファ、サービスするのも看板娘の役目だよ」

リーファ「えぇえ!? ま、マスターまでそう言うんでしたら……」

男性客「やりぃっ! じゃあさ、誰の名前でやってもらう?」

男性客「おれおれ!」

男性客「いや僕で」

男性客「オレが最初に言ったんだぜ? どー考えてもオレだろー」

リーファ「ど、どなたにおまじないをかければいいんですか……」


○どかっとグラスを机に置く音。

   ライル、酔って名乗り出る。

ライル「オレだ」

男性客「ご、護衛隊の副隊長!? なんでこんなところに……」

ライル「この村で一番情報収集しやすく……ヒック、……活気がある場所だからな……ヒ

   ック、ずいぶん前から駐在している」

男性客「……めっさ酔ってるな、副隊長さん」

男性客「ああ……。それどころか童顔なせいで未成年にしか見えん」

兵士「そうなんですよ。こう見えて副隊長は二十歳なんです」

兵士「童顔なのは本人も気にしてて……」

ライル「どぅあれが童顔だ!」

リーファ「あの……」

ライル「あ?」

リーファ「いつもこの村を守ってくださって、ありがとうございます! あなたの名前を

    教えてください。お……おまじないに、必要なんです……。ご迷惑をおかけして

    すみません」

ライル「……ライル」

リーファ「ライル様ですね! お名前お借りします!」

ライル「……別に名前くらい……」

リーファ「では! 僭越ながら……コホン。

     リ・リ・リ・リ・リーファより♪

     ラ・ラ・ラ・ラ・ライル様へ♪

     愛情たーっぷり、召し上がれ♪」


○ズキューン、と胸を撃ち抜かれる音。

   ライル、真っ赤になる。


ライルM(前からずっと見てたけど……いやむしろ彼女目当てでここにいたのも事実だけ

    ど……! ちくしょう、近くで見ると余計に……か、かわいい……!)


リーファ「ど、どうぞです……」


リーファM(そ、そんなに見られると居心地悪いです……っ。だからおまじないなんてし

     たくなかったのに……副隊長様に、変に思われていないでしょうか……)


ライル「お、おう」


○ぐびっと飲み干す音。続いてばたーんと倒れる音。

   ライル、酔いつぶれる。

客「「「ええええええええええ!?」」」

リーファ「ら、ライル様!?」

マスター「ずいぶん疲れていらしたからね。いつもの調子で飲んでしまったんだろう。リ

    ーファ、彼を上で介抱してやってくれるかい?」

リーファ「はいっ、わかりました!」

男性客「えーリーファちゃん行っちゃうのー!?」

リーファ「すみません! 皆さま、この後も楽しんで行ってくださいね!」


○パタパタ階段を駆け上がる音。

   客たち、静かに語る。


男性客「副隊長さんに全部持ってかれたな……」

男性客「ああ…………なんか、むなしいな」

男性客「言うな。それよりおれたちは、リーファちゃんが戻ってきたときのために次のお

   まじないをやってもらう奴を決めておこう」

男性客「それもそうだな! ここは……じゃんけんだ!」

男性客「よし、恨みっこなしの一発勝負だ!」

客「「「じゃーんけーん」」」



○静かな室内のBGM。酒場二階の小部屋。

   リーファ、ライルに付き添っている。


リーファM(何回も来てくださっていたのは知っていたけれど、副隊長さんだったんです

     ね。ライル……様。……ふふっ。寝顔は年上には見えません)


ライル「ぅ……」

リーファ「ライル様!」

ライル「頭、痛ぇ…………ここ、は……」

リーファ「ライル様、覚えていらっしゃいますか? わたしです、リーファです」

ライル「!?」


○ベッドから跳ね起きる音。

   ライル、反動で頭痛にうめく。

ライル「っつー……!」

リーファ「大丈夫ですか!? はい、お水です。ゆっくり飲んでください」


○水を飲む音。コップを机に置く音。

   ライル、内心の葛藤。


ライルM(オレがあの程度で酔いつぶれるわけねぇ! つーかなんでこの子が!? こん

    なかっこ悪ぃとこ見られたくなかったぜちくしょう……!)


リーファ「マスターが言ってました。疲れがたまっていらしたんだろう、って。ダメです

    よー? 疲れがたまっているときに、いつもと同じペースでお酒を飲んでは」

ライル「わ、悪かった……」

リーファ「ふふ。でも、そんなたまった疲れを癒す場所がここですもんね。わたしでよけ

    れば看病くらいはできますから、少しくらいなら羽目を外されても大丈夫ですよ」


ライルM(天使がいる!)


リーファ「もう少しお眠りになりますか? 最近は……通り魔事件のせいで、軍の方々は

    相当お忙しいとスイくんちゃんから聞いています」


ライルM(スイくんちゃん!? それは男なのか女なのかどっちにせよ仲がいいのかうら

    やましい!)


リーファ「あ……わたしがいたら、お邪魔でしたか? 気づかなくてすみません。わたし

    は仕事に戻りますので、ごゆっくり、」


○腕をつかむ音。

   ライル、とっさにリーファを引き留める。

ライル「邪魔……なんかじゃ、ねぇよ……」

リーファ「? そうですか?」

ライル「水……もう一杯、くれるか?」

リーファ「はい! 少々お待ちください!」


ライルのナレーション

『これが、オレとリーファの出会いだった』



○男女のガヤ。食器の音。酒場。

   リーファ、ライルと話している。

リーファ「ライル様、また来てくださったんですね! ありがとうございます!」

ライル「……当たり前だ。まだ通り魔事件の原因はわかってねぇからな。この件が解決す

   るまでは、オレはこの村で副隊長だ」

リーファ「……まだこの村で被害者は出ていませんが……他の村の方々は、やっぱりまだ

    目覚めていないんですか……?」

ライル「ああ。今も被害者は、増え続けてる」

リーファ「そう……ですか…………。ライル様が最近、あまりお酒を注文なさらないのも、

    お仕事が忙しいからですか?」

ライル「それはもちろん、これ以上かっこ悪ぃところをお前に……ごほごほっ……部下に

   見せねぇためだ」

リーファ「な、なるほど……! ライル様は副隊長さんの鑑ですね!」


兵士「副隊長……頑張ってるなぁ」

男性客「おれたちのリーファちゃんを取られると思うと腹も立つけど、あの副隊長さん相

   手だと不思議と怒りがわかん」

男性客「ああ。いっそ応援したくなる。なぜか」

兵士「副隊長はどこに行っても応援されますね」

兵士「さすがです!」

男性客「さすが、なのか……」


ライル「そういえば……あー、このあいだ言ってた『スイくんちゃん』って、誰……なん

   だ?」

リーファ「あぁ、スイくんちゃんでしたらそろそろ……あ、来てくれました!」


○酒場の木製のドアが開く音。「キャー!」という女性陣の歓声。

   スイ、タキシードで登場。

ナデシコ「スイ! 待っていましたわ! どうぞ受け取ってください!」

女性客「スイ様ーーーー!」

女性客「今日もタキシードがかっこいいー!」

女性客「スイくん、これ受け取って!」

女性客「スイさま、今日もステキ……!」

スイ「ありがとな……みんな。でもオレにはこの花束より、このタキシードより、みんな

  の方が綺麗に見える。なんでだろうな……やっぱりみんなが、世界で一番可愛いから

  かな」

女性陣「「「キャーーーーー!!!」」」


○パタパタ走る足音ひとつ。

   リーファ、スイのためにピアノの準備をする。

リーファ「はいっ、スイくんちゃん!」

スイ「おっ、リーファ、サンキューな」

リーファ「いつもありがとうございます! わたしもいつも、スイくんちゃんのピアノ楽

    しみにしてますから」

スイ「へへっ。…………そういや、見慣れねー顔がいんな。あれ誰だ? なんかオレのこ

  とすげーにらんでくるんだけど」

リーファ「にらんで……? あ、あの方はこの村の護衛隊副隊長の、ライル様です。最近

    ここで情報収集をしていらっしゃるんですよ」

スイ「へー……なんか面白そうだな。おいリーファ、ちょっとこっち来い」

リーファ「? はい、」


○一瞬だけBGMなくして、リップ音一回。

   スイ、リーファの頬にキス。

リーファ「ど、どうしたんですか!? さすがにわたしも……て、照れちゃいます……っ」


○大騒ぎになる。

   

ライル「な、ななななな、お、お前らどういう関係で……っ」

リーファ「ライル様、真っ赤ですけど大丈夫ですか? って、わたしもですけど……もう! 

    スイくんちゃんは悪戯がすぎます!」

スイ「わりーわりー。いやあ……ライル、さんだっけ? オレのリーファが世話になって

  ます」

ライル「オレの!? リーファ、この男がお前の恋人なのかっ?」

リーファ「ライル様、わたしに恋人はいません。というか……それ以前にスイくんちゃん

    は、」

スイ「ちょっとストップ、リーファ。オレ、このライルサンに聞きたいことあるんだよな」

ライル「は……? オレに聞きたいこと?」

スイ「そうそう。あんたさ、リーファのこと好きなんだろ?」


○一瞬BGM消える。間。


○酒場のいつもの喧騒に戻る。

   客は各自、納得した様子。

女性客「なんだ、スイくんのおふざけかー。びっくりした!」

女性客「ね。でもどうせキスしてもらえるなら、私が良かったなぁ」

女性客「なんだかんだでスイ様も、恋バナ好きだもんね。そういうところは女の子ってい

   うか」

女性客「ま、かっこいいことに変わりはないけどね」


男性客「今さらだけど、スイちゃんの人気はすさまじいな」

男性客「いやおれはむしろ、初めて会ったのにリーファちゃんへの恋心を暴露された副隊

   長さんが気の毒だ」

男性客「よく考えてみろ。……オレらもうすでに、知ってたよな」

男性客「……あ」


ライル「い、いきなり何を……っ」

スイ「あれ、ちげーの?」

リーファ「スイくんちゃん! そんなこと言ったら、ライル様に失礼です!」


ライルM(こ、ここは男らしくきめねぇと、それこそかっこ悪ぃまま終わっちまう!)


スイ「違うんなら、リーファはオレがもらおーっと」

リーファ「スイくんちゃん、そろそろおふざけもいい加減に、」


ライル「……そうだ」


リーファ「え……?」

ライル「オレは……リーファが好きだ」

スイ「(口笛)ひゅー♪」


○足音一つ、近づく。

   ライル、リーファの前で立ち止まる。

ライル「オレはリーファが……好きだ。こんなこといきなり言われて、驚いてるとは思う。

   いつまででも待つ。待つ、から…………リーファの気持ちがわかったら、返事が欲

   しい」


○酒場のドアが閉じる音。

   ライル、出ていく。

リーファ「ど、どどどどどどうしましょうううううううぅ!? こ、これは世の中で言う

    こ、告白というものですよねっ!?」

スイ「くくっ。ああ、いわゆる告白ってヤツだな」

リーファ「は、はうぅぅぅぅ、生まれて初めて殿方に、ここここ告白なるものをされてし

    まいました……っ! これは、だ、大事件です!」

スイ「ああ、大事件だな。ま、言わせたのはオレだけど」

リーファ「わ、わたしはどうすれば……っ」


男性客「微笑ましいな」

男性客「ああ、微笑ましい」

男性客「スイちゃん、爆笑してるぜ……」   

男性客「なんつーか……」

客「「「頑張れ、リーファちゃん」」」



○風の音。柔らかい草の音。小高い丘。

   ライル、リーファ、寝転んでいる。

ライル「いきなり誘って悪かったな」

リーファ「い、いえ。今日は久しぶりにお休みをいただきましたし……」

ライル「断ってもよかったんだぜ?」

リーファ「……わたし……何かをお断りするのが、苦手なんです……」

ライル「だろーな。オレはそんなリーファも好きだけど」

リーファ「!」

ライル「言われ慣れてない?」

リーファ「あ、当たり前ですっ」

ライル「リーファの場合、気づいてないだけかもしれねぇけどな」

リーファ「?」

ライル「なあ…………また、さ。こうやって二人で、会ってくれねぇか?」

リーファ「さ、先ほどわたしは、断るのが苦手だと申し上げました!」

ライル「知ってて言ってる。きっとリーファは断らない」

リーファ「~~~っ、もう! 知りませんっ」


○同BGM。寝返りをうつ音。

   リーファ、真っ赤になって背を向ける。

ライル「……オレ、初めてリーファと話したとき……酔ってただろ? いきなりぶっ倒れ

   るし、かっこ悪ぃとこしか見せてねぇけど……」


○同BGM。寝返りをうつ音。

   ライル、リーファの背中に告げる。

ライル「この村に配属されて、初めてリーファを見たときからずっと……ずっと、好きだ

   った。告白だって、スイにしてやられなかったら出来ずにいたかもしれない。でも、

   オレは本気だから。……何度だって伝える。もうこれ以上、かっこ悪ぃとこは見せ

   たくねぇから。後悔……したくねぇから」


リーファM(ライル様……)


ライル「リーファ、顔、見せて」

リーファ「…………イヤ、です……」

ライル「何もしねぇから」

リーファ「そ、そういう問題じゃ、ありません……っ」

ライル「リーファ、」


○同BGM。走り去る音。

   リーファ、恥ずかしさに耐えきれず逃走。

ライル「リーファ!」

リーファ「ご、ごめんなさいいいいいいっ」


リーファM(何なのですか? どうしてこんなに……顔が熱いんでしょう? 胸がドキド

     キして……ライル様の顔なんて、とても見られません……っ! き、緊張で死

     んでしまいます……っ)


ライル「(苦笑して)かわいい奴」



○準備中の酒場。食器の音。

   リーファ、精神統一中。

リーファ「今日こそは平常心でライル様と向きあ、」

ライル「オレが何だって?」

リーファ「きゃああああああっ、ら、ライル様!? まだ開店前のはずですが……っ」

ライル「なんか、マスターが入れてくれた。リーファを手伝ってやれってさ」

リーファ「ぅううマスター……」

ライル「……オレに、会いたくなかった?」

リーファ「……そんなわけ、ありません。ただ……」

ライル「ただ?」

リーファ「ら、ライル様が側にいると、心臓が全力疾走してしまうので……わたし自身も

    びっくりするくらい、戸惑ってしまって……。ライル様に嫌な思いをさせてしま

    わないか不安で……」

ライル「じゃあさ、ちょっとずつ仲良くなろうぜ! まずはその『ライル様』ってのやめ

   てくれよ。ライルでいい」

リーファ「よよよ呼び捨てなんて滅相もありません! せめて……ライルくん、ではいけ

    ませんか……?」


○苦笑する声。髪をなでる音。

   ライル、笑ってリーファの髪をなでる。

ライル「それでいい」


リーファM(どきどきします……。これは、初めて告白されたから? それとも……相手

     がライルくんだから……?)



○風の音。柔らかい草の音。小高い丘。

   ライル、リーファ、並んで座っている。

ライル「オレさ……両親いないんだ」

リーファ「……アクマに?」

ライル「ああ。殺された。……その日はちょうど、お袋とケンカしててさ」

リーファ「ケンカ……ですか?」

ライル「内容が思い出せねぇくらい、すっげー些細なことでケンカしたんだ。でも、オレ

   が最後にお袋に言った言葉だけは覚えてる」

リーファ「……なんて?」

ライル「『母さんなんか大っ嫌いだ、どっか行っちゃえ』」

リーファ「……」

ライル「笑えねぇよな。人間なんてみんな……過ちからしか学べねぇ。でもオレはそのと

   き確かに、すげー後悔したんだ。どうしてお袋にもっと違う言葉をかけてやれなか

   ったのか。そもそも冷静に話し合っていれば、ケンカなんてしなくて済んだんじゃ

   ないのか。……どうして最期にかけた言葉が、感謝じゃなかったんだ……って」

リーファ「ライルくん……」

ライル「だから、リーファにはちゃんと言っておきたいんだ。後悔しねぇように。好きだ

   って……何回でも。――何かあったときに、オレの声を思い出してもらえるように」

リーファ「何かあったらなんて……縁起でもないこと、言わないでください……」

ライル「(苦笑して)オレはこれでも軍人だからな。何もないとは言い切れねぇ」


リーファM(ライルくんが……いなくなる……? 当たり前のように傍にいてくれて、好

     きだと言ってくれて、少し強引なところもあるけれど、いつもわたしに笑って

     くれる、ライルくんが……?)


○回想。切なめBGM。


ライル『オレは……リーファが好きだ』


ライル『だろーな。オレはそんなリーファも好きだけど』


ライル『オレは本気だから。……何度だって伝える。もうこれ以上、かっこ悪ぃとこは見

   せたくねぇから。後悔……したくねぇから』


ライル『じゃあさ、ちょっとずつ仲良くなろうぜ! まずはその『ライル様』ってのやめ

   てくれよ。ライルでいい』


ライル『だから、リーファにはちゃんと言っておきたいんだ。後悔しねぇように。好きだ

   って……何回でも。――何かあったときに、オレの声を思い出してもらえるように』


○回想、BGM終了。


リーファM(もう、この温もりがわたしの傍からなくなってしまうとしたら――……)


○ぽた、という雫の音。

   リーファ、気付くと泣いている。

ライル「ど、どうしたリーファ? オレが湿っぽい話したからか? ごめんな」

リーファ「ちが……っ」


○シャツを掴む音。

   リーファ、ライルの上着をつかんで叫ぶ。

リーファ「……っわたしの前からいなくならないでください! いなくなるくらいなら、

    はじめからわたしの心の中になんて……入ってこないで! みんなみんな、わた

    しの前からいなくなるくらいなら……っわたしは最初から何もいりません! ら、

    ライルくんだっていなくなるなら……っどうして、どうして好きだなんて、言っ

    たの……!? どうしてわたしに、そんなこと言ったの……っ!」

ライル「ごめん、ごめんな、リーファ」

リーファ「ひどい……っライルくんは、ひどいです……!」

ライル「オレはいなくならねぇって。さっきのは……ほら、例えばって話で」

リーファ「もう嫌です……っ! わたしの心、あなたのいない所を探す方が難しいのに…

    …っ」

ライル「…………へ?」

リーファ「は、初めてこんなに、寂しくなりました……っ! ライルくんはひどい! と

    ってもひどいです……っ」

ライル「ちょ、待ってリーファ」

リーファ「ライルくんのばか……っ、こんなに、好きにさせておいて………………………

    ………あ、れ?」

ライル「……」

リーファ「……」

ライル「……リーファ、それって」


○ボンっという音。

   リーファ、真っ赤になる。

ライル「もっかい……もう一回、聞かせて。リーファ」

リーファ「……っわ、わたしはこれにて失礼させていただきま、」

ライル「そうはいくか!」


○抱きしめる音。

   ライル、リーファ捕獲。

ライル「オレは……何回だって言う。リーファが好きだ」

リーファ「はうぅ……」

ライル「――リーファは?」

リーファ「えええええっと、その……」

ライル「リーファの返事……聞かせろよ。じゃねぇとオレ……さっきの言葉、好きに受け

   取っちゃうぜ?」

リーファ「あの、その、」

ライル「うん」

リーファ「(観念したように)…………どうやらわたしも、ライルくんのことが……好き、

    になっていたみたいです……」

ライル「……やりぃっ! 今日からリーファは、オレの恋人だ!」

リーファ「こ、こここ恋人とは、何をすればいいんでしょうか……?」

ライル「何も。いつも通り今まで通り、リーファはリーファのままでいてくれよ。そんな

   リーファを、オレは……何と引き換えても、絶対に守るから、さ」


リーファのナレーション

『こうして初恋にして初めての恋人ができたわたしは、熱に浮かされたような感覚で数日

 を過ごしました。実感がわくとうれしくて恥ずかしくて、恋とは難しいものだと実感し

 ています。

 それから時は過ぎ、ライルくんのことを次第にルーくんと呼び始めた頃。彼がこの村に 

 来て、ちょうど一年が経とうとしていました』



○男女のガヤ。酒場。

   ライル、部下を連れて飲んでいる。

ライル「ここまでの報告では、この村に被害はねぇ。だが、災難はいつ襲ってくるかわか

   らねぇ。油断をするな。生き延びろ。絶対にだ」

兵士「はい、副隊長!」

兵士「背中は任せてください、副隊長!」

兵士「さすが、童顔でも副隊長は頼りにな、」


○ドサッと倒れる音。

   兵士の一人がその場で倒れる。

ライル「どうした!?」

兵士「おい! しっかりしろ!」

兵士「まさか……!」

ライル「……まだ、わからねぇ。とりあえず仮設本部に連れて行く」

兵士「副隊長……」

ライル「脈はある。呼吸もしてる。死んだわけじゃねぇんだ……オレたちは、マニュアル

   通りに動くぞ。……全員、警戒態勢!」

兵士「「「はっ!」」」


○兵士たちが出ていく音。

   リーファ、不安そうに近寄る。

リーファ「ルーくん……」

ライル「……心配すんな。ただ失神しただけかもしれねぇしな」

リーファ「約束……守ってくれますよね……?」

ライル「ああ、大丈夫だ。『オレはリーファより先には絶対に死なない』……安心して、待

   ってろ」

リーファ「はい……」


 

ナレーション「人間に似た外見を持ち、人間を襲う存在――通称〝アクマ〟。上級アクマ

      と下級アクマとに分類される彼らはどちらも土から作られており、心臓部を

      破壊すれば死滅する。――ここまでが、軍の把握しているアクマの特徴であ

      る。しかし、それ以上の存在がいることに気付いている者は、決して多くは

      ない。ライルもまた、例外でなくその事実を知らなかった。彼がその存在を

      目の当たりにするときは、もうすぐそこまで迫っていた」


○屋外。仮設本部の喧騒。ガヤ。

   医師と兵士たち、暗い顔で集まっている。

ライル「そう、か…………。そうじゃなけりゃあいいって、願ってはいたけどな……」

医師「はい……。この村初の、意識不明者です」

ライル「あの場にいた全員……オレも含めて、誰も見ていない。薬物反応も出ていなけれ

   ば、現在わかっている限りは病でもない。オレも実際に体験するまではわからなか

   ったが……これが今この国を騒がせていやがる、通り魔事件ってヤツか」

兵士「はい……」

兵士「どうして、アイツが……」

ライル「オレはもう一度、酒場の客に聞き込みをしてくる。もしこいつが目覚めたらすぐ

   に連絡してくれ」

兵士「「「はっ」」」



○酒場前。ざわめき。

   ライル、マスターに尋ねる。

ライル「リーファは?」

マスター「精神的に疲れてしまったんだろう。中で休んでいるよ。よかったら傍について

    いてやってくれるかい?」

ライル「任せ、」


○BGM唐突に消える。艶やかな声。

   グーラ(アクマ)、ライルの真横に出現。

グーラ「まだまだ満腹にはほど遠い……」

ライル「誰だ!?」

グーラ「妾が誰であろうと、汝には関わりのないこと。もうすぐ妾の腹におさまる、汝に

   は」

ライル「てめぇ……アクマ、なのか……!?」

グーラ「先ほどの人間は、そこまで妾の腹を満たしてはくれなんだ。汝は……どんな味を

   しているのかのう」


ライルM(何の気配もなかった! もしかしてこいつが……通り魔事件の、原因……!?)


○剣が空を切る音数回。

   ライルの剣がかわされる。

グーラ「残念……。妾にそのような無粋なものは効かぬわ。せいぜい妾の糧として永ら

   えるがいい。無力なる兵士よ……」

ライル「……っリーファ……逃げろ!」

グーラ「さあ、この世に別れを」

ライル「リーファ、逃げ――――…………」



○臨時休業した酒場。辺りはざわついている。

   リーファ、椅子に座っている。


リーファM(マスターは外で皆さんに事情を説明しています。この酒場は……人がいない

     と、こんなにも広かったんですね……)


○外が騒がしくなる。乱暴にドアが開く音。

   マスター、血相を変えて入ってくる。

マスター「リーファ、いいか、落ち着いて聞いてくれ!」

リーファ「マスター……?」

マスター「ライル君が……!」


○走り出す音。


リーファ「ルーくん……!!」


○屋外。仮設本部の喧騒。ガヤ。

   リーファ、駆け寄る。

リーファ「ルーくん!!」

マスター「誰も何も見ていない。一瞬で彼は……意識を失って倒れた。それからずっとこ

    の状態だ……」

リーファ「ルーくん、起きてルーくん!」

医師「先の意識不明者と同じ状態です。何も異常は見当たらないのに、意識だけが回復し

  ない……。我々にも、どうすることもできず……申し訳、ありません……!」

リーファ「ルーくん! ルーくん! ルーくん……っ!」

マスター「……っリーファ! しっかりしなさい!」

リーファ「でも、でも……ルーくんが……っ」

マスター「君が信じなくて、誰が信じるんだ!」

リーファ「……!」


○はっとして、ぎゅっと手を握る音。

   リーファ、ライルの手を握る。


リーファのナレーション

『ルーくんは言っていました。自分は軍人だから、何が起きるかわからないって。そのと

 きわたしに声を覚えていてほしいって。……だったらわたしは、どんなに時間がたって

 もルーくんの声を覚えてます。ルーくんのことを信じてます。……だって、約束しまし

 たもんね。わたしより先には、死んだりしない……って。ルーくんは死んだわけじゃあ

 りません。わたしがすべきことは、嘆くことでも死ぬことでもない。わたしにできるの

 は、わたしがすべきなのは……ルーくんが目覚めるときまで、傍にいること。ルーくん

 が目覚めるのを信じて、待ち続けること』

 

リーファ「ルーくん……必ず、起きてくださいね。わたしはいつまでも……いつまででも、

    此処で待っていますから……」




○無音。

リーファのナレーション

『わたしも、強くなります。わたしには大切な人たちがいるから。一人じゃないって、今

 ならわかるから。お母さんや酒場のみんな、スイくんちゃんや軍の方々……そのみんな

 と一緒に、あなたの帰りを待ちます。この事件が解決されることを信じて。わたしにも

 できることが何かあると、信じて。この祈りを、どうか聞き届けてください、イシスの

 神よ――――…………』





ナレーション「私たちの一切の悩みは、私たちが孤独で存在し得ないということから生ま

      れてくる。――――ブリュイエール」 


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