第4章 怒りのレベルアップ
エルザの言葉に怒り狂った俺はその日から生まれ変わった。朝早起きして5キロ先のギルドまで走っていく。レベルアップの恩恵のない俺は自力で自分を鍛えるしか無いのだ。
「ぜ~、ぜ~腹痛え~!、足がもつれる~・・・キツイ・・・」
よろめきながらも決して立ち止まることは無いダイであった。思い込んだら一直線の単細胞なのか意思が強すぎるのか?
「エルザめ~!今にみてろ。」
物凄く執念深いだけだった。怒りを力に変え彼はギルドにたどり着く、そして薬草採取クエストを受注すると直ぐに森に引き返した。因みにゴブ吉はこの間朝飯の支度をしているのであった。
そうして二人で魚の串焼きを食べ、夕方までゴブリン狩である。ダイがゴブリンを弱らせゴブ吉が止めをさすパターンを繰り返す。
そして夕方には、毎日ギルドまでクエスト用の薬草と仕留めたゴブリンの魔石を持って、ダイは走った。
「うえ~!キツイ!辛い~!エルザめ~!!!!呪ってやるぞ~!」
毎日走っているので体力がついて、文句を言いながら5キロ走れる様になったダイがいた。とにかくこの男5キロ走っている間中悪態をついているのである。海外の映画で兵士が歌いながら走る訓練を自然とこなしていたのだ。これを毎日休みなく3か月続けた。
「やった~!」
ギルドに歓喜の声を響かせるダイがいた。
「おめでとうございます、ポイントが貯まりましたので、ギルドランクが上がります。」
受付のお姉さんに言われてダイは歓喜した。
ギルドタグをF級の木から青銅のEクラスに換えてもらう。これで見習い冒険者から初心者冒険者にクラスアップだ。ギルドいた冒険者達は暖かい目で見ていた、ダイが毎日薬草採取をしてランクアップしていた事を知っていたのだ。皆ダイの事を微笑ましく見守っていた。才能が無い冒険者には皆優しいのだ、なにせライバルになりそうにないからね。
「やったなぼうず!おめでとう。S級目指して頑張れよ!」
いかつい顔の大男が祝福してくれる。
「ありがとうオッサン!俺、頑張るよ!早くDランクの冒険者になるよ!」
「ハハハハハ~、現実的な奴だな~。良い冒険者になれるぞ!」
望みの小さいダイに周りにいた冒険者たちは非常に好意的だった。実際才能が無くてもDランクの冒険者には努力さえすればなれた。難しいのはその先Cランクからだ、ここからは才能がある人間か良いスキル持ちの者しかなれないのだ。Sクラスなんて100年前に居たと言われてるだけで誰も見たことが伝説の存在なのだ。
この一月でダイは20万以上稼いでいたが武器は棍棒、弓は竹製の手造りなので殆ど金を使ってなかった。金が余っていたお祝いで、串焼きの肉と小麦等を買って森に帰った。
「ゴブ吉、ただいま。今日はごちそうだぞ。」
「ダイ、オカエリ。ゴチソウタベル」
「今日はレベルアップしたお祝いだ。旨いもの作ってやるぞ。」
小麦粉を水で練ってハチミツを入れる、それをフライパンで焼いたものにゴブ吉が作った魚の塩焼きを挟む、ついでに串焼き肉を挟んで出来上がり。スープには干し肉と森でとれたキノコや野草を入れて塩味にして出来上がり。
「さあ食えゴブ吉!」
「ウマイ!ごぶ!ダイ、リョウリノテンサイごぶ!」
日ごろの粗食のせいで何を食べても美味い!ゴブ吉は生まれて初めてたべた、ハチミツ入りの小麦粉のナンもどきに感動している。俺は正直微妙な味だと思ったが、腹が減ってたので全部食べた。
「さて久しぶりにステータスでも見てみるか。」
「オレ、ツヨクナッタ」
「それじゃあまず、俺からな!」
名前 ダイ
種族 人族
レベル 14
HP 120
MP 120
力 110
体力 120
速さ 110
知力 120
スキル 召喚(ゴブリンに限る) ゴブリン語レベル1 育成レベル1
お~上がってる!毎日走ってギルドに通い、ゴブリンを狩りまくっていたお陰でかなり強くなった。でも変だ、ゴブリン狩はすべてゴブ吉に止めをささせてすべての経験値をゴブ吉に渡したはずなのに、俺のレベルが4も上がってる。
考えられるのは、ゴブ吉は俺の召喚獣なので経験値が俺にフィードバックされる位しか考えつかない。万が一ゴブ吉の経験値が俺に全部来る様なことになったら大変だ。ゴブ吉が成長出来なくなってしまう。
俺は青い顔をして恐る恐るゴブ吉のステータスを覗いて見た。
名前 ゴブ吉
種族 ミニチュアメイジゴブリン
レベル 12
HP 113
MP 133
力 102
体力 102
速さ 113
知力 100
スキル プチファイアー プチファイアボム 忠誠心レベル1
良かった、ゴブ吉のレベルが順調に上がってる。それに凄い成長率だ、レベル毎に各パラメータが3づつ上がってる。流石にクラスチェンジ後の上級職だ。もう俺と余り変わらない位の強さになっているが、身長が低くてリーチが短いので格闘には向いていない。
「ゴブ吉、魔法が増えてるぞ。プチファイアボムってなんだ?」
「ごぶ?・・・・・???」
ゴブ吉にも分からない様だ。
「分からないなら、やってみろ。」
「ヤル!アタラシイチカラ・・ミセル」
力強くうなずくとゴブ吉は精神集中し始めた。そして大げさな身振りで前方を指さす。
何かチョット恰好良い感じだ。
「ゴブゴブゴブ・・・・ゴーブ!!!」
パチン!
目の前の小石がチョットだけ跳ねた、音と威力はかんしゃく玉位だろう。
「ゴブ~・・・・・」
期待外れの威力にゴブ吉は目を伏せている。
「ゴブ吉!自信をもて、今は駄目でも根性で威力を上げれば良いだけだ!あきらめるな、諦めたらそこで終わってしまう。」
俺は月並みな台詞を言ってゴブ吉を励ました。本当は自分に言った台詞だったかもしれない。
「シ・シショウ・・オレ・ガンバル・コノマホウデサカナ・トル」
ゴブ吉は、俺の優しさに触れて涙を流して感動している。この姿を見て俺は頭は悪くても容姿が見にくくても純真なゴブ吉の方が人間より上等な生き物じゃないかな~等という感傷に浸っていた。
まあ、大した魔法じゃないからゴブ吉も魚取りに使うみたいだしな。俺からすれば魔法を使える上に、成長率が凄いから、うらやましいんだけどな。ゴブ吉も俺より強くなったら、俺を馬鹿にしだすのかな~?そんなやつだったら、嫌だな~とか考えながらその日は一日過ごした。
そして次の日も、ギルドから走って帰ってきて所で生活に変化が出てきた、ゴブ吉に子分が出来ていたのである。
「おいゴブ吉、こいつら何だ?」
ゴブ吉の後ろに立つ2匹のゴブリンを見ながら、ゴブ吉に尋ねる。
「コイツラ・コブン・・」
ゴブ吉の強さを見て子分になりに来たゴブリンらしい。まあ、ゴブ吉が養うみたいだし、ゴブリンが裏切ってもどうという事もないので、そのまま面倒を見る事にした。そして俺の事はゴブ吉の主人でゴブリンの神様だと子分に説明している様だった。
2人の時は木の上に2メートル四方の木の床を作って生活していたが、いくらゴブリンとは言えあと2匹増えると狭いので改造することにする。つまり又適当なサイズの木の枝を革の丈夫な紐でしばり今ある床にくっつけるのだ。イメージ的にはイカダを木の枝に置いている感じだ。
俺が木の家を増設している間に、ゴブ吉は子分を連れて魚を取りに行った様だ。あのゴブリン達が魚取りを覚えてくれると非常に助かるんだが、ゴブリンだからな~、頭悪いんだよな。余り期待しない事にした。
午前中いっぱいかけて床面積を2倍の2×4メートルにして休憩していたら、ゴブ吉が帰ってきた。
「タダイマ・ごぶ」
「お~おかえり。」
ゴブ吉は焼き魚を5本と魔石3個を俺に手渡した。魚を取って料理してるついでにゴブリンも狩っていたらしい。俺が魚を2本取り、ゴブ吉達に1本ずつ手渡す。そして買い置きのパンを皆に配って昼飯にする。
新しくきたゴブリン達は美味いものが食えるので、物凄く嬉しそうだった。それにゴブ吉や俺に守ってもらえるので幸せそうな顔をしていた。
一応新しいゴブリン達のステータスを見てみたが、何の変哲もないレベル3と4のゴブリンだった。大体HPと力が30位の雑魚だ。ゴブ吉は上級職になってるので、もうゴブリンとは違う何かになっていた。ステータスだけなら、既にオーク級だった。
「コウ・ごぶ」
「「ごびごぶ?」」
ゴブ吉が根気良く子分に魚取りを教えている、暇なときはゴブリン狩りをやらせて育てているらしい。面白そうなので、俺も協力して小さい方のゴブリンのパワーレベリングに協力する。レベルを上げて知能を上げると少し役に立つ様になるからだ。ついでに街で買って来た干し肉や野菜なんかも与えるとみるみる大きくなって行った。といってもたかがゴブリン130センチと120センチ位だから別にどうでも良い感じだった。ゴブ吉はレベルアップしても120センチのままでちっとも大きくならなかった。
結局3匹のゴブリンに養われる様になって、又俺は自堕落になってしまった。
なにせゴブリン達が俺の為に毎日飯を作ってくれるのだ。ゴブリンも勝手に狩ってきて魔石をどんどんくれるので俺は何もしなくても困らないのだ。
「あ~なんて言うか、怒りって長く続かないもんだな~ゴブ吉。」
怒りに任せて頑張っていたが、すっかりどうでも良くなった俺はゴブ達の為に、たまに街に行って生活必需品を買うだけの引きこもりに戻っていた。ゴブ吉達に甘やかされている事以外にもう一つ理由があった。
ゴブ吉のレベルが上がらないのだ。多分ゴブ吉のレベルが上がったせいでもうゴブリンを狩っても経験値に余りならなくなったのだと思う。レベルアップにはもっと強い魔物を倒さなくてはいけなくなってきた
のだ。
「どうするゴブ吉、オークでも狩ってレベルアップするか?危ないけど。」
「レベルアゲタイ・ごぶ!」
「そうか強くなりたいのか、俺は強くならないけどな・・・ハハハ・・・」
自分で言っててむなしくなる。完全に引きこもりの欝モードだ。
「ツヨクナル・シショウノヤクニタチタイ・ごぶ!」
目を輝かせながらゴブ吉は言った。子分たちもキラキラした目でゴブ吉を見ていた。
「ゴブ吉はえらいな~、俺とは違って。」
完全にゴブ吉に負けた思った。そして俺に出来るのはゴブ吉のレベルアップの手伝いをすることだけだと思った。
「よし!ゴブ吉、明日からオークの居る森の奥に行くぞ!」
俺を完全に信頼している3匹は頷いた。
3匹の信頼にこたえようと俺は少しだけやる気を出した。そして久しぶりに3匹に夕飯を作って食わせた。3匹はとても喜んでくれた。さあ明日はゴブリン達にナイフを買って来てやろう、移動用の装備も必要だな、半年の引きこもりでゴブリン達が稼いだ金100万ゴールドを使って装備を整え森の奥に移動だ。