第31章 辺境伯
村人は結局100人程しか生き残っていなかった。彼らにはありったけの金と食料を持たせてナルト伯爵の町に行かせた。俺にはもう金は必要なかったからだ。
「男爵、すいません。俺達が弱かったばっかりに奥さんを守れませんでした。」
「良いんだ、俺の考えが甘かったんだ。それにお前たちは全然悪くない。平和に暮らしていただけ だ。」
地上はゴブリン達が集結しているので非常に危険なので船で行かせる事にした。そして、町に着いたら家や城壁から絶対出ない様に伝えた、今のゴブリン達は人型の者には全てに襲い掛かるだろう。抵抗は無意味だ、何万と言うゴブリンが死ぬまで攻撃を止めないからだ。
「ダンシャク、カナシイ!」
ゴブリン町の長が俺に言う。ゴブリン達は皆バーバラが好きだったのだ。彼らのお陰で村人は全滅せずに済んだのだが、彼らは戦闘用のゴブリンでは無いので半数位が殺されていた。しかし、その犠牲のお陰で敵はひとまず撤退したのだ。
「町長少しの辛抱だ、バーバラや仲間を殺した連中は皆殺しにしてやる。平和を愛したゴブリンは死ん だのだ、これからは地上最強の魔獣ゴブリンの恐ろしさを見せるのだ。」
既に各地から多数のゴブリンが集まりつつ有った、俺の怒りの波動のせいかゴブリン達の顔には怒りしかなかった、そして多数の戦闘を乗り越えて生き残ったゴブリン達は強く大きくなっていた。自力でクラスチェンジした者も多数いた。自力でクラスチェンジ出来ないゴブリンは俺がクラスチェンジしてやった。毎日何千というゴブリンが俺の村に集まっているのだ。
「キマシタ、アルジヨ。」
キングゴブリンに連れられた1000匹のゴブリンが到着した。
「うむ、ご苦労!力を貸してくれ。」
「オマカセオ、ニンゲンコロス。」
1000匹のゴブリンが一斉に跪き俺に忠誠を誓う。俺の敵は彼らの敵なのだ。そして彼らは思い思いに集まり生活を始める。食料は森にも畑にも海にも大量にある。そしてこれから進撃する辺境伯領には餌が50万匹程住んでいるのだ。
1週間がたった、俺の元に集まったゴブリンは10万を遥かに超える数になっていた、元は200万以上いたが来るまでの激戦で弱い個体は淘汰されていた。ここに集ったゴブリンは最低でもオークより強くなっていた、中には災害級のキングやロード級も多数いた。まだ、移動中のゴブリンも少しいたが、食料が無くなって来たので移動を開始する事にした。
「アーサー!進軍開始だ!」
「はい主殿。全軍進め!」
はば100メートル長さが3キロある緑色の流れが森に入る、目標は辺境伯の都市だ。遥か上空から見たら、緑色のドラゴンが進んでいる様に見えたかもしれない。すべてを飲み込む本物の災厄が地上を移動し始めたのだ。
その緑色の災厄は3日で森を抜け辺境伯の領土へと入って行った。前回の遠征軍の残した道をたどり辺境伯の防壁都市にたどり着く、迎撃部隊でも来るかと思っていたが、強そうな相手だと出て来ない様だ。ゴブリン達は雑食で何でも食べるるし飢餓にも慣れている魔獣だ、今までのゴブリンは成長しなかったので弱くて馬鹿だと思われていたが、成長したゴブリンは手先も器用で頭も良く、どんな環境でも平気だった。そして上位には絶対服従で死を恐れない最強の戦士でもあった。
「ほう、あれが辺境伯の城塞都市か。」
「中に10万程居る様ですな。」
「死にたく無ければ逃げれば良いのに、何でわざわざ固まって殺され易くしてるゴブか?」
「ゴブ吉、人間は固まってると安心するんだ。不安になると余計集まるんだ。」
「ふ~ん、不思議ゴブね?その割には威張ってる奴が多いゴブ。」
「はは、人間は弱いからな。雑魚程群れを作るのは魚も昆虫も人間も変わらないって事だ。」
急いで移動してきたので、城塞都市を囲んで休憩する。全軍に休息と食事を取らせてゆっくり休ませる。中の人間は何処にも逃げ場は無いから、こちらは余裕だ。ただ殺すだけなら、全魔導士の合唱魔道で都市毎燃やせたが、俺は辺境伯の顔を直接見てみたいので、何か方法を考える事にする。
「さて、皆殺しは簡単だが、それでは辺境伯が知らない内に死んでしまうな。俺は奴の顔が見たいんだ よな。そして俺がこの手で殺したいんだ。」
「主殿、乱戦になれば中の人間の区別をつけるのは無理です。第一我々は相手の顔も知りません。」
「良い考えが、有るゴブ!」
「何だゴブ吉、教えてくれ。」
「相手に、辺境伯を差し出させるゴブよ。」
「へ~、それは良いな!ごぶきちは頭が良いな。中の連中なら辺境伯について良く知ってるはずだ。」
中の人間と交渉して、辺境伯をこっちに引き渡す様に働きかける事にする。恐怖で引きこもっている相手には有効な方法だろう。ついでに交渉が上手く行くように交渉前にこちらの力を見せる事にする。言ってみれば最初に一発ぶん殴るわけだ。そしてこれ以上殴られたくなければ言う事を聞けって命令するわけだな。
良い領主なら領民が守るだろうし、領地に寄生してるだけの領主なら領民が喜んで差し出すだろう。
「ゴブ吉、合唱魔法で城壁の正門を吹き飛ばせ!なるたけ派手にな!」
「任せるゴブよ。魔導士3000人の合唱魔法は凄いゴブよ!」
城塞都市正門、高さ5メートルの土と石で出来た壁の正門だけに重厚な作りだ。高さ10メートルで幅も同じ位、鉄板で補強された分厚い木の扉で出来ていた。今回の様に敵が来た場合、城塞都市に敵を入れない様に頑丈に作っている。人間相手なら攻城兵器が無ければ破壊出来ないだろう。
「魔道部隊合唱開始!目標正門!」
都市上空に見たことも無い巨大な魔法陣が浮かび上がる、人類が初めて見る巨大魔法陣だ。精神がシンクロしているゴブリンにしか出来ない強力で精密な魔法陣だ。この魔法陣に気が付いた城塞都市の住民達の上げる悲鳴が心地よい。
「放て!」
轟音と爆風が俺達を襲う。今まで見た事も聞いた事も無いような、音と暴風だ。直ぐ近くに雷が落ちた様な音だった。正門は消し飛んで跡形もない、周りの壁も200メートル程消滅して地面には大穴が空いていた。中の家屋も暴風で半数が倒壊していた。
「すげ~威力だなゴブ吉。これならドラゴンでも一発だな。」
「ドラゴンも人間も同じゴブ。ただの雑魚ゴブ。」
俺とアーサー、ゴブ吉の3人は大穴の開いた城壁に向かってゆっくり歩いて行く、建物の陰から多くの目が俺達を見ている。もはや攻撃する気も無い様だ。逃げたくても城壁に囲まれてるので逃げられない、兵士はゴブリン達を見ると悲鳴を上げて逃げ出すのだ。
「人間共!良く聞け、辺境伯とその家族を差し出せ!そうすれば他の人間は助けてやろう。」
「本当ですか?約束してくれますか?」
「俺は嘘など言わん。嘘をつく必要が無いからな。」
「直ぐに捕まえて来ます。少しお待ち下さい男爵。」
警備隊の兵士みたいな連中が大急ぎで街の中心に走って行った、隠れている辺境伯を探しに行ったのだろう。俺の事を知ってるのなら、少し前に自分たちの兵隊が壊滅的な損害を受けた事も知ってるのだろう。辺境伯の求心力は地に落ちている様だ。
「ええい!放せ!放さんか!」
薄汚い年寄と肥え太った10人程が連れてこられた、街の住民達は遠くからこちらを見ている。
「男爵、辺境伯とその家族を捕まえて来ました。」
「うむ、ご苦労。」
「これで、街の皆の命は助けて貰えますか?」
「コイツラが本物ならば助けよう。偽物なら皆殺しだ。」
「コイツラが辺境伯と家族で間違いありません。」
「無礼者!上級貴族に向かって何をするか!死罪だ!お前に死罪を言い渡す!」
どうやらこの老人が辺境伯の様だ、状況を気にしない生まれつきの放漫さは貴族特有のものだ、彼らが気にするのは自分より上位の貴族だけ。自分以下の貴族や平民は虫けらだと思っているのだ。
「お前が辺境伯か?」
「無礼者が!男爵風情が。様を付けぬか!」
「ぐわ!・・やめろ!やめてくれ!」
近くに居たゴブリンが辺境伯を殴りつける。
「神に向かって不敬だぞ!人間!」
そうなのだ、200万を超えるゴブリン達の経験値が俺に入って来た様で俺はレベル999、ゴブリン召喚士から、ゴブリン召喚神になっていた。ゴブ吉も俺の唯一の召喚獣のせいか、俺の経験値がフィードバックされたのかは分からないが、魔導士が魔道神になって馬鹿げたステータスを持っていた。目の前のゴミ達が束になっても俺達に傷一つ付ける事は出来ないだろう。
「神だと!たかが男爵の分際で。」
「さて爺さん、お前は今から死ぬが、何か言いたい事が有るなら聞いてやろう。」
「ワシを殺せば公爵様がお怒りになるぞ!さっさとワシを放して謝罪しろ!そうすれば死罪だけで許し てやる。」
「ああ、あの赤い鎧の親玉が公爵なのか?」
「そうだ、この国で王の次に偉いお方だぞ!どうだ、恐れおののけ!」
「その侯爵とやらは、何処にいるのだ?」
「公爵様は王都に決まっているだろう、全く田舎者は何も知らんようだな。」
「よし、良く教えてくれた。褒美として一番最後に殺してやろう。」
俺の役に立ったので、褒美を与える事にする。俺は寛大な人間だからな。辺境伯の子供の一番若い豚から処分する事にした。立派な死にざまを親の辺境伯に見せてやらなければなるまい。生きていてもどうせ何の役にも立たない連中が俺の役に立つのだ、光栄に思ってもらいたいものだ。
「やめろ~!嫌だ!まだ死にたくない!」
「やめてくれ!俺は何もしてないんだ!」
流石は上級貴族の子供達だ、栄養が良いせいか凄く大きな悲鳴を上げるのだ。煩いので最初に顎を砕いて舌を引き抜く事にした。俺は学習する男なのだ。
「やめろ~!儂の子供達に何をするかー!」
「見て分からんのか?爺さん。殺してるんだが・・」
「何故こんなひどい事をするのじゃ!」
「俺の村を襲った罰だ!」
「村人なんかその内増えるから、いいじゃないか!」
「村人が良いなら、お前達何の役にも立たない害虫はもっと良いハズだ。」
結局辺境伯は悪態をつきながら死んでいった。自分は正しいと死ぬまで思っていた様だ。貴族は何をしても良いのだという教育を受けてそのまま大人になったのだ。その手の貴族が多いのがこの国の現実だった。良い貴族はごく一部だ。
「詰まらんなゴブ吉。」
「そうだね師匠。」
「ハエを殺すのと全然変わらんな。」
「主殿、皆殺しにしなくてよろしいのですか?」
「ああ、良いんだ。皆殺しにするとバーバラが悲しむからな。」
俺はなんだかやり切れない思いを抱えて、自分の村に帰る事にした。このまま全員で王都に向かうには食料が足りないのだ。途中の人間を襲って食って行けばたどり着けるが、流石にそこまでやる気はなかった。
「ゴブ吉、村に帰るぞ。」
「森で食料を狩りながら帰るゴブ。体制を整えるゴブ。」
「アーサー全軍移動だ。人外魔境に帰るぞ。」
「了解しました主殿、全軍前に!進め!」
今回はのんびりと行軍して帰る。森で野獣を狩ったり、木の実を取ったりしながらのんびりだ。俺の気分が全軍に伝わるので、何だか今のゴブリン達は気が抜けた様な感じだった。自分の村で体制を整えて公爵を叩き潰す準備をする事にする。その後の事は全然考えてなった。何となく疲れたので故郷に帰る様な感じだろうか?いい思い出が沢山ある場所に帰るのだ。




