第30章 オオイタ村の悲劇
早く自分の村に帰りたいが帰れない。前方の8000人を何とかしないと、帰る時に追撃を受けて酷いことに成る。それにこいつらをオオイタの村に案内するような事は絶対に出来ない。
「来ますぞ!主殿。」
「おう!今回は皆全力を出せ!こいつらに慈悲等無用だ!早く片付けて村に戻るぞ!」
敵の魔道攻撃が始まった、騎兵にの突撃を助ける為に俺達の陣地に遠距離魔法が降り注いでくる。しかし、人間の魔導士は数が少ない上に初級ばかりで中級が3~5人程度しか居ない様だ。こちらの魔導士の方が数も多く上級者も10人以上いるので相手の魔法攻撃はこちらに全く届いていなかった。途中で迎撃・解除されるのだ。魔法の打ち合いは魔力が強い方が有利なのだ。
こちらの魔導士の合唱魔法が敵の中央に放たれる。手加減しない火炎大魔法だ。固まっているため300人ぐらいが纏めて火だるまになっている。
距離100メートルでバリスタ部隊が射撃を開始する。相手の弓の2倍の距離からの攻撃だ、おまけに弓より正確で威力もはるかに大きい。命中すると甲冑を突き破り背中から矢じりがでる程強力だ。
前列の突撃兵達は火達磨になって進軍をやめていたが、後続が押し寄せるので退却出来ずにうろたえていた。俺達の方に強力な魔導士が多数いる事を知らなかったようだ。それに彼らは歩兵ばかりで動きが凄く悪い。今回の為に急きょ集められた募集兵かもしれない。
「魔道部隊、手を緩めるな!あいつらを全て焼き払え!」
上級魔導士10人によるファイアーウオールが前線を覆った、高さ5メートル幅100メートルの地獄の火炎だ。突撃してきた騎兵達は自ら火達磨になっていた。馬は狂ったように走り回り、味方の兵に損害を与え続けていた。
「魔道部隊は下がって、ポーションで魔力補給しろ。」
「アーサー!突撃だ!」
「全軍突撃!敵を殺せ!」
俺の怒りで凶暴になっていたゴブリン達は、一斉に獲物に襲い掛かった。中には興奮で我を忘れ武器を捨てて相手の喉を食いちぎる者も出て来ていた。それを見た相手の兵士は俺達が田舎の弱小軍ではなく、まぎれもなく凶暴な魔獣軍団である事に気が付いた。
「なんだコイツラ!」
「人じゃないぞ!」
「仲間が!食われてる。」
俺達の正体に気づいた相手兵士は、動揺し、そして強さに恐怖をしていた。人間よりはるかに強靭な体に本能的な攻撃性。腕や足が千切れても死ぬまで攻撃し続ける魔獣特有の戦い方に人間の兵士は逃げ回るしかなかった。
「よし、アーサー。兵を下げさせろ!」
「全軍、攻撃やめ!元の陣地に下がれ!」
一時間程の戦いで、相手の兵士を2000人程倒したが、相手の数が多すぎて全員は殺せない。バラバラに逃げられると、追いかけるのが厄介なので、向こうに集結する時間を与える。その隙にこちらも魔力補給とヒーラーによる治療を行う。
向こうは元の陣地に戻って守りを固めていた。今度は向こうが逃げたくても逃げられなくなったのだ。逃げれば俺達の追撃を受けて被害が倍増するのだ。正面から10倍の数で押して負けたのだから追撃を受けたら、都市に戻る前に酷いことになるのは全員に分かっていた。
「どうだアーサー?被害状況は?」
「死亡が50名、重軽傷者が200名。重軽傷者は現在ヒーラー達が治療中です。」
「敵は大体1500程倒したゴブ。あと6500って所ゴブね。」
「後2500程倒せば、奴らは恐怖で逃げ出すな。次で決めるぞ。」
「夕方位には全員の治療が終わるでしょう、主殿。」
「魔道部隊も夕方位には魔力が完全回復するゴブ。」
早く村に戻りたい。しかし、こいつらを放置するわけにはいかない。俺は苦しいジレンマに陥っていた。ここで間違った行動はとれない、配下のゴブリンや村の生活がかかっているのだ。それにどんなに急いでも村までは2日はかかるので今から帰っても間に合わないのだ。
「よし、全員に休息を取らせろ、眠れる者は眠れ、眠れなくても身体を休めて食事を摂れ。次は日が暮 れてからの全力攻撃になるぞ。」
「了解しました主殿。」
奴らは恐怖で固まって防御陣形を敷いていた、穴を掘って立てこもっているのだ。夕日が沈みだすと部隊の周りに明々と松明を設置し始めた。暗闇の中の奇襲を恐れてる様だ。巡回の兵士は部隊から離れずに部隊周辺をオドオドと回っていた。
「時間だ、行くぞ。」
「全軍進め。」
日が完全に暮れた。俺達の時間がやって来たのだ。音のする金属の武器には布を巻いて音がしない様にした、金属鎧は脱いでしまった。奇襲の邪魔になるからだ。大きく回り込んだ俺達は音もなく奴らの側面に忍び寄った。元の方向に要るのはバリスタ部隊だけだ、それも今頃は射程ギリギリまで忍び寄っているはずだ。本当の奇襲なら夜中か明け方にやるが、今回は村が心配なのでギリギリの妥協点で日が暮れてまだ敵が闇に慣れていない時間を狙ったのだ。
「ゴブ吉。」
「了解、魔道部隊。合唱開始。広範囲殲滅の火炎だ。」
「アーサー。」
「突撃隊、突撃準備。」
「魔道部隊、放て!」
密集して防御していた敵の真ん中で直径100メートルの火炎の渦が巻き起こった、巻き込まれた敵兵は松明の様に燃え上がっている。着弾と同時にバリスタ部隊は俺達の方角の敵から順に300発の矢を放つ、徐々に俺達とは逆に範囲攻撃して行く。
「ぎゃあ~!熱い!」
「敵襲!」
「いったいどこから?」
最初の火炎攻撃で視力を奪われた敵は、まだ俺達何処にいるのか分からない様だ、そしてバリスタの攻撃が敵にさらなる混乱を与えている。
こちらからは燃え上がった敵兵のお陰で、敵が良く見える。
「全軍・突撃!」
敵の恐怖と混乱が最高調に達した時点でアーサーが突撃の指示をだす。
ぐおぉ~!!
もはや魔獣以外の何物でも無いゴブリン達が人に襲い掛かる。ゴブリンの目に有るのは殺意だけだ、人間を殺す事だけを考えて突撃する。自分の安全なんか魔獣は考えない、もはや理性を完全に失ったゴブリンは防御も忘れ攻撃するだけだ。
アーサー率いるソードゴブリン部隊の通った後には兵士の首や手足が散らばり、ゴブ吉の周りには首のない兵士達が散らばっていた。魔道部隊は敵を燃やし続けており辺りは明るく照らされていた。そして最悪なのはウォーゴブリンの通った後だ、生きながら首をもがれた兵士はまだ幸せだ、多くの兵は手足をもがれて地面の上で泣きわめいていた。彼らは動くものに攻撃するのだ、とどめを刺す様な慈悲も理性も無いのだ。
1時間ほどで敵の半数を殺した。人間共は恐怖の余り装備をすべて捨ててバラバラに逃げ出した、森の方向に逃げた兵士はバリスタ隊によって串刺しにされたが、他の方向に逃げた兵士達は運が良ければ街に戻れるだろう。
「全軍攻撃やめ!」
「了解、主殿。全軍攻撃止め!」
「魔道部隊攻撃停止!」
「よし、村に戻るぞ!」
生き残った全軍を連れて村に向かう。結局ゴブリン隊はヒーラー達の頑張りで100名程度しか死ななかった。生き残ったゴブリンの中にはクラスチェンジ出来る者も何人か現れた。どうやら人間は良い経験値になる様だ。
人間には不可能な速度で村に向かう、最低限の休息と食事だけで移動する。ゴブリンは夜目が効くので夜間も休息と食事を摂りながら移動する。
そして2日後村にたどり着いた。丁度国境から2日後の夕方だった。
「・・なんだこれは!・・」
俺の村や屋敷は焼け落ちて何もなかった、造船所も同様だ。村の中には点々と村人の死体が転がっていた、女や子供も多数いる。そして見慣れない赤い鎧を着た兵士の死体もちらほらと見受けられた。
「全員辺りを探せ!村人や仲間を探して助けるのだ!」
村の中を探し回ったが誰も居ない、俺はどうしようもない脱力感に襲われてその場にしゃがみ込んでしまった。
「ゴブ吉。俺はどうしたらいい?」
「諦めちゃ駄目ごぶ!皆殺しになる訳ないゴブ!」
「そうですぞ主どの。普通のゴブリンと言えども1500近くいますから、全滅はしませんぞ、どこか に隠れているはずです。」
俺達は屋敷の跡に集まり、松明を明々と灯し野営を始めた。全員に休息が必要だった。この2日間限界まで頑張って来たのだ。
「男爵様!ご無事でしたか!」
「おう!エリカ!無事だったか!」
暗闇の中からエリカが現れた。しかし無事とは言い難い姿だ。左腕は無くなり右目もつぶれている。
「どうした?エリカ。大丈夫か?」
「申し訳ありません!私は生き残ってしまいました!」
「一体何が有った?聞かせてくれエリカ。」
そしてエリカは泣きながらポツポツと話し始めた。二日前の早朝海から兵士が攻めて来たのだと言う。大きな船が5隻ほどやって来て赤い鎧を着た兵士が村人を殺し始めたそうだ。バーバラやエリカは村人を助けようとしたが相手の数が多すぎて無理だったそうだ。そしてバーバラは多数の敵に囲まれて殺されたそうだ。その後ゴブリン達全員で反撃して追い払ったのだそうだ。村の生き残りはベップ温泉に避難しているそうだ。
「そうだったのか・・・・」
「すいませんマスター。私が死ねば良かったんです!」
「馬鹿な事を言うな!悪いのは赤い鎧の奴らだ!」
泣きながらエリカは綺麗な魔石を俺に手渡した。バーバラの魔石だそうだ。小さいがとても綺麗で7色に光っていた。
その石を見て俺はそれがバーバラの魔石だと直ぐに分かった。なんせ3年間毎日一緒にいたのだ、分かって当然だ。そしてそれが分かった瞬間勝手に目から涙があふれて来た。
「うおおぉぉ~!何故だ~!」
なぜバーバラが死ななければならなかったのか意味が分からなかった。バーバーラは人間にもゴブリンにも親切で優しかった。俺が死ぬのは構わないがバーバラが死ぬと困るのだ。
おれは一晩中魔石を抱いて泣いた。もしかしたらと思い召喚も何度も試してみた、だが魔石は反応しない俺はやはりカス召喚士だった。
「くそ~!何で復活しないんだ。俺は召喚士だろ!このクソスキルは何のために有るんだ!」
「よぶゴブ!」
「ゴブ吉?」
「スキルを使うゴブ!」
「だから俺のスキルは役に立たないんだゴブ吉。」
「役に立つゴブ!俺達をゴブリンを呼ぶゴブ!辺境伯と赤い鎧のクソ共に思い知らせてやるゴブ!」
その時俺は何かが変わるのが分かった。そして自分のスキルを完全に理解した。
「そうだな、俺はゴブリンの召喚士だったな。」
「そうゴブ。皆師匠に力を貸すゴブ!師匠は全ゴブリンの主ゴブ!」
「よし、やるぞゴブ吉!力を貸してくれ。」
そして俺とゴブ吉はこの大陸に住む全てのゴブリン達に言葉を、命令を届けた。
「集え!集え!我がもとへ!生きとし生ける全てのゴブリンよ我に従え!我妻と子供を奪った人間に復 讐を!集え!集え!我に従い盟約を果たし愚か者共に死を!」
俺は大陸中のゴブリンを召喚した。その瞬間大陸に居る全てのゴブリンが移動を開始した、200万を軽く超えるゴブリン達が目に復讐と破壊の狂気を灯し移動する。
オークには10匹で、オーガには100匹で挑みこれを倒し食らう、邪魔するものには容赦しない緑色の流れが人外魔境に向かっていた。
人は余りの大群と凶暴さに恐れおののき都市部に引きこもった。




