第24章 子爵対男爵
修羅の国は全然修羅ではなく、とても気さくな伯爵が治める景気の良い都市だった。ここは王都と人外魔境を結ぶルート上に有るので、人の往来が結構あるのだ。勿論都市だけで人口10万人周辺を入れると20万人が暮らしているので、食料品などの消費が激しいのでウチの農産物も高値で買い取って貰えたのだ。と言ってもオオイタ村は人口400人ゴブリン村も人口1000匹なので大して農産物は作れなかった。ただし毎週交易都市ナルトに船を出しているので、ウチの村にも雑貨屋が1件出来た。村人は大喜びだ。ここと温泉しか金を使う場所が無いので人口の割には繁盛してるらしい。
そして子爵の嫌がらせはまだ続いていた。村の畑や森をチマチマ荒らすのだ。そのたびに全員捕まえて道路作りをさせている。今では15人が無給で働いているので少し助かっている。100人位のならず者を送り込んで欲しい位だ。ただで道を造れると助かるのだ。
「男爵様大変です!兵隊が来て村を襲っています!」
「何だと!村が襲われてるだと。」
俺は大急ぎで屋敷の者を引き連れて村に行った。馬に乗った兵士が村人を襲って家に火を付けていた。
俺は何が何かわからなかった、何も悪いことをしていない村人が襲われているのだ。何故女子供が兵士に襲われているんだ?変だろう?
「師匠!しっかりするゴブ!」
「あっ、うん。皆、村人を守れ!」
家に火を着けまわっていた兵士の頭が吹き飛び、村人を追い回していた兵士は馬ごと真っ二つに切られた。バーバラ達ヒーラーは懸命に怪我をした村人達を救助している。女子供相手には強かったがただの雑魚どもだった、ハイソードゴブリンやハイウオーリィアー達に簡単に制圧されていた。
「主殿、終わりました。」
「よし、生き残りを連れてこい!」
結局村を襲った兵士は30人、全員騎兵だった。村人は残念ながら5人死んだ。バーバラ達がいなかったら、もしも俺達が来なかったら村は全滅したかもしれなかった。
「おい、お前子爵領の兵士だな!」
「それがどうした!子爵に逆らうからだ。」
「俺の村を襲ったのは子爵の命令か!」
「そうだ。男爵風情が子爵様に逆らうからだ!」
「そうか、お前は名前は何という?」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「お前の家族を全員殺してやる。勿論子爵も殺すがな。」
「ば、馬鹿な子爵に逆らうつもりか!」
「勿論だ、なんならクニサキの町ごと消してやる。」
こいつらは村人を殺したので木の養分にした。畑を荒らす位なら道路工事で使って後で解放してやるのだが殺せば話は別だ、命は命でしかあがなえないのだ。
「アーサー、戦えるゴブリンを全員集めろ!子爵領に出撃だ。」
「御意」
「ゴブ吉、食料を集めろ。」
「了解ごぶ。」
「バーバラ、戦の準備だ。」
「はい、ポーションの用意をしますね。」
1時間後にゴブリン攻撃隊50人が集まった。俺達4人に加えジェネラルソードゴブリン2、ハイソードゴブリン10名、ロードメイジゴブリン1名、メイジゴブリン5名、ハイウオーリィアー10名、ロードゴブリンヒーラー2名後は食料を輸送するハイゴブリン16名だ。
後は道路工事に行っているハイウオーリィアー100人と土魔法のハイメイジ2名が俺のゴブリン部隊全軍だが、今回は工事部隊を待つことはなくこのまま行く。
人間ならば3日かかる道程だが俺達は人間よりもはるかに速い。わずか1日半でクニサキの町にたどり着く。
「な・ななんだ!お前ら!」
「どけ!衛兵。邪魔すると殺す!」
「男爵!これはいったい何事です!」
町の入り口の番兵が俺達をクニサキに入れない様に立ちふさがっていた。
「子爵の兵隊が、俺の村を襲ってきたのだ。村人に死人が出たから子爵を殺しに来た。」
「ええっ!子爵がそんなことを!」
「分かったらどけ!邪魔すれば殺す。」
「男爵!落ち着いて下さい!まずは話あいを・・・」
「アーサー!殺せ!」
時間を稼いで子爵に味方をする気なのか、俺を甘い人間で口先だけで鎮められると勘違いしたのかは分からないが。俺達をなめ切っていた番兵は二人とも首がなくなった。俺達の礼儀正しさや温厚さを弱さと勘違いしていた様だ。
「子爵の屋敷に向かうぞ!」
町の中を俺達は進んで行く、町の人間は皆怯えた目で俺達を見ている。当然だ、俺達ゴブリンは魔獣なのだ人間の敵なのだ。そしてここにいる50名はこの町を滅ぼせるのだ。
「お前ら、屋敷を取り囲め。誰も逃がすな。」
子爵の屋敷をゴブリン達に囲ませる。子爵の部下は誰も逃がさない。そして俺達4人は正面から子爵の屋敷に入った、衛兵は俺達の姿を見て屋敷に逃げ込んでいた。
「出て来い子爵!」
「何だ貴様は、無礼だぞ!」
「さっさと出けて来ないと、屋敷事燃やすぞ!」
「何たる不敬な事を!これだから成り上がの貴族はどうしようもない。」
「ゴブ吉、屋敷を燃やせ!全部だ!」
俺はこいつと話すのを諦めた、貴族とか不敬とか馬鹿な事しか言わないからだ。こいつに言葉は通じない貴族という名の魔獣なのだと思う事にした。
「メガ・ファイアウォール!ゴブ。」
子爵の屋敷の一階から物凄い火が噴きあがった。近くにいる俺達も熱くて少し後退する。子爵の屋敷の中から悲鳴と共に体に火が付いた人間共が転がり出て来た。
「兵士は全員殺せ!使用人は見逃してやれ。」
10人程の武装した兵士はアーサー達にあっという間に切り殺された。使用人らしい10名ほどは屋敷の外に逃がしてやった、運が良ければ町の人間が助けるだろう。そして最後に肥え太った子爵が焼け焦げた姿で屋敷から転がり出て来た。
「き、貴様!ワシにこんな事をしてタダで済むと思ってるのか!」
「よう、子爵久しぶりだな。で、どうなるんだ?」
「貴様は不敬罪で死刑だ!」
「ふ~ん、そうなんだ。」
「ふん!今更謝っても遅いぞ!絶対に許さんからな。」
凄い馬鹿だった、この期に及んでまだ貴族の階級が何かの役に立つと思ってる様だ。おまけに自分が助かると思っているらしい。
「お前のせいで、村人が死んだぞ。子爵。」
「ふん、それがどうした、村人など直ぐに増えるわ!」
ゴロン・・・
同じ空気を吸うのも嫌なので、子爵の首を切り飛ばした。これでこいつの不愉快な声を聞かないで済む。死体を燃え上がっている屋敷に投げ込み火葬にしてやった。俺は寛大だからな。
「よし終わった、村に帰るぞ。」
俺達がクニサキの町を通り村に帰っていると、クニサキの町長が恐る恐る声をかけてきた。
「男爵様、今回はいったいどういう事なのでしょうか?」
確かに何も知らない人間から見れば、俺達が怒り狂って子爵の屋敷を燃やすのは訳が分からないだろうと思って今までのいきさつを説明した、多少の嫌がらせは無視してきたが、村人に死人が出たので子爵に責任を取らせに来たことを伝えた。
「成るほど、男爵のお怒りは最もですな。しかし、あの馬鹿はそのような事を・・」
「うむ、心底馬鹿だったな。しかしもう二度と迷惑をかけることは無い。」
「こっちの町の皆に事情を説明しときます。動揺している者もいますからね。」
「そうか、宜しく頼む。気が向いたら温泉に遊びに来てくれ。」
「そうさせてもらいます。では男爵様お気を付けて。」
こうして俺達は復讐を終え村に帰って来た。死んだ村人の墓に報告を済ませ弔った。
「お疲れ様でした男爵。」
「うん、終わったよ村長。」
「これで殺された村人も報われます。」
子爵を殺しても村人が生き返らない事は分かっていた。だが仕返しせねば何度でも同じことをやられるだろう、馬鹿は自分が殴られるまで何かに気が付いたりしないのだ。俺は自分の仲間を守るために敵には容赦しない事に決めた。友好には友好で敵意には敵意で応じるのだ。
「何であんな馬鹿が居るのだろうね?師匠。」
「さあな、俺には分からないよゴブ吉。」
そして1週間後、クニサキの町長が俺を訪ねて来た。
「男爵様、お久しぶりです。」
「やあ町長、温泉に来たのかい?」
「いやいや、実は男爵様にお願いが有ってまいったのです。」
「俺にお願い?」
クニサキの領主が居なくなったので俺に領主になって欲しいのだそうだ。この辺境では領主が領地を守らないと盗賊や魔獣に襲われて困ったことになるのだそうだ。それに子爵は酷い領主だったので俺に領主になってオオイタの様に良い領地にして欲しいそうだ。
「う~ん、良い町になるかどうかは分からないが、町は俺が守るよ。兵隊全部殺したからな。」
「ありがとうございます。皆、男爵の為に頑張りますから町を守ってください。」
こうして俺の配下にクニサキ地方が加わり、俺の領地の人口は400人から2400人へと増えてしまった。クニサキの町まで道が無いと不便なのでゴブリン工作隊で道を造る作業も始めた。また、近いので週に2回船を出して商品や観光客を乗せている。
ゴブリンの町も周辺のゴブリンが集まってきて今は1500匹程になったらしい。何だか1年で領民が増えた。俺はただ皆が幸せに暮らせれば良いだけなんだが、なんでこうなったのか不思議だった。
そして子爵事件から一月後、ナルト伯爵が温泉に入りに来た。俺はオオイタ自慢のキノコと人魚の捕って来た新鮮な魚でもてなした。
「いや~、凄く良い風呂だな。男爵!」
「そうでしょう。俺の村の自慢の温泉ですよ。」
「それに、食い物も凄く旨い!これは良い観光地になるぞ男爵。」
「はは、喜んでもらえて良かったです。」
「話は変わるが、子爵の件を聞いたぞ。それでお主に伝えておかねばならん事があるのだ。」
伯爵は急に真面目な顔になり、俺に子爵の実家の事を話し出した。あの子爵、辺境伯の3男だったそうだ、生まれつき出来が悪く使い物にならなかったので伯爵領の一番端に領主として島流しにされていたのだそうだ。だがそれでも一応辺境伯の身内なので、辺境伯が俺に復讐する準備をしてるそうだ。
「ほう、じゃあ戦争する気ですかね?」
「戦争というより討伐だな、伯爵家のメンツの為にお前を殺す気だろう。」
「簡単には殺されませんよ。」
「だろうな、何ならウチの兵を貸そうか?辺境伯は俺の領地にもちょっかいをかけてきてるから昔から 仲が悪いんだ。」
「相手は何人位でしょう?1000人位の騎士ならどうという事はありませんが。」
「何だって、ここの領地にそんなに兵士は居ないはずだぞ。」
「ふふ、大丈夫ですよ。」
「そ、そうか詳しくは聞かない事にしよう。しかし、多少援護はしてやろう。」
「ありがとうございます、伯爵。」
次の日から俺達はダンジョンに潜り経験値稼ぎをはじめた。




