第2章 ゴブリン召喚
朝早く目覚めた俺たちは朝飯前に孤児院を後にする。後輩たちの朝飯を減らす訳にはいかないからだ。広場の屋台で何かのごった煮みたいな物とパンを買って朝食にする。食べられる時に食べておくのが冒険者の基本だ、毎日決まった時間にご飯が食べられるのは貴族か金持ちだけだ。俺達貧乏人は1日何も食べられない事も多いのだ。
朝飯を食い終わったら3人でギルドに向かい昨日と同じ薬草クエストと兎狩りクエストを受け森に行く。
「さあ、今日から稼ぐぞ~!」
俺は気合を入れて叫んだ。
「いくら稼げば良いのかな?」ケンタが言った。
「今日は時間が有るから、昨日の2倍は欲しいな。」
「でもさ、薬草取りばっかりやってたらレベルが上がらないわよ。」
エルザが痛い事を言った。
そうなのだ、俺達がレベルアップするためには魔物を倒さなければいけないのだ。でも今の俺たちが勝てそうなのはスライムとゴブリンしかいない。オークは俺達より大きくて力が強いので3人がかりでも負けるだろう。何せ俺たちの武器はケンタの安物ナイフを除けば、手作りの棍棒と竹槍・竹の弓しかないのだ、兎か魚を狩る装備しかしてない。せめてケンタに剣を持たせれば勝てるかもしれないが、中古の剣でも10万ゴールド以上するので買えないわけだ。
「じゃあさ、兎と薬草取ったらゴブリン探そうぜ。」
昨日と同じ場所で薬草をケンタと二人で探し回る、エルザは兎狩に行った。午前中いっぱいかけてやっと20束分の薬草を確保できた。ついでに食えそうなキノコ類も取っておいた。そろそろエルザが戻ってくる頃なので、俺は川で魚とりだ。ケンタは火を起こしている。
「ただいま~。兎5羽狩って来たわよ。」
流石スキルもち、俺なら1羽狩るので精一杯だろう。
「魚焼けてるぞ、食えよ。」
魚を木の枝で刺して、たき火で焼いたのを、エルザに差し出す。彼女の稼ぎが一番良いので1番大きいやつだ。30センチ位有るので結構腹にたまる。でも川魚なので余り美味しくない。
「森の奥の方、ここから1キロ程の所にゴブリンがいたわよ。」
焼き魚と硬パンを食べながらエルザが俺達に言う。
「じゃあこれ食ったらゴブリン狩に行こうぜ。」
「うん、良いよ。」
ケンタも少し嬉しそうだ。薬草採取はハッキリ言って面白くない。何せ全然成長しないから。
「案内するわ。」
「でもさ、ゴブリンだったらダイが召喚すれば良いんじゃない?」
「何も無いところから召喚なんてできないぞ。」
俺は召喚について二人に教えてやった。何かを召喚する場合は媒体がいるのだ、ゴブリンならゴブリンの魔石、オークならオークの魔石が無いと召喚出来ない。また召喚に必要なレベルがあり自分のレベル以下の魔物しか召喚出来ない。何でも好き勝手に召喚できるなら、ドラゴンを沢山呼び出せば国を落とす事だって簡単だ。金で出来たゴーレムでも呼び出せば大金持ちになれるだろう。
「つまり俺はゴブリンの魔石が無いとゴブリンを召喚出来ないって事だ。分かったか?」
「なるほどね~、ゴブリンを沢山呼び出して狩っていけば魔石が沢山取れると思ってたけど全然違うの ね。呼ぶ手間が勿体ないって事ね。」
「そういう事。エネルギー保存の法則と同じだな。」
「そそそうよね同じよね!知ってたわ。」
「召喚ってややこしそうだね。」
エルザに案内されてゴブリン探しをすると直ぐに見つけた。
「ギャギャギャ!!!!」
2匹のゴブリンが俺達に向かってくる、魔物は何故か人間を見かけると襲ってくるのだ。体高は1メートル位の緑色のモンスターが飛び掛かってくる。体重は10~20キロ位かな、でケンタがあっけなく棍棒でやっつける。頭を殴って終わりだ。死んだゴブリンは魔石に変わる。
「ちょっとケンタ!私にもやらせなさいよ!独り占めなんて卑怯よ!」
「ごめん次は譲るから。」
そう、魔物を倒した経験値は倒した者に入るのだ。強くなりたければ魔物を倒すしかないのだ、弱い魔物でも経験値になるので初心者冒険者である俺達には貴重だ。エルザが怒るのも当然なのだ。
「じゃあ次はエルザがゴブリンを狩れ。魔石は3人で山分けな。」
そのまま森をウロウロしてゴブリンを探す、ゴブリンは頭が悪いので待ち伏せや奇襲をしない。叫びながら一直線に向かってくるだけなので簡単に倒せるのだ。
そして夕方になる頃までに15匹のゴブリンを狩った。エルザの索敵能力のおかげで普通の初心者の倍くらいゴブリンを発見出来たと思う。公平に一人5匹ずつだ、ケンタが上手く手加減してくれるので簡単に数合わせが出来る。流石に剣士スキルもちゴブリン相手なら無双である。
何だか俺だけ役に立っていないような・・・俺が役に立っているのは魚を取って昼飯にしてるだけのような気が・・・・いやいや気のせいだ。俺のスキルも何時か役にたつはずだ。
「ねえダイ、召喚してみてよ。ゴブリンの魔石ならいっぱいあるわよ。」
「良いのか?売れば1個1000ゴールドだぞ。」
「私は良いわよ。それに元に戻せば魔石に又戻るんでしょう?」
「僕は召喚を見てみたい。」
「分かった、やってみる。」
ゴブリンの魔石を地面に置き俺は魔力を込める、黙ってやるのも詰まらないのでブツブツと呪文らしきものを唱えると魔石の下に魔法陣が現れた。俺はビックリしたが、二人もビックリしているので冷静になれた
。調子にのった俺は更に大きな声で詠唱してるふりをしてその場で踊りだした。そして俺は叫ぶ!
「漆黒の魔王が命ずる!出でよゴブリン!」
その場で思いついた、何となくかっこよさそうな台詞だ。魔法陣が輝きをまして地面から魔物が姿を現した。
「ゴブ?」
「「何じゃこれ!」」
ちっこいゴブリンだった。50センチのミニチュアゴブリンだ。
「ハハハハハ!!!」エルザは大笑いだ。
「可愛いゴブリンだね」ケンタは面白がっていた。
「まだレベルが低いからこんなもんだろう。それじゃあ元に戻すぞ!」
「戻れゴブリン・・・・・・」
「「戻らないね。」」
そう戻らないのだこのゴブリン。召喚獣は用が無ければすぐ魔界に帰るはずなのである。〇ルトラマンなんて3分しか召喚出来ないのは有名である。俺は頑張って魔力を込めたり、踊ったりしてみたがどうやってもゴブリンは返還出来なかった。このままでは1000ゴールド損をしてしまう。
「戻せないみたいだ、殺すか?」
「ゴブ~・・・・・」
ミニチュアゴブリンはぶるぶる震えている。
「僕は嫌だからね!可哀そうだよ。」
「私も嫌だわ!」
「・・・・・ですよね。」俺もこのゴブリンを石に戻せなかったので1000ゴールドはおれの分け前から引いてもらうことにした。
そうして俺はミニチュアゴブリンを連れて街に帰って来た。
街の入り口の番兵にゴブリンの事を聞かれた。
「なんだ、そのちっこいゴブリンは?赤ん坊のゴブリンなのか?」
俺は召喚したゴブリンである事や、返還出来ないことを説明した。
「従魔だったら、ギルドで従魔の印を貰って着けとけ。」
番兵に言われたとうりにギルドで従魔証をもらった、赤い紐みたいなやつで5000ゴールドも取られてしまった。俺は本日赤字決定!晩飯抜きである。
ゴブリンはエルザに赤い紐を首に蝶結びでとめてもらい上機嫌だった。おれは凄い不機嫌だけど。
俺以外はゴブリンの魔石代金もあり、6000ゴールド程になってホクホク顔である。晩飯はケンタが見るに見かねておごってくれた、ケンタは凄く良いやつである。あいつが困っていたら助ける事にする。エルザは何もくれなかったので、あいつが困っていても無視する事に決定した。
金がないので又孤児院に食料と交換で泊めてもらうことにした。今日は魚以外に兎を1匹つけたので歓迎された。兎をくれるなら毎晩泊まって構わないそうだ。
それはそうだろう、俺達廊下に寝てるだけだもの。晩飯に肉が付くなら大歓迎のはずだ。
そして次の日の朝早く起きた俺たちは又森に来ていた。この日はギルドのクエストは受けていない。
「いいかお前ら!今日からはレベルアップと金の為にゴブリン狩だ!狩りまくってやるぞ!」
とにかく金が欲しい俺は2人を連れて強引に森の中に入っていく。ミニチュアゴブリンは歩くのが遅いので紐で背中に負ぶっている。はたから見たら子守中に見えると思うが気にしない。兎に角俺は金が欲しいのだ晩飯が食いたい一心でゴブリンを狩りまくる。エルザは俺を見て笑っていた、ケンタは微妙な表情だった。
エルザめ~必ず仕返ししてやるぞ。俺は執念深いのだ、あいつが失敗してへこんでいたら大笑いしてやるからな。そうこうしているとケンタがレベルアップした。
「レベルアップした!」
「やったわね、どのくらい?」
「こんな感じ。」
名前 ケンタ
種族 人族
レベル 3 ⇒ 4
HP 90 ⇒ 95
MP 30 ⇒ 35
力 80 ⇒ 85
体力 90 ⇒ 95
知力100 ⇒100
速さ 90 ⇒ 95
スキル 剣士レベル1
やっぱスキルのせいか伸びが良い、次のレベルアップで俺に並ぶ勢いだ。日頃の鍛錬が簡単にひっくり返されるのがスキルの恩恵だ。
昼飯食べて午後からもゴブリンを狩りまくっていたら今度はエルザと俺がレベルアップした。
「やったわ!レベルアップよ!」
「俺も上がったぞ!」
「私のステータスはこんな感じ。」
名前 エルザ
種族 人族
レベル 3 ⇒ 4
HP 80 ⇒ 84
MP 80 ⇒ 84
力 70 ⇒ 74
体力 90 ⇒ 94
知力100 ⇒100
速さ 80 ⇒ 85
スキル 斥候レベル1 偵察レベル1 隠密レベル1
これまた伸びが良い、狩の効果か新しいスキルまで生じている。彼女は一段と強くなった。
「よし、じゃあ帰ろうか。魔石を金に換えて美味いもに食べようぜ。」
「チョット、あんたのステータスは?」
「ダイ君のステータスどうかしたの?」
「言いたくない!・・・・」
言ったら絶対エルザに笑われるので秘密にしたかったが、一人だけ秘密にするのはずるいのでとうとう俺は観念してステータスを2人に教えた。
名前 ダイ
種族 人族
レベル 5 ⇒ 6
HP100 ⇒101
MP100 ⇒101
力 100 ⇒100
体力 90 ⇒ 90
知力120 ⇒120
速さ100 ⇒100
スキル 召喚レベル1
そうレベルアップの恩恵が無い!HP1MP1合計2のアップである。あの有名なファイアー〇ンブレルのハードモードみたいな上昇率である。レベル上げるだけ無駄モードに絶望する。因みにケンタは合計25アップ。エルザは合計21アップである。
「アハハハ・・・腹痛い!」
「・・・・・・きっと次いっぱい上がるよ。ガンバ!」
エルザめ~そのまま腹痛で死ね!
そのままギルドに行き一人当たり8000ゴールド貰いその日は終了した。夜はモチロン孤児院だ。今日は兎2匹を献上した。
ゴブリンは何でも食べるので俺は魚や干し肉をやってみた、エルザは自分の嫌いな野菜を食わせていた。何をやっても美味そうに食べていたゴブリンは勝ち組だと思う。
あっそうそうプチゴブリンのステータスを夜寝る前に見てみたらこんな感じだった。
名前 なし
種族 プチゴブリン族
レベル 1
HP 30
MP 5
力 30
体力 30
知力 50
速さ 30
スキル ?
さすがゴブリン安定の雑魚である。このステータスに心を癒されてその日の夜、俺は熟睡した。名前が無しになっていたので明日こいつに名前をつけようと思う。
「ゴブ?」主人の安心しきった顔を見てゴブリンは満足そうな顔をして眠った。