第19章 人外魔境
寒い、九州なのに凄く寒い。早く春になって欲しい。
俺達4人は馬車に乗って領地までのんびり旅をしている。野営には慣れてるし食料は野生動物を狩っているので問題はない。問題があるとすれば風呂に入れない位のものだ。旅をすればするほど人を見なくなってきた。俺達が目指している場所は大陸の端にある。人が殆ど住んでいない場所らしい。人外魔境とか僻地とかいわれていた。まあ、使い前が無いから俺にくれたのだろう。
「しかし、デカイ森だな~。もう1週間も森の中だ。」
「落ち着くゴブ。」
「うむ。」
「何故か和みますわ。」
ゴブリンは本来弱い魔物なので平原みたいな開けた場所には住んでいない。森や林等隠れる場所が多い所にすんでいるのだ。それで、彼らは落ち着いているのだろう。
「でもマスター本当に良かったのですか、領地に引っ込んで?」
「あのままなら、もっと上の貴族に成れたのではござらんか?」
「そうだな、上手い事やれば伯爵位にはなれたかもしれないな。でも、嫌な事ばかりさせられる伯爵よ りも気楽な男爵の方が良いな。それにこれだけ貴族から離れていれば、煩く行ってくる事も無いだろ う。」
「おっ、主殿狼です。気を付けて下され。」
俺達は順調に森の中を進んでゆく。ちょっと気になるのはちょいちょい強い魔物が現れるのだ。やはり人が居ない場所には成長した魔物がいるようだ。
そして街出てから4週間目にやっと領地にたどり着いた。巨大な森を抜けた先にある海に面した小さな土地だった。小さな村が有るので、村長に挨拶に行く。途中で会った村人は飢えては居ないが酷い身なりをしていた。かなり貧しい村の様だ。少し他の家より大きな家が村長に家の様だ。
「邪魔するぞ。村長はいるか?」
「あんたは、誰じゃな?」
「此処の領主になったダイ男爵だ。これが王から貰った書状と男爵印だ。」
「おお、これは失礼しました。ここの村長をしている、ミランと申します。」
その後、この村の人口や現状等を聞いて、領主の館に案内してもらった。
「これが、領主の館か?」
「はい、ここ10年程領主様が住んでおられないので少々荒れてございますが。」
「凄くボロイごぶ。」
「荒れておりますな。」
「でも、大きさだけは立派ですわね。」
2階建てで結構広い屋敷だった。ただ偉く荒れているので相当な補修が必要だった。
「村長、この村に大工はいるか?」
「此処には腕の良い船大工が居ますぞ。屋敷の修理は彼らに任せれば大丈夫ですぞ。」
「そうか、なら明日から頼む。」
屋敷に荷物と馬車を運び込み休む事にする。部屋の中もひどい状態だったので、皆で一部屋だけ使える様に綺麗にした。残りは明日することにする。そして俺達は庭でたき火をしながら晩飯をつくった。家の中を調べてみると、貴族の屋敷らしくボロボロで使えなかったが風呂まで有った。明日来る船大工に言って一番最初に直してもらうつもりだ。
次の日の朝、早い時間に5人の大工が来てくれた。風呂の修理から頼んで後は適当にやってもらう。アーサーには森で晩飯を狩ってきてもらう。バーバラとゴブ吉は庭の草むしり、そして俺は大工の手伝いをしながら村の事を色々聞いてみた。
この村の人口は約300人農作物はあまりとれないが、魚を取る事で何とか飢えずに生活出来てるそうだ。森は魔獣が怖いので基本的に入らないそうだ。農作物は土地がやせていて余り取れない上に森の動物やゴブリンに荒らされてほんの少ししか取れないらしい。
「ここ、ゴブリン居るの?」
「うじゃうじゃいますよ、男爵。オークもいますよ。」
「へ~、そう言えば、途中の森には強い魔物がいたな。」
「ここら辺は大した魔物は出ないんですが、森の奥に行く程魔物が強くなるんですよ。男爵」
「何でも、昔ドラゴンも出たらしいです。」
「ああ、あの街が幾つも滅ぼされたって言う昔話の怪物かい?」
「それですよ男爵、もっとも誰も見た事ないんですがね。」
大工達は腕が良く働き者でドンドン屋敷を直して行った。夕方になったので晩飯と日当を渡して、明日からの修繕も頼んだら、渡した金額に驚いていた。この村の平均的な所得は一年で5万ゴールド程なのだそうだ。自給自足だから生きていける金額だった。因みに渡した金額は一人1万ゴールドだ。
次の日、大工達は家族を連れて来ていたので20人位でやってきた。渡した金額が良かったから作業を手伝ってくれるらしい。手伝いにもお金を渡そうとしたら、断られた。そんなつもりで連れて来たのではないらしい。ここの村人は貧乏だが誇り高い人間だった。
20人で毎日屋敷を修繕していたら1週間で見違える程立派になった。屋敷の庭も皆で作ったので偉く広くなった。そして毎晩彼らと晩飯を庭で食べていたので、皆と仲良くなった。晩飯は彼らが持ってきた魚とアーサー達が森で狩って来た肉だった。
「男爵様、お屋敷完成おめでとうございます。」
「やあ村長さんありがとう、紹介してもらった人達のお陰で良い屋敷になったよ。」
「それで今度、屋敷の完成祝いと村人の顔見せの祭りをしたいと思っていますが、どうでしょうか?」
「それは良いな、屋敷の庭が広いからここで皆に食事と酒をふるまう事にしよう。」
アーサー達が300人分の肉を確保するために森に行き。俺とバーバラは宴会の準備で庭に竈や酒樽なんかを並べていた。漁師たちは魚を、農民たちは農作物等を持ちより、手作りの宴会が始まった。
「やあ、村の皆。今度ここの領主になったダイ男爵だ。元は皆と同じ平民だ、これからよろしく頼む。 今日は俺達の顔見世と屋敷の完成を祝う宴会だ。皆飲んで、食べてくれ。」
「皆の物、男爵さまが狩ってくれた肉が沢山あるぞ。皆感謝しながらくうのじゃ!」
森は危険なので肉を余り食えない村人等は喜んで焼き肉等を食べていた。街から持ってきたワインも村人の為に全部出した。みなワイン等初めてで喜んでいた、自家製の酒はまずいらしい。手作りの宴会はとても楽しかった、歌の上手いものは歌を歌い、踊りの上手な者は踊っていた。アーサーも楽しかったのか村人たちに空中でコインを10個に切る、神技を見せたりしていた。ゴブ吉はそれに対抗してイージスを使い空に大量のファイアーボムを撃って花火みたいにしていた。最後はバーバラが村人全員にエリアハイヒールをかけて村人全員から祈られていた。俺は俺の特技である料理で頑張った。
こうして俺はこの村の人々に受け入れられたのだった。
次の日から俺達は、村の中を見て回った。と言っても人口300人の小さな村なので見る様なものは余りなかったのだが。
「やあ、おはよう。ここは何が取れるんだい?」
「おはよう男爵様、ここは麦が取れるんだが、土地がやせてるせいで他の所の半分しか取れないんだ。」
「そうか?どうしたら沢山取れるんだ?」
「森の腐葉土が有れば結構良い土地になるはずなんだが、森は怖くてはいれね~んだ。」
「それなら、俺達が取って来てやるよ。」
「えっ、そりゃあ助かる。」
次の日から、俺達は村人を何人か連れて森に腐葉土取りに行った。手つかず森は木の子や野生動物の宝庫で腐葉土以外にも運びきれない位のキノコや果実、兎や猪などを採って来た。
「いや~男爵様のお陰で、来年は期待できそうだ、沢山税を納めるから期待していてくれ。」
「おう、期待してるぞ。」
俺は税金なんか払った事ないので村長に聞きに行った。
「村長、税ってなんだ?」
「税は村の皆から集めるものです。農民は出来た作物の半分、漁師は取れた魚の半分を領主様に収めま す。そして領主様はそのお金を使って生活したり、村を守ったりするのです。」
「ふ~ん、給金みたいなものか?」
「そうです、でもこの村は貧しいですからほんの少ししか有りませんよ。」
「そういえば、大工さんや漁師の人達も年に5万ゴールド位の稼ぎだって言ってたな。」
「はい、一家でそれですから一人1万ゴールド位ですね。ですから村の税も年300万ゴールド位なも のです。食べるには困りませんが、貴族様には辛いと思います。」
道理で俺に気前よくくれた訳だ、一年で300万ゴールドなら駆け出し冒険者でも稼げる金額だ。100年ぶりの快挙の割にはしょぼい報酬だった訳だ。
それでも俺はこの村が気に入っていたし、金は沢山持ってるので気にならなかった。
「じゃあ、村長皆が腹いっぱい食える様に頑張らないとな。」
「ダイ男爵には期待してますよ。今までの貴族とは全く違いますから。」
「はは、頑張るよ。」
そして俺は今度は村の畑を荒らすと言う、ゴブリン達を探しに森に入った。見つけたゴブリンにゴブリンの集落に案内させる。ゴブリン達は俺達の言う事には素直に従うのだ。
「お前が、このゴブリン達の長か?」
「はい、ゴブ!」
「いいか俺の村の畑をあらすな。」
「分かったゴブ、ゴブリンの神様」
「よし、お前達も畑を作れ、そうすれば人の食い物を取らずにすむ。」
「俺達に出来るごぶか?」
「任せろ、手伝ってやる。」
200匹程集まって暮らしていたゴブリンに話をつけて、村の畑を荒らさない様にした。それだけではこいつらが食べるものが無くなって飢えてしまうので、畑を作らせる事にした。ゴブリンは何でも食べるので芋でも植えとけば何とかなるだろうと思ったのだ。
ついでに、200匹の中にクラスチェンジ出来るヤツがいたので、クラスチェンジしてやった。ゴブリンの長はメイジゴブリンになってますます長らしくなった。その他にもソードゴブリンが3匹とゴブリンヒーラーが1匹珍しい偵察スキル持ちのゴブリンもクラスチェンジで出現した。
彼らには俺の家の裏を畑として与えた。
「ゴブリンの神よ、我らは貴方に一生仕えますゴブ。」
「うむ、良い心がけじゃ。主の為に共に頑張るでござる。」
「今日から仲間ごぶ!」
「ふふ、マスターの為に頑張るのですよ。」
どうやら俺は子分が増えた様だ。




