第17章 ダイ男爵
100年ぶりに50階層突破を果たした俺たちは、毎日色んな行事に駆り出された。突破した次の日には冒険者ギルドに呼び出されAランクの冒険者タグと、突破賞金1億ゴールドを授与され、そして50階層主の情報提供を依頼された。この情報を基にして次の冒険者達が階層突破を狙う訳だ。
「では、50階はサイクロプス希少種1体と通常個体4体で間違いないですね。」
「ええ、間違いありません。武装は5体ともこん棒でした。」
「他に何か気がついた点はありますか?」
「最初に希少種がバインドボイスを放ちますから、これをレジスト出来ないと厳しい戦いになるでしょ うね。」
「バインドボイス、金縛りにあうヤツですね。耳栓かバインドボイスを無効化出来る魔導士が必要なわ けですね。」
「そうですね、その後は普通に倒したので分かりません。」
今俺はギルドで階層主の情報提供を行っている、情報料は2000万ゴールドだ。実は階層主のバインドボイスで金縛りにあったのは、俺とエリーゼだけなのだ。後の3人には聞かなかった、格下のバインドボイスは効かないらしい、サイクロプス達はバインドボイスを放った後アーサーとゴブ吉に瞬殺されたので、それ以上の情報は無いのだ。その金縛りもバーバラがあっさり解除してくれた。
そしてその3日後、今度はこの国の王様から呼び出しを受けた。城に行ってみると貴族やこの国の偉い人達でいっぱいだった。100年ぶりに現れた英雄を見に来たそうだ。俺とエリーゼは偉い人達に囲まれて緊張していたが、アーサーとバーバラは堂々としていた、ゴブ吉は周りに関心がないようだった。緊張のあまり色々な行事や会食なんかが有ったが良く覚えていない。
とにかくそこで俺は、王様から男爵にしてもらい領地を貰った様だ。
「やっと、終わったな。疲れた。」
「めんどくさいゴブ。」
「確かに面倒でござるな。」
「まあ、マスターが貴族になって良かったですわ。」
「いや~、きらびやかな式典だったっすね!晩餐会の料理も凄かったッス。」
エリーゼは華やかな式典や貴族が好きな様だ、終日機嫌が良かった。俺はどうも偉い人達に囲まれているのは苦手だった。
「まあこれで明日からは落ち着けるな。」
「いや多分、そうはいかないと思うッスよ。」
このエリーゼの嫌な予言が早速翌日から当たることになった。
「師匠、ギルドマスターが来てるごぶよ。」
「えっ、ギルマスが何の用だ?」
「これは、ダイ男爵さま。朝早くから申し訳ございません。」
「なんで、そんなに丁寧なんですか?ギルドマスター?」
「そう言われましても、今やダイ様は時のお人で、男爵様ですから。」
普通の冒険者なら冒険者ギルドに呼び出す所だが、俺は男爵で英雄だからギルマスがわざわざ会いに来たそうだ。バーバラとアーサーは少し嬉しそうだ、エリーゼは感動していた。ゴブ吉は腹が減っている様な顔をしていた。
「で、どういうご用件ですか?」
「いやあ、ダンジョンの件なのですが、次の階層にはいつ頃挑まれるご予定なのか伺いたくて来た次第 です、はい。」
「予定はありませんが・・」
「えっ!何ですって。潜る予定がないですと!」
「俺達、罠を解除する人居ないんですよ。危なくて次なんか行けませんよ。」
「えっ、罠解除出来ないんですか?伝説の英雄なのに?」
そこで俺はギルマスに俺達は英雄でも何でもない事、剣士と魔導士とヒーラーそして俺は召喚士である事エリーゼは荷物持ちである事を告げた。50階層に行けたのもギルドの攻略本を見ながら行っただけだと話したら驚いていた。
「それなら心配ご無用ですぞ男爵、わがギルドの腕利きの偵察要因をお貸ししましょう。勿論無料です ぞ、それにマップ作製のスキル持ちもお付けしますぞ。」
「はあ。」
ギルマスは何としても先の階層の情報が欲しいらしい、ここにいるよりダンジョンの中の方が静かそうなので引き受ける事にした。最近の俺達はどこに行っても注目されるので落ち着かなかったのだ。
そして新たな階層に挑む日、ダンジョン前には大勢の観衆が集まっていた。勇者達を見に国中の冒険者達が勢ぞろいしていた。ギルドから派遣されてきた人員は7人。罠発見・解除スキル持ちが2名、マップ作製スキル持ちが1名荷運び要員2名、そしてそれを守る重騎士が2名だ。全員ダンジョン経験10年以上のベテランだった。
ら
「それでは男爵、行きましょうか。」
「うん、そうだね。」
ベテラン冒険者達は注目を浴びてやる気満々だった、罠を探す役目もある事から俺たちの前を進んでいた。先頭が偵察要員2名そして少し後ろに重騎士2名他の3人は俺の後ろにいた。俺達は何時もの並び方で進んでいる。
51階層は森林エリアの様だった、俺達は森に住んでいたから平気だが、他のメンバーは森特有の薄暗くて視界が制限される事に慣れていない様な感じだった。
「主殿!来ます!」
「右前から何か来るゴブ!」
「マスター、私から離れないで下さい。」
3人の警告とほぼ同時に黒い風が偵察要員を襲った。木の間から突然現れたのだ。
それは1舜で偵察員の頭を食いちぎった、物凄く大きな狼だった。隊長4メートル程のそれは俺達を赤い目で睨みつけると重騎士の腕を食いちぎって、また木の間に消えた。
「バーバラ、重騎士にハイヒールを!」
「はい、マスター」
「ゴブ吉、イージス撃てるか?」
「見えないと無理ゴブ!」
「アーサー!行けるか?」
「お任せ下され。」
「よし、皆アーサーの傍に寄れ!」
アーサーの姿が消えたと思っていたら、俺達の後ろで何か重い物が落ちた様な音が聞こえた。振り返って見てみると、さっきの魔狼がアーサーに首を切り落とされて地面に倒れていた。
50階層までの魔物とは格段に違う速度にギルド職員は怯えていた。この辺りになるとフルアーマーでも役に立たないのに気が付いたのだろう。少なくとも50階層を突破する実力がなければここでは危険な事に今更気が付いた様だ。
「どうする、引き返すか?」
「引き返したいが、駄目だ。」
「でも、あんた達じゃあいつらに勝てないぞ。」
「せめて1階層だけでも調べないと、俺達はギルドに居られなくなっちまう。」
俺としては無理してここを調査する必要もないし、彼らを危険な目に合わせたく無いのだが、彼らにも面子が有って引けない様だ。命の方が大事だと思うのだが、彼らはそうわ思わない様だ。重騎士の腕は食いちぎられたが、バーバラのハイヒールで傷口は塞がっているので付いて来るだけなら問題ない様だ。彼らの希望で仕方なくこの51階層だけは走破する事にした。
「ゴブ吉、イージスを使って見えたら撃て。」
「分かったゴブ!攻撃範囲に入ったら取り合えず当てるごぶよ。」
ゴブ吉のファイアーボムに異常な威力が有るのは、相手の耳の奥で爆発させる為だ、今回の様に相手が見えない場合は身体の表面でファイアーボムが発生するので、普通のファイアーボムの威力しか出ないのだ。
「来るゴブ!」
それからは、ゴブ吉の40メートル圏内に入った瞬間ゴブ吉のファイアーボムが撃たれて相手に当たるのだが、ファイアーボムでは威力不足で少し毛皮が焦げる位だった。だが、ファイアーボムの炸裂音で相手の場所が分かるので俺達は防御するのが非常に楽になった。そしてアーサーが一撃で相手の首を切り落とすのだ。
「さて、この先に階段が有るのでここが51階層の一番奥だ。それでは引き返すぞ。」
「ああ、早く帰ろう。」
ここまでに倒した魔狼は5匹、罠の感知とマップ制作に時間を取られて夕方まで掛かってしまった、警戒しながらの食事や休憩なので休まる暇はなかった。帰り道は罠の位置が分かっているので来る時よりもかなり短時間で走破出来た。襲って来た魔狼は2匹だけだった。そして転送陣で地上へと向かいギルドに向かう。夜中にもかかわらず大勢のギルド職員や冒険者達に帰還を喜ばれた。ギルマスもギルド職員に犠牲が出た事よりも51階層のマップが出来て、魔狼の情報が得られた事の方が嬉しい様だった。
「男爵、お疲れ様。51階層走破おめでとう。」
「うん、犠牲がでたけどね。」
「51階層走破で、たった1名しか犠牲が出なかったんだから大したもんだよ。皆100人位は覚悟し てたと思うぞ。」
「でも凄く危険ですよ。」
「危険があるから見返りも大きいのさ、俺達冒険者は危険と共に生きるもんだよ。それに、俺達が勝手 に男爵に付いて行ってるだけだから、男爵が俺達の犠牲について心配することはねーんだぞ。」
そして次の52階層探索は1週間後と決まった、俺達に同行したいという冒険者は非常に多かったらしい、危険を冒しても名声や金を欲しがるのが冒険者だったのだ。俺達は肝心な事を忘れていたようだ。
そして俺達は51階層の説明や、貴族たちによる51階層走破パーティーの等で1週間忙しく過ごしていた。
ゆっくり休めるような状況じゃ無くなっていた。




