【第24話】
“人殺し”
“出て行け”
“死ね”
見るに堪えない言葉で書き殴られたビラを一枚ずつ剥がしながら、豊は屈辱に震えた。
一体自分達が何をしたというのか。
ここに住んでいるだけではないか。
「あっれぇ、豊じゃん?」
「こんな所に住んでんの?」
背後から神経を逆撫でするような声が聞こえ、豊が振り向くと、そこには中学時代のクラスメイトが数人、ニヤニヤしながら自分の方を指して立っていた。
「何だよ?」
「お前の父ちゃん、暴力教師だったんだって?」
「今時体罰はやばいっしょ。ここもじき追い出されるんじゃねぇの?」
「殺人犯の息子を、住ませたくねえもんな。」
彼らの言葉のひとつひとつが、豊の胸に深く突き刺さった。
「さっさとこの町から出て行けよな、人殺し。」
「あ~あ、こんな奴と一緒に居ると空気が悪くなる。カラオケ行こうぜ!」
「いいねぇ~」
クラスメイト達は言いたい事を言うと、豊に背を向けて去っていった。
「ただいま・・」
「豊・・またあんた、いじめられたの?」
「母さん・・」
「あんた、学校の事は心配しなくていいから、ちゃんと通うのよ?」
「もう無理だよ、母さん。俺達が今世間からどんな目で見られているのかわかる?人殺しの息子って、暴力教師の息子って言われてるんだぜ?クラスでも、部活でも無視されてるし、外を歩けばジロジロ見られるし・・もう限界だよ!」
「豊、ごめんね・・」
豊の母・絵美子は、思いの丈を自分にぶちまける息子の背を撫でることしかできなかった。
芹沢から一方的に離婚を言い渡され、財産を一銭も貰えずにこの安アパートを借りて、生活保護を受けながら細々と暮らしている。
以前はパートをいくつも掛け持ちしながら豊の学費や生活費を稼いでいたが、過労で身体を壊し、働く事ができなくなってしまった。
「母さん、もう俺学校辞めるよ。好きで入った所じゃないし。高校辞めて働くよ。」
「豊、高校だけは卒業して。お願いだから・・」
絵美子がそう言って豊の方を見た時、外から激しくドアが叩かれる音と、罵声が聞こえた。
「お前ら、生活保護を受けているのか!」
「俺達の血税で贅沢しやがって、犯罪者の身内の癖に!」
「さっさとここから出て行け!」
絵美子は恐怖のあまり、両手で耳を塞いだ。
「そうか、学校辞めるのか・・わかった。」
「どうしたんだ、何かあったのか?」
「いや・・さっき芹沢さんから連絡があってな、豊君、この学校を辞めるそうだ。」
「そうか・・」
職員室で煙草を吸いながら、歳三は少しやるせない思いを抱いていた。
豊は学校に退学する旨の電話をした後、誰も居ない教室へと向かい、自分の荷物を取りに行った。
もうここには来ることはない。
元々好きで入った学校じゃないから、出て行けてせいせいする。
そう割り切っている筈なのに、豊は悔し涙が止まらなかった。




