【第21話】
「あのさぁ、話があんだけど・・」
「何ですか?」
いつものように放課後、豊がバスケットボール部の練習に顔を出すと、3年の先輩達が数人そう言って彼を取り囲んだ。
「お前さぁ、いつここ辞めるの?」
「待って下さい、試合は・・春のインターハイはどうなるんですか?」
「お前、親があんな事しておいてまだここに居座る気なのかよ?」
「神経疑うわ。」
「俺達が迷惑してんの、わかんないの?」
先輩達にそう責められ、豊は俯いた。
「とにかくさぁ、お前がこれ以上ここに居たら迷惑なんだよね。」
3年で、豊のことを入部の時から何かと面倒を見てくれていた西田先輩が、そう言って彼の肩を叩いた。
「みんな、練習はもう終わりだから。後は部室でミーティングするから、遅れるなよ!」
西田は豊の前を通り過ぎると、後輩達にそう声を掛けた。
「まだ居たんだ、あいつ。」
「早く辞めればいいのにな。」
「本当。これでインターハイに出られなくなったらどう責任取るんだよ?」
部員達は口々にそう言いながら、彼の前を通り過ぎていった。
やがて彼の前からは、誰も居なくなった。
意気消沈した様子の豊が駐輪場に停めている自転車の方へと向かうと、自転車のタイヤが何者かに切り裂かれていた。
彼は溜息を吐きながら、自転車を押しながら長い坂道を下り始めた。
「見て、あの子・・」
「あぁ、芹沢さんの・・」
「まだあの学校に通ってたのね。」
「図々しいにも程があるわ、人殺しの息子の癖に。」
「さっさとあの学校やめてここを通るのを止めて貰えないかしらねぇ?」
坂道を下っている途中、主婦達がジロジロと豊の方を見ながらそんな事を言っているのが聞こえた。
どうして自分がこんな目に遭わなければならないのだろう。
自分だって、父を殺された犯罪被害者なのに。
「あなた・・」
頭上から声がして、豊が顔を上げると、そこには沖田総司の妹・里華が立っていた。
「あなた、まだあの学校に・・兄が通っていた学校に居るつもり?」
「そんなの、お前には関係ないだろう。」
「あるわよ、大ありよ。あんたのお父さんの所為で、お兄ちゃんは死んだんだからね。」
豊は舌打ちして里華の脇を通り過ぎようとしたが、彼女は豊の腕を掴んで離そうとしなかった。
「さっさとここから出て行って、人殺し!」
彼女のヒステリックで、毒を含んだ言葉が豊の胸に深々と突き刺さった。
「うるせぇな、退けよ!」
里華を突き飛ばすと、豊は一気に坂を下った。
「ねぇ、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
里華はそう言って自分を助け起こしてくれた葛城真緒に頭を下げた。
「さっきの、芹沢の息子じゃねぇ?親があんなことしでかした癖に、まだあの学校に通ってんの?図々しいったらありゃしない。」
「あの・・真緒さんは、どうしてうちに?」
「あんたの兄貴に線香上げに来たんだ。都合が悪かったら遠慮するけど・・」
「いえ、是非上がっていってください。兄も喜びます。」
「そう。」
数分後、真緒は総司の遺影の前で線香を上げると、彼の冥福を祈った。
「前にさぁ、あんたの兄貴がT高校の奴に絡まれたって話したじゃん?あれ、芹沢の息子が原因なんだよね。」
「あいつが、原因?」
「うん・・記憶が曖昧なんだけどさぁ・・」
真緒はそう言うと、総司がT高校の生徒達に絡まれた日の事を話しだした。




