【第20話】
「もう一度聞くが、お前が部屋に入った時はもう被害者は死んでたんだな?」
「ああ、そうだよ。何度も同じことを言わせるんじゃねぇよ!」
警察署の取調室で、歳三は刑事に芹沢の部屋に入った経緯を何度も説明していた。
「途中、誰かにぶつかったりはしなかったのか?」
「そういえば、女にぶつかった気がしたな・・」
歳三の脳裡に、事件当日の夜に、マンション前で一人の女とぶつかったことに気づいた。
身長は157センチ前後で、黒っぽいスウェットの上下を着ていた。
ただ、時間帯が時間帯なので、どんな顔をしているのかはわからなかった。
「顔以外に、何か特徴はあったか?」
「そういやぁ、左手に大きなケロイドがあったな。」
「・・そうか。」
歳三を取り調べていた刑事が低く唸った時、彼の相棒である若い刑事が取り調べ室に入って来た。
「中さん、芹沢殺害現場付近で、不審な女が目撃されたと言う情報がありました!」
「あんたはもう帰ってもいい。勝手に疑って済まなかったな。」
「全く、いい迷惑だぜ!」
歳三は証拠不十分で釈放された。
「トシ、良かったな。」
「すまねぇな、あんたにまで迷惑掛けちまって。」
「いいんだよ。」
近藤が運転する車に乗り、歳三は警察署を後にした。
「ねぇ聞いた?あの暴力教師、殺されたみたいよ。」
「天罰じゃない?あの人、奥さんにも暴力振るって離婚したんでしょう?」
「自業自得よねぇ。」
「でも、芹沢さんの息子は、お気の毒よねぇ。これから先、犯罪者の息子として生きないといけないんだから。」
歳三が住むマンション前のゴミ集積所で、いつものように近所の主婦達が立ち話をしていた。
「おはようございます。」
芹沢の次男・豊が彼女達に挨拶すると、彼女達は互いの顔を見合わせてからそそくさとその場から去っていった。
父が惨殺されてから二日が経ち、父が剣道部員達に体罰を加えたりしたことや、学校の金を不正利用したという数々の悪事がネット上で暴露された。
その所為で、今まで仲良くしていた友人達が掌を返すかのように冷たくなり、やがて豊は学校中から無視されるようになった。
豊がいつものように試衛館高校の門をくぐると、まるで全身にナイフが突き刺さったかのような冷たい視線を浴びた。
ふと周囲を見ると、教室の窓から顔を出した生徒達がジロジロと自分を見ながら何かを話している。
「次、藤堂。」
「え~、土方さん、何で俺ばっか当てんだよぉ。」
「そりゃお前ぇが不真面目だからだよ。」
教室の前に豊が立っていると、中から楽しそうな笑い声が聞こえた。
父が殺されても、彼らの日常は変わらないのだ。
勉強やスポーツに明け暮れ、青春を謳歌するのだ・・自分とは違って。
豊が教室に入ると、さきほどまで賑やかだった授業風景が一変し、水を打ったかのように静まり返った。
誰も彼が遅刻したことを咎めようとはしない。
それどころか、誰も彼を見ない。
まるで透明人間だ。
授業終了のチャイムが鳴り休憩時間になると、生徒達は友人達と他愛のない話で盛り上がった。
だが豊だけは、じっと自分の席に座って俯いていた。
トイレに行って教室へと戻ろうとした時、豊は平助と廊下ですれ違った。
「平助。」
豊が平助に手を振ったが、彼は豊から目を逸らすと、教室の中へと入っていった。




