【第1話】
2010年1月。
いつものように、杉浦家の主婦・耀子は夫と高校生の娘の朝食と弁当を作っていた。
「これでよしっと・・」
キッチンで完成した弁当を前に、耀子がデジカメでそれを撮影しようとしていた時、不意に外から救急車の音が聞こえた。
「ねぇ、何かあったのかな?」
「さぁ・・」
娘の真弓が眠い目を擦りながら上下のスウェット姿でテーブルに腰を下ろし、トーストを齧りながら窓から外を見ると、救急車は向かいの沖田家に停まった。
「あそこ、沖田さんのところじゃない?何かあったのかな?」
「さぁ。ママ、少し見て来るわね。」
耀子がリビングから外へと出ると、向かいの沖田家の前には近所の住民達が中の様子を覗こうとしていた。
「あら、杉浦さんも来たの?」
「吉野さん、おはようございます。沖田さんのところ、どうされたんですか?」
「わたしにもわからないわ。けどね、中から悲鳴が聞こえたのよ。」
「悲鳴が?」
自治会長の吉野は、そう言うと目を細めて中の様子を覗こうとしていた。
その時、沖田家のドアが開いて担架に乗せられた総司と、彼に付き添っている総司の姉・みつが中から出てきた。
「総司、しっかりして!」
「沖田さん・・」
耀子の声に気づいたのか、みつがゆっくりと彼女の方を向いた。
しかし、みつはすぐに耀子にそっぽを向き、救急車へと乗ってしまった。
「あの子、総司君じゃないの。どうしたのかしら?」
「さぁ・・」
ざわりと胸に嫌な感じがして、耀子は家の中へと戻って行った。
「ママ、どうしたの?」
「総司君が、病院に運ばれているのを見たわ。」
「うそ、マジで!?」
真弓は驚きの余り、コーヒーが入っているマグカップをひっくり返しそうになった。
「ねぇ、総司大丈夫だったの?」
「意識がないみたいだったから・・真弓、もう時間じゃないの?」
「あ、ヤベェ!じゃぁ、行ってきます~!」
真弓は慌てて二階へと駆けあがり、制服に着替えて弁当を鞄の中に入れた。
「おはよう。」
「おはよ~」
坂を上りながら、真弓は友人達と顔を合わせ、彼女は先程総司が病院に運ばれた事を友人達に話した。
「嘘ぉ、まさかあの総司が自殺なんて・・」
「自殺って、決まったわけないじゃん。大体さぁ、総司が自殺何かするような子に見える?」
「それもそうだよねぇ。あの子、剣道頑張ってたし・・」
友人達と話しながら、真弓は昨晩総司とコンビニで会った事を思い出した。
あの時、特におかしい様子はなかった。
一体どうして、総司は自殺などしたのだろうか。
いや、総司はまだ死んだ訳ではないのだから、そんなことを思うこと自体総司に失礼だ。
『全校生徒に告ぐ、至急体育館に向かうように。』
朝のHR前、真弓が友人達と話している時に、突然校長の声がスピーカーから流れてきた。
(まさか、ね・・)
嫌な予感が当たりませんようにと思いながらも、真弓は友人達とともに体育館へと向かった。




