【第17話】
彼女の話によると、総司の父親・勝次郎の弟・林蔵は、運営している不動産会社の資金繰りが厳しくなり、兄である勝次郎に助けを求めた。
しかし、育ち盛りの子ども二人を妻と育てているサラリーマンの勝次郎にとって、連帯保証人になってくれという弟の頼みはどうしても聞けず、彼を門前払いした。
だが、林蔵は妻子を捨て、勝手に勝次郎を連帯保証人にして姿を消した。
それが、交通事故で沖田夫妻が他界する二年前のことであった。
兄弟仲はあまり芳しくない上に、特に兄弟の母親が病死した後、林蔵が遺産相続人から外されていたことで、勝次郎を彼は一方的に恨み、その復讐として自分の借金を押しつけたのだと、彼らを知る者の間ではもっぱらの噂になっているという。
だがその話を聞いた歳三は、両親が他界した後、何故実家近辺に住む叔父夫婦の元ではなく、わざわざ遠くに住む伯母夫婦の元を頼ったのだろうかという疑問を抱き始めたが、それも主婦が解決してくれた。
“そりゃぁ、勝次郎さんと林蔵さん達の仲が悪いことは、子ども達同士も知ってたわよ。あたしなら、わざわざ嫌いな相手に頭下げて養ってくれとは言いたくないわよ。”
借金を自分達に押し付けて逃げた叔父の元で世話になりたくはないというのは当然の感情だろう。
それに、何もしていないと言うのに世間から白い目で見られる苦痛を感じるのが嫌で、環境を変えたいと思ったに違いない。
だが、伯母夫婦のもとでの生活は、総司と里華に更なる苦痛を齎した。
“ねぇ土方さん、この世で絶対に殺したいって奴、居ます?”
“何だよ急に。”
突然総司がそんな物騒な事を言いだしたのは、彼が中学3年の夏ごろだった。
クーラーの利いた部屋で学習塾の宿題をしながら、総司はその手を止めてそう言って歳三を見た。
“もし正当な理由で殺人が許されるとしたら、土方さんは誰を殺したいですか?”
“俺には、そんな奴は居ねぇよ。”
“なんだ、つまんないや。聞くだけ無駄だったな。”
総司は一気に興味を失くしたようで、再び塾のテキストに目を落とした。
彼が通う中学から連絡があったのは、二学期が始まって間もなくの頃だった。
“土方さん・・”
学校の進路指導室に駆け込んだ歳三を虚ろな目で見つめた総司の白い顔は、誰かの返り血で汚れていた。
“廊下で同じクラスの男子生徒をこれで殴ったんですよ。”
総司の担任が非常に困惑した表情を浮かべながら歳三に見せたのは、拳に嵌める金属製の武器と、バタフライナイフだった。
放課後、歳三は横浜市内にある遊園地に総司を連れ、二人で観覧車に乗った。
“土方さん、迷惑を掛けてごめんなさい。”
“なぁ、一体どうしたんだ?お前が理由もなく人を殴る奴なんて俺が一番良くわかってる。理由があったんだろ?”
“あいつ・・僕達を不幸にした張本人の・・あの人の息子だった。”
“あの人”と吐き捨てるかのような口調で総司はそう言うと、憎悪と怨嗟が宿った目で歳三を見た。
“あいつを殺してやろうと思ったんです。だから殴ったんです。父さんと母さん、そして僕達の分も籠めて、殴ったんです。”




