【第15話】
「それじゃぁ、行ってきま~す。」
「気を付けてね!」
「わかってる!」
受験シーズンを間近に控えた1月末、真弓は塾の合宿の為に朝早く家を出た。
「真弓、おはよう!」
「おはよ~!」
塾の前で、真弓は友人達と落ち合った。
彼女達はそれぞれ、スーツケースを持っていた。
「何だか合宿なんて、嫌だよねぇ。」
「ホント。受験生はこれだから嫌なのよねぇ。」
「いいんじゃない?もうすぐ受験終わるんだから。気楽に行こうよ。」
「そうだね。」
真帆達と楽しく話しながら真弓がバスに乗り込むと、彼女の席がある場所に一人の少女が座っていた。
スナック菓子の袋を摘んでいる少女は、真弓に全く気づく様子がなく、音楽を聴いていた。
「すいません、そこ、わたしの席なんですけど?」
少女の肩を叩いて真弓が彼女に話しかけると、彼女は不快そうに席を立って後ろの席へと移動した。
「何あれ、カンジ悪ぅ~」
「気にしなくてもいいじゃん。ね?」
「そうだね。」
後ろの席に座った真緒は、さっきのグループが自分の悪口を言っていることに気づき、胃がムカムカしてきた。
さっき自分の肩を叩いたのは、“彼”と親しい杉浦真弓。
高台の上に建つI女学院に通っている美少女だ。
クラス中で無視される真緒とは対照的に、真弓は学校でも塾でも何人かの友達に囲まれている姿を真緒は何度か見かけたことがあった。
モデルのようにスラリとした体型をしていて、顔も小さい。
それに、性格も明るい。
根暗でデブの自分とは正反対だ。
真弓の事を憧れてはいたが、真緒は彼女が自分とは余りにも違いすぎると感じて、少し彼女から距離を置くようになった。
真緒は空になったポテトチップスの袋をゴミ入れに押し込むと、溜息を吐きながら数学の問題集を取り出した。
真弓達を乗せたバスは、山中湖にある合宿所へと向かうまで、順調に高速を走っていた。
「ねぇ、部屋割りどうなってるのかなぁ?」
「さぁ、わかんない。同じ部屋だったらいいわね。」
「そうだね。」
真弓達が楽しげに話している中で、真弓はポツンと一人で英語の問題集に取り組んでいた。
彼女の周りには誰も居なかったが、そんなことは真緒にとってはどうでもよかった。
それよりも彼女はこの合宿に賭けていた。
今の成績では第一志望の大学には行けない。
真弓達のように、遊んでいる暇は自分にはないのだ。
(この合宿で、頑張らないと!)
バスが山中湖方面へと入った時、バスが突然急停止した。
「何、どうしたの?」
「一体何なの?」
真弓達が悲鳴を上げながら窓から外を見ると、バスの前に一台の乗用車が停まっていた。
「すいません、妻が産気づいてしまいまして・・申し訳ございませんが、病院へと送ってくださいませんか?」
そう車の中から出てきたのは、20代後半と思しき男性だった。
男性から事情を聞いた運転手は、臨月である彼の妻とともに彼らを病院へと送っていった。
合宿所に真弓達が到着したのは、夜の8時を過ぎた頃だった。




