【第11話】
葛城真緒は、いつものように行きつけのハンバーガーショップにある奥の席に陣取り、チーズバーガーを頬張っていた。
この席なら人目を気にする事はないし、店の窓に自分の醜い姿が映らないからだ。
チーズバーガーを食べ終えた時、彼女はポテトが欲しくなり、椅子から立ち上がろうとすると、耳障りな音を立てて椅子が床に倒れた。
真緒が惨めな気持ちで椅子を元に戻して注文カウンターへと向かうと、隣のカウンターには背の高い男性が立っていた。
あの男性は一度見た事がある。
確か、この店で働いていた“彼”と前に一緒に来ていた。
「ご注文は?」
「ポテトのLサイズをひとつ。」
真緒がそう言ってポテトを注文すると、店員が少し呆れたような顔を一瞬した後、営業用スマイルを彼女に浮かべた。
“まだ食べるのかよ、このデブ。”
最近、毎日真緒がここに来るようになってから、この店員が少し迷惑そうな顔をしていることに気づいた。
いつもテーブルいっぱいにポテトやハンバーガー、チキンナゲットを広げては豚のようにそれらを貪り食っている真緒の姿を、彼は店のイメージダウンになると考えているのだろう。
だが、彼女はちゃんとした客であるので、無下に追い出すことは出来ない。
きっと彼は真緒が帰った後、バイト仲間に愚痴を吐いて憂さ晴らしをするのだろう。
ポテトを待っている間、真緒はガラス窓に映る自分の醜い身体を見た。
高校に入ってから、既に体重は95キロになっており、今着ている制服でもキツイと感じてしまう。
ダイエットしなくてはと思いながらも、ハンバーガーショップの前を通るとついドカ食いしてしまう。
“真緒、あんたどうしてそんなデブになっちゃったの?昔は痩せてて可愛かったのに。”
家族そろって食事をとる時、母は毎回そう言って嘆かわしそうに真緒の身体をみつめては溜息を吐く。
両親や弟はモデル体型だが、家族の中で真緒だけがデブでブスだ。
鼻は豚鼻で、目は一重。
母親は目がぱっちりとしている二重で、鼻もいい形をしているが、過去に整形したことを家族は知っている。
現に、母方の実家で母の幼い頃に撮った写真を見ると、自分の不細工な顔は母に似ているのではないかという真緒の疑惑は確信へと変わっていった。
ブスでデブな自分に優しくしてくれる者など、誰も居なかった。
けれども、“彼”は違った。
熱々のポテトを食べながら、真緒は“彼”と初めて会った日の事を思い出していた。
それはいつものように、学校帰りの彼女がトリプルチーズバーガーセットを頼もうとした時のことだった。
『僕個人としては、こちらのチキンサンドセットの方がお勧めですよ。』
そう言って“彼”は真緒に微笑んでくれた。
たった一言ー彼と交わした会話はそれだけだったが、真緒は嬉しかった。
自分の事を気に掛けてくれている人が居るのだと。
その日から真緒は、“彼”に会いたいが為にこの店に通い詰めた。
だが、“彼”は突然真緒の前から姿を消してしまった、永遠に。




