第15話 Go to Breakworld ―行世―
繋がりが導く、世界を渡る道。
その行く先には・・・
「持ち物よーし」
『体調よーし』
「なんで体調?」
『長旅になる以上、最初が肝心だと思って』
ウィウィが壊世大陸に向かうと決めた、約束の日。ウィウィとウィリーは、持っていく荷物をチェックしていた。
普通の場合、長旅において荷物はどうしても多めになってしまう。特に野宿が前提の場合は、だ。
着替えや調理器具、仮拠点及び雨よけとしての布や、もしもの時の薬などは大切である。しかし…
「でも別にいらなくないかな?荷物」
『いるわよっ!?』
「だって冒険者やってた時、荷物なんてなかったでしょ?」
『う、それはそうだけど…』
冒険者だったころのウィウィ、というより冒険をしていたころのウィウィは最初だけ映っているが、その頃にはすでに荷物を背に背負っていなかった。
主に素手のスタイルをとるウィウィにとって、荷物は邪魔だったのだろうか。それとも荷物を持ってくるということさえ考えていなかったのだろうか。
「生きるのに必要なのは気合だって」
『そうは言っても、もしものこともあるでしょ…!?』
「とはいっても、今まではすぐ帰ってこれたし、遅くてもごはんとかはその場で食べてたしなー」
『…それが異常だとは分かってても、何とも言えないこのご時世』
ウィウィのいうその場とは、その場で何か動物を狩って食べるという意味である。
原始人か何かだろうか。
「まあいいや、今回はみんなと一緒に行くから荷物が必要なんだね?」
『…もうそれでいいわ』
因みにその時は、ウィリーもウィウィの狩りに参加していた。空腹と理性、二つの勝負はあっさりと空腹に軍配が上がっていた。
「よーし、それじゃあみんなのところに行く?」
『ええ。そうしましょう』
―――――――――――――――
皆で荷物を持って、火口から外に出る。
山が作る風の流れが気持ちよく感じられる、晴天だ。
活火山とはいえ、そんなに容易く噴火するものでもないグレウス火山。
空から火山弾やらが降ってくるなんてこともない。火砕流が流れてくることもないだろう。
「んー、やっぱ気持ちいいね」
「…私たちみたいに翼もないのに空を飛んでるのは…もう何も言わないことにしましょう」
『それが賢明じゃな。しかし、久々にこの姿になったのう』
「あなたってそれが本体なのね」
『仮にも龍じゃからな』
…いや、皆空を飛んでいるから、その心配は必要ないだろう。
『ああ…懐かしいわね、この飛び方!だいぶ思い出してきたわよ!【グオアアアァァァァッ!!】』
「ちょっ、ウィリー!吠えないでってば…!」
「ニャアアアァァァ!?」
「フィフィ、ティティ、落ち着きなって。ウィウィがおかしいのはいつも通りだし、ウィリーがそれに引っ張られるのは必然でしょ?」
「違う、そうじゃないの。頭に響くのよ…ウィリーの【炎獄竜形態】の吠え声って」
『私は久々に聞きますけどね。竜、ですか…懐かしいものです』
【炎獄竜形態】を発動したウィリーにはフィフィとティティが乗り、フェイアンは元の姿である龍になり、背中にモノを乗せている。自前で飛べる堕天使と、そもそも体がないツェルはいいとして。
「なんでウィウィは空飛んでるのよ」
「楽しいから?」
「疑問形!?」
と話すウィウィとフィフィ。ウィウィからはマナのブーストがついているようだ。マナはすぐさま燃やされ、あとには何も残っていない。
「はぁ、マナの無駄使いはやめてね?これからが本番なんだから」
「えー」
「えーじゃない」
『仲がいいのう』
『ですね』
―――――――――――――――
空を飛び始めてからしばらくして、ウィウィが口を開いた。
「…ところでさ」
「何?」
「なんで空飛んでるんだっけ?」
「大陸の向こう側に行くからよ」
『壊世大陸に向かっておるからの…知っておろうが、かなりの長旅になる。速さは大切なのじゃ』
「まあね」
『と、それ以外にも空を飛ぶ理由はある…主に海に、じゃ』
「海?」
そう話すウィウィ、フィフィ、フェイアン。既に太陽の地は過ぎて、眼下には果てしなく青くて遠い水溜まり…海が広がっている。
『なにせ壊世と名の付くほどの地じゃ。妾らが過ごしているというのにこのような名が付くのにはもちろん理由がある。その一つが…』
とフェイアンが話し始めたとき。
(……ォォ…)
「ん?」
「あら?」
『む!?』
何か変な音がした。
「フェイアン、なにか聞こえなかった?」
『というより、あれが一つ目の理由じゃろう。そら、下を見よ…』
そう言われたウィウィとフィフィが下を見下ろす。そこには何も変化がない、海が広がっている。
(…ォォォオオオ!)
…いや、違う。ウィウィたちの真下、海底深くから。
(ゴオオオォォォォォ!!)
大きな闇が海を喰らったかのように、一瞬にして大きな渦が出来ている。
轟々と音を立てているそれは、炎獄竜となったウィリーをたやすく飲み込めるであろうほど大きい。
もし船で渡っていこうとしたら、すぐさま飲み込まれていただろう。
その中心をフェイアンは指さし…。
『あれが複数いる』
「複数!?」
「楽しそうだな!」
「ウィウィは黙ってて!」
そう言っているうちにも渦は大きくなっていく。
『無視するのじゃ。あの渦の中心にある本体、あれをみると落ちるぞ』
「落ちるって!?」
『マナが目に干渉されて疲れる』
「全然わからないって…」
『…とにかく。一つにはああいう者たちが大勢いるからじゃ。よって船を利用する手段はとれぬ』
「へー」
渦巻く海を、空を使って抜けていく一行だった。
―――――――――――――――
日がゆっくりと落ち始め、あたりが赤く染まっていく頃。
一行は、いまだに空を飛んでいた。
『さてと…二つめに、ヒトがこの海を渡るのには気力が足りないこと。聖人やらなんやらならば問題ないだろうが…』
「?」
『余りにも距離が遠すぎての。そういう点から、ウィリーを妾に乗せることはしなかった』
『それ、私が疲れることを考慮してないの?』
『ふむ…それなんじゃが、今のこの空気を確かめてみるとよい。マナが潤沢になっておるじゃろう』
そう言われて、ウィリーは周りのマナを感じ取ってみた。
『…確かに多いわね』
『この位のマナの密度となると、ヒトはかなりつらい状態になる。マナを受け取りすぎて、気が遠くなるのじゃよ。フィフィは、ここまで密度の高いマナを感じ取ることはあまりなかろう?』
「そうね、確かに動くのは難しいかも。魔法の威力は上がりそうだけど、その前に私の判断力が鈍ってるわ」
『ふーん』
そう話すフィフィの顔色は特に変化なし。しかし、片手をウィリーに乗せたまま喋っており、疲れているような様子が見て取れた。
『その点魔獣や魔物などは、マナからエネルギーを得るという点においてかなり優位な存在じゃ。それは今のウィリーの形態でも変わりないはず。そういう点から、ヒトであるフィフィや、そもそも飛べないティティをお主に乗せておる』
『…ウィウィは?』
『例外』
もはや計算外のウィウィだった。
『・・・因みになんで?』
『ウィウィは空を飛ぶために、外部のマナを直接変換しておる。その為、自分のマナを一切使っておらぬのじゃ』
『…つまり、無限エネルギー持ち?』
『そうなるのう。魔獣のようなことをしおって…』
「…それって、どのぐらいおかしいことなの?」
『簡単に言えば、ヒトが息を吸って吐く時に、炎が噴き出るぐらいじゃな』
「なるほど、分からないわ」
ありがとうございました。
さて、3月か…またいろいろ忙しくなりますね。
何かあったら連絡します。
追記※モノがフェイアンに乗っていなかった点を修正しました。