第13話 Dive to Mana ―魔潜―
人の意識、マナの意識。
それは一体、どこを根源としているのだろう。
「・・・さーて、ここはどこだろーなー」
ウィウィは、今。真っ暗闇の中にいた。
右も左も、何も見えることはない。
ただ、黒い世界が見えるだけだ。
「確かに闇は精神を基本とするけどさ、暗いよこれは」
そう話しかけてみても、何も返事は帰ってこない。
少し前に仲間になった、あの闇側のウィウィからでさえ返事がこない。
「ま、何とかして見つけないとね。確かこうやって…えいっ」
それもそのはず。
「…よし、泳げた」
今ウィウィは、堕天使の中にいるのだ。
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~ちょっとだけ過去の話~
「私の存在が…ほしい?」
『ちょっ、言葉、言葉!誤解招くわよ!?』
「えー、でも間違ってないよね」
『そうだけども!あぁもう!』
ウィウィが堕天使のマナを欲しがった時。堕天使は幾らか疑問になった点があった。
「えっと、どうやって私の中から闇を採るの?あと、どうやって蓄えておくの…?」
「あっ、それの説明してなかったね。それについてなんだけど…」
そういうと、ウィウィは右半身を闇に染める。
すぐさま闇のウィウィが出てきた。
「そこは俺に任せろ。あいつの実験は、俺も気になるからな…。俺が闇の使い手として、俺のマナを媒体とした闇の道をあんたとの間に作る。そこをウィウィが通っていく」
『・・・は?』
「意識レベルで潜入したウィウィが闇の根本となるあんたの本来の意識に触れ、一時的に侵食を食らいつつ帰還。侵食した闇を俺が解離させ、確保。こういった流れだ」
「・・・?」
「あんたの闇と俺の闇が混ざる危険はないと判断してる。理由は特にない。じゃあな」
そういうと、ウィウィから闇が消えていった。
「ってことでいい?」
『いい訳ないでしょ!?』
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「はぁ、ウィリーもいろいろ聞いてくるようになったなぁ」
あれからウィリーは、マナのより細かい運搬方法や闇のマナにウィウィが完全に呑まれる危険性などを色々とウィウィに聞いてきた。ウィウィは最初の方は一個一個説明こそしていたが、途中から面倒になってきたのか喋る量が明らかに減った。というより途中を省くようになった。最後の方など、
「もうこれでいい?」
の一言とマナの流れで終わらせるほどだった。その時手元には明らかに非常識な温度で燃えている炎があったのだが、まあいい。
ウィウィは今、堕天使の持つ闇のマナに、自らの意識を投入させることに無事成功し、その核となる堕天使の元の意識を探している途中だった。
それから少しして。
「・・・お?こっちかな?」
ある程度闇の中を泳いでいたウィウィは、その中にかすかな違和感を感じた。ウィウィはそちらに何かあると踏んで、そちらに向かった。そこには…
『・・・』
「おお、発見はっけ…え?」
目を瞑り、胎児のように、手足を引っ込めて体を丸くした…
男性がいた。
「あれ?人違い?」
『・・・』
ウィウィが声を発しても、気づく様子もない。というより寝ているのだろうか。
「おーい」
『・・・』
ウィウィが叩いてみても、なんの反応もしなかった。
「…多分核の人なんだろうけど、性別って変わるものなのかな?」
『・・・』
そこでウィウィはふと思い出す。あの時堕天使は、「私は人造人間よ」と言っていた。ということは、核となる魂は違うものだったのかもしれない。
加えて、その魂は仮初のもの。人工的に作られたということは、意識さえない状態で闇を入れられたのかも…と、ウィウィは考えた。
「…中々怖いことするね、お姉さんのボス」
炎に特化しているとはいえ、マナに精通しているウィウィは思う。ヒトを道具のように扱っているな、と。それも、意識に直結する闇属性で。それは人を人のように思っていないからできるのかも、と考えて…
「…そういえば、今の俺もそんな感じなのかな」
実験のために、知りたいがために、と周りを若干置いてけぼりにして、この闇にまできたウィウィ。周りのみんなのことをあまり考えていないからなのかな、と少し落ち込む。
「…ま、いいか。あとでみんなに謝っとこっかな?」
それもどうなんだろーなー、と声を発したウィウィは、気の抜けた声を止め、目を瞑り。
「・・・よし、やるか」
右目に光った紋章を見せて、男性へと触れた。
「世界よ、答えよ。【炎の具現者】・・・その魂の名のもとに!」
瞬間、丸くなっていた男性から、意識が。魂が。闇が。溢れ出す。
『―――――――――ー!!!』
「ぐっ・・・!?」
声にならない魂が。怨に満ちた声が。滅びる寸前の力が。
『――――――!!―――ッ!!!』
「っ・・・!」
ウィウィを跳ね返そうとする。彼をこの世界の異物だと判断して。
『―――――~~~~~~ッ!!!!』
「・・・」
しかし、ウィウィは動かない。絶えず男性へと触れ続けた。
『―――――~~~~~ッ!!!―――――――!!!』
「・・・あはは、やっぱそっか」
それどころか、ゆっくりと笑っていた。
「安心して。核はきちんとできてる」
『――――~~~~ッ…!?』
ウィウィは、怨嗟の声へと、話しかける。少し、声に驚きが混じった。
「俺はあなたを呑み込むために来たんじゃない」
『―――――・・・?』
魂の言葉が、爆音から、騒音へ。騒音から、雑音へ。
「あなたの核は、この闇の中でもはっきりしてる」
『―――――』
雑音から、ゆっくりと普通の音へ。
「もう闇には呑まれないよ。包まれるだけ」
『・・・!』
「闇はもう、あなたの味方に変わってるから」
『―――』
「だから、もう安心して、向かってきて」
『――』
「・・・」
『―』
「・・・」
『』
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闇の中にいた男性は、ゆっくりとその身を闇に投じていった。
「・・・よし、大丈夫そう」
そもそもウィウィがなぜこのような会話をしていたのか。それは精神の在り処にある。
闇のウィウィとウィウィが出会ったのは、精神世界の入り口だった。それは、現実と精神との繋がりが最も丁度いいバランスで造られている場所だからだ。
だが、それは逆に言えば、精神を確立できない場所ともいえる。
今回ウィウィがあの男性を見つけたのは、精神世界に入ってそう間もないころ。つまり、あまり入り口と大差ないのだ。そこに精神の核がいるという時点で十分異常であり、そこから何となくの推測を立てていた。
つまり、あの男性は「闇から逃れてきた本来の意識」であり、それを戻せばいろいろ何とかなるのだろうということだ。
「博打だったけど、成功したみたいだね」
毎回毎回突拍子もないことをするウィウィであった。
「…そして、こっちも成功、と」
そう独り言ちるウィウィの左手。そこには黒い染みがある。
ここの闇に侵食されたのだ。
若干苦しそうな表情をしているウィウィだったが、そこにはかすかに笑みが浮かんでいる。
この痛みさえ計算内だ、と言わんばかりに。
まあ実際計算通りなのだが。
これでウィウィは闇を持ち帰ることができる。
あとは堕天使がどのような具合になっているかを確認するだけだ。
「この状態で帰ればいいんだよね。よーし、いくぞー!」
ありがとうございました。
ついに他人のマナにまで侵食し始めたよウィウィ。どうなるのさこれ。
あと風邪ひいたんで皆さん気を付けて。




