第12話 Fall into Darkness ―堕罪―
堕天使とは、常に楽園から堕ち至る者。
彼女と歓びとは、常に離れた存在なのだ。
「…そこまで分かっているなら話さないといけないわね。私たちの話を」
ウィウィが強い口調で問いかけた言葉に、堕天使は僅かに笑ってそう答えた。
「私…いや、私たちは能力の実験台のようなものなの」
『実験台…?何をされていたの?』
「簡単に言えば、闇を生きた者に注ぐ実験よ」
「なっ…?!なんと非人道的なことを…!」
「正確には、すべての人が生きた存在じゃないけどね。私は人造人間よ」
『人造人間…特殊な魂を仮初の肉体に定着させ、ヒトとする技術ですね』
「う、うむ…そういえば闇術にもそのようなものはあったな。その者は何故、そのようなことをしておったのじゃ?」
「闇とは呑み込む力。人の意識も、力の限界も、全て。あの人は、闇を手にしてから、その力に溺れたの」
「あの人って何だい?」
「私たちの中の一番上の人。最後に話すわ…あの人は自分自身へ闇の魔法を使ったりして、いつも闇に触れ続けていた。そして最近、それを強くするための方法を見つけたらしいの。それの為に、炎の具現者の存在が必要だったのよ」
彼女は、少し俯いて話した。
「ウィウィに会う為に、私たちは作られ、強制的に闇を注がれ、強くされた。ウィウィが強いってことを、あの人は知っていたのでしょうし。その中で大抵は死んだか、理性のない魔物になったか、発狂したか…そうやって消されていって…運良く私たちはその実験の成功例となったわ」
「…一応そっちの姿も魔物のような気はするがな」
「確かに人とは違うけど、私は意識があるからいいの…まあいいでしょ。私たち成功例は、ウィウィを探す為に色々な場所に飛んでいった。その中で私はウィウィを見つけ、そして交戦。あっさりとやられて、ご覧の有様ってわけよ」
「空にいたのは、それが理由だったのね」
「そして、さっきから話しているあの人っていうのは、私たちを作った…というより、構成した存在。どこかから人をさらってきたり、人を形取った複数の人形に、仮初の魂を埋め込んだものを用意し、そこに闇を注いだ…黒い魔術師」
『魔術師…ねぇ。因みにその人が世に名を出したことは?』
「もちろんないわ。複数いる私たちだって知らないもの。あの人がどうやって生きてきたか、なんてね。その人は、闇に呑まれて暴走する一歩手前、ってところ。それを止めるために、私たちは協力しているようなものよ」
「ふーん」
「私たちは力が欲しい。でもそれ以前に、私たちを作った存在の暴走を見ていられないの。こんな姿にさせたあの人を憎み、こんな力を得る手段を教えてくれたあの人を尊敬している私たちには、ね」
「…上の者に対した言葉にしては、中々おかしな話じゃな?」
「正直私たちから見ても変な奴というか危険人物だけど、それでも情というか、守るべきだっていう感情みたいなのはあるみたいなのよね…。もしくはそうするように、魔法によって精神汚染されたのかも?」
『…どれだけ恨んで、どれだけ感謝しているのか分からない言葉ですね』
「私たち自身が分かっていないんだから、あなたたちにもわかるはずはないわね」
「…今更だが、いいのか?そこまで話しちまって。裏切りとかにはならねぇのか?」
「いいわ、別に問題なんてない。貴方に会った時点で全て無駄なことになったから」
堕天使は、そういいながらウィウィを見る。
「…俺か?だが、お前らの目的は俺なんじゃ…」
「いや、私たちが欲しかったのはウィウィ・リベルクロスという存在。私たちは、闇に染まっていないウィウィを、求めていた」
「…ほう?」
「でも、もう貴方がいる。なら実験は出来ない。加えて、もし武力制裁しようとしたところで…」
堕天使は拘束された体を僅かに捩らせ、周りを見る。そこにはウィウィの仲間たちがいた。
「このくらいの存在が集まってたら、勝ち目もないわ。それより私としては、あの人を闇から救ってほしいって位しか考えられてないし」
「救う?どういうこと?私たちは…」
「敵同士。それくらい分かってるわ、だからこそ頼みたいのよ―――
―――この大陸の外、壊世大陸にいる、あの人を倒して。
それが、あの人を止めるたった一つの手段なの」
深刻な顔でそういった彼女は、静かに頭を下げた。
「お願い。あの人をとめて」
―――――――――――――――
話を聞き、真正面からお願いをされてしまったウィウィたちは、互いに目を合わせ、
(ウィウィよ、どうするのじゃ?)
(待て、俺に振るな。他の奴らに…っつーかそろそろ戻りてぇ)
(私は受けてもいいと思う。ね、ティティ?)
(?)
(フィフィ、ティティはわかってないから。ツェルはどうなの?)
(私は壊世大陸のことが気になりますので)
(…はー、なんだかろくな会話してない気がするなぁ)
といった具合に無言で相談し、
(((((((解放してもいっか)))))))
と、無言の一致の元、ウィウィが代表して堕天使を止めていた氷の十字架を…
「ぉらあっ!」
「へ?ひゃぁぁああ?!」
ガシャーンと、背中に回り込んでぶっ壊した。
「っぅ・・・あ、あら?」
「…ふぅ、ウィウィ。戻っていいぞ。俺は満足したからな」
その後、ウィウィをまた闇が包んだ。しかし今度は包むというよりも、一点に収束するような動きを見せた闇は、帯のようになり、ウィウィの右目へと吸い込まれていく。
そして体に浸透していた闇も、右目へとゆっくり戻り、ウィウィの色はいつもの状態を取り戻した。
「・・・っよし!復活!みんな、ただいまー」
「ただいまー、じゃないでしょ!?どういうことよ?さっきまでの闇は?」
「わっちょっと、わかった、わかったから落ち着いて…。フィフィ、さっきまでの俺は、眼に戻ったでしょ?」
「え、ええ」
「で、俺はここにいる。つまり。あの闇の俺と、こっちの俺で、意識を入れ替えられるようになったんだよ!」
「ちょっと、えぇぇ…どういうことよ…」
「さっきまでの話は聞いてるし、これからの話も闇の俺は聞いているからね」
『…成程、分からないけどまあいいわ』
限界突破の次は多重人格。ウィウィの人外化は続くな、と思ったフィフィだった。
既にウィリーは思考を放棄していた。
「とりあえず、お姉さん?」
「…何かしら?」
「その依頼、受けるね!壊世大陸だったら俺も行けるし!」
「…え?」
『ちょっと、ウィウィ?これは依頼じゃ…』
「ううん、依頼だよ。頼まれごとで、時間制限は未定。でも場所の指定はあるし、成功の判断のつく条件があるし。それに、報酬があるし!」
『…え?報酬の話なんて、どこに?』
「もちろん…これのことだよ!」
ウィウィはそういって、堕天使を指さす。
「…私?」
「というより、その中にあるものだね。気になることが幾つもあるからさ」
『…どういうこと?』
「闇によって強化された体になってるんだよね?お姉さんは」
「ええ、そうね。ついでに言えば、私は仮初の魂で造られた方よ」
「なら、その闇を抜いたらどうなると思う?」
「『・・・』」
「『はい?』」
「お姉さんが死ぬことはないと思う。それは絶対あり得ない。元々仮初とはいえ、魂があった状態から作られたんだしさ。でも今は闇と一体化してるし、吸い取ったらどうなるんだろうなって。意識が薄れる?闇そのものの性質を考えれば難しいけど、削れるのは事実だし、どうなるんだろ?ってさ。」
「…えっと?」
「それと、これまた何となくだけど、闇って雰囲気に合わせれば、別の人にも与えられるかなーって思って。闇に対するイメージができた以上、覚えてるうちに実験したいんだよね」
『ウィウィ、まさか…』
思考が若干止まっている堕天使と、いつもウィウィと共にいるせいか、何となく先が読めてゴーレム顔が引き攣ったウィリーの前で…ウィウィはこう言い放った。
「ちょっぴり、お姉さんの存在が欲しいなー、って思ってさ。どう?」
ありがとうございました。
集中力ェ…。




