第7話 Call of World ―界呼―
世界は、呼応する。神、悪魔、英雄の誕生に。
そして、その時の中心である者は、世界の理に触れ、伝説の一端を担うのだ。
~三人称視点~
―――世界が、揺れ動く。
二人の赤き眼の力に、揺さぶられていく。
「おりゃあああああ!!」
『うおおおおおおお!!』
現世では絶対に成し得ない、「情熱」と『破壊』のぶつかり合い。
それはこの意思世界だからこそ出来上がった、一つの夢の空間だった。
「まだまだ!この程度っ!!」
『ハァーッハッハァ!!もっとだ!もっと力をよこせ!!』
互いに、世界の歯車を動かしていく。自分を中心とした回転を、作り出していく。
「そんでもって、そりゃあ!」
『うおっ?!今殴るなよ!』
「敵だからいいじゃないか!」
『世界の流れが壊れても…ああ、いいのか』
「一人でも戻せるよね?」
『それもそうだな!おらっ!!』
本人同士も動く。揺れ動く世界は、彼らにとっては普通の世界だ。
足場が揺れ動こうとも、空気に揺さぶられても、それはある種の日常のように感じているだろう。
なにせ、それは彼らが作り上げた事象だ。予測できる未来なのだから。
「食らっとけ!【壊シ尽クス】!」
『甘いぜ!【壊シ尽クス】!』
同名でありながら、その本質に差異あり。情熱という意思を持って全力で壊す拳と、自らが望むが故に破壊だけを求める拳がぶつかり合う。
それは、奥義を持った師匠とそれを受け継いだ弟子との戦いのような、あるいは同じ先生を持った二人の生徒同士のぶつかり合いのような、そんな印象を持たせてくれる。
「【燃ヤス】【斬ル】!!」
『【燃ヤス】【叩キ割ル】!!』
それにしては攻撃の質が高すぎるが、まあいい。
「おっらああああああ!!!」
『うおおおおおおおお!!!』
ぶつかり合うその音が、ゆっくりと大きくなる。
世界の鼓動が、聞こえ始めた。
「ちょっとはこれで休憩していてくれよ!【情熱ノ―――】・・・!」
世界が揺れ動く。彼らの眼にも、光が、闇が、宿っていく。
『こいつでサヨナラだ!愉しかったぜ!【破壊ノ―――】・・・!』
―――これが終わりだと、世界が告げたかのように。
「【―――破壊行動】!!!」
『【―――情熱意思】!!!』
―――そのとき、一つの壁が壊れた。
―――――――――――――――
~外の世界~
「…んー?」
『どうしたの、フィフィ?』
「いや、今変な感じがして」
「変な感じ…か。妾も微かに感じるのう」
「フェイアン?どうしたのさ」
「…?」
『むぅ?』
フィフィとフェイアンの二人が何かの違和感を感じている。その原因がさっぱりわからない皆。
「何かあったのかな…」
『外にいる堕天使?さんは、完全に拘束してますから、そっちではないですよね』
「そうね。何なのかしら…」
ゆっくりとウィウィを待つ、フィフィたち。今ウィウィの中で何が起きているのか、それを知るすべを持っていない彼女らは、ウィウィの言葉を信じてただ待った。
そして、ついにそのときが訪れた。
「…おっと」
「おお、ウィウィが光り始めたぞ」
ほんわかと、あったかいようなオレンジ色の光が、ウィウィから発される。
全身を包んだその光が強くなっていく。
「これは・・・」
『勝ったわね、ウィウィ』
「ニャ…『それフラグじゃない?』」
体の輪郭が見えなくなるくらいに強くなった光が、すべて消え去ったとき。
「・・・ふぅ」
相変わらず真っ赤に燃えるかのような色を持った髪の毛は、また炎らしさを取り戻し。
「疲れたな…別世界だったのに」
肌をいつも以上に焦がしていた闇は、その右腕に刺青の如く線を残すだけにとどまり。
「とりあえず、みんなに言うことがあるかな、これは」
その線の終着点である右目には、非対称な炎のデザインと、鎖によってできた円、そしてその裏に一つ巴と六芒星の紋章が残った・・・
「みんな、ただいま!無事勝ってきたぜ!!」
皆のよく知る、ウィウィがVサインを決めて立っていた。
―――――――――――――――
『ウィウィ!』
「おっ、きちんと帰ってきたんだ」
「ふむ、よく勝利したの!」
『よかったですね、ウィウィ』
「ニャー!」
「ありがと、みんな!んーっ、疲れた!」
たいていの場合、「ウィウィだから」で済ませられる皆だったが、それでも帰ってくるか心配な点もあったのだろう。口々におかえりといい、うれしくした様子だった。
「・・・ウィウィ」
「フィフィ?」
一人だけは黙っていたが。
「どうしたのさ?」
「・・・何かあったの?少しだけいつもと違うわよ?」
「へ?」
どうやら、体の心配をしていただけらしい。
「いや、特にはなにも。おかしい点なんてある?」
「マナの流れ。目の辺りが少し違うわよね?」
「あ、これか」
そういってウィウィは右目を少し抑える。そこには微かに光る紋章があった。
「んー、なんていうんだろうな」
「その辺りでマナが消えたり現れたりしてるわよね?」
「そのあたりはわからないや。こっちで見えるものじゃないし」
首をかしげるウィウィ。そこに。
「・・・ウィウィよ。その紋章、妾に見せてみろ」
フェイアンがやってきた。
「え?うん、いいよ」
承諾するウィウィの顔を取り、まじまじと見つめるフェイアン。
「ふむ・・・見覚えはあるのじゃが、思い出せぬのう」
『何か分かった?』
「とりあえずは、分かることを上げておくか。魔法陣とは全く違うのう。何より、魔法文字が書かれておらぬ。マナの門としてしか機能しておらんのか?」
『魔法文字…確かに、これは完全に図形の一つね』
「魔法文字って?」
『魔法を発動させるとき、いつも魔法陣の中に文字が入ってるでしょ?』
「文字…ああ、あの絵みたいなものか」
『絵って…確かに絵だけど。文字にしては一文字一文字が細かい絵だから、そう見えるのかしらね』
少し頭を抱えるウィリー。
『ウィウィ。その絵について思い出せることは?』
「並べる順番で力が変わったりする」
『…いや、まあ、うん。そうね』
「ウィウィよ、では一つ質問じゃ」
「何?」
「その魔法陣の中に、魔法文字を加えずに発動させるとどうなるか、分かるかの?」
「んー…そういえば、そんなことやったことなかったな」
『待ってください、今ここでやったら色々困ってしまいます』
忘れてはいけない。ここは村の中心、火口のふちにある広場だ。
「あー」
『できることなら目立つ行動は避けてほしいのですが…』
「…ねえ、ツェル」
『なんでしょう?』
「…あれ」
フィフィは隣を指差す。そこには氷の十字架に磔にされた堕天使がいる。
「それと、この子」
フィフィはすぐ近くにいるウィウィを指す。ここがウィウィの住む村だとは、誰もが知っている。
そのウィウィが破天荒な存在だということも。
おそらく、村の人々にも周知の事実だろう。
「んー…まあ、そうだね」
「まあつまり、今更目立つ行動しても…」
「「いつものことだし」」
「で済ませられるからいいのよ」
『…はい』
押されたツェルだった。そんなツェルに助太刀したのはフェイアンだ。
「じゃが、ここで行うと困るのも事実じゃ。起こる現象からしてな」
「そうなの?」
「うむ、妾はその現象を知っておるからの。それをより安全に知ってもらいたいのじゃ。ということで、とりあえずは…」
そういうと、フェイアンは振り返り、ミルの家を指差した。
「とりあえずは、お主の安全を母方に伝えぬとな?」
―――――――――――――――
ウィウィが無事であるとミルに伝えるために、ウィウィとフィフィの二人でミルのところに向かっている間に、フェイアンは残りの皆を連れて、村の外を歩いていた。
「この辺りがいいじゃろうな」
『実験…ねぇ』
『私が行っていた魔法の知識としては、"如何なる魔法陣にも魔法文字による内容記述を怠ってはいけない"、とありますが。何が理由なのか、分からなかったんですよね』
「ほう、それは先人の知識が役に立ったのう。下手すれば死んでおったぞ、お主」
『今既に死んでるのですが…』
「…ああ、あれか」
「ニャ?『知ってるの?』」
「うん。ギルド長が一回見せてく…いや、違うな。うっかりしちゃったみたいで、それを見たことがあるんだ」
「ニャー…『なんだか怖いね』」
「怖いというか、すごいというか…建物の中でやることじゃないよあれは」
魔法の知識を持つ側とそうでない側で話をする5人。いや、3人と2匹。そこに素早く挨拶をしてきたのか、ウィウィとフィフィが戻ってきた。
あまりの今までの破天荒ぶりに、今回はミルも驚かなかったらしい。
驚き疲れたとも言う。
「おーい!」
「お、いたいた」
「よし、それでは早速じゃな。魔法陣にもし魔法文字を書かなかったら何が起こるか、それを今から教えてやろう。場合によってはその目にも関係する話じゃから、聞いておくとよいぞ?」
そう話し始めるフェイアンだった。
―――――――――――――――
~ウィウィ視点~
・・・ふぅ。
―――疲れたか?
うん。でも収穫はあったし、いいよ。
―――結局決着は付かなかったな
だね。楽しかったからいいけどさ。
―――物好きだな…しばらくはまた、お前に任せるぜ
いいの?
―――ああ。俺に外は似合わねーしな
そうなんだ。
―――ああ、俺が呼んだらすぐ代わってくれよ?
え?なんで?
―――制御奪おうってわけじゃねぇ。まだお前が不安定だからだな
不安定?ふーん…分かった。
―――んじゃ、またな。案外すぐ出られるだろうがな…
わかった。楽しみにしててよ。またね。
ありがとうございました。
覚醒しても、ウィウィはウィウィだね。