第4話 Feel Strange ―違和―
戦いとは、終わった先にも道が続いているものだ。
それが何の道なのかは、実際に通ってみないと分からないが。
火口付近で行われる、戦い。…いや、蹂躙。
それは、堕天使が言葉を失くしたあたりで小休止がとられていた。
「【機関停止】…ティティ?」
「ニャ」
「どうする?このトリ」
「・・・ぁ」
ドクドクと堕天使の胸から流れていく、赤黒い液体。それは地面にぼとぼとと落ちていく。
散々にまで嬲られた結果、今堕天使は殆ど動けない状況になっていた。その目からは、ただでさえ宿っていなかった光が余計に消え去っている感じがする。
「ニャー…『しばらく、そのままでかな』」
「とはいっても、どうやって?」
「ニャ。『こうやって』」
ティティが尻尾を一振りすれば、氷が具現されていく。魔法の氷だ。
それは、倒れていた堕天使をゆっくりと持ち上げていく。
「ニャー」
気の抜けるような鳴き声の後、堕天使は氷でできた十字架にかけられた。
体の復活は、どうやらあの躍動する鉱石が無ければ行われないらしく、氷の冷気によって少しずつ体が鈍っていく様子が感じられる。
「・・・ぅ」
「みんなが来るまで待ち、だ。いいね?」
「ニャ…『いや、まあ、うん…なんだか酷いね』」
「そうかい?僕はただ全力を出しただけだよ」
「ニャー!『全力だす方向がおかしいの!!』」
ニャー!!と掛け声一つ、ねこぱんちを繰り出していくティティ。彼女が何より成長したのは、その言葉と考え方だろう。
魔法を無詠唱で発動すること自体は前からやっていたが。
他人と会話ができるようになったことで、色々とお話をして、そして自分の考えを改めることができる。それが何よりの成長だろう。今現在でやった会話の内容は、せいぜい両手で数えられるくらいの数しかないだろうが…それだけでも考え方にはかなり響いたらしい。
…猫には指が無い?爪で数えてほしい。
「んー…ああ、そっか」
「ニャ?『どうしたの?気づいた?』」
「全力で心を制圧しないと、襲われるなんて状況じゃないんだったね」
「ニャ?!『どこまで物騒なの?!』」
モノはモノで、頭の中で思考することができる量がより増えた。あの暗号らしき言葉が、思考の短縮につながっているらしい。そうでなくとも色々と吹っ切れた結果、今に至るようだ。
いわば、今における戦闘中の彼は、AIだ。人工知能だ。それも、結構高度なものだ。
相手を高速で分析し、そして最適解で行動を封印する。それこそが今の彼女の姿である。
「…だとしたら失敗したな」
「ニャ?」
「いや、もうちょっと耐えさせるべきだったなと。拷問できないし」
「・・・『・・・怖いよ、モノ』」
「・・・ぅ」
―――――――――――――――
~モノ視点~
「・・・」
「・・・ニャ?」
「・・・ぁ」
しばらく、フィフィ達を待っていた僕とティティ。その途中で、考える。
「…(s@4dqmytu)」
自分の中の、違和感を。
「(geqfud9lm90e)」
聞いた話よりも、あの堕天使は弱かったと感じる。
そもそもグロウスは、その脅威のことを堕天使とさえ言っていたかも怪しい。
「(uit4ot@3.)」
何か、それに対する理由を探す。
例えば、これは一種の幻影で。本体は別にあるとか。
こいつは下っ端で、どこかに本拠地があるとか。
「(jxt...)そんなことある訳…」
『おーい!』
「あ、いたいた」
「今もどっ・・・なんじゃこれは!?」
『うわぁ』
自分で導いた嫌な結論に驚いていると、みんなが戻ってきた。
「ああ、おかえり」
「ニャァ!!『助けて!モノが怖い!!』」
「あ、こら。何を言ってるんだい?」
「ピィッ?!」
とりあえず、さわやかな笑顔でもしておこうかな。
―――――――――――――――
「…えっと。言いたいことは色々あるけど。とりあえずお疲れさま」
ウィウィを肩にかけたフィフィが、そう皆に声をかける。
既に互いの戦闘状況は伝え終わっていた。
『んー…案外呆気無かったわね?』
「いや、それでも人外に変わりは無いじゃろう」
『…モノさんがその堕天使の核を取り除いたことが、そう思う原因になったと思うのですが』
「それも作戦のうち、だよね?」
「ニャ?『そんなの聞いてないよ?』」
「んー…まあそれはいいんだけどさ。ちょっと時間、良いかな?」
そこに、モノが声を発す。皆、彼女を見た。
「あのさ、嫌な予感がするんだけど…もしかして、この堕天使って創られたんじゃないかな?」
「『「『創られた?』」』」
「腕でぶち抜いた時、違和感があったんだ。普通の人とは構造が違うなぁ、って」
「まぁ、天使だからね」
「それだけだったらよかったんだけど、なんだか、こう・・・」
モノの手が宙を泳ぐ。説明が難しいらしい。
「・・・気の流れっていうか。体内の力のバランスがおかしかったんだよ。途中途中が、いくつかバラバラになっているというか…。何だろう、天使が元になってるってだけじゃ、説明つかないくらいにさ」
「ふむ・・・」
皆で考える。そこに案を出したのは、フェイアンだった。
「よし、モノ。妾を同じように貫け」
「・・・はい?」
「気の流れがどうこうというのなら、もう一度それを感じればよい。妾がそれに解を出す」
「・・・分かった」
しぶしぶ了解をして、フェイアンの背中側に移る。
「・・・覇ァッ!!」
―――バァンッ…
先ほどと同じ様な光景が、また繰り返される。しかし、フェイアンの鮮血に染まったモノの腕には、先ほどの鉱石はない。
あったらおかしい。
「…ぐぅっ」
「・・・フェイアン、お願い」
「…うむ。しかしこれは、かなりクるのう・・・ッ!」
苦しそうな声を発しつつ…
「・・・破ッ!!」
フェイアンは、自らを鼓舞するかのように、声を発した。
すると。
「・・・お?」
モノは、その腕にマナの流れを感じとった。それが気であることは、既に先ほどまでの会話で十分推測できた。
ごうごうと流れるマナを感じながら、モノはそれを先ほど感じ取った違和感と比較する。
「・・・違うね。マナの流れじゃない」
「ならば・・・こうじゃあっ!!」
モノからの意見を受け、フェイアンはその流れを変えた。
「うわっ!?」
それは、モノが感じ取った感情と、かなり似ていた。
「・・・なるほど、【闇】、だね。さっきの流れは」
モノが感じ取ったのは、どす黒い「負の感情」と言うべきものだった。それはまさに、闇そのもの。なによりフェイアンが闇の使い手であることから、そう結論がでるのもおかしくはなかった。
「ほう、答えが出たか。それは結構」
「むむむ…だけど、何か要素が足りないような…」
思考するモノ。
「あー…モノ?」
「何?フェイアン」
「すまぬが、そろそろ腕を抜いてもらえると助かるのじゃ…血が足りなくなる」
「わわっ!?ごめん!!」
驚いてしまったモノは、ズボッといい音が出るほどの勢いでフェイアンから腕を抜いた。
「あがぁっ・・・!」
「しまった、考えもなしに腕を突っ込んじゃった…」
痛みに僅かながら呻くフェイアンを見て、慌てるモノ。
普通考えもなしにしていい行動ではない、というツッコミはなかった。
「安心せい、この程度治せんわけがない!」
かっかっか、と笑うフェイアン。どうやら本当に問題ないようだ。
「…はあ。ここのみんなに、常識っていうものは無いの?」
『今更ね』
何か魔法を使ったのか、スーッと闇に消えていくフェイアンの傷。
「まあ、それはさておき。まだ暫くは、ウィウィが起きるのを待つとするかの」
『そうですね…。いつ起きるのでしょう?』
「いざとなったら、私が干渉して起こしにいくわ。その時はフェイアン、お願い」
『ふむ、干渉じゃと?』
「ほら、今ウィウィって意識の世界にいるんでしょ?なら闇か何かで飛び込めるはずよ」
『…成る程、分かった。しかしそれは最終手段じゃ、ウィウィが暴れ出した時に頼む』
「分かってるわよ」
肩にかけていたウィウィを火口のふちに座らせ、彼女達は待つ。
闇に呑まれた、友の帰りを。
ありがとうございました。
それじゃ、ウィウィの様子を見に行きますかね。