第2話 Legend Start ―開戦―
伝説とは、大抵何気ないものから始まる。
それがたとえ、他からしてみれば天変地異のようなものだったとしても。
「はっ!」
『せいっ!』
フィフィとウィリー。二人とも、基本的には遠くから魔法で攻撃するスタイルを多用している。それは、逆に言えば近寄られると攻撃がろくにできないという風にも聞こえるが・・・
彼女たちの場合は違う。
「っぐ…こんな近距離で魔法を飛ばしてくるなんて」
「あいにくとっ!」
『近距離だって私たちの射程よ!』
ウィリーは近接に対しての第一形態の際の格闘術はもちろん、第二形態の際にはドラゴンとほぼ同じ戦い方が可能だ。つまり爪やら炎やらを利用することが可能になる。
フィフィの場合、超近接だろうがなんだろうが問題ない。詠唱無視による発動が基本な、彼女の…具現者としての戦い方にとって、気にする点など何一つない。すべてが射程圏内となる。
彼女たちに、死角は見つからなかった。
「ちぃっ!」
「おっと」
唯一弱点があるとすれば、それらはすべて魔法という形なき力から引っ張り出されている以上、金属でできた堕天使の武器を押し出すだけの力を持っておらず、それだけは避けざるを得ないということぐらいだ。
また、ここは空中だ。ドラゴンとなったウィリーや空を飛べる堕天使はまあいいとして、現在フィフィは水の噴射や氷の足場を空中に一瞬作ったりすることにより、空中での滞空を可能にしていた。
それはつまり、その分集中がそちらに分断されるということを指す。が・・・
「そおいっ!!」
「ひゃあっ!?」
フィフィはその状況さえ利用し、剣の回避を行うと同時に縦に一回転。堕天使に対し、目くらましを仕掛ける。
「ウィリー!」
『ええ!【燃エロ】!』
ウィリーはそこに、更なる刺激・・・熱を与える。詠唱方法にウィウィのそれが組まれているのは、ウィウィを想って行ったから・・・ではない。
『ウィウィ・・・!あんたの力、借りるわ!』
そう叫ぶウィリーは、フィフィと声を合わせる。
「水よ!」
『炎よ!』
「『今ここに具現し、共に燃え上がれぇぇぇぇぇぇっ!!』」
空気中に放たれ、魔力を失った水は、熱によって膨張する。
フィフィはそれへと干渉し、水を分解した。
・・・知っているだろうか。水を分解した後に残るものを。
そして、それに引火したとき、どんな現象が起こるのかを。
―――ドッゴオオォォォォン!!
「~~~っ!?!?」
堕天使を中心に爆発する、水と炎。
炎の強力なエネルギーを以って強引に繋げなおされた水は、それ自身もまた強いエネルギー…すなわち熱を持って、彼女へと降り注ぐ。
爆発と、熱湯。一瞬で大ダメージを食らったのに加え、衣服に染みていく熱湯が彼女の皮膚を焼く。
「がああぁぁぁぁっ!?」
その強力すぎる衝撃に耐え切れなくなったのか、飛ぶことが中断されたように自由落下を始める堕天使が、村から離れた位置に落下するのを確認して。
「・・・ふぅ」
『凄いわね、ウィウィの炎は』
「それを作り出すウィリーも凄いわ・・・」
二人は会話を始めた。まるで何事もなかったかのように。
『空飛んでる途中で思ったのよ、ウィウィの炎のこと』
「ふぅん」
『フィフィの水からも、マナが見えないから。純粋な力を使ってるのかなって思って』
「これ?」
そういうフィフィの手、足、背中からは、ものすごい勢いで水が噴射されている。が、その水は下にまでは届かず、霧となって消え去っていく。
『それを見てて、ウィウィの炎も純粋な炎を使っているんだろうなと思って』
「ああ、確かに。魔法の炎とは話が違うわね、あれは・・・」
そういうフィフィは、実際にウィウィがその純粋な炎を取り出したシーンを見ている。・・・本人は闇に染まっていたが。
『それで思ったのよ、その炎を作り出すにはどうしたらいいのかしら、って』
「…その結果があのウィウィっぽい呪文?」
『そう』
相当前にも言ったように、詠唱はイメージのための補助であり、実際必要ではない。
だがウィウィらしくするとなると、ただの自分の魔法では何とかならない気がしたらしい。
『…で、出てきたのがあの炎よ』
「…そう」
ウィリーが作り出した炎は、最初こそマナをまとっていたが、すぐさまそれは消え去り、熱だけがそこに残った。熱量こそ低いが、それはまさに純粋な炎の…エネルギーの一種だった。
「それができると見越して、私にあの作戦を?」
『いや、勘ね』
「・・・」
フィフィにウィリーが伝えた作戦とは、「空中でフィフィが水を目くらましと称して相手にかけ、それを分解した後、ウィリーがそれに膨大な熱を与えて爆発させる」というもの。
要は、水を分解してから化合したということだ。
本来ならウィリー一人、フィフィ一人ではできない火力。だが二人が合わされば、攻撃特化のウィウィほどには火力を出せる。そう言われて話に乗ったフィフィだが・・・
「少しは失敗の可能性を・・・」
『考えはしたわ。でも不可能になる条件が見つからなかったから。純粋な炎を出せなかったら火力は弱まりこそするけど、それでも十分飛んでる鳥を落とすぐらいには火力が出ると分かっていたからよ』
「ああ・・・うん」
彼女は、ウィウィと共に過ごしていた存在なのだ。
少しくらい、その要素が移っても仕方ないだろう。
「・・・さて」
『次は、フェイアンかしら?』
「ええ。飛ばした向きは指定どおりよ。ありがとうウィリー」
『いえいえ・・・あなたの計算あってのことだから』
「…ふぅ。じゃ、下行きましょっか」
そういって、下を見る。
そこには、既に常闇といっていい空間が、村に入らない位置を保って。
山のほぼすべてを染めていた。
―――――――――――――――
「ぐっ・・・目の前にまで届いていたのに」
超高速で落ち、火や熱湯の力がぶれ始めたところで、闇の力でエネルギーを[吸収する]。
そうして熱から逃れた堕天使は、空を見上げる。
そこには、求めていた存在を担ぐ、鬱陶しい二人組がいた。
「っつ・・・案外痛いわ」
「ほう?あの程度でも痛むのじゃのう」
「っ?!」
今一度背後に聞こえる声。そこにいるのは…
「かっかっか!動けるだけましじゃろうがなぁ・・・!」
いかにも悪役です、といわんばかりの顔をした龍人(のような見た目をした神龍)、フェイアンと。
『はぁ…なんだかあなたがかわいそうに思えてきました』
なんだか疲れた表情をした、幽霊ツェルだった。
「なっ・・・?!」
「気配を感じなかったのかのう?妾らは闇のものぞ、この地に紛れることなぞ容易い」
といわれたのもつかの間。
「では、参る!」
と掛け声一つ、音速ともいえる速度で近づいて。腕を一瞬空へと構え、
「破ァッ!!」
「あがぁっ!?」
まさに、一閃。しかしそれを繰り出したのは、彼女の腕一つ。
一瞬にして振りぬかれた腕は、的確に堕天使の頭をぶち抜く。それを見る術は、彼女にはなかった。
そうして吹っ飛ばされる堕天使を掬うため・・・
「ツェル!」
『【偶像憑依】っ!!』
前もって後ろで待機していたツェルが、辺りに残る闇を凝縮し、刀を作る。その流れは刀作りにとどまらず、ツェル自身にさえ流れだし、すべてが染まったところでちょうど堕天使は飛んできた。
『切り・・・割くっ!!』
吹っ飛ばされていく彼女を目で追い、そこへこちらも一閃。二つに分かれる堕天使。彼女の中で巡回をしていた血液が、道を無くしてぶちまけられていく。
「ぐっ・・・!」
しかし彼女もまた人を辞めた存在。分かれたそれをマナで戻し…
「あまいっ!!」
「あがっ!!」
その戻る瞬間を狙ったかのように、フェイアンによる一撃。今一度吹っ飛ばされる。
「このっ・・・!」
これ以上吹っ飛ばされてはたまらないと、闇を展開してエネルギーを吸収しようとする堕天使だが…
「・・・?」
『ああ、いい忘れてましたが』
「なっ?!」
あたりに闇が広がっているというのに、発動しない。それを見たツェルは堕天使へと一瞬にして近づき…
『この結界、光属性も入ってますから。純粋な闇のあなたには操れないと思いますよ?』
「なに・・・ぐあっ!!」
また一閃。疑問と驚愕を同時に表す顔をしながら、堕天使はまた二つに分かれてしまう。
「あいにくと、じゃが」
『私たちもまた成長してるんです』
「さて、まだまだこれからじゃよ?」
分かれた二つの体に近づく二人の顔は、まさに獰猛な獣のそれだった。
ありがとうございました。
堕天使さんが強いと思った?残念!
・・・十分強いはずなんだけど、相手が酷かったからね…
よってたかってフルボッコでもできそうなメンバーだからね。しないけど。
でも、これで終わりじゃないですので。ご安心を。