第22話 眼ニ宿ル魂
赤き眼。そこに宿る力は、世界に定義などされていない。
ウィウィは、己の住む世界と、そうでないところとの壁を壊す、一つの解を………
………今、見つけ出そうとしている。
~ウィウィ視点~
「だめだ!だめなんだ…!その精霊を殺しちゃ・・・!!」
自分に向かって声を発す。視界は自分のもの、でも声は発せない。
いや、体が動かない。正確に言えば、自分の意思が通じない。
まるでそれが自分の体でないかのように動く、俺の体。
視界に入った自分の腕を見れば、それは黒く、炭のように焦げたかのような色をしていた。
周りにまとわれた炎を見れば、それは明らかに自分の限界を超えたような、青…いや、白を纏っていた。
一歩間違えれば、炎そのものであるはずの自分が溶けるようなもの。なのにも拘らず、俺を操るやつはそれを使ってあの炎の精霊を殺そうとしている。
「やめろっ・・・!俺の体を返せ・・・!」
そう、搾り出すように声を出した、俺の意識は。
『やなこった』
「?!」
その言葉を聴いた瞬間、消え去った。
―――――――――――――――
「・・・」
暗い。
「・・・」
見えない。
「・・・うあー」
感じれない。
次に目が覚めたのは、何も見えない闇の中だった。
「・・・どこだここ」
声を出しても、誰も反応しない。
「おーい」
いったいどうしてこんなところにいるんだ、俺?
「・・・って、そっか」
なんかよくわからない声が聞こえたと思ったら、意識がなくなって…
「あっ!そうだ、俺の体は…」
自分を探す。闇の中を彷徨う。
なぜか泳ぎ方だけは勘で分かったから、ふらふらと泳いでいく。
「・・・お」
なんだかふわふわした、自分の体を見つけた。
そこに俺自身もふわふわと浮いていく。
自分の体を見てみると、体格以外はほとんど俺のようには見えない。
肌は文字通り黒いし、髪は真っ赤に逆立ってるし。
そして、目はなんだか穢れているようにも見えて。
その外側は、白かったはずなのに黒くなっていた。
なんて観察をしながら、自分の体に触れる瞬間。
『・・・ぐぅっ』
「うおっ!?」
自分が声を発した。
『っく・・・あの女、俺を圧力で押し込めるとか、無茶なことしやがる…!』
「・・・お前、誰だ?」
『んあ?』
声がしたのがおかしかったのか、こちらを向くオレ。
『・・・ほぉ、ウィウィか』
「それ、俺の体なんだけど」
『ああ、そうだったな』
俺がそう言うと、オレは今気づいたとでも言うかのように、伸びをした。
『ふぁぁ・・・お前の体の所有権はオレが手にした』
「どういうこと?」
『簡単なことだ。お前の体に付いてた』
「・・・へぇ」
付いてた、か。
「憑いてたじゃないのか?」
『まあそれでもいいや』
「えー…」
…どうやら、今は体をのっとられているみたいだ。
「どこにそんな魂をつけてたの?」
『ん?』
「自分で言うのもあれだけど、俺は普通よりは強いはず。その俺をのっとることができるってことは、それよりは強いんだよね?」
『ああ』
「どこにあったのさ。そんな魂が」
まさか、空中にふわふわ浮いててチャンス窺ってましたー、とかそんなはずはないだろうし。
ツェルも、あれは幽霊っていうひとつの存在としてふわふわ浮いているんだから。魂だけ取り出して動かす、なんてことはまず無理なはずだし。
『・・・眼だ』
「・・・眼?」
『ああ、眼に宿っている』
眼・・・か。
『お前の眼の力。それを逆利用させてもらったからな』
「・・・俺の、眼の力?」
『知らないのか?お前の力は具現者だけではないということを』
・・・なんだか、これは結構重要なことになりそうだ。
「それを少し教えてもらっても?」
『敵に教えを請うのか?』
「知らないことだからね」
『ほう。そうか』
「ああ、ただ・・・」
『ただ?』
正直、さっき以上に強いってのは分かる。
・・・下手したら、ここでリタイアするかもしれないけど。
「それを教えてもらうの、無料で、ってわけじゃないんでしょ?」
『…流石、俺。話が分かるな』
「対価は?」
『時間だ』
ここで、無茶するだけの価値はあるはずだ!
「オッケー。でもその前に頼みたいことがある」
―――――――――――――――
「・・・ィ!・・・して!」
意識が浮上する。
「・ィウィ!ウィウィ!」
「・・・っぐ」
「ウィウィ!目が覚めた?」
この声は、フィフィか。
ゆっくりと目を開ける。
「良かった…」
「あー…どういう状況?」
あたりを見れば、炎と水の精霊が並んでこっちを心配そうに見ている。
上を見上げると、そこにはフィフィが見下ろしていた。
泣いていたのか、目が腫れている気がする。
『あー…さっきまでのことを覚えていないのか?』
と炎の精霊がこちらに話しかけてくる。
「さっきまでのことって…ああ」
『覚えてるのか?』
「少しだけ見えた。白い炎を纏って、精霊さんを追いかけていたところは」
『そうか・・・』
「ごめん。無茶させたよね」
『・・・あー』
…あれ?なんか歯切れが悪い様な。
「…ほんとに頑丈ね」
「?」
『あー、こいつお前を止める為にさ』
「あっ?!それ言わないでよ!」
『自分のこともお前のことも顧みないでこおr』
「わー!わーっ!!」
・・・?
ーーーーーーーーーーーーーーー
「…お騒がせしました」
『お、おう…』
あれからフィフィを落ちつかせるために、ある程度時間が経ってしまった。
時間はいくらでもあるからいいんだけどね。
…何があったんだろ。俺がいない間に。
「…まあいっか。それよりも、俺は待っている皆に話しておきたいことがあるんだ」
「『『?』』」
「急いで説明しないといけないんだ。ワガママだとは思うけどさ」
「…その為に、一回この場所を抜け出させてくれ。
・・・いいか?」
『お前がそう言うなら、何か事情が有るんだろう。水の、頼めるか?』
『んー…まあいいだろうね。条件は満たしてるし』
…条件ってなんだろ。
「条件?私たちが外に出るのに必要な行動ってこと?」
『そうね。どうせだから、ここでそれの答えを言っちゃいましょうか』
『いいのか?』
『いいでしょ、ここに来る事はそうそうないんだろうし』
『あのウィリーっていうファイアラットだが、あいつは[無意識で外していた知識を手に入れること]だ』
『次にモノだけど、あの子は[自らがぶつかっていた壁に、歯向かうこと]を知るってことね』
『…モノのやつ、ここに来てたのか』
「だね」
『…はぁ、まあ今は会えないしいっか』
『フェイアンっていうあの龍は、[神ではない自分に気づくこと]だそうだ』
『ツェル…あの幽霊ね。彼は[自分の異常を知りうること]らしいわ』
『フィフィの友達?ってあるティティだが、[求めるものの真意を知る]ことだってさ』
『最後にお前ら2人だが、まずはフィフィ』
「はい」
『お前とウィウィの一つ目は、[俺達精霊を超える手段を知る]こと。流石に容易かったよな?』
『二つ目は、[対する者に抗う]こと…』
対する者…俺か。
「…まあ、自分でも結構抗ってましたし」
『そして、ウィウィ』
「・・・?」
『お前の二つ目は、[眼を知る]だそうだ』
「・・・ふーん」
『疑問に思わないのか?』
「分かったことだしね。外に出る理由でもあるし」
『・・・そうか』
『それじゃあウィウィ。お前に俺の呼び出し方を教えておくぜ』
「…精霊の呼び出し方って。相当気に入られたのね、ウィウィ」
『水の力で良ければ、あんたにも教えるよ?』
「えっ」
『とはいってもつくりは簡単だ。呼び出したい精霊に合わせた属性の【場】を作って…』
『【属性名】の精霊よ、顕現せよ!って言えばいいわ』
「簡単なんだね?」
『ああ。だが、召喚の為に必要な【場】はかなり作りにくいぞ』
『最低条件を言えば、こいつ(炎)は魔力のこもった青い炎が出てること、私(水)は魔法陣を描いて浮かせた水ってとこ』
『あとは俺達ときちんと話をしていることだ、そうじゃないとお前らの声は俺たちには聞こえん』
「ふーん…」
「…私たちには容易いってところね」
『それじゃ、元に戻すぜ!モノの件は覚えとけよ!』
『また今度!次はきちんと戦いたいよ!』
そんな声を聞きつつ、俺達はいつの間にか現れていた光に、ゆっくりと包み込まれていった。
ありがとうございました。
次がこの章の最後となります、時間軸を揃えてお待ちください。