第21話 ソノ理ニ逆ラウ者有リ
世界が決めたルールを上回るものなど、存在しない。
フィフィは自らを囲んだその檻を穿つ、一つの解を見つけた。
~フィフィ視点~
・・・それは、一瞬の嫌な予感から気づいた。
「ッ?!」
『ぐっ、どうしたのさ?』
ちょうど、この水の精霊の動きを封じようと水の鎖による封印(魔法)をしようとしたときに、それは感じた。
「・・・?」
一言でいうなら、殺気。いや、殺気のような何か。確かに特定の対象を倒そうとするような意思の波動。でも何か目的が違うような・・・
敢えて言うなら、愉しむ為の殺意。そのようなものを感じた気がした。
その殺気らしき波動の来た方向は―――
―――先ほどウィウィと炎らしき波長を感じた方向と、同じだった。
「ッ!ウィウィ!」
『あっ?ちょっ、待ちなさいよ!』
私は水の精霊へ向けていた鎖を断ち切り、また彼女に回復魔法を軽くかけ、一気にウィウィのいるらしい方向へ突っ走っていった。
―――――――――――――――
「っはぁ、はぁ・・・」
あの女(精霊)、なんでこんなにウィウィたちと距離を離していったのかしら・・・!
と、考えながら走ってきた私は、目の前の光景を見て、その理由を察した。
彼女は、この可能性を察知していたのだ。
彼女には、ウィウィの隠していたこの力が見えていたから。
『っぐぁ、だから話聞けっつーの!』
と悪態をつきながら後ろに飛びのく、ウィウィに似た男性。
おそらくあれが炎の精霊なのかも。両手にはブーストのためにでも着けたか、炎の塊が見えているし。
彼が飛びのくと同時にそれは爆発し、勢いに乗って彼はもっと後ろに吹っ飛んだ。なのに彼にはダメージひとつない。熱量やそれに関係した衝撃は完全に無効化できているってことは、確かに彼は炎の精霊なのね。
そして、その彼を追うのは。
「待テェ!!」
『待ってられっかぁ!死ぬわ!!』
それよりも巨大な白い炎に包まれた、一人の男の子。
「アッハハハァ!!」
『のわあぁぁ!?』
元々少し焦げ目のついていたような肌は、炎によって完全に焦げたか、それとも自らが黒く染まったのか。異様なまでのこげ茶色と化していた。
「ホラホラァ!逃ゲテミロ!!」
『くそっ、目を覚ませよ!』
炎を模した様な赤茶色の髪は、マナによって揺らめき、もはやそれは常々見る炎そのものの様にさえ感じる。
そして、彼特有のあの真っ赤な目。それはいつの間にか太陽の様な明るさを消し…
「モット俺ヲ、楽シマセテクレヨォ!!」
その強膜は、黒く塗りつぶされていた。
「…ウィウィ?」
おかしい。明らかにおかしい。
マナの流れが変わると人体に影響が出る人はいる。けど、あれはおかしい。
変化にだって限度はある。そして、目は絶対に変わらない。
そんな記述を何処かで見た…だけど、あのウィウィの目は明らかに変化しているし…。
『っ!お前は!』
「っと!」
追いかけられていた炎の精霊がこちらに気づいた。
『状況判断位はできるよな?頼む!』
「…分かった、今はあの子を止める!」
今のウィウィは暴走気味…いや、暴走してる。何とかして止めないと…
「まずウィウィについて、あなたが知っていることを教えて!」
『わかった、逃げながら教えるぜ!』
一一一一一一一一一一一一一一一
確認した限り、ウィウィは今の私の様に、世界と繋がっているみたい。そこに加えて何か別の事があった結果、今に至るそうで。
『その何か別の事っつーのがなんなのかは俺は分からん!だが、グロウスの話からウィウィそのものに関係してるとは考えてもいいぜ!』
「グロウスから?」
『ああ!どうやらウィウィの力のトリガーがあるらしいんだが…』
「それが暴走に繋がっちゃったということ?」
『だろうな!』
…最悪だ。
思ったよりも不味い状況みたい。
「私と同じ具現者で止まってるなら、私の力を使えばウィウィは抑えられるけど…っと!」
足元の急な爆発。それに合わせて精霊は飛び、私は水を足元に噴き出させ、それに乗る。
「…明らかに私以上よね、今のあの子」
後ろを見る。化け物と化したウィウィは、足元に溶岩を出して、それに乗っている。
溶岩の粘り気はかなり少ないらしく、水以上の勢いでこちらに向かってきている。普通なら出来ない芸当ね…。
「・・・」
『あ?おい!ちょっと!』
1度振り返ってみる。そこには火車と化した具現者がいる。彼は温度を操ることにも成功しているらしい。
『おい!止まるな!今のアイツがどんだけ危ないか…』
「分かってる。それと、多分ウィウィは止まる事は無いわ」
『んなっ?!』
驚く精霊。それを無視して、私はウィウィと対峙する。
「…もしイったら、ごめんねウィウィ」
・・・あなたが出来ることが、私に出来ないわけが無い。
「はぁっ!!」
水を呼び出す。それは一つの水の壁。これだけなら容易く抜けられてしまうだろうけど。
「ぁぁぁああああ!!」
気合いを入れ、そこから力を『取り除く』。
すると、それは透明のまま、その場に止まっていく。ウィウィはそれにもかかわらず、突進を続け、壁に入って…
「まだまだあぁぁぁ!!」
なお止めない。エネルギーを奪い続ける。
ところで、物から運動エネルギーを奪うと、その物は止まるのは知ってる?
まあ知ってるでしょうね。
あとは熱。奪われたら冷たくなるわよね。
そして、エネルギーはすべてのものに通じさせることができるってことも知ってるはず。熱もそうだし、物の運動も。あとは物への引力とか。
・・・あれはちょっと違うかしら。
とにかく。そこで改めて考えて。今私は水からエネルギーを奪っているの。
水は、自らの均衡を取り戻すため、エネルギーをほかの場所からとりに行こうとする。
じゃあ、その場所は?水に触れていて、かつエネルギーを十分奪えそうな場所って?
「・・・ウィウィ。力勝負よ」
『アアアァァァァ!!』
簡単なこと。ものすごい勢いで突っ込んでくる…つまり巨大な運動エネルギーを持った[ウィウィ]と、そのウィウィが生成する、膨大な熱エネルギーを持った[溶岩]ね。
簡易的な、でも超巨大なその檻は、ウィウィを丸ごと閉じ込める。
そして、その檻はウィウィから常に熱を、運動力を、奪い続けることになる。
水が、熱を。衝撃を。ゆっくりと飲み込み、固めていく。
『ガアアアァァァァ!!』
ジュウウゥゥゥ、と。まるで肉を焼くような音が、檻から発される。
水から一瞬にして蒸気となったそれは、ウィウィを覆い、見えなくさせた。
と思ったら、ウィウィはそれにさらに熱を与えたのか、蒸気は透明に。彼が荒ぶる姿が見えた。
「あとはこれを動かすっ・・・!!」
壁だった氷の監獄は、ウィウィを囲うためだけを目的とした巨大な球と変わり始める。
エネルギーを取られた氷となれど、それは水。私が動かせない理由はない。音もなくそれは変形し、ゆっくりと彼を覆う檻の厚さを増やしていく。
『ァァァァ・・・!!』
分厚くなっていくその檻の中でウィウィは吼える。でも、吼えたところで私には届かない。
・・・そして、思い出してほしい。ウィウィだって生き物。
いかなる生き物だろうと、勝てないことがある。
『ァァァ・・・・・・』
それは、過度な熱または冷気、無酸素状態または過度な供給。そして・・・
『・・・・・・・・・・・・・・・』
圧力、だ。
彼は氷を溶かした。それは水蒸気となって彼を覆った。
その上でさらに彼は氷を溶かす。さらに水蒸気が彼を覆う。
繰り返されて、彼の周りには過度すぎる気体が存在した。
そして、もうひとつ思い出してほしいの。気体は、圧力により変形するが、変形した分押し返す、ということを。
外側に向かう力に対しては私が分厚すぎる氷の監獄を作り出したために、ほぼ無意味となったし。
ならあの高熱の、高エネルギーの物体が向かうのは、たった一つ。
内側、つまりウィウィ側のみ。
熱エネルギーは強力すぎる圧力へと変化し、彼を押しつぶした。文字通り。
いくら強い動物だとしても、世界の作る力そのものには勝てないはず。
「・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
「・・・っ」
黙ってはいられない。彼の安否を調べるために、彼の周りにあった過度すぎる水蒸気を上に送る。
耳を塞いでっと。
―――ドッガアァァァン!!
「~~~っ!!」
うるさい。けど仕方ない。
煙が晴れた監獄の中。
『・・・・・・』
「・・・っ?!」
傷ひとつ付かない姿で。
「・・・いや、どんだけ頑丈なのよ」
化け物だった者は、自らの熱を無くし、そこに倒れていた。
ありがとうございました。
うん。やっぱり書きやすいタイミングってあるわ。確実に。
安心してください、もう大丈夫ですよ!(フラグ)