第17話 世界ノ摂理ノ成ト敗ノ壁
フィフィの持つ壁。それは世界の摂理を持つ彼女…それを作り出した世界にとって、正しきことだったのだろうか。
~フィフィ視点~
おそらく、グロウスによって飛ばされてきたであろう世界。赤、青、黄色、緑。いろいろと混ざりに混ざった色合いをした謎の空と、あるようには見えないのにあると確信できる床の上で。
私は混乱していた。
「ウィウィ。聞こえる?」
「え?うん。聞こえるよ?」
おかしい。この世界の景色だとか、空気の感覚もおかしいけど、そこにウィウィがいることが、一番おかしい。
「…(確かに、グロウスは私たちに『散ってもらう』といったはず)」
「・・・えっと、フィフィ?」
「あー、気にしないで…(つまり、本来ならば私たちは全員ばらばらに行動する、いう訓練内容を取るはず)」
脳内で思考を分割し、ウィウィと会話する私と、状況と思考を合わせる私を作りだす。こうでもしなきゃやってられないわ。
「ウィウィはグロウスの言葉覚えてる?(あえて私とウィウィをあわせた理由として考えられるのは、ウィウィと私の力は相反していること、加えて両者共に具現者であることで・・・)」
「え?意思を鍛えるとか、なんとか言ってたよね?」
「そこじゃない。そのあと。私たちをここに飛ばしたタイミングでの言葉よ(互いに反し、また単一の力において最強クラスの私たちを併せる意味は、意思を鍛えるというよりは属性状況において不利な場においても戦えるようにする、位しか意味がない気がするのよね)」
「んー・・・覚えてない!」
「・・・でしょうね(だというのに、そこにウィウィはいる。加えて会話もできて、その内容は外にいたときの情報。偽者だという線は薄くなったわね…)」
ウィウィが近づいてくる。大体互いの射程には入った感じかしらね。
「ねえ、ほかのみんなは?どっかいったの?」
「その答えは、ちょうどそっちが聞きそびれたところにあるの…(じゃあこれは?この世界は意思でできている以上、グロウスの想像力次第で何でもありな状況に持っていける。そう考えると、私たちは同座標に魂を持っておきながら、互いに対して影響力を持たないなんて状況も…って、何よそれ)」
「そうなの?」
「そうよ。グロウスは私たちに、『散ってもらう』って確かに言ったの(…でもその考えに至ったのも理解はできるのよね。今のウィウィからはマナを感じない。それに、いつもなら私とのマナのぶつかり合いか何かでマナの暴風が吹き荒れてるくらいには近づいているわよ、今の私たち)」
いったい何なのかしら。
「でも、そういっていた割に私たちは離れていない。どういうことなのかしらね(正直こればっかりは試してみないと分からない。ウィウィには悪いけど、やらなきゃね)」
「さあ?まったくわからn「【水弾】」・・・ちょ、フィフィ?!」
驚くウィウィ。周りに急に炎が巻かれる。しかし、私の弾は炎の壁と一緒に、ウィウィの体をすり抜け、
「「えっ?」」
ウィウィの後ろに、ペチャリと落ちた。
「・・・えっと、フィフィ?」
「・・・ああ、うん。ごめんなさい。不意打ちじゃないとまず当たらないと思って。もしウィウィが敵だったときを想定して、何も言わずに魔法を放ったことについては謝るわね(魔法が当たらない?どういうこと?そこにいるのは幻影だってことなのかしら?とにかく今回の件で、あのウィウィが無害だとはほぼ確定したわね)」
「びっくりした…【守ル】も反応してたのにすり抜けたなんて、どういうことなんだろうね?」
「・・・【守ル】?(もしその力が私に影響を及ぼすっていうのなら、すぐ無力化にシフトしましょ)」
「うん、普通の技だったら純粋なマナだけで消し飛ばせるんだけど、もしものためにって思って。まだ未完成の、防御技だよ」
「どんな技を作ろうとしてるの?(・・・)」
「本体・・・というか俺に当たるような技の中で、俺のマナの30%位を使っても耐えられないもの…簡単に言っちゃえば致命傷になりかねない技に反応する、空気中のマナを強引に運用する方法なんだ。今はまだ全部の不意打ち攻撃に反応しちゃうんだよね」
「…そ、そう(なにそれこわい)」
おそろしいものを考えているわね、ウィウィ。
空気中のマナを強引に運用するってことは、その分空気中からマナが消えることになる。軽い真空が出来上がるほど。もちろんそれによって自分がマナ系の技を使えなくなることはわかってるでしょうけど、ついで程度の道連れで相手も技が発動できなくなるのよ…?
攻防一対。怖いわ。
「・・・って、そうじゃなくて。反応したって?さっきの弾、ウィウィには当たらないってことは攻撃扱いされないはずでしょ?(幻影だとしたら、反応するのもなんとなくわかる気はするのだけど。別次元にいるんだとしたら反応する意味はわからなくなるわね・・・)」
「うーん…わからない。どうしてなんだろう、考えてみたらおかしなことだよね」
「んー…あ、ウィウィ(ま、ここは試してみるのが一番か)」
「なに?」
「ちょっと後ろにある水に触れてみて(さっき私が作ったものに『触れられなければ』幻影…ってとこね。この世界に意思だけ残ったウィウィだってことになるし。それなら良いんだけどね…)」
「え?うん」
ウィウィの後ろには、先ほど飛ばした水弾によってできた水溜りがある。少しすれば蒸発すると思うけど、ウィウィが触れるくらいには時間の余裕はあるでしょう。
ウィウィはてくてくと水溜りに向かい、ゆがんだ空を映す水面に手を近づけていって…
「…うん、触れられるね」
「え?(えっ)」
「どうしたの?」
「・・・ああいや、気にしないで。少し疑問点が増えただけだから(・・・えー…)」
「?」
どういうことよ。幻影じゃないの?私たちは一緒にいるわけじゃないのはなんとなくわかるけど・・・ウィウィのいる世界は別にあって、そこと『世界の状況だけが』一致しているとか?
・・・・・・アリね。それ。それでならある程度説明がつく。魔法は、あくまでも『事象』。世界には完全には認識されないものだけど、魔法の力が完全に終わり、世界に『認識されたとき』に状態を確定させる。水とかなら、その場に残る、ってとこね。
それでなら、世界に状態が確定された姿をウィウィと私で共有していると考えれば話は通じる。あくまで水弾は魔法だし。でも攻撃的な意思はこもっている…だからウィウィの【守ル】も反応したんでしょう。
攻撃的な意思に対して反応するっていうタイプなら、自然災害とかが出なければ基本すべてに対応できるはずだし。少しでも攻撃的な意思があると反応してしまう、と考えれば、不意打ちすべてに反応するってことも納得できるし。
・・・・・・なるほど、よくわからん。思考していた私を消して、一人に戻る。
「…まあいいわ。どうするのよ、これから」
「どうするっていわれても、俺は特訓するってことくらいしか覚えていないから正直役に立たないよ?」
「自分の馬鹿さ加減を理解しているみたいで何よりね」
正直に言ってしまえば、私たちはこれから行動する『先』というものが見えていない。
飛ばされたところまでは想定できたとしても、その飛ばす先だとか、その場で何をするのかとかは何一つ伝えられていないんだから。
「まぁ、待とうよ」
「・・・仕方ない。待つか」
ありがとうございました。