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紅蓮の神の伝説  作者: 夢神 真
第4章 神と人
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第16話 言ノ葉ヲ採ルトイウ選択

言葉を扱うということ。言葉に縛られるということとは、どういうことか。

ティティは、自らと、自らを定義する言葉に対し、一つの解を見つけた。

 ~ティティ視点~


「あーえーいーうーえーおーあーおー」

『結構慣れた?』

「うん」


 あれから暫く練習して。言葉が突っかかることは少なくなった。

 前よりも滑らかに言葉が使えてる気がする。


「練習したおかげだと思うよ」

『ずっと声出してるから…疲れてない?』

「大丈夫だよ」


 マナを震わせてー、とかって言っているけど。ほとんど勘でやってるみたいで。

 いまいちつくり(・・・)とかがわかってないんだよね、私。


 でもこのくらいなら、自分のマナを消費する必要もないし。楽しく声を出してたんだ。


『・・・それならいいんだけど』

「?」


 なんだか、何か言いたげな顔をするワタシ。


「何か話したいことでもあるの?」

『いや…なんでもない。楽しいならそれを続けていて。好きこそものの上手なれ、ってあるし』

「んー?わかった…」


 やっぱりわかんないや。


「あーえーぁいーうーえーおーあーおー」

『…()のところがおかしい』

「あれ?」


 ―――――――――――――――


 ~[()]視点~


『・・・』


 あれからしばらく、ティティは言葉を話し続けている。

 本来なら疲労もするはずなのに。


 どうやらあの子は空気中のマナを取り込んで自らを回復させつつ、それよりも低い労力で声を発するように見せているらしい。

 これを応用すれば水中でさえ声が出せるはずなのに、彼女はそれに自力でたどり着きながら、いまだ自分で気づいていないみたい。


 まあ水中では声が出せないと知っていないからなのかもしれないけど。

 便利なんだけどね。


『・・・』


 ずっと、ずっと。彼女は言葉を取り続けている。

 この世界には、確かにマナはあるしそれの循環も起こっている。でもそれは、彼女の呼吸時のマナ使用量とはほぼ変わらないはず。

 マナを利用しているなら、ここまで長く発動を続けていられるはずがない。生命活動にさえ支障をきたしてしまうほどの筈なのに…。


『・・・』


 何かが違う。どうやら、ワタシが来たことで未来に向けたトリガーが変わってしまったみたい。


『・・・でも、まあ、いいか』


 それくらいは神様も許してくれるだろう。

 [喋れる(・・・)]という事実は作り出せた。それを少し早めたら、ほんの少し異常ができたというだけだ。


『もう少し見ていようかな』


 ワタシだって、違う未来から来たとはいえ、生きているから。暇な時だってある。


 だから、もう少し。()の成長を見ていよう。


 ―――――――――――――――


 ~改めてティティ視点~


「ふわぁぁぁ・・・」


 流石に眠くなってきちゃった…。どのくらい続けてたんだろう?


『お疲れ』

「ありがとー…」


 まあいいか。気にしなくても。


『だいぶうまくなってきた』

「そう?」

『確実に。つっかえる量も減ったし、喋るペースも上がってる。かなり使いこなせるようになってるみたい』

「そうなの?やった!」


 うれしい。これならほかのみんなとも話せるかな…?


「んー…でも、これからどうするの?」


 特にすることもなくなっちゃったなー、と思って。

 そう言ったんだけど。


『・・・』

「…どうしたの?」


 …なんだか、ワタシは止まってしまった。


『…ねえ、ティティ』

「なあに?」


『教えて』


「…なにを?」


『あなたの結論を』


「・・・」


 …それだけなら、普通の人には分からないと思うよ。


 私には分かるから、いいんだけどね。


「ケモノとヒト…かな」

『・・・』


 これがたぶん、私が外に出るためのカギ(・・)だから。


 …正しく答えないと。




 ・・・いや。正しくじゃない。はっきりと(・・・・・)、だ。


「これに正しい答えは、ないんだよね」

『・・・』


 ワタシは、何も答えない。でも、きっと合ってる。


「…まず、違いなんてない」

『・・・』


 それは私が迷ってた原因。違いがあるものだと決めちゃったから。


「…でも、ズレはある」

『・・・』


 それは私自身が見つけた点。違いがないって気づいたから見つけたもの。


「ヒトとケモノの違いは、固まっちゃったら意味ないよね。これにはそんなもの求められていないんだし」

『・・・』


 考えていて気付いた。私もヒトも、違いは少ないんじゃないかな、って。


「喋ってるかどうかが違いだとしたら、今の私とかウィリーとかはなんだろうって思って」


 喋っていて気づいた。そのズレは直しようはないけど、隠しようはあるんだろうなって。


「そもそもそうやって分ける必要も、私たちにはたぶん必要ないんだろうなって」


 考えていて気づいた。


 私は、私たちは。


 ケモノ(・・・)だとか、ヒト(・・)だとか、そういったものになることを強いられてはいないんだろうなって。




「だから、私は(ティティ)として。ここから出ることにしたいんだ」




『・・・』

「・・・」


『・・・』

「・・・」




『ヒトの学問っていうのは、一種の媒体なの』

「・・・?」


 どういうことだろう?


『記憶するための媒体』


 ワタシは話し続ける。


『記憶するのには、言葉か何かで記述できるようにするのが一番いい』


『でもそのためには区別をつけなくてはいけない』



『言葉って言うのは不便だから。固まったことの組み合わせでしか教えられないから』




『・・・言葉に縛られる必要はない。行ってらっしゃい、ティティ』




 いつの間にか私の後ろに、ぽっかりと白い穴が出来ていた。


 あえて言うなら、空白(・・)のような…。


 これで終わりだね。


 …私はそこに飛び込みつつ、ワタシに言った。




「・・・うんっ!わかった!行ってきます!」

ありがとうございました。

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